警備の仕事を切り上げた俺は、部屋に戻って読書をしていた。この世界に来てからは戦い方や字の読み書きを学んでいる。
漢文は一応書けるが、戦について俺は全くの素人。怪人たちとは何度も戦闘を繰り広げてきたが人間同士の殺し合い、ましてや何千や何万の大規模な戦を経験したことはない。
華琳から警備隊を任された俺は、休憩時間には兵法が書き記された書物を読む毎日。
日の光が差し込む窓の前で、時々カメラをいじりながら今日も勉強していた。しかし、それを優先している場合ではない。
問題は華琳たちと仲良くできるかどうかだ。まあ、彼女は俺のことを面白がってるみたいだからそれは良しとする。
<司>「……やっぱり厄介なのは栄華か……」
華琳の真名を呼んだとき、一番の剣幕で俺に迫ったのは彼女だった。
それでなくとも、初対面の挨拶のときから、あまり良い印象は持っていない様子だったからな。
<司>「まあ、煙たがれるのは分かってても行動するしかないな」
俺はそう思って書物を机に置いて部屋を後にする。廊下を出て栄華が仕事をしているであろう執務室へと足を運ぶ。
<司>「さて、栄華はどこにいるのかな……っと」
彼女の部屋の近くに来ると声が聞こえた。
<栄華>「では、後はお願い致します。わたくしはしばらく休憩致しますので、何かありましたら呼びに来るように」
早速栄華を発見。タイミングが良くこれから休憩のようだ。
<司>「よう栄華」
<栄華>「あなたは……」
こちらから声を掛けるが、栄華は表情をキツく引き締めて俺を睨む。
<司>「その、なんだ……ちょっといいですか?」
<栄華>「何かしら、わたくし今から休憩致しますの」
<司>「分かってる。だから、その間に少し話でもどうかと思ってな……」
<栄華>「何のために?」
本当に俺に対しては態度がキツいんだから……。
<栄華>「と言いますか、わたくしの視界に入らないで下さいと、お伝えしたはずですけど。特別な用がないのであれば、わたくしはこれで……」
<司>「まあまあ、少しぐらいいいじゃないか」
<栄華>「貴方の相手をしていて、貴重な休憩時間が無くなってしまっては、後の仕事に差し支えますから」
取り付く島もない様子だが、こんなところで引き下がる様では彼女と仲良くなれる筈がない。俺は少しでも話してきっかけを作ろうと食い下がる。
<司>「忙しいのは分かったが、いつなら大丈夫だ? また時間がある時に訪ねるようにするから」
<栄華>「ですから、何のために? 困りごとがあるのであれば、秋蘭さんにでも相談すればいいでしょう」
<司>「困りごとはないが……これから長い間世話になるわけだから、栄華や皆とも仲良くなりたいと思って」
<栄華>「仲良くですって……」
俺の言葉を聞いて、栄華の視線が更に鋭くなる。
<司>「ん? 何か変なことでも言ったか?」
<栄華>「そうやってわたくしたちの隙を見つけ、あわよくば手込めにしようと……やっぱり男なんて不潔ですわっ!」
<司>「おいおい……誤解だぞ?」
<栄華>「何が誤解ですか! その目を見れば分かります! 垂れ下がった目じりからいやらしい気持ちが溢れていますわ!」
栄華の言葉を否定するが、全然聞いてくれなかった。
<司>「俺そんなに垂れ下がってないし、思ってもいないけど……」
<栄華>「お分かりでないようですので、この際ですからしっかり伝えておきます」
そう言って彼女は人差し指で俺を指してくる。
<栄華>「わたくしたちは今、お姉様の大望成就のために、地盤を確かなものにするため尽力しています。成すべきことは多く、余計なことに手を取られている暇はないのです」
<司>「最もなご意見ではあるな」
<栄華>「ええ。それに陳留だけでなく、各州で未確認生物の目撃情報も聞いています。お姉様も襲われたようですから……」
未確認生物というと、グロンギやファンガイアなどの怪人たちだ。俺はそいつらを倒しにこの世界に来たが、華琳はまだ仮面ライダーのことを話していないようだ。
<栄華>「そんな大事な時期に……あなたに構っている暇はありません」
栄華はハッキリと俺に言ってくる。ちょっと傷付くんだけど……。
<栄華>「天から突然現れた……などという出自不明の人間が、まともであるとでも?」
<司>「た、確かに……」
<栄華>「それに、何より男!
