S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
第三格闘訓練場にてM1895達を撃破したスカーレットは次に向かうべき場所へ歩みを進めていた
出来ることなら最初に来たかったのだが、今回の事態が起こる過程を考えるといきなりそこへ向かうのは悪手であると考えて後に回していたのだ
過去に培った隠密技術を総動員して誰にも見付かることなく順調に進み、遂に辿り着いた
入口には「F&M訓練所」と書かれている
ここは軍の基本戦術の1つであるファイア&ムーブメントの訓練が出来るように作られた棟で、3つある同様の訓練所の中でも最大規模を誇る
当然中には様々な銃火器が保管されており、端的に言えばスカーレットの狙いはそれである
因みにここへ来るのを遅らせたのは訓練中の人形達が出払うのを待つためだ
細心の注意を払って付近に誰もいないことを確認したスカーレットは中へと侵入する
勿論勝手に中へ入れないようロック等が施されてはいるが彼女は指揮官である関係上マスターキーを持っているし、別段なくともハッキングやピッキングで入れば良いので問題にはならない
侵入したスカーレットは急いで、しかし音を一切立てることなくドアを閉めて施錠する
そして常に気配を探りつつ身を低くしながら移動を開始、特に何事もなく武器の保管庫へ辿り着いた
ここにもロックはかけられているが先の通り問題ない
保管庫内へ侵入したスカーレットはとある区画へ歩を進め、そこに陳列されているガンロッカーから1挺のライフルを取り出した
AR-15クローンモデルの1つ、SR-47…SOCOMの要請を受けてナイツ・アーマメント社が開発した7.62×39mm弾を使用するAR-15という何とも奇妙なクローンモデルである
最大の特徴はAK47、及びAKMのマガジンがそのまま使える点だろう
流石にマニアックすぎてIOP社も戦術人形の烙印としての使用を検討していない…否、存在すら知らないであろうこのモデルがどうしてこんな所にあるのか
それは単にスカーレットの趣味である
アメリカの特殊部隊にいた関係で1度だけこの銃を使ったことがあるのだが、その時に「これ面白いな」と思ったのを思い出して当時の記憶や記録を元にクレアとイーサンに作ってもらったのだ
しかし今スカーレットの手元にあるこの銃に装填されているのは本物の銃弾ではなく、超強力な鎮静剤入りのダーツ弾…早い話が麻酔弾である
ダミーならともかく流石に本体へ向けて実弾を仲間同士で撃ち合う訳にもいないため、この保管庫にあるのは全て麻酔弾かゴム弾、ビーンバック弾となっている
スカーレットが麻酔弾を選んだのは単にこれが一番手っ取り早く相手を鎮圧出来るからだ
この基地で独自に開発したこの麻酔弾はとにかく即効性に拘った造りになっており、刺さってから1秒足らずで対象を眠らせることが可能となっている
因みに後遺症はないが目覚めるまでに通常3時間ほどかかり、人形にも効果はあるが効果時間が30分ほどとある程度軽減される
とは言え30分でも十分すぎるので問題視はされていない
スカーレットは手に取ったSR-47の作動を確かめ、マガジンを差してチャージングハンドルを一番後ろまで引いて戻す
その後少しだけチャージングハンドルを引いて排莢口から中を覗いて弾がきちんと装填されているかの確認、所謂プレスチェックを行うとセーフティがかかっていることを確認して予備マガジンを4本取ってコートの内側に作られたマガジンポーチへと挿入する
もしもの為にと作っておいたものだがまさかこんな形で活躍することになるとは思っておらず、思わず笑いそうになるスカーレットだがすぐに意識を切り替えて次の得物を取りに行く
そうして来たのはHGのスペース、一帯をざっくりと見た彼女はその中から1つ手に取る
手の中にあるのはspringfield XDm…スプリングフィールド造兵廠がクロアチアのHS2000を元に開発したショートリコイル式セミオートハンドガンだ
これも使用するのは麻酔弾、しかしライフル用より比較的小さいため効果時間はさらに短くなる…まぁこれも問題はない、起きるまでに事を終わらせれば良いだけなのだから
