S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
今回はこのSSを開くことの出来る端末が2個用意して片方は挿絵の表示用、もう片方で文章を読むということをすると読み易いと思います
また今回の話では『かく』を書くと描くで分けていますが、これはレンジカードのスケッチ部分に描くのか表に情報を文字として書くのかによって分けてあるものになります
頑張って分かりやすくしてみたつもりなのですが、分からないところがありましたら遠慮なく言って下さい
出来る限り簡単に説明したいと思います
では、どうぞ!
「よぉお前ら!次は私の授業…ってどうした?そんなに暗い顔して」
四時間目の時間となりスカーレットが教室に入ると明らかに険しい顔をしたFN49とモシン・ナガンがいたのでどうしたのかを聞いてみた
すると返って来た答えは
「いや…だってお師匠から今回の授業でおそわるレンジカードはかなり難しいって」
「今までのが可愛く思えるレベルだと聞きましたし…」
とのこと
それを聞いたスカーレットは溜息を吐く
「まったくM200のやつ…心配すんな、確かに今から教えるのは今までの授業内容と比べて圧倒的に難しい。理解するにも時間がかかるだろう。でもな、私だって最初から理解してたわけじゃねえ…何度も何度も失敗しながら覚えたんだ、だからいきなり理解なんてしなくていいさ。今回の授業ではこのレンジカードについてのみ教える。他のことはやらねえからこれだけに集中して触りだけでも良いから覚えてくれりゃいいさ」
「え…全部覚えなきゃいけないんじゃ……」
「最終的にはな。でもこれに関しちゃ経験がものを言う、だから知識だけで覚えても意味ねえんだよ。何度も繰り返しやって身体に叩き込んでいかなきゃならねえし、そんなのを一回やっただけで覚えろなんて無理な話だろ」
「…意外と優しいのね、同志」
スカーレットの言葉に意外そうにする2人にスカーレットは特に反応を示さなかった
こういうリアクションは皆がするので実際慣れっこなのだ(だったら怖がられるのも慣れろよ)
「ま、座学を終えた後の実践では追い込むが今はそんなことはしねぇ。気楽に構えてな」
「座学が終われば追い込むのね…」
「たりめえだ、追い込んでやらないと真に成長はしねえからな。っとこれじゃあいつまで経っても始まらねえし、そろそろやるぞ」
スカーレットは手を叩いて雑談を終わらせると授業を始める
「さて、レンジカードについてだが…こいつを理解するにはLP/OP及びOCOKAについて完璧な理解が必要不可欠となる。さっきの授業でM200に教えられたよな?今から少し復習を行う」
「あら、復習ならさっきまで自分達でしていたけれど…」
「本当に理解出来ているか私直々に確認してやるってこった、早速行くぞ。まず、LP/OPとは何の略だ?」
「Listening Post/Observation Postね」
「正解だ、ではLP/OPとはなんだ?」
「歩兵、又はスナイパーの構築する監視拠点のことですよね」
「良いだろう、では任務を遂行する際に歩兵が理解していなくてはいけない要素は?」
「えっと…部隊の任務、作戦の性格・目的・報告する司令部のレベル、敵味方それぞれの関連する部隊、遭遇する可能性のある敵の規模・装備・兵器よね」
「良いぞ、ではそれを理解した上で拠点を選択する際に注意する点『OCOKA』について簡単に説明しろ」
「えー、まずOは視界と射界ですよね。視界は見える範囲、射界は手元にある火器で狙える範囲です。次のCは遮蔽と隠蔽で、遮蔽は周囲の身を守れる天然物及び人工物…隠蔽は自分の姿を隠してくれる天然物や人工物ですよね」
「2つ目のOは障害物よ。天然/人工に関わらず部隊の進行を遅らせたり、もしくは止めたり回避を強いる物体よね。例えば建造物、急な坂、湖、河川、崖、沼地、森林、ジャングル、鉄条網、地雷原なんかよね。天然物はそのままだけど人工物…特に軍事障害物は何故それらが設置されたのかを理解しなくっちゃダメ、だったかしら」
「ああ、合ってるぞ」
