真・恋姫†夢想-革命- 世界の破壊者   作:サラザール

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第3話 曹家の金庫番

<一同>「いただきます」

 

<司>「……本当にここの料理は美味いな」

 

 この世界で食べる本場の中華料理は、旅行に来ていた中国と同じくらい馴染む美味さだ。

 

 朝食のお粥が起きたばかりの胃袋に優しい味がする。

 

<春蘭>「能書きは良いからさっさと食え。それともこんな粥が珍しいか?」

 

<司>「そうじゃないが、もう少し味わって食べたいの。それに急ぐ理由もないんだし」

 

<香風>「……ごちそうさま」

 

<司>「早っ!?」

 

 いくらなんでも早過ぎるだろ。食べ始めてから一分も経ってないのに。

 

<司>「もう少しゆっくり食べたら?」

 

<香風>「…………?」

 

 そんな調子で、俺が華琳の所に拾われてから数日が過ぎていた。それまで俺は香風からこの世界の基本的な知識を教わり、華琳や秋蘭たちの情報収集に付いて回ったくらい。

 

 華琳たちも特に盗賊を追い掛けるわけでもなく、この街で待機しているだけだった。

 

 怪人たちがあの三人組を襲ってもおかしくないが、焦ってもしょうがない。奴らの居場所を突き止めるまで待つしかない。

 

<秋蘭>「華琳さま、遅くなりました」

 

<華琳>「構わないわ。どうだった?」

 

<秋蘭>「はっ、先程ここより少し離れた谷間で未確認生物の目撃情報がありました」

 

 秋蘭の言った未確認生物とは怪人のことだろう。

 

<秋蘭>「外見は異様な生物のようで、我々では理解できない言語で話しておりました」

 

<司>「恐らく……グロンギだな」

 

<春蘭>「ぐろんぎ?」

 

<司>「外見は何処かの異民族で体の構造は人間と同じだ。特徴として、言語学者ですら解読できない言葉を使うから、人間を襲う以外の目的は分かってないんだ」

 

 最も、奴らと何度も戦ってきているためグロンギ語は話すことはできる。

 

<華琳>「言葉が通じないとなると、何をしてくるのかが分からないわね」

 

<司>「何度も戦ってきたから俺は理解できるぞ」

 

<華琳>「あら、そうなの」

 

<司>「まあな」

 

<秋蘭>「それと、州境に出した使いの兵が戻りました」

 

<華琳>「そう」

 

 この時の華琳の返事は、基本的に短い。まるでこのあと相手が何を言うかが分かっているかのように、軽く先を(うなが)すだけだ。

 

<秋蘭>「やはり、豫州(よしゅう)へ立ち入る事はまかりならん……だそうです。こちらから逃げ込んだ賊は、向こうの兵で対処すると」

 

<華琳>「まあ、そうでしょうね」

 

 南華老仙(なんかろうせん)の著書 "太平要術" を盗んだ賊は、俺達の証言とその後の情報収集で、ここのすぐ隣の州……豫州という所に逃げ込んだ事が分かっていた。

 

 さらにその賊は砂でできた怪人に追われているという情報をある。砂というと、イマジンだろう。

 

 華琳がこの街で待機していたのは、豫州に追跡の兵を入れるための許可を待っていたからだが……。

 

<司>「まるで断られるのが分かっていたような口ぶりだな」

 

<華琳>「他所の兵に自分の領を我が物顔で歩かれて、気分の良い領主などいないわよ。私が豫州の州牧や郡の太守から同じ事を言われても、同じように言えるでしょうね」

 

<司>「同じ漢の中でもそうなるか。まあ、気持ちは分かるがな」

 

<香風>「郡が違うだけでも、州境は大問題ー」

 

 郡というのは、州の中にある一つ小さな単位のことだったな。現代日本で例えるなら、漢王朝は国、州は都道府県で郡は市町村になる。

 

 華琳は苑州(えんしゅう)にある陳留という郡を治めている太守をしているらしい。

 

<司>「しかしそうなると、豫州(よしゅう)の兵が賊を捕まえたら、太平要術の書も向こうの人の手に渡るな」

 

<華琳>「ええ、その件は向こうには伝えていないけれど、そうなるでしょうね」

 

 そうなると心配になってくる。 "太平要術" は華琳の元から盗まれた物だから、手元に戻ってこないとなると不安で仕方ない。

 

<春蘭>「どうした檜山(ひやま)? 難しい顔をして、粥が喉に詰まったか?」

 

<司>「それはないが……何処の誰とも分からない人に渡ってしまうと心配になってな」

 

