真・恋姫†夢想-革命- 世界の破壊者   作:サラザール

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予告通り、香風編です。


拠点フェイズ7

 この日は非番だった。カメラのメンテナンスをしている途中、部屋の扉がトントンと叩かれる音がする。

 

<栄華>「檜山(ひやま)さん! いらっしゃる!? ……のっくというのは面倒な風習ですわねぇ」

 

 (えい)()から訪ねてくるとは珍しい。

 

<司>「ん? 栄華か? 今開けるぞ……」

 

<栄華>「戸は開けなくて結構ですわ。わたくし、ちょっと急いでおりますの」

 

<司>「分かった。それで用件は?」

 

<栄華>「今日は貴方、非番でしたわね? わたくし、ちょっと手が離せない仕事が出来てしまいましたの。わたくしの代わりに、店に物を取りに行って下さらない?」

 

 今はカメラをいじっているがもうすぐ終わるから問題ないだろう。

 

<司>「……いいぞ。それでどの店に行けばいいんだ?」

 

<栄華>「それでしたらここに店の名前と駄賃を置いていきますから。一応お礼もしますわ。よろしくお願いしますわね」

 

 そう言って栄華は早足で立ち去っていく。まさか栄華がお礼をしてくれるなんて……。

 

<司>「よし、終わった……」

 

 カメラのメンテナンスを終わらせた俺は、部屋を出て店の名前が書かれた紙と金を手にする。そこでふと思い出す。

 

<司>「しまった……いつ持っていけばいいか聞くのを忘れたな」

 

 けれど買い終わったら栄華の部屋の前に置いておけばいいと思い、俺は街へと向かう。

 

<兵士>「檜山さまー!」

 

 すると前から警備隊の兵士が慌ててやって来た。

 

<司>「どうした? そんなに急いで?」

 

<兵士>「大変です……南地区に怪人が現れました!」

 

<司>「なにっ!?」

 

 まさか非番の日に現れるとは思わなかった。まあ、彼らに休みなんてあるはずないか。

 

<司>「分かった。すぐに向かう」

 

<兵士>「はっ」

 

 俺は報告に来た兵士と共に街の南地区へと向かった。

 

 

 

 

 

<司>「ふぅ……」

 

 俺は街に現れた怪人を倒した後、栄華から頼まれたお使いを終わらせた。

 

<司>「先週はワームで、今日はグロンギか……」

 

 今回現れた怪人はグロンギ。人類に近い戦闘部族で、他の怪人と違って統率が取れている化け物。

 

 今日は誰も被害は出ておらず、()(りん)に報告するだけだ。ゲゲルについてはまだ分からないが、恐らくこの先何らかの行動を取るだろう。

 

<司>「さてと、(しゃん)(ふー)のところに行くか」

 

 何故香風の部屋に行くかというと、栄華から貰った駄賃の残りを饅頭を買った。

美味しそうな匂いがしたため、香風と一緒に食べようと思ったからだ。

 

<司>「部屋にいるかな?」

 

 香風の行動パターンからして、城壁のあたりで寝転がってても不思議じゃない。部屋にはいないかもしれないと思ったが、念のために尋ねることにした。

 

<司>「香風、いるかー?」

 

<香風>「いるよー?」

 

 香風の部屋に着いて呼びかけると、香風の声がした。

 

<司>「街で饅頭買ってきたけど、一緒に食うか?」

 

<香風>「饅頭……! うん、食べる。入っていーよー」

 

<司>「分かった」

 

 正直女の子の部屋に男が入るのはどうかと思うが、本人がそう言うならいいのだろう。

 

<香風>「お皿、用意した方がいい?」

 

<司>「いや、包みを広げればお皿代わりになるから大丈夫だ。それじゃ、邪魔する」

 

 俺はゆっくりと戸の取っ手に手をかけ、押し開いていった。けれど俺は部屋に入った瞬間、床にある何かに蹴躓いた。

 

<司>「いたっ!」

 

<香風>「あ、ごめん。足下気を付けてっていうの、忘れてた……」

 

<司>「悪い、俺もよく見てなかったから———っ!?」

 