「Kは…緊要地形ですよね、陸戦に於ける勝敗の鍵となる地形ポイントのことでそのポイントの確保や奪取によって戦局を有利に進められます。橋や平らな盆地などがこれに該当します」
「最後のAは侵攻経路ね。敵勢力が侵攻してくる可能性が最も高いルートのことで、これは地上だけじゃなくて水上や航空機による侵攻経路も存在するのよね」
「ふむ…良いな、しっかり理解出来てるみたいで何よりだ。これなら問題ないだろう、今からレンジカードについての説明をするぞ。まずはこいつを見てくれ」
スカーレットは2人が先の授業の内容をしっかり覚えていることを確認すると満足そうに頷き、2人に一枚の小さな紙片を渡した
その後彼女も同じものを持ち、それを開くように指示する
その指示に従った2人はそこに書いてあるものを目にした
「そいつはアメリカ陸軍で長らく教育用に使用されていたレンジカードを1枚だけ抜き出したものだ。どうだ、そこに書いてあることが分かるか?」
「…一切理解出来ないわ。これには何が書いてあるのかしら?」
「だろうな。1つずつ説明していくぞ。まずレンジカードっつうのはLP/OPを中心として監視や戦闘に必要な
「これを自分で書くことになるんですね…私に出来るでしょうか」
「心配すんなって、大丈夫だから。レンジカードには地形の概要から位置座標や距離について記載していくことになる。位置情報は地図とプロトラクター(特殊な分度器のようなもの)、方角はコンパス、距離は目測や歩数計など様々な計測方法を用いて測って記載する。最新の電子機器を使えばいとも簡単に弾き出せる数字だが、何度も言うように『電池で動くものに命を預けるな』『技術に頼るな、技量に頼れ』だ。言いたいことは分かるな?」
「そんなものに頼って自分の力で出来ないようじゃ意味がない…ってことよね」
「そうだ。
「よし、まず一番初めにするのは『目の前の景色・地形のラフなスケッチを描き込む』ことだ。同心円状に沿って距離感を間違えないように注意しろ。各サークル間の距離は『
「頭がパンクしそうよ…」
「右に同じく…」
スカーレットの説明を聞き終えたFN49とモシン・ナガンは頭を抱えていた
難しいことは承知していたし、それでも必死に喰らい付こうとしてもののやはり一度に一気に説明されただけでは理解するまでに至らなかったようだ
その上ややこしいことこの上ないので知恵熱が出そうになっている
「ま、だろうな…つーことで今からかな~り噛み砕いて簡単にした説明をしてやる。まずはそれを理解してからもう一度さっきの説明をする、そしたら今より余程理解が進むだろう」
「そうしてくれると助かるわ…」
「全くですね…」
「よし、んじゃあ行くぞ!まず最初にLP/OPについたら監視する景色のスケッチを描く。スケッチする際には元から描いてある同心円に沿って距離感を正確に描くよう注意しろ。各サークルの距離は専用の欄に書き込んでおけ。そしたら中心に自分が持ってる銃器の記号を描き、LP/OPを見失わないように近くにある目印を描け。遮蔽物になり得る物体があるならそれもしっかりと判別して描くんだ。次にコンパスを使って真北がどっちかを専用の欄に記しておく。そしたら自分の所属する部隊の番号を書け。その後LP/OPの座標や日時を書く、この時日時はズールータイムという特殊な表示の仕方を用いる点に注意だ。んで自分の使う銃を書いてから
「さっきよりは断然分かりやすいわね。専門用語を取っ払って簡略にするだけでこうも違うとは…」
「これならなんとか理解出来るかもしれません…でも」
「分かってる、まだまだ完璧な理解には至らないんだろ?それはこれから何回でも説明してやるし、分からないところがあるなら幾らでも質問しろ。分かるようになるまでしっかりと説明してやるから」
「それはありがたいわね。にしても…LP/OPやOCOKAについて完璧な理解がないと到底理解出来ないって言うのが分かるわね、これは」
「た、確かに…」
2人が言うように、否スカーレットが最初に言ったようにレンジカードについてはLP/OPとOCOKAについての理解が大前提となる
スカーレット自身も新米時代(子供時代)には何度も何度も何度も何度も何度も何度もレンジカードを書かされた、数え切れないほど書き続けてきた
