S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常   作:フォルカー・シュッツェン

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さぁ始まりましたスナイパースクール編です
ここでは私が知る限りのスナイパーや狙撃に関する知識の『全て』を落とし込んでいくつもりです
…つまりめっちゃ長くなるってことですね!
良ければお付き合いくださいm(__)m

それから後書きに少し重要なことを書くので良ければそちらもご一読ください


スナイパースクール編
座学1日目 一時間目


「少し緊張しますね…」

 

「そうね…っと来たわよ」

 

 まだまだ早朝という時間帯、S09H基地の食堂には2人の少女の姿があった

FN49とモシン・ナガンである

彼女達は先日スカーレットに本格的な訓練をするよう依頼し、その結果この基地の名物となりつつあるスナイパースクールの開校が決まった

そして今日はそのスクールが開校する日、事前にこの時間此処で待つように言われていたため彼女達はこうして食堂で待っていた

そこに今回の講師役であるWA2000とM200がやって来た

 

「ちゃんと時間通りにいるわね。当然のことだけれど良い傾向よ」

 

「規律に従えない人はスナイパーどころか兵士とすら呼べないからね」

 

「まぁ当然よね、って指揮官は?」

 

「そう言えば姿が見えませんが…」

 

「指揮官なら先に教室に行って準備してるわ。今から案内してあげるから着いてきなさい」

 

「「…教室?」」

 

 WA2000の言葉に引っ掛かりを覚えた2人は同時に疑問を口にする

2人とも今から行われる訓練が銃を用いた実地訓練であると思い込んでいたのだ

それに対してWA2000は表情を厳しくして容赦のない現実を言い放つ

 

「まさかいきなり撃つ訓練なんてさせてもらえると思ってたのかしら?甘すぎるわね、貴女達にはまず知識が圧倒的に足りないわ。だからまずは座学でスナイパーに関する知識の『全て』を身に着けてもらうわよ、それが終わらない限り貴女達が銃を撃つことは許されないから覚悟しておきなさい」

 

「まぁ普通ここまでするような基地は殆どないからね、想定してないのも無理はないよ。ほら、早くしないと指揮官が怒るから行くよ?」

 

 WA2000とM200の発言に思い描いていたものが一瞬にして崩れ去ると同時に不安が募る2人であるが、ここまで来たからには後には引けない

それに自分達から容赦のない訓練を願い出たのだ、これくらいで引く気は起きなかった

やがて2人は講師役の2人に連れられてこの基地の資料棟へとやって来た

ここはスカーレット、クレア、イーサンが今まで搔き集めてきた様々な本や電子書籍を一か所に集めた場所であり、銃や軍隊に関する本であったり中には進化論や相対性理論や第三視点など直接兵士に関係するとは思えないものなどが所狭しと存在している

その資料棟の入り口でスカーレットは待っていた

 

「よう、ちょいと遅かったんじゃねえか?素早く正確な行動は兵士にとっての絶対条件だ、そこの所もっと意識しろ」

 

「は、はい!」

 

「りょ、了解!」

 

 スカーレットから放たれる覇気によって彼女達の背筋は無意識的に伸び、敬礼をしていた

 

「まぁ良い。もう聞いているだろうがこれから座学で徹底的に知識を叩き込んでいく、勉強熱心じゃない奴は良い兵士になんてなれやしねえからな。この基地でやっていくつもりならこれから先も貪欲に知識を貪る心構えをしておけ」

 

「…兵士にも勉強が必要なんですか?」

 

「当然よ。私達はASSTとかで自分の銃に関しては感覚で扱えるけどそれ以外のことに関しては新しく知っていくしかないわ。作戦の立案や実行には様々な専門知識が必要になってくるの、勉強の出来ない馬鹿が部隊にいたって足手纏いでしかないわね」

 

「それに今はまだ直接的に関係はしないけどこの訓練中はボク達戦術人形のアドバンテージになる各種システムはダウンさせるよ。そんなものに頼ってるといざという時何も出来やしないからね」

 

「ちょっと待ってお師匠、わざわざそこまでする必要あるのかしら?」

 

 M200の口から出てきた信じられない言葉にモシン・ナガンが食いついた

 

