S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
でもヘーネルのMK556も格好良いなぁ…ドルフロに実装されないかなぁ
…まぁこの件に関しては色々と思うことはありますが、敢えて一言いうなら世界が変わって来てるなぁ…ってことですかね
「んでボス、あの膜みたいなのは結局何だったんだ?」
ここは医務室
あの後意識を失ったスカーレットは当然ながら他にも彼女の攻撃で被害を受けた戦術人形達が何人かいるが、スカーレットだけは最奥に存在する特別治療室に入れられたため他の患者達は周囲にいない
しかしそこにいるのはスカーレットだけではなく医務室の責任者であるDP28、WA2000を除いたミレニアム8の面々がいた
WA2000は結局の所今のスカーレットは絶対安静を言い渡されてしまった為に1人で書類等を片付けなくてはいけなくなってしまったのだ
それを不憫に思ったのと責任の一端は自分にあるとしてジェリコが手伝っているためそこまで時間もかからずに終わるであろうが…
それはともかく今は意識を取り戻し、取り敢えずの治療が終わったスカーレットにトンプソンがあの‘何か’が何であるのかを聞いているところだ
「ああ、あいつか…お前達に言っても仕方ないかもしれねえが、あれはエーテルだ」
「エーテル?エーテルって私達の基地で通信とかに使ってるあれ?」
「そうだ。実はあれってただ単に通信の為だけに使うものじゃねえんだ。応用すりゃあ色々と出来る」
エーテル
それはこの基地で主に通信に使用されているもの
その正体は月で生成され、無限に地球に降り注ぐ『どんなものにでも成る』という性質を持った素粒子だ
かつては世界中で通信の為に使われていたのだがエーテルの持つ危険性が一般にも知られることとなり軍事利用されそうになったことで規制がかかった
それによってエーテルを扱えるのは『マザークラスタ』と『アースガイド』と呼ばれる組織のみとなり、この両組織も先のWW3で壊滅した為にエーテルの存在はこの世界からは忘れ去られてしまった
当然スカーレットがそんなものを知っているわけもなかったのだが師匠に当たる人物からその存在を教えられ、更にはその扱い方も仕込まれた
だからこそこの基地ではエーテルを用いているし、このエーテルこそがこの基地の情報が外に決して漏れることがない要因でもある
この基地におけるネットワークは今現在この世界で使われているものと繋がってこそいるものの電子ではなくエーテルを用いているせいで普通の方法ではその存在を感知することすら出来ない
それはそうだろう、そもそもエーテルを自由自在に扱えるのはこの基地のみであり通常の物とは異なる素粒子を使用しているのだから
しかしそれだけだと困るので通常の電子を使ったネットワークも執務室など一部には存在しており本部や基地間との通信に用いられている
と、ここまで聞いただけでもエーテルの利便性は途轍もないものであることが分かるがこれだけではない
まずこの基地の人形達は通信にエーテルを使用しているので通常のジャミング装置ではそれを妨害することは出来ない
エーテル通信を妨害したければエーテルを使う以外に手はないのだ
そしてエーテルの最も優秀で、それでいて危険なもの…それが『具現能力』
エーテルは先ほどもいったように何にでも成れる性質を持っている
しかしだからと言って誰にでも出来るわけでもなければ自由自在にどんなものでも生み出せる便利なものではない
生成出来るものには制約があり、それに基づくものしか作れない
エーテルは人の『想い』に反応し、その想いの中でも強いものを具現させる能力を持つ
この具現能力を自分の意志で使える者は限られており、今現在確認出来る中ではスカーレットとクレアの2名のみだ
そしてスカーレットはこの具現能力を使ってエーテルを身体中に纏うことで防御壁を展開していたのである
これはエーテルの具現能力の中でもかなり汎用的な使用方法であり、エーテルを扱う才能さえあれば誰にでも出来る
他にもエーテルを使用した索敵なども可能だ
そしてエーテルを使った具現能力に於いて才能に長け、厳しい訓練を乗り越えた者にのみ扱える『具現武装』と呼ばれるものも存在する
これは自分の強い想いを元に特殊な武具を生成するもので、これで生成したものは通常のものとは比類無き力を発揮することが可能だ
ここまでの説明を聞いた人形達の反応は様々だが、共通して思うことはある
「それで、何故指揮官はこのことを隠していたのだ?」