 足をさすりながら俺はゆっくりと顔を上げる。すると俺は部屋の光景を見て硬直する。

 

<司>「な、なんだこれ……」

 

<香風>「え?」

 

<司>「え、じゃねえよ!」

 

 香風の部屋はまるで泥棒に入られたかのように上から下まで散らかっていた。しかもゴミまで床に転がっている。俺は踏まないように気を付けようした時、足の裏に何かべちゃっとしたものが当たった。

 

<司>「ん? なんだこの白いのは?」

 

<香風>「あ、それシャンのお昼の残り……」

 

<司>「おいおいおいおい……!」

 

 なんで食べ物を床に置きっぱなしにしてるんだ。

 

<香風>「まだ残ってた……」

 

<司>「いや、それよりこれはどうしたんだ。この城で泥棒が入る訳でもないし……」

 

 流石にそこまではないと思う。しかしこの散らかりようを見るとそう思われても仕方ない。

 

<香風>「この部屋はいつも通り」

 

<司>「何?」

 

<香風>「シャンの部屋は、いつもこんな感じ」

 

 まさか私生活ではだらしないとは思わなかった。

 

<司>「物がどこにあるか分からないだろ?」

 

<香風>「物覚えはいい方……多分」

 

 いや、多分と言ってる時点でダメだぞ。第一こんな部屋で四六時中暮らしてたら変な病気にでもなりそうだ。

 

<司>「掃除はしてるのか?」

 

<香風>「掃除は…………」

 

 この反応からするとしばらくやってないと推測する。

 

<香風>「したことない。ここに来てから、一回も」

 

<司>「…………」

 

 俺ですら少しは部屋の掃除をするのに、まさかここまでだらしない生活をしていたとは……。

 

 俺とは比べものにならないくらい仕事が出来るのに、こういう所はズボラだと改めて知る。

 

<香風>「……不自由はしてない」

 

<司>「そりゃ香風はしてないだろうけど、とりあえず饅頭食べる前に片付けをしとくか」

 

<香風>「必要?」

 

<司>「当たり前だ」

 

 流石に俺もこの状態で一緒に食べるのは抵抗がある。せめて綺麗にしてからでないと気になってしまう。

 

<香風>「……大丈夫なのに……」

 

 渋る香風の声は聞こえないふりをして、俺はどこから手を付けるか部屋の中を見回す。

 

<司>「山積みの書が崩れてる……俺と香風だけで何とかなるかな?」

 

 そう思っていると、香風の部屋の扉から声が聞こえた。

 

<栄華>「香風さーん!」

 

<柳琳>「お邪魔してもよろしいですか〜?」

 

 声の主は(えい)()(るー)(りん)だ。

 

<香風>「そういえば、約束してた。……どーぞー」

 

 香風が返事をして、二人が扉を開けて俺の顔と対面する。

 

<栄華>「あら、檜山(ひやま)さんもいらしてましたの」

 

<柳琳>「ご機嫌よう、司さん。奇遇ですね」

 

<司>「そうだな……」

 

 そういえば栄華は急ぎの用意があるとか言っていたが、この様子だと終わったのだろう。もしくは———。

 

<司>「そうだ。栄華、お使いは済ましてきたぞ」

 

<栄華>「あら、ありがとうございます」

 

 俺が荷物を手渡すと、栄華は珍しくニッコリ笑った。

 

 それから、部屋の戸の側に荷物を置いて、部屋を(ため)(いき)と共に見渡した。

 

<司>「そういえば栄華、急な用があるって言ってたな。もしかして……」

 

<栄華>「はい、今日の分を早く終わらせてきました。ここが最後の仕事場ですわ」

 

 なるほど。香風が約束してたと言っていたからプライベートな時間を潰してきたのか。

 

<香風>「シャンはいいって言ったのに……」

 

<栄華>「いけません!!!」

 

<柳琳>「そうですよ、香風。流石に……これはいくらなんでも……」

 

 栄華は大きな声で否定し、柳琳は若干引いた表情で言う。

 

<香風>「シャンは困ってないのにぃ……」

 

<柳琳>「香風、兵の皆さんに(じょ)(こう)将軍は整理整頓も出来ない……などという噂が広まったら、士気に関わることもあるかもしれないんですよ?」

 

