S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
今回の主役はゆかりさんとなりまして、更にゆかりさんに関するアンケートを取るのでそちらも是非投票していただければ幸いです
では、どうぞ!
S09H基地の庇護の下ある程度平和な生活を送れている街『イシス』
この街にはスカーレットの基地より結構な頻度で誰かが訪れるため、基地と街の繋がりが強いのが特徴となっている
指揮官である以上スカーレット本人はあまり来れないがLSPの面々は警邏も含めていない日はなく、それ以外の者も思い思いにこの街で過ごしていた
そんな街の中にゆかり、葵、きりたんの3人の姿があった
どうやら今日はオフの日でショッピングに来たらしい
買う予定なのは主にマグカップや手鏡、時計など小物類と服である
現在彼女達はスカーレットによって用意された宿舎に寝泊まりしており一通りの家具等は既にあるのだが、それらはあくまでも基地の備蓄である
当然その全てが自分に取って使い易いサイズであったり使用感ではないためこうして少しずつ買い揃えていくつもりなのだ
それに彼女達も年頃の女子である、やはり自分の部屋を好みに合わせてデコレーションしたくなるのも仕方がないだろう
しかしまだ初任給を貰ったわけではなくクレアから渡された初期費用分しかないのであまり高いものや多くのものを買うことは出来ない
今日はどちらかと言うと街のことを知るのが第一目的である
「いやぁ、晴れて良かったですね。気温も寒くない程度に涼しくて動きやすいです」
「そうだね、お姉ちゃんも来れたら良かったんだけど」
「仕事じゃ仕方ありませんよ。それより早く行きましょう、時間は有限なんですから」
3人はお気に入りのいつもの格好でこの街へと来ていた
因みに交通の手段は普通の乗用車でゆかりが運転した
まず買いに行くのは服である、いつもの服装も良いのだが毎日同じという訳にもいかないし色々とレパートリーは欲しい
それにそもそも日本脱出の際のごたごたで所持品はほぼ全て失っている、いつまでも基地の物を借りるのは申し訳ないのも理由だ
行き先を決めた彼女達だが、当然服飾店の場所など知らない
そこで、葵がスマートフォンを取り出してこの街専用のナビアプリを起動する
これはこの街の全てのお店等の詳細が分かり、行き先を設定すればすぐにそのお店までのルート案内をしてくれるものでMDRの発案の元開発された
3人は顔を寄せて葵のスマートフォンを覗き込みながらどのお店が良いかを話していく
「この店はここからも近いですね…メンズエリアもあるからか少し面積が狭いのが難点ですが」
「ここはどうかな?レディース専門で広さもそこそこあるよ」
「何でもいいので取り敢えず行ってみませんか?近くにある所から軽く見ていけばすぐに良いのが見つかると思いますよ」
それぞれが意見を出していくこと数分、行き店を決めた彼女達はスマートフォンを持った葵の先導で道を歩いていく
1番年上のゆかりがその役をしないのには理由があり、この街は比較的平和とは言え事件が起きない訳ではない
そしてこの中で今のところ戦えるのはゆかりだけ、つまり何かがあった時に素早く動けるようにゆかりは構えているのだ
コンシールドキャリーしている腰のグロック30はいつでも抜けるようにしてあるし、肩に掛けているポシェットの中には念の為にグロック41と予備弾倉が幾つか入っている
因みに彼女達には秘密だが、万が一の事態に備えてLSPのMP5が彼女達を常に視界に収めながらもバレない様に護衛として付いて行っていたりする
他のメンバーはいつも通り街の警邏をしていたり基地で訓練に励んでいたりだ
それはともかく彼女達は目的へ向けて歩き、暫くすると少し大きなショッピングモールのような建物が見えてきた
「お、あれだね。あの中にレディース店が幾つかあるよ」
「案内ありがとうございます葵ちゃん。じゃあ行きましょうか」
「…それにしても凄いですね、鉄血とやらとの最前線だというのにこんな発展した街があるなんて」
「確かに…スプリングフィールドさんの話だとスカーレットさんの基地が関係してるらしいよ」