そう、何故ミレニアム8達にすらこのエーテルの具現能力を隠していたのか
彼女達にならば明かしても良いのではないか、というのだ
それに対するスカーレットの答えは
「簡単な話だ。まずエーテルの存在が漏れる可能性を極力無くすためってのが1つ。2つ目にそもそもお前ら自立人形にエーテルの具現能力を扱えるのかどうか、使用した場合の安全性とか諸々が分からないってことだ。これを確かめようものならお前らで実験しなきゃならん、私がそういうことをさせたがると思うか?」
「…思えないわね。指揮官はなんだかんだ言って私達のこと気遣ってくれるもの」
スカーレットは敵に対しては一切の容赦がないし尋問という名の拷問も平然として行ったりするが、味方に対しては基本的に優しい
そのためバックアップから復元できるとは言え人形達で実験するのは気が引けて今までこのことを話していなかったのだ
「なんつ~か、ボスらしいっちゃらしいけどよ」
「そうですね…ですが情報の共有はしていただかないと困ります」
「それに関しちゃ済まねえ。さ、聞きたいことはそれだけか?」
「私はありません。皆さんは?」
「私も特にないな」
「あたしもねえぜ」
「ないわね~」
「私もないわ、今の指揮官の説明で十分よ」
「よし、なら今日は臨時休業にすっからその旨を皆に伝えて来てくれ。流石に今の状態で訓練に励むのは無理だろうからな」
要件が終わったことを確認するとスカーレットは今日の予定を崩すことを決定し、それを伝えることを頼む
皆もそれを了承し、医務室を出て行った
そんなミレニアム8とすれ違うようにM1895が入室してきた
彼女もスカーレットの攻撃を受けてはいたもののそこまでの負傷ではなかった為マガルに軽く治療されただけで回復している
「どうじゃ、身体の調子は」
「特に問題はねえな、正直このまま鉄血共をぶっ飛ばしに行っても良いくらいだ」
「あらぁ、それは聞き逃しならないわねぇ~。そんな悪い子にはこのお注射をしなきゃいけないかしらねぇ」
「分かった私が悪かっただからおい待てやめろ、それ絶対真面な注射じゃねえだろ」
スカーレットの言葉にDP28がなんのアニメグッズだそれはと言うほどにデカすぎる注射を取り出して刺す素振りを見せた
その中にはたっぷりと何かの薬品が入っており、毒々しい紫色をしていた
流石にスカーレットの顔が引きつり逃げようとする
しかしその身体は頑丈なゴムベルトでベッドに拘束されているため身じろぎする程度しか出来ない
ゆっくりと、しかし確実に近付いてくるその注射にスカーレットの顔が青ざめる
「怖がらせるのもそこまでにしておかんか。このままではワシの話が出来ん」
「貴女にそう言われちゃ仕方ないわねぇ…残念だわぁ」
「神様仏様ナガン様、お話とはなんでございましょうか」
「ええい、お主も悪ノリするでない!話が進まんじゃろうが!!」
M1895の突っ込みに笑うスカーレットとDP28
その様子に揶揄われたかと思うM1895だがそこに突っ込みを入れると話が進まないのでさっさと要件に入ることにした
「まったくお主らは…まぁ良い、ワシが来たのは例の犯罪組織を潰す算段が付いたことを報告するためじゃ」
「要するに会議の内容が纏まりましたってことだな。あの状態で良く会議出来たもんだ」
「会議自体は既に終わっておったからな。報告しようとした矢先に事が起こったからどうしたものかと思ったぞ」
「そいつは…済まん」
「もう終わったことじゃ、気にしておらんし良い経験になったのじゃ」
阿々と笑うM1895にそりゃ良かったと安堵するスカーレット
ここでDP28がいるのに諜報部隊の話をしても良いのかと思われそうだが彼女も諜報部隊の一員なので問題はない
「んで、どうやって潰すつもりだ?」
「簡単に言えば警備の薄くなる時間帯に潜入、そこから各個撃破して頭を捕らえる。その後基地に連れてきて尋問するつもりじゃ」
「単純明快だな。尋問するときゃ呼べ」
「端からそのつもりじゃよ。その時は任せたぞ」
「おう!」
そんな明るく話す内容じゃないと思うのだけれど、とDP28は思うが口にはしない
彼女もスカーレットの尋問という名の拷問は何度も見ていて慣れている、今更な話なのだ
そしてそんな明るい雰囲気から一変してM1895の顔が真面目なものになる
それを受けて2人の顔も一気に変わった
「して、ここからは不正確な情報なのじゃが…どうやらあの組織、グリフィンのとある指揮官に繋がっておるらしい。それもかなりの大物のようじゃ」
「ああ?ちっ…んで、どいつだ?」