「たりめえだ、この前言った『電池で動くものに命を預けるな』っつう言葉に似通るが敢えて言うぞ。『技術に頼るな、技量に頼れ』。日々技術は躍進していくし先進的なものも出てくる、だがそう言ったものを『利用』するのは良いが『頼る』ようなことは絶対にするな。技術に頼るしか能のねえ奴は役立たず以外の何物でもない」

 

「…流石にそれは言い過ぎなんじゃないかしら?実際私達戦術人形はこのシステムによって鉄血との抗争にも勝利出来てるんだし」

 

「その勝率は如何程のもんだ?んん?胡蝶事件が起こった当時なんか真面に抵抗出来ずにS地区が壊滅寸前にまで追いやられてただろうが。今だって鉄血によって滅ぼされる基地や街は少ないとは口が裂けても言えねえ…それは結局のところシステムなんぞに頼ってるが故に起こることだ。他ではどうか知らねえがここではんなもん端からないものとして扱うぞ」

 

「でも…」

 

 スカーレットの言うことには一理ある

戦術人形の烙印などは有効なものではあるが、鉄血との抗争では優勢とは言い難い状況が続いているのだ

結局はそれに頼って他を疎かにしているといざという時に困る

しかしモシン・ナガンは納得のいかない表情と態度を崩さなかった

それはひとえに彼女がこれまでそれに頼って来て問題が起こらなかったが故のことなので仕方がないとも言える

そんな彼女を納得させるには実際にそれに頼っていた為に何も守れなかった実例を目の前に突き付けるのが一番であろう

そしてそれを実行出来る人形がここにはいる…モシン・ナガンの前に立って彼女を真っすぐ見据えるM200がそうだ

 

「指揮官の言っていることは何一つ大袈裟なんかじゃないよ…それはボク自身が証明してる」

 

「お師匠が…?それってどういうことよ?」

 

「ボクが製造されたのは4年前、2058年なんだ。そしてボクはS地区の基地に配属されていた…これが何を意味するか分かる?」

 

「待って、それってもしかして!?」

 

「そうだよ、ボクは胡蝶事件の生き残りの1人なんだ…それも最低な方法で生き残った、ね……」

 

 M200の表情が暗くなり、その顔が歪む

これから話すのは彼女にとって最大のトラウマであり、今この基地にいる理由そのものなのだ

 

「製造された後ボクはS地区のとある基地に配属になった。そこでは暴走前の鉄血工造の戦術人形も沢山いたし他と比べて平和だったよ。偶に起きる事件も低俗な賊がちょっと暴れるくらいのもので、簡単に鎮圧出来た。だからかな、そこでは全然訓練とかしてなかったんだ。指揮官も平和主義の優しい人で、みんなそんな指揮官のことを好いてた。平和な毎日を笑顔で過ごしていたよ」

 

「そういう状況ならそうなるのも仕方ないんじゃないかしら…」

 

「そうだね。でもそれが最悪の形で問題となったんだ…2061年に何が起こったかは当然知ってるよね?」

 

「胡蝶事件、ですよね…当時のS地区は酷い状況だったと聞いてます」

 

「そう、あの事件が起こった。当然ボク達は人類を守るために鉄血の戦術人形と戦うことになった。でも碌に訓練してなかったこともあって味方がどんどんとやられていってね…今まで仲良く笑い合ってた仲間が次々に死んでいくのを目の当たりにして、ボクは……ボクは、逃げたんだ」

 

「それって…」

 

「敵前逃亡だね。守るべき人々も、大好きな仲間達も何もかも見捨ててボクは逃げたんだ…自分の銃すらその場に置いて、みっともなく逃げたんだよ……なんとか戦火を逃れてグリフィンの本部の部隊に拾われたボクは戦力にならないと判断されて安全な後方に送られた」

 

「つまりこいつは戦術人形としての存在意義を自分で真っ向から全否定しちまったってことだ。そんな状態で後方で次々と味方が壊滅していく情報を聞くのはメンタルに多大な負荷が掛かっただろうな…しかも、それで終わりじゃなかった」

 

「それ以上、何があったって言うのよ?」

 

「胡蝶事件が起こって少しした頃、私はグリフィンに入社してS地区奪還作戦を遂行した。その中にはM200が所属していた基地もあったんだが…基地を制圧した後の探索である物を見付けた」