彼女の男嫌いは知っていたが、幼女趣味に関してはちょっと引いてしまう。けれど栄華にとって俺という存在は紛れもなく
<栄華>「貴方はせいぜい、空気といったところかしら」
<司>「空気?」
<栄華>「お姉様が必要とした時にだけ出てきてお役目を果たし、また消えていく。それならあなたがいることを
栄華の言葉に何か納得してしまう。怪人を倒す時だけ仮面ライダーに変身し、役目が終わると普段の生活に戻る……ある意味似てはいるな。
<司>「言いたいことは分かってたが、そんなに険悪にしなくても……俺はただ交流を深めたいだけで……」
<栄華>「ああやっぱり男はケダモノですわ! やってきて早々に女の子ばかりに近づこうと考えているなんて!」
<司>「だから誤解だ。偉い人が偶々女の子だっただけで……」
<栄華>「わたくしを狙うのならともかく、もし香風さんを毒牙に掛けようものなら、即刻チョン切って差し上げますから、覚悟なさいませ!」
全然聞いてくれないよ。というかそんな気は一切無いんだけど。
<栄華>「いいですか、くれぐれも余計なことはしないで下さいまし」
最後にそう言い捨て、足早に俺の前から立ち去っていく。彼女の背中を見送る俺は視界から見えなくなると
<司>「ダメ元でやってはみたが、余計に悪化しちゃったな……」
<秋蘭>「あれも彼女の性格なんだ、大目に見てやってくれ」
すると背後から秋蘭が声を掛けてくる。
<司>「ああ、見てたのか」
<秋蘭>「偶々通りがかってな。あれはただ恐れているだけなのだ。お前に華琳さまや他の皆を、奪われてしまうのではないか、とな」
<司>「別にそんなことはしないけどな。役目を終えたらすぐに国に帰るつもりではいるけど」
<秋蘭>「自分の意思で帰れるのか? 確かお前は誰かに送られたと言っていたが」
この世界で生きていくのもそれはそれで有りかもしれないが、帰れるかどうかは分からない。もしかしたら帰れないかもしれない。
<司>「帰る方法は分からないよ。でも、俺はその老人からこの世界を救ってほしいと頼まれて来たからな。実際のところは分からないが、立場上ここに長居できないのかもしれん」
<秋蘭>「そうか……」
<司>「ああ。だけど、奪われる、か。そんなことは考えてないんだけど……」
<秋蘭>「分かっているさ。だが受け取る側からすればそう行かないこともある」
確かに立場にとってはそう考えられる。
<秋蘭>「栄華はこれまで、我ら曹一門のために心血を注いできた。さほど大きくはないかもしれんが、あれにとってはかけがえのない世界であることは事実。そこに天の御遣いなどという大仰な肩書きで入り込んできたお前は、紛れもない異物なのだろうよ」
<司>「それは分かっているさ。だからってずっとこのままというのもな」
<秋蘭>「ふふっ。その熱意が、彼女にとっては煩わしく思えるのだろうな。何せお前は男だ。大切な家族がどこの馬の骨とも知れない男に
<司>「栄華にとってはそう見えているんだな」
理解はできるが、こちらとしては苦労が絶えないと思う。
<秋蘭>「元々男嫌いでもある。私たち以上に、男に対して強い偏見を持っているのかもしれない」
<司>「男は皆ケダモノで、いつでも女を食い物にする性欲の塊……みたいな?」
<秋蘭>「ははっ、そうだな、あながち間違ってはいないと思うぞ」
自分で言ってて悲しくなってきた。
<秋蘭>「少々極端かもしれんが、あれも一途ということだ。嫌わないでやってくれ」
<司>「大丈夫さ。嫌いにはならないが、とりあえず煙たがれない程度には交流してみるよ」
<秋蘭>「
<司>「地道にやってみるよ」
最初は大失敗だったが、秋蘭のおかげで彼女の内心は少しは分かった。後は俺の努力次第ということだ。
<司>「それはそうと、栄華や華侖、
<秋蘭>「ああ。華琳さまはあの件のことはお前と怪人のことしか伝えていない」
<司>「せめて俺が来た目的のことだけでも話してくれないものかな。怪人と戦うときは変身するから、周りから驚かれるぞ」
<秋蘭>「我々では説明の付かないことだからな。それにいきなり世界を救いにやってきたと言われても信じてもらえない。こればかりはその時になってみないと」
それもそうだな。この世界の住人じゃあ仮面ライダーの力を妖術と言われてもおかしくないな。
◇
秋蘭と話を終えた俺は外に出てみると、庭のど真ん中で大の字きなった
<司>「何やってんだ?」
<香風>「……あ、お兄ちゃん。おはよう」
香風はぱっちり目を開けて、ひらひらと手を振った。
<司>「おはよう、寝てたのか?」
<香風>「うん。ちょっと頭、使ったから。……シャンに何か、用?」
<司>「いや、用はないよ。こっちも仕事が終わったから外の空気を吸おうと思ってね」
そういえば
<司>「隣いいか?」
<香風>「いいよ」
俺は香風の隣で柔らかい芝生の上に寝っ転がる。
<司>「どこの空も同じだと思ってたが、そうでもないんだな」
<香風>「……そう?」