これも同様に作動確認、装填、プレスチェックを終わらせると予備マガジンを3本取り今度は腰のベルトに作られた簡易マガジンポーチに装着する
ズレて落ちないかを確認すると最後にこれまでの確認作業をもう1度繰り返す
そして完全に問題がないことを確認するとスカーレットはこの訓練棟を後にする、その顔に子供が見たら100%泣きだすレベルの獰猛な笑みを浮かべながら…
「しっきかっんっはどっこかにゃあ~?」
「ちょっと、煩いわよIDW!騒ぐと先に捕捉されちゃうじゃない!!」
「そうは言っても私達に指揮官を見付けられるのかにゃ?ならさっさと見付けてもらって襲ってきたところを返り討ちにする方がまだ可能性はあるのにゃ」
「…意外と考えてるのね、貴女。確かにそれはあるかもしれないわ、でも…」
「問題なのは不意打ちを仕掛けてくる指揮官を返り討ちに出来るヴィジョンが見えないってところよにゃあ…」
IDWとP7は警戒しながらも何処か陽気な雰囲気でスカーレットを探していた
彼女達はスカーレットの課す試験を突破出来ていない、故に自分達に指揮官を見付けることは出来ないから逆に見付けてもらおうと決めたようだ
とは言え奇襲されたら彼女達に撃退する術はほぼない
スカーレットはあれでも隠密特殊部隊が最終経歴だ、不意打ちや騙し討ちなどは大の得意だ
それでも他に方法がないので仕方なく、いや最早素でIDWが大声を上げながら歩いていると
「随分楽しそうだなぁ、IDW。ご要望にお応えして出て来てやったぜ?」
彼女達の後ろから大胆不敵にも素直に姿を現したスカーレットの声が掛かる
瞬間、IDWは弾かれる様に振り返るとそのまま突進した
「作戦成功にゃー!指揮官を捕まえて明日一日中遊んでもらうのにゃあー!!」
「そいつは随分と楽しめそうで結構だ…でもそう易々と叶えてやんねえよ!!」
「ぶにゃっ!」
「ちょっ!?IDWのバカアァァァァァァ!!!」
飛び掛かってきたIDWに対してスカーレットは軽く跳躍して顔面を踏みつけるとそのまま踏み台にして加速してP7に突撃する
突然の攻撃に慌てて銃を構えるも撃つ前にスカーレットの左手が銃口を抑えてスライドを少し後退させる
こうすると殆どのハンドガンは撃てなくなってしまい、P7はトリガーを引こうとしても引けないことに焦ってグリップの握りが甘いのかと思って意識がグリップに向かってしまう
その一瞬の隙を見逃すスカーレットではない、右手に持っていたXDmを首筋に押し付けてトリガーを引いた
「うっ…!そ、それってまさか…」
「こいつなら態々お前達を破壊しなくても済むからな…暫く眠ってろ」
急速に落ちていく意識に抵抗しようとするも、最初から抗えないように造られている麻酔のため無駄な努力だ
もし本気で抗うつもりならナイフで足を抉るなりしなければ無理だろう、余りにも急に重くなっていく身体と沈んでいく意識の中でP7はその機転を利かせることが出来なかった
崩れゆくその身体を抱えて床との激突を止めると優しく下ろすスカーレット
試験を突破した者には更に厳しくすることで能力の限界突破を図る彼女だが、そうでない者には必要以上に厳しいことはせず比較的優しい一面もある
そうしてP7の身体を横たえたスカーレットは振り返り、未だ悶絶しているIDWを見据えてXDmを構える
「いつまでもそうしてるのも辛いだろ、さっさと楽にしてやる」
「その台詞、吐かれる方、は…こんなにも怖いものなんだにゃあ…」
まるで最期の言葉のように聞こえるそれを聞き届けたスカーレットはトリガーを引く
銃口から飛び出た麻酔弾がIDWの首に刺さ…らなかった
何処からか飛んできたゴム弾が麻酔弾を弾き飛ばしたのだ
「ひゅぅ~!今のはかなり刺激的だねぇ」
「今度はお前か、PA-15」
「良いから早く楽にしてくれにゃあ……頭が痛くて割れそうにゃ」
「とのことだ、次は邪魔するなよPA-15」
「りょーかい、それが終わったら刺激的な戦いを頼むよ~?」
「刺激くらい幾らでも与えてやるよっと」
今度は防がれることなく麻酔弾がIDWの首に刺さり、眠りに落ちるIDW
すやすやと眠るその顔はこんな時だと言うのにとても良い寝顔で身体を丸めて寝る様は正しく猫であった
それを確認したPA-15はにんまりと微笑むと