 

「ある物…?」

 

 モシン・ナガンが疑問を感じているとM200がネクタイを緩めてシャツの第一ボタンを外し、中からチェーンに繋がれたものを取り出す

それを見たモシン・ナガンとFN49は目を見開いた

 

「そ、それって…まさか」

 

「うん…結婚指輪、だよ」

 

「…っ!!」

 

 それを見ただけでこの先の話を理解した2人は揃って顔を歪める

彼女達の予想通りならこれは余りにも悲惨で、救いようのないことなのだ

そして現実はいつも残酷である、M200はその指輪を撫でながら目に涙を浮かべて静かに語りだす

 

「これは指揮官がボクに用意してくれた指輪なんだ…基地内に残されてたデータによるとあの事件が起こった日の翌日に渡してくれる予定だったみたい。しかもボク以外の人形や職員もそのことを知ってて皆で秘かに祝う準備をしてたみたいなんだ…」

 

「それに関しちゃ私が基地内に残っていたタキシードや花嫁用のドレスの残骸を確認してるし、教会風に飾り付けられたと思われる倉庫も発見した。まず間違いないだろうな」

 

「そんな…」

 

「…こんなボクを愛してくれて、結婚しようとしてくれた指揮官。そんなボク達を祝福しようと協力して準備をしてくれた大切な仲間達。ボクだって指揮官のこと、愛してた…もしプロポーズなんてされたら二つ返事で受け入れてたのに、それだけ大切に想ってたのに…なのに!ボクは!そんな皆を!見捨てて逃げて!見殺しにしたんだ!!!

 

 普段かなり落ち着いていて声を荒げるなんてまずしないM200が涙を流して感情を剥き出しにして形振り構わずに叫ぶ姿を見た2人は驚きとも悲しみとも付かない表情で固まっているし、WA2000は悲痛な面持ちをしている

彼女もこのことは知っていたがやはり改めて聞かされると同情せずにはいられなかった

普段と変わらない様子なのはスカーレットくらいであり、そんな彼女の口から更に容赦のない言葉が語られる

 

「一応言っておくがM200の判断は間違ってたわけじゃねえ。当時の前線は悲惨な状況で碌に情報が得られなかった。だがM200が逃亡し、後方へ情報を持ち帰ったことである程度現場の状況を把握出来た。これはS地区奪還作戦に於いて重要な情報として扱われたし、現に私も当時のM200が持ち帰った情報を元に動いたりもした。だからグリフィンはそんなこいつの行動を『評価した』」

 

「ちょっと待ちなさいよ、そんなことって!」

 

「ああそうだ。つまり『M200が結婚を考えるほどに愛していた指揮官や大好きな基地の仲間達を見殺しにして戦場から逃げ出したのは素晴らしい判断であった、その結果として我が社が受けた被害は確実に減ることとなった。云わばS地区奪還作戦に於ける立役者の1人である、よってその功績を称えよう』ってこった。胸糞悪ぃ話だが分からなくもない。本社の言ったことは事実ではあるからな」

 

「そんなのただの皮肉じゃないのよ!!」

 

「その通りだ。愛する人達を失った喪失感や見殺しにしたっつう自責の念…そういったものに苛まれていたM200を更に苦しめることになった。しかもM200に直接会って褒め称える奴すらいたようだからな」

 

「そんなの、酷すぎます…!」

 

 スカーレットが語ったどうしようもない事実に2人は憤慨する

そんな2人を真正面から見据えたM200はその泣き腫らした顔を隠すこともなく見せつける

こうすることでより2人に訓練を軽く見ていた者の悲惨な末路を実感させるためだ

 

「当然そんな評価はボクにとって皮肉でしかなくて、もっともっと苦しさが増した…そんな状態だったからボクのメンタルモデルは崩壊寸前のところまで行ってたらしいんだ」

 

「らしいって…」

 

「当時のボクは自分の状態が自分で分析出来ないくらいに焦燥してたってことだよ。だって、ボクが皆を殺したも同然だっていうのにそれを褒められるなんて…そんなの耐えられるわけないじゃないか!!