「そう言えば私も聞きましたね。確か侵入を試みた鉄血の全てを滅ぼした上でその事にすら気付かないように処理してるとか」
「さらっと言ってますけど良く良く考えると恐ろしいですね。でも同時に安心もします、そんな基地に住まわせてもらってるんだって」
「そうだね、でもだからこそここの人達は鉄血の恐怖から解放されて伸び伸びと街の開発が出来てるんだろうね」
「街の人達の表情から不安や恐怖をあまり感じませんし、安心して暮らしているのが分かりますね」
「いやゆかりさん何でそんなことまで分かるんですか」
「鍛えると色々見えてくるんですよ、きりちゃん」
この街の異様さとそこから見えてくる自分達の住んでいる基地の異常さを垣間見た3人はその後も他愛無い会話をしながら建物へと入り、取り敢えず1階にある服飾店から順番に回ることにした
「このジャケットカッコイイね、ゆかりさん似合いそう」
「ありがとうございます。それよりもこのワンピース葵ちゃんに似合うと思いますよ」
「あ、それ色もデザインも凄く私好み!お?きりたん、このシャツとかどうかな?」
「葵さんが着るには少し色が暗くないですか」
「いやいや私じゃなくてきりたんにだよ」
「や、私そういうの良く分からないんで…」
「さっき結構的確な意見をしていたように思いますけど」
「あーあー聞こえなーい」
わいわいと話しながらも服を見ていく彼女達の様子はとても楽し気で、見ているとここが荒廃した世界であることを忘れそうになる
きりたんも興味ないとか言いながらチラチラと服を見ているし自分の好みに合うものを見付けると僅かに口角が上がってジッとその服を見つめており、どう見ても服選びを楽しんでいた
そしてそれを見逃すゆかりではない、それを見付けると適度に弄りつつも葵と共に口車に乗せてきりたんに試着させるのだ
そして服を身に着けて出てきたきりたんを葵と共に褒めて恥ずかしがらせることも忘れない
勿論そんなゆかりも気になる服を見付けては試着したりマキに似合うかなとか考えたりしているし、葵もまた同様である
そうこうして数時間程掛けて服を選んだ彼女達はそれぞれ全身コーディネートを作ってその服をレジに持って行った
店員に服を着て帰るかを聞かれたので折角だから着ていこうとなり、タグ等を外してもらうと各々買った服に着替えて再び集合した
ゆかりは控えめにフリルの付いた白のYシャツにスリムフィットスキニーの七分丈デニムパンツ、そしてグレーのショールカラーノーボタンジャケットを羽織って紺と白のハイカットスニーカーを履いていた
葵は白のタートルリブニットに濃いブラウンで肩ひも付き膝上ハイウエストスカートで、髪をサイドテールにして頭にはスカートと同じ色のベレー帽を被っており足元はダークブラウンのローヒールニーハイブーツだ
きりたんは白の七分丈カットソーにつやがないブラックのレザーキャミワンピースを、同じくブラックのレースアップミドルブーツを履いて腰部分を黒革のベルトで少し締めてウエストラインを出している
服も一新したことで少しテンションの上がっている3人はそのまま雑貨店に向かい、小物を見ることにした
「わぁ、猫の形した手鏡だ!かわいぃ~♪」
「おや、良いですねそれ。それに黒と白と三毛と、カラーバリエーションも豊富と来ましたか…」
「でもそれ固定式ですし、持ち運ぶことを考えたら折り畳みかスライド式のが良くないですか?」
「うーん、確かに…何か良いのないかな」
「これなんてどうです?猫の形で折り畳み式ですが」
「それは…なんか猫の顔が貫録あるくない?」
「…ええ、私もそう思います」
「なんだかちょっとしたブサカワな感じですよね。でも私結構好きですよ、こういうの」
「あ~、なんかきりたんらしいかも」
「おお、この置時計おしゃれじゃないですか?」
「わ、中の歯車が動いてるのが見えるんだ」
「ていうかこんなに沢山歯車入ってるもんなんですね」
「こういう機能面が表に見えてるの私は好きですし、これは買いですね」
「ゆかりさん手鏡はいいの?」
「そうですね…私はこの木製でスライド式のにしますかね」