<華琳>「あら、他人からしたら、あなたも素性が分からないから警戒するのは当然でしょ?」

 

<司>「そうだが、怪人の件について知ってるのは俺達だけだからな。手元に置いておかないと安心しないだろ?」

 

<華琳>「ええ。だからこそ、違う方法であの書を取り戻すのよ」

 

<司>「やっぱり諦めないんだ」

 

 彼女の反応から見て、当然違う手段で取り戻そうとすることは予想していた。

 

<華琳>「当たり前よ。どんな事をしてでも取り戻してみせるわ。それに貴方には賊の件だけでなく、怪人退治や事務作業もやってもらうから」

 

<司>「そういう約束だったな。肉体労働しかないか」

 

<香風>「天の国の知識とかは?」

 

 まあ、それも良いかもしれない。けれど———。

 

<司>「歴史は知ってるけど、俺も詳しくは知らないぞ。それに、先の事が分かっても面白くもないしな」

 

<華琳>「そういうこと。曖昧な知識や身の丈に合わない術はやがて身を滅ぼすことになるわ。……知識も、権力もね」

 

 最後にぽつりと口にした華琳のひと言は、どこか実感がこもっていた。

 

<華琳>「いずれにしても、これでこの街に留まる理由はなくなったわ。食事を終えたらすぐに陳留に戻るわよ」

 

<春蘭・秋蘭>「はっ」

 

<華琳>「司も支度をしておきなさい」

 

<司>「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<春蘭>「それにしても、見れば見るほど不思議な乗り物だな……」

 

<司>「俺の国ではこれが当たり前だから仕方ないか」

 

 あれから数日後、俺は "マシンディケイダー" で陳留に戻る道を馬に乗る華琳たちの隣で進んでいた。

 

<香風>「お兄ちゃん、頭に被ってるのは?」

 

<司>「ヘルメットか? これがないと運転できないから付けているだけだよ」

 

 香風は "マシンディケイダー" に(また)がる俺に視線を向ける。乗馬はしたことあるが、さすがに "マシンディケイダー" を置いていく訳にはいかないからな。

 

<秋蘭>「天の国での移動はそのばいくというものか?」

 

<司>「バイクは比較的少ないよ。主流になってるのは車っていう箱に車輪が付いた乗り物だよ」

 

<春蘭>「金持ちなのか?」

 

<司>「裕福ではあったが、中流家庭とそんな大差はないよ」

 

 両親が "ディケイドライバー" や "ライドブッカー" を作れるぐらいだから、不自由がない暮らしは出来ていた。

 

<秋蘭>「軒車に乗れるのは貴族か金持ちだけだろう」

 

<司>「そ、そうなんだ……」

 

 予想はしていたが、この時代ではそんなに高級なものとは思わなかった。

 

 基本的な知識だけでなく、俺には分からないことが多すぎる。

 

<香風>「陳留に着いたら、シャンも乗せてー」

 

<司>「機会があったらね」

 

 華琳たちとそんな話をしながら、小高い丘を越えれば……。

 

<春蘭>「ほれ、檜山(ひやま)。その陳留が見えてきたぞ」

 

<司>「……ん? あれか……」

 

 

 

 

 

苑州・陳留

 

<春蘭>「ふふん。驚いたか」

 

<司>「……まあな」

 

 丘の向こうに見えたのは、思った以上に高い城壁に囲まれた巨大都市だった。

 

 色んな国に旅行したから城を見るのは慣れているが、現代でも通用するような立派な建物を目にする。

 

<司>「正直もう少し小さいのかと思った」

 

<春蘭>「ふふふ。そうだろうそうだろう」

 

 何故か春蘭が自慢しているが……。

 

<香風>「なんで春蘭さまが偉そうなの?」

 

<秋蘭>「……見ぬフリをしてやってくれ、香風」

 

 太守というのも日本でいう市長と同じくらいの立場と聞いていたため、こんなに大きな街を任されているとは思わなかった。

 

<華琳>「驚くのはそれぐらいにして、早く行くわよ」

 

<司>「……分かった」

 

 見れば見るほどでかい城門。しばらくして俺たちはやっとその城門の前にたどり着く。

 

 そんな見上げるほどに巨大な門が開き、中から手にウサギのぬいぐるみを持った華鈴と同じ髪の色をした女の子が現れた。

 

<???>「お帰りなさいませ! お姉様!」

 

 ひと目見ただけで意志の強さを感じさせる切れ長の瞳と、整った顔立ち。それは華琳への呼びかけを聞くまでもなく、彼女の親族だと分かるものだ。

 

<司>「華琳の妹か?」

 

