S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
記念すべき第一回目はこの基地の特殊な人形である一〇〇式、今日は彼女の私生活を覗いて見ましょう
S09地区に存在する基地の1つ、スカーレット指揮官が務めるこの基地は本社から『Hydrophobia』基地…狂犬病基地と呼ばれている
そう言われるのはこの基地と敵対した者は何であろうと殲滅されてきたことに起因する
グリフィンに所属している都合上主に鉄血を葬っていくのだがそれ以外にも様々な犯罪組織を壊滅させ、その構成員を一人残らず殺してきた
流石に鉄血ともなれば膨大な数がいるので未だ殲滅には至っていないがそれでも一度拠点へと攻めればそこにいる鉄血は全滅、街などに攻撃を仕掛けてきた場合も事前に察知して人々に被害を出すことなく鉄血のみを殲滅する
この基地に襲われて生き残った者はただの1人も存在しない、だからこそ致死率がほぼ100%の狂犬病と呼ばれているのだ
これは日々とち狂った訓練にその身を投じ、常に切磋琢磨を続けているからこそなせることである
その為この基地は多種多様な訓練施設を有しているのだがその所為で基地の規模がとんでもないことになってしまっている
巨大都市数個分に匹敵する敷地面積を誇りながらその8割を訓練設備が占めているのだ
その為ここには本部よりもずっと充実した訓練をすることが可能であり、本部を通して申請をすれば他の基地の者でも限定的ながらその訓練設備を使用することが可能となっている
また相手が望むのであればスカーレット本人が訓練を施すこともある
そんなことをしている所為なのか一部では『訓練馬鹿な基地』と言われることも
それだけ訓練設備にお金も吸われているわけだが、だからこそこの基地には独特過ぎる訓練室というのも存在している
その1つにこの基地の一〇〇式が使用し、殆ど彼女専用の部屋となっている通称『一〇〇式道場』と呼ばれている畳と木のフローリングの床、それと襖等々完全な日本の剣道場がある
掛け軸や刀掛けなどもあってかなり本格的に造られているのが分かる
この部屋の主は当然一〇〇式、彼女以外に刀を扱う者がいないため一抹の寂しさを感じながらも今日もここで彼女は訓練に励む
マインドマップと烙印に重大なバグを抱えて銃を扱えない戦術人形、故にその手に持つ刃で鉄血を斬り裂く剣士…今日はそんな一〇〇式の1日を見ていこう
「んぅ…」
スカーレット達が犯罪組織を壊滅させて戻って来た日の朝、一〇〇式は早朝に目を覚ますとまず身体を起こして思いっきり伸びをする
「んんーーーっはぁ…」
そうして暫くポケーっとして頭が冴えるのを待つ
次第に頭が冴えてきた一〇〇式は布団から出て畳み始める
彼女の部屋は完全な和室であるので寝ているのもベッドではなく布団である
そのまま畳んだ布団を押し入れに仕舞うと次に着替え始める
寝巻として着ている襦袢を脱いでいつもの巫女服を身に纏っていく
最後に袴の帯をキュッと締めた一〇〇式は「よしっ!」と呟くと襦袢を箪笥に仕舞って朝食を食べる為に食堂へと向かう
「お、一〇〇式先輩じゃん!これから朝食か?」
「タウルスさん、おはようございます。仰る通りこれから朝ごはんを食べに行くところです、良ければご一緒にどうですか?」
「元よりそのつもりで声をかけたんだ、是非一緒に行こう!」
「はい、では」
廊下を歩いている時にMT-9に声を掛けられ、朝食を一緒にすることにした一〇〇式は彼女と談笑をしながら食堂へと歩く
やがて食堂に着いた2人はかなりの量用意されている朝食メニューの中から自分が食べる分だけを取って席に向かう
その途中スカーレットとSPAS-12が本当に食べられるのかと言いたくなるほど山盛りの朝食をガツガツと食べている光景を目にするが、いつものことなので特に反応することなく空いている席に着く
一〇〇式は手を合わせて食前の儀式をしてからパンに手を伸ばす
MT-9も同じようにするが彼女は元々こういったことをする人形ではなかった
一〇〇式が行っているのを見てそれは何かと聞いたところ日本の文化ですよとその行為の意味などを教えてもらってから彼女もやるようになっていた
一〇〇式とMT-9はそれからも談笑しながら朝食を食べ進めていく
「そうだ一〇〇式先輩、今日の午後特訓の相手をお願いしても良いか?」
「今日の午後は…問題ありませんね、良いですよ」
「やりぃ!ありがとう!!」
MT-9は目を輝かせて一〇〇式に御礼を言い、その様子に一〇〇式も微笑む