 

「お師匠…」

 

「ハァッハァッハァ…………そうしてメンタルモデルが崩壊して廃棄される寸前のボクだったけど、とある情報を知ったんだ」

 

「とある情報?」

 

「S地区の大部分を奪還したとある指揮官がS09地区に基地を構えてそこでかなり高度な訓練を施しているという情報だよ。そこではどこよりも厳しい訓練が行われていて、それを乗り越えた暁には必ず最高の戦術人形になれるって言われてた…それを聞いたボクは居ても立ってもいられなくてその基地へ転属願いを出したんだ。仲間を殺した鉄血への復讐心だったのか、情けない自分を変えたかったのか…動機は自分でも分からないけれど、少なくとも今のボクが訓練に励む理由は断言出来るよ」

 

 そこまで言うとM200は一度顔を伏せて深呼吸を繰り返し、再び顔を上げた時には涙こそ流れてはいたが先程までの悲痛な表情ではなく意思の籠った覚悟を決めた顔であった

 

「ボクは同じ過去を繰り返したくはない、大好きな仲間を失うのは二度とごめんだからね。それと同時にボクのような想いをする子を1人でも減らしたい、ううん…もうただの1人だって出してなるもんか!あんな想いをするのはボク1人で十分…だからボクは訓練に励むし、後進の育成にも力を入れる。これがボクがここで戦う理由だよ」

 

 M200の話を聞き終えた2人の顔つきが変わるのをスカーレットはしっかりと見た

どうやら何故この話をさせたのかを理解したようである

 

「もう分かってるだろうが態々M200にこの話をさせたのは技術に頼って技量を磨くことを怠った者の末路を聞かせるためだ。これで私の言ったことが大袈裟じゃねえって理解したか?」

 

「ええ、嫌という程ね…」

 

「私も、理解しました…ご指導のほどよろしくお願いします!」

 

 FN49とモシン・ナガンは覚悟を決めた顔をした後、頭を下げた

これからの訓練をお願いするという意味合いとさっきまでの自分達の認識の甘さへの謝罪を含めたものである

それを確認したスカーレットはM200の頭を撫でて慰めつつ、2人の覚悟に向き合う

 

「お前達の覚悟、しかと見させてもらった。これから行う訓練は本気で情けや容赦を太陽系の外にまで投げ捨てたものとなるが今のお前達なら乗り越えられるだろう、励めよ?」

 

「「はい!」」

 

 こうしてスナイパースクールは開校され、この基地の本当の訓練が始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、覚悟も決まったところでまずは座学からだ。今日から暫くの間お前達には徹底的にスナイパーに関する知識を叩き込んでいく。一日に行う授業量は人形の記憶性能なら一度で覚えられる範囲に抑えるぞ、覚えられなきゃ意味がねえしな」

 

「ただし『全力で臨んでギリギリ一度で覚えられる』程度になるから決して楽ではないわよ。知恵熱が出るでしょうけれど耐えなさい」

 

「これを乗り越えてテストに合格して初めて実践に移れるよ。あ、因みにテスト範囲だけど当然全てになるしなんだったら学んだこと全部問題として出す上に満点以外は落第だから本気で全部覚えてね」

 

 M200が落ち着く為に数分ほどの時間を置いてからスカーレット達は教室へ移動し、そこで授業を始めた

早速容赦のないことを言ってくる3人に2人は不安になるが、先程見せた覚悟はその程度で崩れたりはしない

そんな2人を見て満足そうに頷くとスカーレットはホワイトボードに何やら書き込んでいく

 

「今日行うのはズバリ『スナイパーとは何か』だ。モシン、スナイパーとは何をする兵科だ?」

 

「えっと、狙撃よね。狙撃をすることで対象の排除や味方の支援を行う兵科よ」

 

「…それ以外には?」

 

「それ以外…は思いつかないわね」

 

「FN49はどうだ」

 

「えっと…モシンさんと同じです」

 

「うん、模範的な0点の回答だな」

 

「「え?」」

 

 スカーレットが何の気なしに放った言葉に固まる2人

それもそうだろう、幾ら何でも0点だなんて言われるとは微塵も思っていなかったのだから

 

「私も以前はそうだったから分かるけれど、大半の戦術人形の認識はその程度よね。でもそれだと本当に0点よ、スナイパーってのはそんな単純なものなんかじゃないの」

 