何しろ戦闘位置を移動する度に全部一から作成するのだ、移動が頻繁にあるような状況であれば書き終わった直後に移動を言い渡されることもあるし書いてる途中で移動をすることすらある
とにかく歩兵にとって基本中の基本となるため、一人前にレンジカードを作成出来るようになるまで何百枚と経験を積む必要があるのだ
彼女も新米の時は書くのに時間が掛かり、上官から怒鳴られることが度々あった
逆に速攻で書こうとすれば「こんな雑に書いたら引き継ぎの人間がわからねえだろ!しかも間違いだらけだ、もっと丁寧にやれ!!」と怒鳴り声と共に殴られたものである
白紙にレンジカードを自作して素早く正確に書けるようにならなければ一人前の歩兵とは言えず、これが出来ないようならスナイパーなど夢のまた夢である
スカーレットがそれを伝えると2人はゲンナリとした顔をする
それはそうだろう、これはつまるところ彼女達もまたそうやって教育されるということの暗示でもあるのだから
その後スカーレットはこのレンジカードについての『知識』を徹底的に叩き込んでいった
2人からの質問にも丁寧に答え、時間を掛けて教えていく
やがて『知識』だけはしっかりと理解する頃には授業時間も終盤に差し掛かっていた
「ってこんな時間ですけど…これからスナイパー用のレンジカードについての説明をするんですよね、大丈夫でしょうか?」
「あらホント…普通のレンジカードにこんなに時間かけても良かったのかしら」
「大丈夫だ、安心しろ。普通のレンジカードに対しての知識が十分にありゃあスナイパー用のレンジカードに関してもすんなり理解出来る。実際に見比べてみりゃ分かるが、小さな差異こそあれ全体としては普通のと変わりはないからな。つーわけで今からその差異を説明するぞ、まずはこのレンジカードを見ろ。こいつはさっきのレンジカードをスナイパー用のものに書き直したものだ」
「…なんか、普通の歩兵用のものよりも簡潔じゃないかしら?」
「こっちの方が見やすいですよね…」
「やっぱそうか…確かにこっちのが見やすいと私も思う。まぁそれは良いだろ、歩兵用のレンジカードとの差異を言っていくぞ。とは言え大きな点は2点のみだ、1つ目は狙撃銃用に狙いを調整する
「なるほど…より専門性を高めた結果、ということですね」
「そうだ、その認識で良いぜ。…さてと」
スカーレットは説明を終えるとレンジカードの実物を2人に渡す
勿論それには先程の紙片のように空欄が埋まっているわけもなく、サークル等しか描かれてはいなかった
それを見た彼女達は嫌な予感を感じ取った
そしてそれは的中する
「さぁ、授業時間もまだ30分くらいあるんだ。レンジカードをより深く理解するためにも実際に書いてみようぜ。まぁ今回は実際の景色を書くんじゃなくて最初に渡した奴を写すだけで良いが、勿論何も考えずに書くなよ?自分が何を、どのように書いているのか常に考えろ。可能ならこのレンジカードから実際の景色を想像するんだ、それも正確に、鮮明に。残りの授業時間、1秒たりとも休ませやしねえぞ?」
「…マジかぁ」
「うぅ…頑張ります……」
その後授業時間が終わる迄の間彼女達は休むことなく何度もレンジカードを写すことになり、適宜スカーレットから質問が飛んできてそれに瞬時に答えられなければ殺気が飛んで来るという時間を過ごすことになった
終了時間を迎える頃には2人ともすっかり疲れ切っており、終了を告げるベルが鳴ると同時に机へグッタリと倒れ込んだ
そんな彼女達にスカーレットは声を掛け、教室から連れ出した
彼女に連れていかれた先ではWA2000とM200が何処から調達したのか野生動物を使ったジビエ料理、今回は雉の親子丼と野兎のシードル煮が用意されていた
更にはデザートにリンゴパイまであり、そのどれもが滅茶苦茶に美味しかったのもあってFN49とモシン・ナガンは猛烈な勢いで食べていく
これによって英気を養った彼女達は教室へ戻り、これまでの復習を行って午後の授業に備えるのであった
…理解出来ました?
そこだけが私は心配です
あと最後に出てきたジビエ料理は後の展開のフラグだったりするかもしれません(今のところは出す予定です)
勿論普通の感想も滅茶苦茶嬉しいので是非是非下さい!