「それ、表面にうっすらと蝶のイラスト?刺繍?みたいなのがありますね」
「ホントだ、ちょっと大人っぽいかも」
「衣服ではないので刺繍は違いますが…まぁ、気持ちは分かります」
「ん~、私はどうしようかなぁ…あ、この青と赤のハート型の良いかも!」
「確かに青は葵さんで赤を茜さんに渡せば良い感じですね」
「てことは茜ちゃんにプレゼントするんですか?」
「うん、そうする。時計は~…うーん迷うなぁ」
ここでも和気藹々としながら小物を見ていく彼女達の姿は誰が見ても普通の仲の良い女子であり軍事基地の所属だとは、ましてやその内の1人が諜報員候補であるようには全く見えなかった
実際ゆかりも今この時ばかりはV.S.でも秘書でも諜報員でもなく、ただの結月ゆかりとして心穏やかに平穏な時間を送れている
普段の過ごし方に不満があるわけではないが、やはりこうして肩書に縛られない時間というものも必要なのだろう
その後も色々と見ながら少しだけ買い物をした3人はショッピングモールを出て近くのテラスカフェでのんびりとティータイムを過ごしていた
「きゃあっ!!あぁ…」
「…っ!」
暫く談笑してそろそろ戻ろうかというその時、事件は起きた
少し離れた場所から老婆の悲鳴が聞こえたのだ
その悲鳴に誰よりも早く反応したのはゆかりである、ポシェットから財布を取り出すと隣にいたきりたんに手渡してから駆け出す
いきなり財布を渡されたきりたんは少しの間困惑したが、先程の悲鳴とゆかりの様子から事態を察すると葵と共に店員を呼んで会計を済ませてゆかりの帰りを待つことにした
そしてそのゆかりは現在倒れた老婆の元へ到達し、何があったのかを聞いていた
「どうされましたか!?」
「イタタ…あ、あの男が私のカバンを…あれには孫にプレゼントを買うためのお金が…!」
老婆の指さす方向を見れば200m程先を女性用のカバンを手に全速力で走る男の姿が見える
「…少しだけ待っていて下さいね。MP5さん、そのご老人と2人のことは頼みましたよ!!」
(ば、ばれてたの!?取り敢えず2人の近くにはガリルさんがいる、ゆかりさんの方にはM870さんが行ってますからまずはこの方の応急処置ですね!)
隠れて見守っていたMP5は自分のことを見抜いていたゆかりの実力の高さに驚きつつも既に連絡を回して手配を済ませておいた仲間に彼女達を任せると、自身はひったくられた際に転倒して怪我をした老婆の治療を請け負う
一方ゆかりは凡そ女性とは思えないような速さで疾走し、男との距離をグングンと縮めていた
(なんだあの女!?クソ早え!!)
ひったくり犯もゆかりが自身を追って来ていることに気付き、距離を離そうとするも離れるどころか差は縮まるばかり
焦りに塗り潰されそうになるも、視界の端にキーを差したままバイクを止めて露店で買い物をしている男の姿を認めるとそっちへ向かって方向転換する
そして素早くバイクに跨って走り出そうとしたその瞬間、銃声がしたかと思えばタイヤがパンクした
ゆかりが腰からグロック30を引き抜いてタイヤを撃ったのだ
余りにも一瞬のことで状況の理解が遅れた犯人は固まり、その後慌ててバイクから降りようとしたがもう遅い
近くまで迫ったゆかりが一瞬身を低くした後に鋭く跳躍し、犯人の襟首を掴んでバイクから引きずり下ろしつつ地面へ背中から叩きつけた
「ぐぅっ!クソがぁ!!」
「そこまでです」
「っ!」
「動かないで下さい」
「……っ」
犯人は息が詰まるも火事場の馬鹿力かすぐに反応してナイフを抜いて自分に馬乗りしているゆかりへ向けるが、ゆかりに銃口を眉間に突き付けられ動きを止めた
全くの感情を宿していない表情と声、それにあれだけの速さで走ったというのに息1つ切らしていないゆかりの様子に犯人は恐れを抱き、息を呑む
「貴方が私を刺すのと私が引き金を引くのと、どちらが速いか勝負でもしますか?」
「………クソが」
観念したのか犯人は身体から力を抜き、手に持ったナイフも音を立てて地面に落ちる
しかしそれでもゆかりは銃口を逸らすことはせず、左手を使って犯人をうつ伏せに転がすと右腕を捻り上げて関節を極めた