MT-9は一〇〇式のことを先輩と呼び慕い、銃撃よりも格闘に力を入れて訓練している人形だ
それには彼女がどのようにしてこの基地に来たのかが関係している
このMT-9は元々この基地ではなく他の基地に所属していたのだが鉄血との交戦の末に仲間と離れてしまい、更に運の悪いことに通信機能が壊れてしまったが為に救難信号も出せずMIAとなってしまった
それから何とか鉄血から逃れたのは良いものの、人形密売組織に発見されて連れ去られることを覚悟していた
しかしそこで所属していた基地からの要請を受けて捜索していたこの基地の一〇〇式によってその現場を発見され、救助された
その時に銃ではなく手に持った刀で密売組織の面々を容易く斬り捨て、時には銃弾すら弾いてみせる一〇〇式に憧れた彼女はこの基地に…より正確にはこの一〇〇式の元で戦いたいと強い要望を出してそれが認められ、ここへやってきたのだ
とは言え流石に一〇〇式が使っている刀は相当に貴重なもので量産出来るようなものではない上に、試しに木刀を持たせてみたが全然扱えなかった為に泣く泣く剣術を習うのは諦めた
その代わりにスカーレットによってカランビットナイフを用いたシラットを教えてもらい、着々と力を付けていった
この基地ではかなり珍しいシラットを使うことの出来る人形でありそれなりに強くはあるのだが、未だスカーレットの試験を突破することは出来ていない
それでもめげることなく「一〇〇式先輩と戦場で共に戦うんだ!!」と只管に努力を重ねる姿を一〇〇式は認めており、一〇〇式も一緒に戦いたいという想いから彼女に訓練をつけることがよくある
「それじゃあ先輩、昼飯の後に行くぜ!」
「はい、お待ちしていますよタウルスさん」
それから朝食を食べ終えた一〇〇式達は一度別れ、一〇〇式は道場へ向かう
襖を開けて中に入ると真っ先に一番奥にある刀掛けへ向かって歩いていく
そしてそこに掛けられている一振りの刀を手にする
その瞬間一〇〇式の纏う雰囲気が女の子から修羅へと変わる
眼付きも鋭くなり別人と錯覚するほどだ
それからこの彼女は腰に刀を差してから道場の端に設置してある箪笥へと赴き、上から二段目を開けると中から桐の小箱を取り出した
箪笥を閉めた彼女はその後道場の真ん中まで歩いてそこで刀を腰から抜いてから正座する
「今日もよろしくお願いします、『桜花丸』」
そう声を発した一〇〇式は自身の愛刀を鞘から抜いて床に敷いた布の上に置く
そして桐の小箱を開けると中から整備道具を取り出して愛刀『桜花丸』の整備をしていく
とは言え毎日のように整備しているのでそこまでやることはない、打ち粉や刀油は頻繁に塗ると逆に良くないのだ
しっかりと桜花丸の調子を確認した彼女は整備を終わりにして分解した時と逆の順序で組み上げていく
最後に柄巻をしっかりと巻くと確認がてら数度振る
キチンと出来ていることを確認出来た一〇〇式はその後修行を始める
自身の持つ技を一つ一つゆっくりと動作確認をしてそれから素早く放っていく
彼女の技は『一〇〇式が持つ一〇〇の秘技』と言われておりその名の通り相当な数の技を持つ
中でも『百花繚乱』、『十二段突き』、一閃の強化版である『桜花一閃』、『朧月夜』などが強力な技として認識されている
十二段突きは‘今現在’十二段なだけであって修行を続ける内にどんどんと数を増やしていくし、百花繚乱はシンプルに恐ろしい
桜花一閃は神速の抜刀術で例え刃に触れていなくとも極小規模の鎌鼬を発生させて相手を斬り裂くので対象の硬度など関係ないし、朧月夜は流水のように捉えどころのない動きで相手を翻弄する
これらの技はスカーレットでも対応が難しく、技を出す前に仕留めたり彼女以上に素早い動きで翻弄するなど本気を出さなければ勝てないほどだ
それだけ強い一〇〇式が常に修行に励み更に技を昇華させていく姿はこの基地の面々に良い影響を与えており、触発された他の人形も自ら厳しい訓練に励む切っ掛けになったりしている
更に近接戦闘の訓練がしたい人形が時折彼女に相手をお願いすることもある
そうして戦力的にもそれ以外でもこの基地にとってかなり重要な存在である一〇〇式は今日も修行を怠らない
そうして数時間ほど技の確認をした一〇〇式は道場の中に用意された座敷へと移動すると予め用意しておいた握り飯を食べる
この時は刀を鞘ごと腰から抜いているのでホクホク笑顔で美味しそうに握り飯を食べている
それから暫く休憩していると襖が開かれ、MT-9が礼ををしてから入って来た
「ようこそ、タウルスさん。早速始めますか?」
「ああ、お願いするよ一〇〇式先輩」