 女の子の姿を少し離れた所から眺めつつ、俺は隣の秋蘭に小声で確かめる。

 

<秋蘭>「この陳留の金庫番を任されている、(そう)(こう)という。実の妹ではないが、華琳さまの曹一門に属するお方だ。……それと」

 

<司>「何だ?」

 

<秋蘭>「檜山(ひやま)はしばらく黙ってろ。華琳さまから何か言われても、最低限の事しか答えなくて良い。分かったな?」

 

<司>「……分かった、そうする」

 

 秋蘭の言葉の真意は分からないが、真名みたいなものがあるかもしれない。ここは彼女のアドバイスに従っておこう。

 

<華琳>「いま戻ったわ、栄華。……けれど、なにもここで出迎えなくても良かったのよ?」

 

<栄華>「遣いも受けましたし、見張りからも遠くにお姿が見えたと報告がありましたので……いてもたってもいられなくて。ああ……御髪(おぐし)もお衣装も砂だらけで。お風呂とお召し物の支度をさせていますから、すぐにお使いくださいまし」

 

<華琳>「ふふ、ありがとう。留守中は変わりはなくて?」

 

<栄華>「はい。柳琳(るーりん)もいましたし、()(ろん)さんも…………彼女なりによくやってくださいましたわ」

 

 曹洪も春蘭たちみたいに華琳の事が大好きなんだろう。弾む声も、向ける視線も、何もかもが華琳への親愛の情に溢れてる。

 

 華侖って子の事を説明するときに微妙な間があったが、気にしないようにした。

 

<栄華>「それと、その……お姉様。……新しく迎えたお客人がいるとか」

 

<華琳>「……ふふっ。そうね、いらっしゃい」

 

<司>「ああ……」

 

<香風>「はーい」

 

 華琳の呼びかけに従って、俺と香風は華琳の隣に踏み出す。すると———。

 

<栄華>「あらあら、まあまあ……!」

 

<香風>「…………?」

 

 なんということでしょう。香風の姿を目にすると頬を染めて笑顔になる曹洪。

 

<栄華>「ふふっ。とっても可愛らしいですわね……。お姉様、この子は?」

 

<華琳>「遣いに持たせた連絡の通りよ。私の元でしばらく働いてくれる事になったわ」

 

<栄華>「そうですの!」

 

<香風>「…………?」

 

 曹洪は華琳の紹介にぱっと花の咲いたような笑みを浮かべ、香風の顔を覗き込むよつに身を屈めてみせる。

 

<栄華>「わたくしは曹洪と申しますわ。あなたのお名前は?」

 

<司>「俺は、檜山(ひやま)(つかさ)。それでこっちが……」

 

<香風>「徐晃(じょこう)。……でも、シャンのことは香風でいい」

 

<栄華>「香風さんですわね。なら、わたくしの事も真名の栄華でお呼びになって?」

 

<香風>「……わかった」

 

 …………あれ? 何か違和感を感じる。

 

<栄華>「それと香風さん。客人用のお風呂の支度もしてありますから、良ければお湯をお使いになってくださいまし」

 

<香風>「わーい」

 

 ちょっとまて。俺はスルーなのか? そう思って秋蘭に視線を向けると、彼女は無言で首を振ってみせる。

 

 ここは黙っておくべきところか……。

 

<栄華>「それから……良ければ、お召し物も用意させていただきますわ。それにぼさぼさの御髪(おぐし)もちゃんと整えないと、可愛いお顔が台無しですわよ」

 

<香風>「……うん?」

 

 思う所は色々あるが、曹洪は基本的に面倒見のいい子だと理解できる。…………女子限定で。

 

 香風が身だしなみやお洒落に興味が薄いのは分かっていたが、こういう子が色々教えてくれるなら……もう少しきちんと出来るのかもしれない。

 

<栄華>「お姉様、よろしくて?」

 

<華琳>「ふふっ。好きになさい」

 

<栄華>「後は、そうですわね……」

 

 栄華は香風を見ながら小声で呟く。

 

<栄華>「うん……身だしなみがなっていないのはそれで良いとして……口調に気品が感じられないのは、おいおい(しつ)ければ良さそうですわね……」

 

 聞いていると内容が少し危なっかしく感じる。

 

<栄華>「都の役人を務めていたというから、最低限の学問は修めているでしょうし……後は、家での振る舞いとお作法を仕込んで、わたくしへの奉仕の仕方も……ふふ……ふふふ…………」

 

 前言撤回、少しではなかった。結構やばかった。

 

<香風>「…………ひっ。お、お兄ちゃん……」

 

