<司>「じゃあ、後はよろしく」
<警備兵>「はっ!」
街の警備を終わらせた俺は午後の会議に出席するため、警備兵たちに引き継ぎを頼んで城へと向かう。
今回は
その件で、
同盟を組んでいる相手のところに起きた事件に首を突っ込むのはどうかと思うが、荊州の太守とも繋がりがあるようだ。
今回の件ではその太守も
<司>「久しぶりの戦になるな……」
その間は街で問題を起こすゴロツキや怪人たちの対処をするだけだった。出発は早くて半月後になるだろう。
この戦いで怪人が関わっているかもしれないから気を抜かない。
<司>「早すぎたかな」
そうこうしている内に
<司>「そういえば昼飯がまだだったな」
この時間は食堂で食事している。
<司>「今日はラーメンでも食うか……」
そう思いながら俺は謁見の間を後にして食堂へと向かう。
<司>「ん?」
その途中、廊下を歩いているとどこからか漂ってくる甘い匂いがした。腹が空いているし、美味そうな匂いに身体が敏感になっているのだろう。
匂いに釣られて辿り着いたのは、城の中庭だった。
<司>「あれは……」
中庭の真ん中で座り込んでいる人影を見つける。近づくとそこには見知った人が食事をしていた。
<司>「よぅ、
<季衣>「ん? 兄ちゃん。どしたの?」
季衣は芝生の上に座り込んで、脇に山盛りになっている大量の串団子を頬張っていた。甘い匂いはその串団子だったと理解する。
<司>「美味そうだな。食後のおやつか?」
人の十倍もの量を平らげる季衣にとっては、大量につまれた団子はおやつといっても過言ではない。
<季衣>「ん? ごはんはまだだよー」
<司>「は? いや、こんなにある団子はどう見ても……」
意外な答えが返ってきて俺は戸惑う。昼飯の時間に団子を食べているのなら、食後のおやつだと誰もが思うだろう。
<司>「まさか、これが昼飯か?」
<季衣>「そんなわけないじゃん。お団子はお団子だよー。兄ちゃんも食べる?」
<司>「いや、飯はまだだからいい」
季衣の言ってることが理解できない。これがおやつでも昼飯でもないと言うのならこの串団子はなんなのだろうと疑問に思う。
<季衣>「遠慮しなくていいのに」
<司>「そうじゃないが……おやつでも昼飯でもないなら、その団子はなんなんだ?」
<季衣>「今日は
食事の約束はしているのか。しかし中庭を見回しても二人の姿は何処にもいない。
<司>「そうか、でも二人はどうしたんだ?」
<季衣>「二人はまだ仕事だよ。おなかが空きすぎてももたないから、こうやってちょっとねー」
<司>「そっか……」
待ってる間暇だったらしく、先に団子を食べて腹を少し満たしていたのか。誰が見てもちょっとのレベルを越えているが、そこはあえて気にしないようにする。
<司>「そんなに食べてると、昼飯が入らなくなるんじゃないか?」
<季衣>「これぐらい平気だよ。それによく言うでしょ、ごはんと甘いものは別腹だって」
<司>「普通は飯食った後の台詞だぞ……」
<季衣>「みゅ?」
季衣は俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべる。そうしている間にも新しい団子を手に取って口に運ぶ。
<司>「そんなことはいいとして、食べ過ぎて腹こわすなよ?」
<季衣>「あはは。やだなぁ、こんなの食べた内に入らないよー」
<司>「…………」
季衣の食欲には驚きを超えて呆れてしまう。まあ、体のことは本人が一番分かっているからこれ以上のことは言わないことにしよう。
<司>「それにしても、美味そうな団子だな」
<季衣>「春蘭さまに教えてもらったお店で買ってきたんだ。華琳さまもこのお菓子、大好きなんだって」
そういえば街の
<司>「あの店か。限定のお菓子がすぐ売り切れるからいつも人が並んでる所の……」
春蘭がちょくちょく行ってる店には心当たりがある。俺も休憩時間では何度も彼女に引きずられて並ばされたことがある。
<季衣>「たぶんそこだよ。このお団子も、並んで買ってきたから」
<司>「そうなんだ……並んでる間は平気だったか?」