「いやぁ~見事だねぇ!見ててぞくぞくしちゃったよ、思ってたよりずっと出来るんだね」
「M870さんですか、拍手なんてしてないでこの男を拘束するなりなんなりしてくれませんか?」
「そんな怖い顔して言わなくなってちゃんとするから大丈夫だってば…っと」
「ぐっ…」
そんなゆかりの元へM870が現れ、拍手をしながらゆかりを褒める
だがゆかりはそんなことより早く仕事をしろとでも言わんばかりに無表情のままM870へ苦言を呈すると、彼女はやれやれといった感じに肩を竦めながら機械的な尻尾を操作してその先にある麻酔針を犯人の首に打ち込んだ
これはS09H基地特性のものであり、対人間用に即効性と安全性に特化したものだ
麻酔針を撃ち込まれた犯人は数分としない内に眠りに落ち、ナイロンバンドで犯人の手足を完全に拘束したM870はその身体を担ぐとゆかりに向き直る
「これは茶化しでも何でもないけど、本当に見事だったよ。それと…街の人の為に動いてくれて、ありがとね」
「貴女…ええ、どういたしまして」
「そのバッグ、あのお婆さんに返しといて。私はこいつを牢獄にぶち込んでおくから」
「分かりました、お気をつけて」
背を向けたM870は帽子の鍔を摘まんでズレを直すと振り返ることなく歩いて行った
普段の様子とは全く違うM870の声色にゆかりは戸惑ったものの、彼女もまた信念を持ってこの街を守るLSPのメンバーなのだと認識を改めることにした
その後ゆかりはカバンを拾うと汚れを軽く払い落し、老婆の元へ駆ける
戻ってみるとどうやら老婆は大した怪我はなくMP5による応急処置だけで大丈夫であったようであり、近くにあったベンチにMP5と共に腰掛けていた
ゆかりが声を掛けると老婆はこちらを向き、ゆかりの姿とその手に持った自分のカバンを視界に収めると酷く嬉しそうにゆかりへと笑顔を向ける
そしてゆかりの手を取って何度も感謝を述べるとカバンを手に歩いて行った
その様子を見てゆかりは心に温かいものが広がるのを感じる
やはり誰かを守るのは良いものである、V.S.に所属していたゆかりがあの老婆を助けられたことに満足感を得るのは当然であった
「お疲れ様、ゆかりさん」
「お疲れ様です。怪我とかしてませんか?一応絆創膏とかありますけど…」
達成感を感じているゆかりの元に葵ときりたんがやってきて声を掛けた
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、あの程度なんてことはありません」
「怪我がないなら良いんですけど…あれってあの程度ってレベルですか?」
「私はそうは思わないかな…てかどんだけ足速いのゆかりさん。運動神経が良いのは知ってたけど…」
「まぁ…相当に鍛えましたからね」
「さて、皆さん。お話をするのも良いのですが、その前にしなければいけないことがあります」
ゆかり達の話をMP5が遮り、少し真面目な話をし始めた
曰く、事件に関わった以上はこの街の警察機関に話を聞かれるし先程の銃声のことも詳しく聞かなければいけないとのこと
詳細をゆかりが話すとMP5はタイヤをパンクさせてしまった男性のところまで案内するよう指示し、辿り着いた後はその男性に事情を話して謝罪をした上で後日弁償することを約束した
勿論この時ゆかりも頭を下げている
それに対して男性は理解を示し、それなら仕方がないと納得してくれた
そしてその後は警察による事情聴取である、酷く面倒なものではあるが受けない訳にもいかない
幸いにもゆかりがS09H基地の所属であったことから深い追及は受けず、出来る限り発砲は控えて欲しいとだけ言われて解放された
ゆかりは待っていてくれた葵ときりたんにお礼と謝罪をし、駐車場へと行くと車に乗り込む
そして基地へと帰るのであった
「ゆかり」
「はい?ああ、スカーレットさんでしたか。何か御用でしょうか」
「話がある、付いてきてくれ」
「ええ、分かりました…」
基地へと帰って仲間達と少し談笑をしてから別れ、用を足してトイレを出たところでスカーレットに声を掛けられた
だが口調と表情が少し硬く、何処か怒っているようにも見受けられる彼女にゆかりは困惑しながらも付いて行く