「そこでまずはお前達にはスナイパーとは何なのかという定義を知ってもらう。良いか?いくぞ…『スナイパーとは狙撃手(スナイパー)観測手(スポッター)二人一組のペア(スナイパーチーム)を基本として動き、敵兵の索敵能力を上回る隠蔽された位置や距離から目標に正確な攻撃を加えられるよう高精度且つ特別なライフル(狙撃銃)と光学機器に関する訓練を受けており、射撃能力に加えて隠蔽、通信、フィールドクラフト、浸透、特別な偵察や観測、火力支援、火力支援要請、爆破、監視及び目標補足など多岐に渡る項目に関する専門的な訓練を受けてそれを戦場にて問題なく行うことが可能な兵科』、と言ったところか。一応言っておくがこれはあくまでも『ミリタリースナイパー』に於ける定義だ、法執行機関に属する『ポリススナイパー』とは性質が全く異なるから混同しないようにしろ」

 

「…早速なっがいわね」

 

「それだけ専門性が高いということでしょうか?」

 

「その通りだよ。スナイパーの仕事は本当に多岐に渡るんだ」

 

「どれか一つでも出来ないようならそいつはスナイパーとは言えねえ。今後方幕僚として働いてるクレアは私のスポッターだが当然あいつもスナイパーとして動けるよう全ての専門訓練課程を修了している」

 

「それは兎も角として、そんな様々な要素を含んでるスナイパーに求められる能力っていうのはかなり多くなるわ。次はそれを見ていきましょうか」

 

 WA2000はそう言うとホワイトボードに次々と書き込んでいく

 

「まず最初は射撃能力(マークスマンシップ)。スナイパーである以上は『一撃必殺(One Shoot One Kill)』のモットーにあるように、引き金を引くなら必ず標的に命中させる射撃能力(マークスマンシップ)が必須になるわ。ただしあくまでもこれは『必要条件』であって『十分条件』じゃないことに留意しなさい。いくつもある資質の一つに過ぎないわ」

 

「次に野外適応能力(フィールドクラフト)だね。これは様々な野外環境への適応能力のことを指すよ。風や温度、湿度に天候なんかに順応する能力がスナイパーには求められるんだ。天候の変化を予測して任務遂行が困難になるようなら離脱するか、それとも回復を待つのか…そういう判断能力も求められるね。自然の中で狩りを行うハンターはこの能力に長けているし、過去の名立たるスナイパーの中にもシモヘイヘを筆頭としてハンターとしてのバックグラウンドを持つ者も多いよ。だから君達にもいずれハンターとしての訓練を施すから覚悟しててね」

 

「次は戦術的思考能力(タクティクス)だ。いくら優秀なハンターだったとしてもその技術を如何にして任務遂行に役立てるのか、そういったことを考えるための戦術的思考能力(タクティクス)は必須となる。ここら辺もこの座学の中で徹底的に教育してやる」

 

「更に体力(フィジカル)も重要な要素ね。スナイパーはあくまでも『歩兵の一種』よ、行軍が真面に出来ないようじゃ務まらないわ。視力、聴力、記憶力なんかも重要ね。優秀な歩兵でなければ優秀なスナイパーにはなれないわよ、覚えておきなさい」

 

「それに知能と協調性(インテリジェンス&コーパレイション)も必須だよ。流石に研究者や学者並みになれとは言わないけど平均以上の知能(インテリジェンス)は求められるね。それとスナイパーって言うとどこか一匹狼みたいな印象を持つ人もいるみたいだけど実際は真逆、チームプレイが何よりも大事。チームの一員として協調性(コーパレイション)はかなり重要だよ」

 

「加えて忍耐力(フォーティチュード)も必須となるし、ある意味最も重要な能力と言っても差し支えない。いかなる状況下に於いても焦るような奴にスナイパーは務まらねえ。私自身三日三晩不眠不休飲食無しで同じ姿勢を維持し続けたことがある。流石にそこまでの状況は殆どありゃしねえが最低でも半日以上はずっと同じ場所に居続けられるだけの忍耐力(フォーティチュード)は必要だ」

 

「最後に精神性(スピリチュアリティ―)ね。人殺しを好むような性格はスナイパーに向かないわ。任務への忠実性、指揮官や部隊への強い忠誠心を持ったモラルのある人物が求められるの」

 