<季衣>「……兄ちゃん。ボクのこと、すぐおなかが空くみたいに思ってない?」
<司>「違うのか?」
<季衣>「あ、ひどーい!」
<司>「冗談だ」
本当は冗談じゃないけど。
<季衣>「それにしてもこれ、おいしー。しあわせー」
普段は身の丈より大きな武器を振り回し、人の十倍も食事するこの子もニコニコ顔で団子を食べる様子を見れば、普通の子供と変わらない。
昼飯前にこの量の団子をちょこっと食べたり、戦で春蘭に匹敵する力を持っていると言えば、知らない人には想像できない。
<司>「って、口元が汚れてるぞ。こっち向いて」
<季衣>「ん?」
口の周りに団子のたれがついていることに気付いた俺は、ポケットの中からハンカチを取り出してぐしぐしとぬぐってやる。
<季衣>「んぅーー」
<司>「よし、綺麗になったぞ」
<季衣>「へへっ。ありがとー! はむっ」
再び季衣は団子を口の中に運ぶが、またたれが付いた。
<司>「全く……それにしても、よく食うよなぁ」
<季衣>「こんなの普通だよー。これからお昼ご飯食べないといけないし、ちょっと控えめくらいかなぁ……むぐむぐ」
季衣にとってはこれが普通なのか。
<司>「程々にしとけよ」
これだけの量で太らないのは、訓練や戦で巨大な鉄球を扱うパワーのおかげだろう。
<司>「そういえば、昼飯の後に会議があるよな」
<季衣>「そうそう、苑州の近くで悪さを始めた賊だよね」
季衣も今回の会議に出席するため、事前に内容は聞いている。
<司>「こうしてる間にも数が増えているからな。
<季衣>「そうなの?」
<司>「俺の予想だがな」
根拠はないがこの世界に来た日からあの三人の盗賊が短期間で三千人も増やしたのだ。そうなってもおかしくないだろう。
<季衣>「前に兄ちゃんが言ってた怪人も現れるのかな?」
<司>「絶対とは言えないが、その可能性は高いと思うぞ」
<季衣>「 "いまじん" だったっけ? あの時現れたの……」
<司>「ああ。だが、怪人はイマジンだけじゃないからな」
最初の戦が終わった直後に盗賊に憑依していたイマジンが現れた光景を思い出す。
怪人の中には人間に化ける奴もいるため、イマジンみたいに憑依しているとは考えられない。
<季衣>「兄ちゃんってその "かめんらいだーでぃけいど" ってので戦うんだよね?」
<司>「まあな。それがどうしたんだ?」
<季衣>「いや、 "かめんらいだー" っていろんなのがあるって言ってたけど、どんなのがあるの?」
<司>「そうだな、肉弾戦が得意なクウガやキバ、色んな武器を使う電王、火を使う龍騎や響鬼とかあるぞ」
<季衣>「へぇー」
ディケイドはカードを使うことで他のライダーの力が使える。世間ではディケイドを悪魔や世界の破壊者と言われているが、実際はどうしてなのかは俺にも分からない。
まあ、ノストラダムスの予言に振り回されたおかげでそう呼ばれているのだが。
<司>「そろそろ腹もいっぱいになるんじゃないか? 春蘭も秋蘭も、そろそろ来る頃だと思うぞ?」
<季衣>「そうだね。そろそろやめとこうかな」
そう言って季衣は残りの串団子を袋に直す。
<季衣>「今日は春蘭さまたち、何が食べたい気分かなぁ……? あっさりのほうがいいかな、それともがっつり食べられる方がいいかなぁ……?」
<司>「そういうの、気にするんだ」
<季衣>「そりゃそうだよ。兄ちゃんだって、そういう時ってあるでしょ?」
<司>「確かに気を遣うことはあるな」
人によって好みも量もその日の気分も違うから、誰かと外食する時は聞いてから食べに行くことにしている。
<司>「仕事で疲れてるならあっさりしたのがいいな。昼からしっかり働かないといけないならがっつりしたのもな」
<季衣>「そうそう、そんな感じ!」
<司>「ちなみに季衣は、今日はどんな気分なんだ?」
<季衣>「んー。がっつり食べたい感じかなぁ……」
予想していた答えが返ってきた。こんなに団子を食べておいて昼飯はがっつりしたものとか、薄々は気付いていた。
<司>「あ、また団子のたれがついてるぞ。こっち向いて」
口の周りがまた汚れていたので、再びハンカチを取り出して拭った。