誰もいない会議室へ辿り着くとスカーレットはゆかりへ振り返り言葉を紡いだ
「今日街であったことは報告を受けている。大活躍したそうだな」
「そんな、大活躍という程では…」
「お前の行動は多くの住人が目撃し、その行動を賞賛している。それに軽犯罪とは言えほぼ1人で解決したことに変わりはないだろう、街でも早速噂になっているみたいだぞ」
「それはそうかもしれませんが…」
「そう…‘諜報員候補’のお前が、‘多くの者に目撃されて’、あまつさえ‘噂になっている’んだ」
「あっ」
そこまで言われてゆかりはハッとした
そう、ゆかりは表向きはスカーレットの秘書ではあるがその実諜報部隊の隊員候補なのだ
諜報は隠れて目立たずに行うのが基本、大勢の目がある中で大立ち回りをして噂になるなどあってはならない
元V.S.の工作員であるゆかりもそれは十全に理解していたはずである
しかし日本脱出の際に隊長として多くの仲間を失った責任感から来るストレス、日本脱出という目的は達成しても安寧など程遠いという状況下でのストレス、ずん子と共に囮となって他の仲間を逃がしたは良いものの本当に逃げられているのか分からないストレス、ずん子を囮として付き合わせてより危険な方へ身を置かせてけがを負わせてしまった罪悪感によるストレス、そして自身が殺されて隣にいるずん子までもが殺されるかもしれないという恐怖や苦しみのストレス…ゆかりは日本組の中で最も多く、強いストレスに曝されてきた
そしてスカーレット達によって救出され、やっと生き残った仲間に安心出来る暮らしをさせてあげられると心から安堵した
しかしそれが油断となり、ゆかりに諜報の何たるかを忘れさせてしまったのだ
今回の失敗はそのことを忘れて即座に自分が動くと判断してしまったことにある
ゆかりはMP5が自分達を近くで見守ってくれていることに気付いていたのだから、彼女と他のLSPのメンバーに任せれば良かったのだ
実際あそこでゆかりが動かずともLSPならば同じ、いや寧ろより早く解決出来ていた
つまるところゆかりがしたことは諜報員候補としては間違いだったのである
「ごめんなさい…私、浮かれていたかもしれません」
「そんだけ分かってるならいい、今回のことは不問とする。以後気を付けろよ」
「はい…」
ゆかりは酷く落ち込むも、その胸中は複雑であった
確かに理屈上ではあそこで動いたのは間違いだった、しかしゆかりは元V.S.として何よりも無辜の民を守ることに信念を捧げていた
あそこであの悲鳴を無視するという選択はゆかりには選べない、選びたくない
それでもやはり諜報員になるのであればもう少し隠密に解決する方法を探るべきであったろう
例えばあの男を隠れながら尾行して家なりアジトなりを突き止めて誰にも見られないようにその中で片を付ければそれでいい
その後に手柄をLSPに譲れば誰もゆかりには注目しなかっただろう、もし動くのであればそうするのが正解であった
だがやはり…と心の中でループを続けて沼に嵌っていくゆかりだが、ふと頭を撫でられる感触がする
何だろうと顔を上げてみるとそこには笑顔でゆかりを撫でるスカーレットの姿があった
「確かにお前のしたことは諜報員候補ってことを考えりゃ褒められたことじゃねえ。でもな、私個人としてはお前の行動を高く評価するぜ!」
「え、それってどういう…」
「つまりさっきの説教はあくまでもお前の『上官』でありここの『指揮官』としてのものだってこった。私という『個人』からすりゃお前のしたことは非常に良いことだと判断する。お前のそういうところ、私は結構好きだぜ?」
「スカーレットさん…」
「それにV.S.のことを私は知ってたし、そこに所属してる奴らの想いも知ってたはずなのにお前をその信条に向かない性質の部隊に配属しようとしちまった。これに関しちゃお前が工作員だったって情報だけで提案しちまった私に責任がある、すまなかった」
そう言って頭を下げるスカーレットにゆかりは目を見開いて驚く
ゆかりから見たスカーレットという人物は心優しいところもあるが基本的に自信家で、少しばかり傲岸不遜の嫌いがあるという印象だったのだ