 急にいくつもの項目を話され、2人は必死になって覚えようとする

かなり多くの要素を上げたがぶっちゃけこれは大分したものに過ぎず、ここから更に細かくなっていく

当然それらも全て理解し習得しなければスナイパーにはなれない

そしてこれはまだまだ授業の一部でしかないのだ、3人による講義は更に続いていく

 

「さっき言ったスナイパーに必要となる要素は取り敢えず概要を覚えておけ、細かいことは後程厳密にやる。次に覚えておくべきことはスナイパーが敵・味方に与える心理的影響についてだ」

 

「心理的影響?それも重要なことなのですか?」

 

「当然じゃない…って貴女は確か一度も戦場に出たことがなかったわね。それなら分からなくても無理はないわ」

 

「実際に戦場に出れば分かるがこれはかなり重要だ。味方のスナイパーが戦果を上げていると聞きゃあ部隊は鼓舞され、士気が上昇する。一方で敵からすりゃあ疑心暗鬼に陥り、何処にいようと『自分が狙われるんじゃないか、次は自分の番になるかもしれない』という恐怖心を抱くし、そんな精神状態じゃ任務の遂行も覚束なくなるからな。第二次世界大戦のスターリングラード戦で戦果を大きく宣伝されたヴァシリ・ザイツェフの存在なんか正にそれだ。実際の戦果なんざよりも敵味方に与えた心理的影響は大きかっただろうな。こうした宣伝行為(プロパガンダ)を利用した心理戦(PSYOPS)は共産国の常套手段だった。また違う例を挙げるとベトナム戦争時、北ベトナム軍がアメリカ側のスナイパー3名に対してそれぞれ3万ドルの懸賞金を懸けていた。この金額は当時の北ベトナムの物価を考えりゃあ法外な金額だが、それだけ奴らにとってスナイパーの影響はデカかったんだろう」

 

「少し厭らしいというか、現実的な話をするとたった一発の銃弾で戦場や兵士達に大きな影響を与えるスナイパーの存在は経済的で費用対効果も高いわ。勿論育成にも結構な費用は掛かるけれど、それでもミサイルや戦車に比べれば安上がりよ。その上一度育成してしまえば何度も何度も使用出来るしそういった点で見ても経済的よね」

 

「なるほど…指揮官がRF型戦術人形を重視するのも分かるわね」

 

「逆に言えばそれ程の影響を与える存在にならないといけない、ということですよね…」

 

「そうだね、そして今からはそんな存在になるための要素の1つである『狙撃』の本質について教えていくよ」

 

「「本質?」」

 

 M200の言葉に2人は首を傾げた

 

「君達は狙撃と聞いて何をイメージする?」

 

「そうね…遠くの標的に対する正確な射撃技能、といったところかしら」

 

「私も同じです。狙った場所に必ず当てるのが狙撃というものではないでしょうか?」

 

「確かにそれも間違いではないよ、ある意味正解だと言っても良いね。でもそれでは本質を捉えられているとは言えないね」

 

「それはどういうことかしら?」

 

「意地悪するつもりもないし、先に答えを言うとね…『隠れた場所から攻撃する』ことだよ」

 

「隠れた位置からの攻撃…それが狙撃の本質なんですか?」

 

「そうだ。狙撃ってのはあくまでも戦い方(戦術)の1つに過ぎねえことをまずは意識しろ。それを念頭に置いた上で話をするが、狙撃に於いて距離は本質的な問題ではない。例えばそうだな…日本で起こった事件になるが1995年に起きた『国松警察庁長官狙撃事件』での狙撃距離は20m程度しかないな。アメリカで言うなら2002年の『ワシントンDC連続狙撃事件』でもその距離は45m~90m程度、その気になりゃ拳銃でもやれる距離でしかねえんだよ。まぁ、流石に90mともなると拳銃で狙うのは厳しいがな」

 

「それでもその2件の事件は間違いなく『狙撃事件』としてカテゴライズされるものよ。その理由となるのが『犯人が見えないところから撃ってきた』という点ね」

 

「国松の事件では死角となる植え込みの陰から、ワシントンDCでは後部座席を取り外してトランクに穴を空けた車の中から狙撃が行われたんだ。こんな風に隠れた場所から攻撃することこそが狙撃の本質だよ。距離云々じゃないんだ」