M1895がスカーレットに繋がっていると思われる指揮官の名を耳打ちするとスカーレットは溜息を吐いた
「まったくあの野郎…しょうがねえ奴だな」
「じゃが先ほども言った通り不正確なものじゃ。だから尋問の際にはせめてこの情報だけは喋れる程度に抑えるのじゃぞ」
「分かってらぁ、私が加減を間違えたことなんてねえだろ」
「それは知っておるが…端から見てる方は結構心配になるのじゃよ、やりすぎて情報を引き出せないのではないかとな」
取り敢えず話はそれで終わりじゃ、とM1895は言い残して医務室を去っていった
残されたスカーレットはベッドに倒れこむと思考を巡らせる
先程M1895から告げられた名前は本当に大物の名であった
スカーレットは一応指揮官として最前線で鉄血を屠っているが、グリフィンの指揮官の中でも最高位の1人であり『S地区総隊司令官』という肩書を持っている
大層な肩書ではあるがあまり意味はなく、要するにS地区の責任者となって3ヶ月に1度の会議に参加しろというだけのものだ
この位にはスカーレット以外にも何人かいるのだが今しがた聞いたのはその内の1人の名だ
聞きだした情報次第ではそいつを抹殺しなければならないのだがその人物も他の地区を纏める総大将のような者、基地内に居る時に暗殺するのは少々骨が折れるだろう
となれば最低限の護衛しかつけない次の定例会議の際に殺すのが楽だ
しかしその為には当然だがクルーガーの許可が必要となるので前もって情報を渡さなければならない
ちっとばかし面倒だなぁ、とごちるスカーレットだが取り敢えず面倒臭いことは後に考えるかと目を閉じて寝る
医務室を後にしたM1895は自室へ戻るとベッドの下に潜ってカーペットの一部を剥がし、そこにある液晶パネルに掌を付ける
すると認証を完了した電子音がなった後床が下に開き、M1895の身体が下へと落ちた
帽子を抑えながら自由落下するM1895はそろそろかと呟くと空中で体勢を整えて床に着地した
それからしばらく廊下のような道を歩いて扉を開くとそこには秘密作戦室と呼ばれる部屋があり、そこに諜報部隊のメンバーが既に待っていた
諜報部隊が動く度に全員が動くわけにもいかない為今ここにいるのも一部のメンバーだ
軽く見渡すとPPK、Px4ストーム、IDW、UMP姉妹、KS-23、RMB-93、そしてMDRがいる
今回は建物内での隠密殲滅作戦になるためMGはまずいないしARもMDRしか来ていない
SG達にもこの基地で改良に改良を重ねたSalvoサプレッサーの装着をさせなければいけない
「今回の任務は知っての通り以前から目を付けておった犯罪組織の壊滅じゃ。本拠地にいるものは当然として各地の拠点に存在する者も1人たりとて逃がすな、頭以外は全員殺せ…出来るな?」
「当然ですわ、私達を誰と心得てますの?」
「マスターにあれだけ扱かれたからね。その程度出来なきゃここの諜報部隊はやっていけないよ」
「良い返事じゃ、それでは今から各員が何処の拠点へと行くかを通達してゆくぞ」
メンバーの返事に頷いたM1895は担当を割り振ってからそれぞれにその拠点のマップデータを渡して細かいことを決めさせる
それが終わると全員を最初の位置へ座らせて締めを行う
「作戦の決行は今夜じゃ。あの指揮官のことじゃから明日にもなれば元気になっとるじゃろうしな」
「治療中の指揮官が勝手に来ないようにってことね、了解よ」
「でも指揮官だとそれすらも察して抜け出して来そうだよね」
「そうなったらそうなったで罰としてDP28に特性注射をさせればいいのにゃ」
「要するに、細かいことは気にせず全員ぶっ殺しゃいいんだろ?」
「そんな単純な話ではないのだけれど~。ま、貴女にはそれがお似合いかもね」
「あ?どういう意味だこら」
「品がなくて野蛮ってことよ」
「ああん?てめぇ…」
「そこまでじゃ!作戦前にじゃれるのは止さぬか」
RMB-93とKS-23の言い合い、もといじゃれ合いはM1895の一声で止められその場は解散となった
そして時間は過ぎて深夜、それぞれ担当する犯罪組織の拠点へと到着した彼女達は作戦を開始する
それが終わる頃にはこの建物は死体しか残らず、死臭の漂う死のビルへと変貌するであろう
前々回にて噛ませ犬ならぬ噛ませ猫だったIDWですが実は諜報部隊の一員で自身の実力を隠していただけでした
そして遂に始まるこのSSでの初めての事件ですね
次回、諜報部隊が無双して犯罪組織は血の海に沈んで頭は連れ去られてスカーレットの尋問に曝されます