そんなスカーレットが素直に頭を下げて謝るというのは予想外であったし、背の高い彼女が頭を下げると頭の移動距離がかなりのものになることにも驚いた
「そんな、頭を上げて下さいスカーレットさん!今回のは私に自覚がなかったせいですから」
「…それなんだがな、もしお前が望むなら諜報員候補から他に移っても良いぞ」
「え?」
ゆかりに言われて頭を上げたスカーレットから驚くべき言葉が飛び出してくる
「それって…でも、どうして」
「さっきも言ったようにお前の信条とうちの諜報部隊とでは相性が良くないってこった。お前は優しい、それは美徳ではあるがあの部隊では時として…いや、常に非情にならなくちゃいけねえ。それなのにあそこに居続けたらいずれお前の心が壊れちまうかもしれないからな。そんなの私は望んじゃいねえ、だから異動した方が良いんじゃねえかと思ってな。それこそLSPに移るのもありだが…どうだ?」
「私は…」
ゆかりはスカーレットの言葉を受けて逡巡する
過去の工作員としての能力を活かすなら諜報部隊になるのが良い、しかしそこはゆかりの精神とは合わないとスカーレットは言う
確かにゆかりの信念等を鑑みれば配属先はLSPであるべきだろう
それでも彼女が迷うのはスカーレットが期待してくれたのを無碍にしたくないという想いと、日本人特有の一度決まったことを自身の失敗で変えるのに対する抵抗感が原因であった
「スカーレットさん」
「なんだ?」
「私、考えてみます。このまま諜報員になるべきなのか、それともLSPや他のところにいくべきなのか…今の私ではしっかりとした答えを出せそうにありません。ハイストレス状態とリラックス状態という両極端な状況が立て続けに来たせいで今の私は自分で思っているより混乱しているでしょう、ですから…」
「分かった。良いぜ、まずは心を落ち着けてゆっくりと考えな。焦る必要はないから、納得がいくまで考えろ。そんで詰まったら誰かに相談しな…つっても一応秘密事項ではあるから相談出来る相手はちぃと限られるか。私やクレア、イーサン。それとミレニアム8の面々に…あとはマキも良いだろう」
「え、でもマキさんは…」
「あいつはクレアの元でデータ処理の仕事をしてるしクレアはどうもあいつを後方幕僚にするつもりらしいからな…諜報員になったとしてもいずれあいつには知られることんなる。それに同じV.S.だったんだろ?だったら秘密は守ってくれるさ、親友なら尚更な。私が同じ立場なら寧ろなんで頼ってくれなかったんだって怒るところだ」
「そう、ですね…分かりました、考えが煮詰まったら相談してみることにします。スカーレットさん、ありがとうございます」
「おう。んじゃ時間も丁度良いし、晩飯にするとしようぜ。他の奴らも誘ってよ、バカ騒ぎしようじゃねえか!」
「偶にはそんなのも良いかもしれませんね」
「偶にじゃなくていつも、だろ?」
「…いつもは、流石にちょっと」
「なん…だと…!?」
先程までの重い空気は何処へやら、そこには和気藹々と会話をしながら食堂へ向かう2人の姿しかなかった
そして皆を誘ってスカーレットと、マキを誘った時に一緒に来たクレアとその夫であるイーサンも交えて賑やかに食事を摂るのであった
実はゆかりさん達を入れると決めた当初は信念的に合わない諜報部隊で苦しみながらも自分なりに答えを見つけていく、という予定だったのですけど考えてる内にちょっと可哀想に思えてきまして…なのでどうしようかなぁと思ってアンケート実施させていただきました
今後の展開に関わる結構重要なことだったりするので、良く考えて投票いただければなと思います(展開によってはゆかりさんが病む)
次回辺りからまた座学の2日目に入ろうと思いますのでそちらもよろしくお願いします!
ではまた次回(@^^)/~~~
ゆかりさんが何処に配属されるか
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諜報部隊
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LSP
-
その他(例:音楽隊のサブボーカルなど)