<司>「……お、おう」

 

 香風も身の危険を感じたのか、俺に抱きついてきた。

 

<華琳>「栄華」

 

<栄華>「あ……。ふふっ、申し訳ありません。つい癖で……」

 

<司>「癖って言えるのか?」

 

<栄華>「ご安心なさって。お姉様のお手つきの子に手を出すような真似は、誓っていましませんわ」

 

<華琳>「私の期待を裏切らないで頂戴」

 

 そんな会話をしていると、香風は俺のジャケットの裾を引っ張る。

 

<香風>「……お兄ちゃん。お手つきって?」

 

<司>「気にしなくていいと思うぞ。香風」

 

<香風>「……うん」

 

 ここまでの会話で理解したが、やはり彼女は女子限定で優しいようだ。さっきから華琳と香風にだけ反応を返してくるだけで、俺には反応してくれない。

 

<華琳>「それと……改めて、もう一人も紹介するわ。……司、もう一度名乗りを」

 

<司>「ん? ああ、分かった。俺は檜山(ひやま)(つかさ)。色々あって……」

 

<栄華>「はい、それで結構ですわ。お姉様の連絡には目を通しましたから、もう十分」

 

 …………まあ、予想はしていた。けど、ここまで差が激しいとは。

 

<華琳>「栄華。司はこれでも例の事件の貴重な情報源よ。必要以上にはしなくて良いけれど、相応の扱いはするように」

 

<栄華>「それは……どうしてもですの? お姉様」

 

<華琳>「どうしてもよ」

 

<栄華>「……はあ。承知いたしました。お部屋を用意させます」

 

 さっきまでの甲斐甲斐しい様子からは一転。曹洪は不服しか感じられない口調で肩の力を落とすと、俺から微妙に視線をずらしたまま、渋々口を開いてみせる。

 

<司>「あ、ああ……世話になる分にはちゃんと働くよ」

 

<栄華>「当たり前ですわ。あなたがここで暮らす中で、どれだけのお金が無駄に掛かっているか……ちゃんと理解しめ過ごして下さいまし」

 

 どんだけ男嫌いなんだ?

 

<栄華>「それと、今後はわたくしの視界の中に入らないで下さる?」

 

<司>「わ、分かった……」

 

<栄華>「今はお姉様の指示で、我慢して話していますけれど……わたくし、本当は愛らしい女の子しか視界に入れたくありませんの。よろしくて?」

 

<司>「気を付けるよ」

 

 気持ちは分からないでもないが、それを面と向かって言い切るのはすごいのひと言しかない。

 

<栄華>「ならわたくしは先に城に戻っていますわ。春蘭さん! お話がありますので、一緒に来て下さいまし。……あと香風さんも、お風呂にご案内いたしますわ」

 

<春蘭>「おう。……では華琳さま、お先に」

 

 春蘭は華琳にぺこりと一礼し、曹洪の方へ馬を向かわせるけど……呼ばれた香風は、俺の服の裾をぎゅっと掴んだまま。

 

<香風>「うぅ……お兄ちゃん、一緒に来て」

 

<司>「俺が一緒に行くと曹洪がものすごく怒るからな……香風一人でも大丈夫だと思うぞ。なあ、華琳?」

 

<華琳>「栄華は自分の言った事には責任を持つ子よ。手を出さないと誓った以上は、大丈夫でしょう」

 

<司>「だそうだ。お風呂、ゆっくり使わせてもらってきな」

 

 この世界での風呂が贅沢であることは来て早々に理解していた。湯を湧かすための(まき)だって準備には手間が掛かる。

 

 それを準備したってことは、曹洪は本当に香風を歓迎するつもりなんだろう。

 

<香風>「……分かった」

 

 小さな背中を優しく押してやると、香風は春蘭たちのもとにぱたぱたと駆けて行く。

 

<司>「……あれが曹家の金庫番か」

 

<華琳>「ええ。少し変わっているけれど、優しくて賢い子よ」

 

<司>「…………」

 

<華琳>「どうしたの? 私の顔に何か付いていて?」

 

<司>「いや、何でもない」

 

 何故だろう。何となくだがすごく血の繋がりを感じる。

 

<秋蘭>「なら我々も行くぞ、檜山(ひやま)。いつまでもこんな所にいても仕方がない」

 

<司>「ああ……そうだな」

 

 曹家の「少し」は一体どの程度の許容範囲があるのだろう。そう思いながら、俺は華琳や秋蘭に続いて陳留の都に足を踏み入れるのだった。

 




丸写しになると思い、馬小屋のところは飛ばしました。
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