<季衣>「んぅーーー」
<司>「よし、終わったぞ」
<季衣>「ありがと、兄ちゃん!」
<???>「きさまぁぁぁっ! 何をやっておるかぁぁぁっ!」
突如として怒声が響き渡った。俺は何事かと思って振り向くとそこには
しかも何故か春蘭が怒った表情で俺を睨んでいる。
<司>「え? どうしたんだ? 春蘭……」
<春蘭>「季衣に何をしているのだと聞いているっ!」
<司>「何って、口の周りを拭いただけ……」
<春蘭>「何をそんなくだらぬ誤魔化しを……っ!」
俺は別に誤魔化してないんだが。
<司>「どうしたんだよ。そんなに怒って……」
<春蘭>「き……っ! ききき、貴様……季衣にい、い、いいいい……いやらしいことをしていたのだろうっ!」
<司>「はぁ?」
俺は彼女の言ってることか理解できない。何故春蘭はそう思ったのだろう。
この状況を見てみよう。春蘭と秋蘭は俺の背後からやってきた。座っている季衣に俺は腰を下ろして彼女と同じ高さにしている。
そこに俺は季衣の顔を手を伸ばして…………そういうことか。
<司>「待て春蘭。勘違いをしてるぞ? 俺は季衣の口についた団子の汚れを拭いただけで……」
<春蘭>「どこに団子などあるっ!」
<司>「いや、ここにあるだ……って、あれ?」
振り返るとあれだけあった団子の串が一本もない。それどころか残りが入った袋すら見当たらない。
<季衣>「だって、ゴミ捨てとくの、悪いと思って……残りも部屋で食べようと思って向こうに置いてきたし……」
こういうところはしっかりしているが、今回に限っては最悪のタイミングだ。
<秋蘭>「
<司>「おい、またか? あの時もあったよな?」
秋蘭はまたしても口の端を震わせながら言う。
<季衣>「春蘭さまぁ。兄ちゃんの言うこと……」
<春蘭>「季衣は黙っていろ!」
季衣が弁解しようとするが、春蘭は聞き入れてくれない。
<司>「いや春蘭、季衣は当事者で……」
<春蘭>「あと貴様に発言権はないっ!」
何故か俺にはもっと強く言ってくる春蘭。まあ、それだけ季衣のことを可愛がっているのだと分かるが、せめて話ぐらいは聞き入れてほしい。
<春蘭>「季衣に手を出そうとしたこと、素直に謝れば、まぁ勘弁してやらんこともない……。だが、団子だか何だか知らんが、ごまかそうとするなど言語道断! そもそも食事の約束をしていたというのに、その前に団子を食う奴がどこにいるかっ!」
<司>「最後に関しては俺もそう思うが、実際にここにいるぞ」
<春蘭>「うるさい黙れ!」
<司>「大体俺が季衣みたいな子供に手を出すわけないだろ」
俺がそう言うと、今度は予想もしていない子が怒り出した。
<季衣>「ちょっと兄ちゃんっ! ボク、もう子供じゃないよっ!」
<司>「え?」
子供という言葉に反応した季衣は気にしていたようで俺ににじみ寄ってきた。
<季衣>「春蘭さま!」
<春蘭>「うむ! 任せておけ!」
<司>「お、おい……し、秋蘭……」
この状況なら秋蘭も助けてくれると信じる。しかし———。
<秋蘭>「姉者。判決はどうするのだ?」
<司>「まだそのノリかよ!?」
<春蘭>「決まっているだろう! 死刑!」
そんなことで死刑になる世界なんて…………あった、ここだ。
<司>「……仕方ない」
俺はこの状況を打破する方法として、 "ディケイドライバー" と "ライドブッカー" を取り出す。
<司>「変身!」
俺は "ライドブッカー" からディケイドのカードを取り出して、バックルに差し込んだ。
『
ディケイドに変身した俺を見て、春蘭は剣を取り出した。
<春蘭>「ほう、でぃけいどに変身するとは……。前は変身せずに戦ったからな。今度はその姿で
<司>「そっか、それなら残念だ」
そう言って俺は一枚のカードを取り出す。
『
俺は逃げるため、自分の姿をバラけさせて姿を消す。それと同時に急いでその場を後にする。
<季衣>「き、消えた!?」
<春蘭>「何処へ行った! 卑怯者!?」
こうして会議が始まるまで俺は春蘭と長い鬼ごっこをする羽目になった。
次回は第三章に突入します。