<香風>「むう……」

 

<栄華>「むくれていないで、支度を始めてくださいませ! 今日は大仕事ですわよ!」

 

 栄華は手をポキポキと鳴らす。

 

<香風>「むむぅ……」

 

<柳琳>「香風、こうなったら栄華ちゃんは止まりませんよ?」

 

<香風>「……わかった」

 

 香風はちょっとしょんぼりしながらも、頷いた。こうして俺も手伝うかたちとなって香風の部屋の掃除を始める。

 

<栄華>「まぁまぁまぁ、書簡を開けっぱなしにして……」

 

<香風>「いちいちしまうの、めんどくさい」

 

<柳琳>「言わんとすることはわからなくもないですけど……ひゃんっ!?」

 

 柳琳がそう言いながら掃除をしていると、突然驚いた。

 

<司>「どうした柳琳?」

 

<柳琳>「な、何か湿ったものが……」

 

 柳琳が手にしたのは水筒だった。しかも湿っていると言うことは、どこか割れているのかもしれない。

 

<香風>「あ、そんな所にあったんだ」

 

<司>「結局忘れてるじゃないか」

 

<香風>「それは予備……あ、違う、底が割れちゃったやつ……」

 

<柳琳>「確かに……ぱっくり割れていますね……」

 

 手に取った水筒の底を見ながら(ため)(いき)を吐く柳琳。そこに栄華が手を伸ばして柳琳から水筒を取る。

 

<栄華>「はい、壊れているものは処分! 処分ですわ!」

 

 水筒をゴミ袋に入れ、再び掃除を始めた。

 

<栄華>「もう……お菓子の包みもこんなにほったらかしにして……」

 

<司>「虫が湧いてないのが奇跡だな……いや、虫すらも避けて通るような部屋だったりして……」

 

<香風>「たまに出る……けど、やっつけるから問題ない」

 

 まあ、ここまで汚かったら出るか。

 

<柳琳>「出るんですかぁ!?」

 

<司>「大丈夫だ。今のところはいないみたいだから……」

 

<柳琳>「い、今のところはって……」

 

<香風>「最近は、あまり見てない」

 

 女の子にとっては知りたくないことだな。

 

<栄華>「きゃあああああああっ!?」

 

 今度は栄華の悲鳴が聞こえた。言った側から虫が出てきたのだろうか。

 

<司>「虫でもいたのか?」

 

<栄華>「い、いえ、今足がべちょって……」

 

 栄華の足を見ると、潰れたご飯の粒がこびりつていた。

 

<司>「俺に次いで二人目の犠牲者か……」

 

<栄華>「香風さんっ!!」

 

<香風>「本当にお掃除に来るなんて思わなかったし……」

 

<栄華>「そういうことを言っているのではありませんの! ご飯は机の上で食べる! 当たり前のことです!」

 

<香風>「部屋の中は全部机みたいなものだし……」

 

 いや、人が通るところだから汚いだろ……。

 

<栄華>「いいえ、ここは床です!」

 

<香風>「書を読んだりもするし……」

 

<栄華>「これからは机で読んでくださいませ!」

 

<香風>「机も床もあんまり変わらない……」

 

<栄華>「い・い・え! 香風さん! いいですか、あっちは机! これは床、ですわ! いいですわね!?」

 

 説教を聞いている限り、母親が子供に説教しているような感じだ。

 

<香風>「うん……床……」

 

<栄華>「床では、飲食禁止! 約束ですわよ!?」

 

<香風>「……分かった」

 

 有無を言わせない勢いで栄華は香風を納得させる。

 

<司>「香風、終わったら一緒に饅頭食べような?」

 

<香風>「うん……ありがとう、お兄ちゃん」

 

<柳琳>「おまんじゅうですか?」

 

<司>「ああ。新製品だっていうから、栄華から貰った駄賃で……」

 

<栄華>「あらあら、そんな無駄遣いをしたんですの? 仕方のない人ですわねぇ。でも、なかなか気も利いていますわね。お片付けが終わったら、皆でいただきましょう。机の上で」

 