MT-9の返事を聞いた一〇〇式は一度桜花丸を刀掛けに置くと木刀を手にする
それに対してMT-9はカランビットナイフを右手に持って背を屈める
暫く睨み合っていた両者だが、先に動いたのはMT-9であった
一〇〇式に向かってかなりの速度で突進してナイフを振るう
しかし一〇〇式はそれを容易く往なす
若干体勢を崩すMT-9だがすぐに立て直すとそのまま走り抜けて一〇〇式の周囲を周り始める
それに対して一〇〇式は目を閉じて視覚以外の五感を高めて備える
そしてMT-9が完全な死角から攻撃を仕掛けるもそれは看破した一〇〇式に防がれた上に腹部に木刀が叩き込まれ、そのまま振り抜くようにMT-9の身体を吹き飛ばした
柱に叩きつけられて息が詰まるMT-9だが目はしっかりと一〇〇式を捉えている
彼女の視界の先には木刀を正眼に構えて最初の位置から殆ど動いていない一〇〇式の姿が映る
一〇〇式は普段の快活で丁寧な言葉遣いからは想像も出来ないほど恐ろしいオーラを身に纏っていて思わず恐怖心が出てくる
相当に手加減はしているし、殺気を自分に向けて発していないというのに身体が震えるほど恐ろしい
そんな自分を抑えようとして…スカーレットの言葉を思い出す
『怖い気持ちを抑えつけようとすんな、んなことしたって無駄だからな。怖いのは当たり前だ、なんたってそれは生きる上で必要な感情なんだから。だからな、抑えつけるんじゃなくて利用しろ。恐怖心をセンサーとして活用して相手の攻撃…特に死角からのそれを避けるんだ。敢えて名前を付けるなら恐怖センサー、まんまだな』
その言葉を思い出したMT-9は自分が恐怖していることを素直に受け入れてその上でそれを利用してみることを考える
勿論いきなり出来ることではない、しかしこの場合はやってみることが重要だ
これは実戦ではなく訓練…となれば失敗を恐れずに何でも挑戦してみるべきだ
そんな彼女の雰囲気を感じ取ったのか一〇〇式が構えを正眼から下段に変更した
「行くぞ、先輩…うちの成長をしっかりと感じてくれ!!」
「ええ、来なさいタウルス。この目で見届けてあげます」
その言葉を皮切りにMT-9は一〇〇式に果敢に攻め込んでいった
「かーっ!やっぱ先輩はつえぇなぁ!!さっぱり勝てるビジョンが見えないや」
「でもタウルスさんも順調に成長していますよ!今日は今までで一番手応えを感じましたから」
「ほ、ほんとに?」
「ええ、私が言うんです。自信を持って下さい」
数時間後、床に転がって肩で息をしているMT-9と息1つ切らしていない一〇〇式がいた
あれから何度も何度もMT-9は攻め続けていたがその全てが一〇〇式に防がれ、反撃を貰うばかり
それでも今までは一切避けることが出来なかった一〇〇式のカウンターを十回ほど避けることが出来ていた
それに一〇〇式は驚いたしMT-9の確かな成長を感じたので誉めた
その誉め言葉に多少半信半疑であったMT-9だが一〇〇式の断言にその言葉を信じて次第に笑みが広がっていく
「へへ、先輩がそう言うなら確かなんだよな…よっしゃあぁ!!」
「ふふ…さ、汗を流して休憩にしましょうか」
その後彼女達は共にシャワー室へと向かい汗を流し、休憩室に入るとそこでアイスを食べながら談笑をする
そして彼女達以外にも色々な人形がここに来ては同じようにアイスを食べながら雑談をする
そこで暫く時間を潰すと夕食の時間になったので皆で一緒に向かい、一緒にテーブルを囲んで夕食を食べる
それからお腹を休めてから大浴場に向かい、そこにいた別な人形達と談笑しながら湯浴みをする
そして部屋に戻った一〇〇式は襦袢に着替えると布団を敷き、寝る
これが一〇〇式のいつもの変わらない日常である
当然指令が下って戦場にその身を置き、敵を問答無用で斬り捨てていくのも日常だ
こうして彼女の1日は終わりを告げ、新たな日の光を迎える
一〇〇式メインだけどMT-9もサブメインくらいに出てるなこれ(白目)
実は彼女、最初の方の一〇〇式に声をかける人形誰にしようかなぁって図鑑を見ながら考えてた時にログボで貰ったのを見て「あ、この娘にしよう」と急遽登場させた人形だったりします
なので彼女の背景などはその場で即興で考えました、今後もちょくちょく出てくるかもしれませんね
P.S.
当初本編で刀の整備の様子を事細かに描写する予定だったのをバッサリ削ったので一〇〇式の愛刀の銘が『桜花丸』である理由を書き忘れてました
彼女の愛刀には刀身の腰から茎の中心辺りに掛けて美しい桜の意匠が施されており、更に目貫や鍔のデザインも桜であるためです