「もう待てないよ指揮官…さぁ、私に刺激を与えておくれ!!」
「1人で挑むたぁいい度胸だ…良いだろう、本当の刺激的な戦いって奴を味合わせてやらぁ!!!」
PA-15、彼女は刺激を求める人形
その性格と本人の実力、努力を以てしてスカーレットの試験を突破した1人だ
どんな厳しい試験や任務でも「刺激があって良いじゃない!」の一言で乗り切るその性質はこの基地と相性が良かったのかもしれない
そんな彼女は今、指揮官と逃げ場のない廊下で一対一でやりあうという彼女的には最も刺激を味わえる戦いを堪能する
所変わって食堂、そこには3人の人形の姿があった
「なるほど…それでボクを探していたんだね」
「ええ…余りにも唐突過ぎてどうしていいのか、流石に分からないのよ」
「そ、そうですよ…訓練はとっても厳しいですけど色々と自由で居心地の良い基地ですが、これはちょっと…」
困惑しきった様子のモシン・ナガンとFN49、その2人に相談されているM200である
M200はふむ、と顎に手を当てて少し考えると2人に向き直って
「なら、見学してみる?」
「「見学?」」
「うん、見学。実はこの作戦が発令された後、ミレニアム8の面々が何か話しててね…それを偶々聞いたんだけど、彼女達は1度ばらけて行動してから1か所に集まって指揮官をそこに追い込んで仕留めるみたいなんだ」
「…でもそれって、指揮官がそこに来なきゃ意味ないじゃない?」
「勿論そうだよ。だからこれは彼女達だけじゃなくて他にも協力している人形もいるよ」
「それは良いのですけれど…見学と言うのは?」
「だから彼女達が指揮官と戦う所を見てみないかいってことだよ。クレアさんはいないけど、ミレニアム8が互いに戦う所なんて中々見れるものじゃないしね」
「なるほどそういうこと…それは良い経験になりそうね」
M200の提案を聞いて納得するモシン・ナガンだが、その顔は結構呆れ気味であった
それもそうだろう、何処にここまで本気になって指揮官を捕らえる作戦を立てる基地があるというのか(ここにある)
FN49も一応の納得はしてその提案を聞き入れると3人はミレニアム8が待ち構える第五狙撃訓練場へと向かう
「ぐ、くぅ…やっぱり強いね、指揮官は。とっても刺激的で最高だよ」
「ハッ!てめぇも中々に粘ってくれるじゃねえか…久々に火が付いちまったぜ」
PA-15とスカーレットの戦いは熾烈を極めていた
PA-15は総合的な実力こそMK.23やM1895に劣るが、2人と比べて圧倒的に勝る部分がある
それは、『耐久力』
彼女はいくら攻撃を受けてもそれを刺激的なものとして受け止め、攻撃性が増して寧ろ動きが良くなる
ある意味戦場に於いては致命的とも言えるスロースターターだが、今この場を含めた特殊な状況下ではこれ以上にないほど厄介な特性である
その特性が故に今スカーレットは珍しく苦戦していた
麻酔弾を撃ち込んでもそれはゴム弾で弾かれたり避けられる、更にピンチになるや否やスキルを用いてスカーレットに眩暈を起こすと同時にゴム弾を撃ち込んでくる
それでも倒れることなく瞬時に回復して打撃を与えて来るスカーレットの方が恐ろしいかもしれないが…
「指揮官に火を付けた、か…これは誇ってもいいのかな?」
「あぁ、存分に誇れ。私をここまで追い込む奴ぁ少ねえからな。この基地で言やぁミレニアム8以外だとサブリナと一〇〇式くらいしかいねぇ」
「おやおや、それは嬉しいねぇ…さて、指揮官」
「ああ…決着を付けるか」
両者共々その顔に笑みを湛えて構える…犬歯が剥き出しになった獰猛極まりない笑みだが
その後合図も何もないにも関わらず同時に動いた
互いに突進しながらまずはPA-15がゴム弾を放つ
その弾は正確無比にスカーレットの額へと迫るが、彼女はそれを避ける素振りも見せずにわざと当たる
そのまま速度を落とすことなく両腕を振り上げ、全力で飛び膝蹴り放つ
顎を狙って繰り出されたその膝を位置的に避けることが叶わないと判断したPA-15はスキルを使用し、両手で受け止める
銃は仕方なく手放したが問題はない、このまま怯んだスカーレットの鳩尾に貫手を放とうして……直後、後頭部に走る強烈な衝撃によって視界に火花が散って身体が前のめりに倒れそうになる