<司>「ああ。ここと比べたら重い感じがしてたよ。そもそもこんな風にぽーっと空を見上げることもなかったんだけど」
<香風>「へぇ…… シャンも、前はこんなにのんびりできなかった」
前というと都にいた頃か。
<司>「都は大変だったらしいな」
<香風>「大変……って言うか、ダメダメ。でもここは皆がすごい。華琳さまはもちろん、春蘭さまも秋蘭さまも。栄華さまや華侖さま、るーさまだって。みんな、能力がある。
<司>「そうか……」
<香風>「それで、そういう人たちを引き寄せる力があるのが、華琳さまの一番すごいところだと思う」
確かに華琳にはカリスマ性があるな。
<司>「俺にもそんな力があったらな」
<香風>「お兄ちゃんも凄いよ?」
<司>「ん? そうか?」
<香風>「うん。だって世界を救うためにきたんでしょ?」
<司>「まあな」
そりゃあ自分の世界で倒した怪人が、別の世界で復活して暴れてると聞けば放っておくわけにはいかないからな。
<香風>「そういう人、今はあんまりいないから」
<司>「そうなのか?」
<香風>「何とかしたいって思ってる人は、みんなどっかに行っちゃった。昔はそういう人が集まってたから都だったけど……今は、ただ昔が都だったってだけの場所。あんなところにいたって、何にもならない」
<司>「だから、役人を辞めたのか?」
<香風>「……うん」
意欲が無ければどうやってもたかが知れているからな。
<司>「でも、なんで旅に出たんだ? 都はそんなだとしても、外は安全じゃないだろ? どこかに仕官すればよかったのに」
<香風>「仕官は……あまり華琳さまに会うまでは、あんまり考えてなかった。しばらく、色んなところを回ってみたかったし……何より、都から早く出ていきたかったんだ」
そんなに嫌だったようで、香風は空を見上げながら言葉を続ける。
<香風>「……都には毎日毎日手紙……上奏文が来てた」
<司>「上奏文って、身分の高い人が皇帝に向けて意見の手紙か?」
<香風>「うん。あの土地は俺のものだ、とか、先に攻めてきたのはアイツの方だ、とか」
皇帝の権威が
<香風>「それで勝つのは決まって、賄賂の多かった方。本当の事情なんてどうでもよかった。その役人ですら、もっと上の役人に贈る賄賂の額で、出世が決まって」
<司>「……馬鹿な奴らだ。欲深いやつは身を滅ぼすだけなのに……」
怪人たちもそんな奴が沢山いたからな。当然全員倒したけど。
<香風>「で、あの時も何だか疲れたなーって、空を見てたら、鳥が飛んでいったのが見えた。鳥は、自由に飛んでる。領地とか関係ない。行きたいところに行ける。……それを見てたら、何か、役人してるのがバカバカしくなった」
<司>「そりゃあそう思いたくなるな」
<香風>「それでたまたま、同じようなことを思ってた人と会って……みんなで、旅に出ることにしたの」
<香風>「四人で気ままに色んなところを回って……本当に、楽しかった」
<司>「そっか。でもそんな楽しい旅をやめてまで、華琳のところに仕えることにしたんだ?」
<香風>「華琳さま……ううん、
<司>「なるほど」
<香風>「……それ以上に、とても大きな野心を抱いているってもっぱらの噂だった。実際会ってみて、大きいどころじゃなかったけど」
確かにそうだ。俺の知る歴史もそんな人物だが、その行く末は今のところ俺とこの世界のどこかにいる
<香風>「どうせなら、そういう人の元で仕事をしたかった。
<司>「気ままに旅してたらそうなるな」
<香風>「……でも、華琳さまやお金のことよりも大事なことがあった」
<司>「そんなものがあったのか?」
<香風>「……華琳さまは、お兄ちゃんを召し抱えるみたいだったから」
ちょっとまて、大事なことって俺なの? そんな恥ずかしいことをさらっと真顔で言えるなんて……。
<香風>「お兄ちゃん、仮面らいだーになれるでしょ?」
<司>「ああ」
<香風>「それって姿を変えられるよね?」
<司>「まあ、仮面ライダーにも種類があるからな」
ディケイドはクウガからキバまで変身できるからな。 "ネオディケイドライバー" ならジオウまで変身できるけど。
<香風>「シャン、空を飛んでみたい」
<司>「……はい?」
香風は寝っ転がりながら、空を指差す。
<香風>「……飛びたい。鳥みたいに、自由に色んなところに行ってみたい」
<司>「つまり、仮面ライダーの力を使って空を飛んでみたいってこと?」
<香風>「うん」
なるほど。確かに空を飛ぶことができるライダーがいるからな。
<司>「俺が乗ってきた "マシンディケイダー" は陸だけじゃなくて空にも海の上でも走れるぞ」
<香風>「それ、本当?」
<司>「ああ。今は整備中だから無理だけど、終わったら乗せてあげるよ」
<香風>「うん。約束だよ」
それから俺たちは日が暮れるまでひなたぼっこをしていた。城庭に誰も通りがかる人がいなかったのは奇跡と言えるだろう。
もし栄華が通っていれば間違いなくケダモノ扱いされていたかもな。
第一章拠点フェイズはこれで終了です。次回は第二章に突入します。