 

「スナイパーが隠れて狙撃するのも『自分の所在が確認されにくく、敵からの反撃を受けにくい。その結果自身の安全を確保しやすく容易に離脱も行える』という理由からだ。ミリタリースナイパーが基本的に遠距離から狙撃を行うのもこうした条件を満たしやすいという理由に他ならない。実際私は2km以上離れた地点からの狙撃を行うことが多いがこれも同様の理由からだ」

 

「そういうことね、理解したわ」

 

「一般的な狙撃のイメージが崩れましたね」

 

「そうだね。一般の認識と現実とでズレがあるのは良くあることだけど軍事関係は特に多いよ。例えばRPG-7を始めとしたロケットランチャーの殆どは爆発なんてしない、とかね」

 

「他にはサイレンサーとサプレッサーの呼び方なんかもあるな。サプレッサーの方が正しいとか言う奴がいるがありゃあ大間違いだ、初歩的な英語の知識がありゃ分かるはずなんだが勘違いしてる奴はかなり多い。アメリカやイギリスの軍人の中にすら平気でいやがるぐらいに、な」

 

「私個人としてはブルパップ式は銃身長を確保出来るから精度が良くなる、とかも勘違いしてほしくないわね。銃身長を長くしたところで精度は良くならないしブルパップ式は構造上の問題でどうしても精度は落ちるし、そもそも銃身長を長くすればするほど精度を良くするのは難しくなるわよ」

 

「そ、そんな…」

 

「嘘でしょ…?」

 

 次々と明かされる勘違いされることの多い事柄の真実に2人はかなり戸惑っている

こうした勘違いは一般の者がしている分には問題ないが、軍事作戦に関わる者にとっては致命的である

いずれはこれについても全て矯正しなければならないだろう

 

「さて、取り敢えず一時間目はこんなところで良いだろう。最後に豆知識程度のことだが、スナイパーの語源について教えてやる」

 

「スナイパーの語源?それって知る必要あるのかしら?」

 

「実質知る必要はないわ。でも自分がなるべき存在について詳しく知ることは無駄ではないでしょう?それにこれはちょっとだけスナイパーの授業に関連してくるのよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「そうだよ。スナイパーの語源となったのはとある鳥なんだ。その鳥の名前はタシギ(Snipe)って言ってね、この鳥は警戒心が強くて鳥だけにトリッキーな動きをするから射撃技術が優れているだけじゃ仕留められないんだ」

 

「持てる知識や経験を総動員して獲物の行動を先読みし、出し抜くことの出来る者を敬意を込めて『Sniper(タシギを仕留められる者)』と呼んだのが始まりとされている」

 

「つまりスナイパーという言葉はそもそも狩猟の中から生まれた言葉ということね。ほらさっきの優秀なハンターはスナイパーとしての素質を持ってるって話に繋がったでしょ?」

 

「本当ですね…」

 

「この授業では集中力を保つため、時折こういった小話なんかも挟んでいくつもりだ。知っておいて無駄になることはないからついでに覚えておけ。よしこれで本日の一時間目の授業を終了する!復習を怠るなよ?」

 

「「はい、ありがとうございました!」」

 

 授業を終えてスカーレット達は教室を後にし、FN49とモシン・ナガンは先程の授業中に取ったメモを見せあいながらより細かくノートに纏めていく

この時に電子端末ではなくアナログな紙を使っているがこれは後程の実施訓練で必要になるから今のうちに慣れておけというスカーレットからの指令である

こうして初めての授業は幕を閉じ、暫しの休憩の時を2人は過ごすのであった

 

 




前書きで書いた重要なことと言うのはコラボに関することです
以前スヴァールバル世界種子貯蔵庫に関することを書きましたがスナイパースクール編が終わった後にコラボ回として書きたいと思います
流石に大きすぎることで1つの基地で完結して良い話ではないと思いますのでコラボと称して他の基地との合同作戦にする、ということです
まだ募集は行っておりませんしまだまだ先の話にはなりますが、協力しても良いぞという方は是非ご一考していただければ幸いです

一応予定としては3箇所の基地とのコラボにしたいと考えております
増やし過ぎると私のキャパシティー的に書けなくなると思うので…
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