スカーレットは視界を完全に奪われてはいたが、自分の膝とPA-15の手、そして僅かに漏れた声から彼女の頭の位置を正確に掴んで振り上げていた両腕を振り下ろして両肘で後頭部へ打撃を加えたのだ
人間に放てば頭蓋を粉砕し、脳を圧し潰すほどの威力によって流石にPA-15も刺激的だねなんて言えずに怯む
その僅かな隙を突いて止められていた膝に再度力を加えて顎を打ち抜くと、そこから更に足を延ばして連続で顎へ蹴りを入れる
「アガッ…!」
完全に決め手を入れられたPA-15だが、すぐに意識を戻してかち上げられた頭を正面に戻してスカーレットを見据える
しかしそこにはスカーレットの姿は既になく、疑問に思う間もなくうなじに銃口が押し付けられる感触がした
「ハハハ…とっても、刺激的だったよ指揮官」
直後、小さな銃声と共にPA-15の身体は完全に倒れた
スカーレットは倒れた彼女の手に半身ともいえる銃を握らせてやるとそのまま一瞬でその場から姿を消す
PA-15を撃破したスカーレットはその後も様々な人形達を眠らせながら進み、狙撃棟へと向かっていた
流石にあの戦闘で多少なりとも消耗した彼女は遮蔽物や身を隠す場所の多いそこで回復を図ると同時に狙撃麻酔銃を入手して向かってくる人形達を返り討ちにしようと考えたのだ
しかしその狙撃棟唯一の出入り口となる場所に厄介な相手が堂々と立っていた
(AK-12とAN-94か…あいつらのことだ、私の考えを読んだんだろうな。だがそこに立ってるってことは中に誰かが待ち構えてる可能性は少し低い…ないわけじゃなえが今は少しでも安全な方を選ぶべきだな)
AK-12とAN-94はスカーレットの試験を突破した中でも連携能力が異常に高いコンビだ
この2人を真正面から相手にするのは骨が折れる、奇襲一択だろう
しかし…
「ん…これは近くにいるわね。警戒しときなさい、AN-94」
「了解」
早速バレた
気配は完全に消しているし、とある理由から戦術人形のセンサーも回避出来るスカーレットが姿を一切見せていないのに存在を察知出来るのはAK-12以外にはいない
これにはスカーレットも驚いて以前何故分かるのか聞いたことがあり、その時の答えは
『いくら気配を消してセンサーも回避した所で身体がそこにあることに変わりはないでしょ?そしたら空気の動きに変化が生じるのよ。だったらそこから計算して位置を割り出せばいいじゃない』
とのこと
気配を探ったり音を拾ったりして索敵する方法は教えたが、AK-12はそこから更に独自に空気の変化を感じ取る技量を会得したのだ
風の動きの変化を読むことはスカーレットにも出来るが、流石に無風状態では出来ない
これを聞いた時のスカーレットの心境は
『まるで師匠みたいなことしやがって…』
であった
自分が規格外であることは認識しているが、そんな自分を遥かに飛び越えて来る人外の師匠を思い出して思わず苦い顔になったのは懐かしい記憶だ
それはともかく、まだ位置までは割り出せていない様子なので少し離れてから考える
今後のことを考えればあの場所への侵入は優先的に行いたい
だがあの2人を相手にしなければならないし奇襲も成功するかどうかは分からない
さっきのPA-15は刺激を求める為なのかダミーを使わずに来たからなんとかなったが、2人はきっちりダミーをフルで揃えている
しかも誰が本体か分からないよう攪乱しながら戦ってくるだろうから本体のみの撃破も厳しい、やるなら全員倒すつもりでいかなければならない
だが…
(このままここに隠れてても見付かるのは時間の問題だな。だったら腹括ってやるしかねぇ。状況はこっちに不利…ハッ、燃えるじゃねえか。やってやらぁ)
2人の撃破を決めたスカーレットは呼吸を整え、行動を開始した
1つふと思ったことがあるんですけど…1度だけ思いっきりリアルに狙撃を描いてみようかなぁ、と
弾道がずれる要素全部詰め込んでそれを修正するために計算したりする様子とか含めて全部描写して…書くのもしんどければ読むのもしんどいと思うけど1度やってみたいなぁとは思います
でも皆がそんなの求めてるのか分からないので…アンケートにします
これを見たいか見たくないか、お答えいただければ幸いです