 典型的な死亡フラグのような台詞を聞いたぞ。それから作業を再開してからしばらく時間が経った。

 

 魔境と化していた部屋の様子も少しはマシになってきている。

 

<司>「やっと床の色が見えてきた……」

 

<柳琳>「そうですね、相当な前進ではないでしょうか」

 

<司>「それにしても、書物だけでこんなにあるとは……」

 

 床にはお菓子の包みや書物のほとんどが散らかっていた。片付けた書物を机に置いて俺は呟く。

 

<香風>「こういうのも、仕事のうち」

 

<司>「こんな量を読むのにどれくらいかかるんだ……って、寝台の下にもあるぞ」

 

<香風>「読み終わった書物、そこにあったんだ」

 

<司>「は? これを全部読んだのか……?」

 

 寝台の下には結構な量の書物がある。ここに来てから今日まで読み終えるなんて……。

 

<香風>「そんなに大したことないよ。お兄ちゃんも、読めるものだよ」

 

 読めるが、短期間で全部読むのは無理だぞ。

 

<栄華>「ちょっと、香風さん!?」

 

<香風>「今度はどうしたの?」

 

<栄華>「服が書の下から発掘されましたわよ! これはいつ着たものですのっ!?」

 

<香風>「あ、洗濯に出すの忘れてた。うーんと……いつだったかな……忘れた」

 

<栄華>「忘れないでくださいませ!!」

 

 栄華は持ってきた(かご)に次々と発掘品を放り込む。

 

<栄華>「全く、綺麗な布地が台無しですわ……。あぁ! これなんかとっても色合いが素敵なのに」

 

<柳琳>「栄華ちゃん、服はその中でいいの?」

 

<栄華>「ええ。多少綺麗に見えても(ほこり)を被っているでしょうし、総洗濯ですわ。檜山(ひやま)さん! 服は丁寧に扱ってくださいね!」

 

<司>「分かった」

 

 今度はいつ着たか分からないような服があちこちから出土し始め、俺は栄華に言われた通り丁寧に衣服を扱う。

 

 その中にはスウェット風の服も転がっていた。その中には下着らしき衣類も見つけた。

 

<司>「…………」

 

 俺はそれを見なかったフリをして、他の所にある服を畳む。三人は気付いていないようだ。

 

 栄華に見られれば男はやっぱりケダモノとか言われる光景が思い浮かぶからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけ悲惨だった汚部屋は見違えるように綺麗になった。テレビでビブォーアフターのBGMが頭の中に流れてくる。

 

 (えい)()が持ってきたゴミ袋はすっかりパンパンになっている。それも一つや二つではない。

 

<栄華>「ふ〜……」

 

<柳琳>「はあ……くたびれました……」

 

<司>「やっと終わったな……」

 

 今日は長い一日だった。非番ではあるが、街で栄華のお使いをして、グロンギを倒して、香風の部屋を掃除。労働は疲れる。

 

<司>「どうだ、すっきりしたか?」

 

<香風>「ん〜……まぁ、確かに」

 

<栄華>「気分もすっきりしたのではありませんこと?」

 

<香風>「それは……よくわかんないけど」

 

 香風にとってはいつもの光景とは違うから分からないのは仕方ないか。

 

<柳琳>「ま、まぁともかく、後はこのゴミを出して、お洗濯をして……ひとまずはお掃除終了ですね」

 

<香風>「……ありがとう、るー様、栄華様、お兄ちゃん」

 

<栄華>「お礼には及びませんわ。わたくし達はお友達なのですから」

 

<柳琳>「ええ。これからも時々様子を見に来ますからね?」

 

 人間そう簡単には変わらないからな。けれど、柳琳や栄華が偶に様子を見に来るのなら香風が掃除をする習慣を身に付くかもしれない。

 

<司>「それじゃあ、仕事が終わったところで饅頭でも食うか」

 

<香風>「……食べる!」

 

 俺たちは饅頭と柳琳が用意したお茶を口にしながら雑談する。そこで俺はあるものを見てしまった。

 

 香風がごく自然な動作で、饅頭の包み紙を床に捨てるところを———。

 




次回は栄華編です。もしかしたら桂花編と組み合わせるかもしれません。
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