S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
てことで久しぶりに1万字を余裕で越えました
今回それだけ長いですが結構大事な内容なので(大事じゃない内容あんの?)ぜひお読みいただければと思います
それと前回の文章の極一部を修正しました
感想にて指摘していただけた部分を改めて見てみると確かに誤解を招くような書き方になってましたので…不適切な文章になってしまい申し訳ありませんでしたm(__)m
今回は…多分ないはず
何かありましたら遠慮なくご指摘ください
では、どうぞ!
スナイパースクール、座学の2日目も終わりに近い4時間目
今回の授業は久しぶりに通常の教室で行うということでFN49とモシン・ナガンは資料棟の教室へとやって来ていた
先の授業内容に対する復習も終えているので2人の会話の内容は専ら今回の講師が誰になるかの推測となっていた
「今までの傾向から考えてM200さんの可能性は少ないですよね…ないとは言い切れませんが」
「そうねぇ…今日の2時間目のことを考えるとワルサーだったりしてね」
「それもあるかもしれませんね」
「残念、今回の講師は私だ」
「うわぉ!?心臓に悪いわよ、同志…」
2人が話しているといつの間にか真後ろにスカーレットが立っており、唐突に話しかけてきたことで2人は大いに驚いた
「この程度の気配遮断で気付けないお前らが悪い。さぁ、さっさと授業を始めんぞ~」
「は、はい…」
FN49は未だバクバクと脈打つ心臓部を抑えながら授業に集中するべく意識を切り替える
モシン・ナガンも素早く意識を切り替え、その様子を見たスカーレットは秘かに2人を評価した
兵士となる戦術人形に取って意識の切り替えは最低限必要な能力ではあるが、やはりその速度や練度には違いが出る
モシン・ナガンはそれほど戦場に出たことはなく、FN49に至っては全くないにも関わらず最初からそれなりの切り替えが出来るのは良いことだ
その事に彼女は内心驚きつつも2人への期待度を上げるのだった
「さて、今回はいよいよ実戦でのスナイパーの任務の流れを見ていくぞ。今までは基礎知識のようなものだがここからはこれまで教えたことを元にどう動くのか、後はマークスマンやスナイパーハイドに関しても触れていく。ここら辺の教育は経験がものを言うからな、私以上に適任はいねえだろ。ハッキリ言うがどんなに経験豊富な戦術人形だろうが私以上の経験を積んでる奴はいねえ。グリフィンで私以上の経験値を持つ奴なんてクルーガーくらいじゃないか?正規軍で言えばカーター辺りがそうだが、2人とも既に第一線は退いてるからこれから私が上回るかもな」
「まぁ…そりゃそうよね」
「20年以上の経験値は大きすぎますよ…」
「そういうこった。さて、まずはスナイパーの編成と人数に関して見ていくか。今までの授業でも言った通りスナイパーは偵察兵だ。アメリカ陸軍の一般的な歩兵大隊じゃ大隊本部中隊に『スカウト小隊』があってその中の『スナイパーセクション』にスナイパーが配置されている、因みに定員は6名だ」
「結構少ないわね…大隊の規模を考えると本当にそれで足りるのか不安になるわ」
「そう思うのも無理はねえな、だがそれで事足りる程にスナイパーってのは大きな脅威でありそれと同時に狭き門でもあるってこった。それと大隊や中隊、小隊に関しては解説してくれている基地があるからそこの解説を観ておけ。他にも色々とあるから全部観ておいて損はない。話が逸れたな、元に戻すぞ。因みに定員に関してだが小隊によってはスカウトチーム×3、各チームにスナイパー2~3名という場合もある。つまり多くても9人ってこったな」
「それでも最低600人規模の部隊の中に9人ですか…」
「どれほど厳しいのかが良く分かるわね…ってそう言えば指揮官って階級は中佐だったわよね?もしかして…」
「そうだな、その気になりゃ私は大隊を指揮出来るだけの権限を持ってたってこった。まぁ私は現場派だし、貴重で超優秀なスナイパーだったからやったことはねえが」
「自分で言うのね…否定は出来ないけれど」
「それくらい豪語出来るだけの自信を付けろってことだ。後で話すが自信のねえ兵士はダメダメだからな。さて、そんなスナイパーの配置されているスカウト小隊だが小隊軍曹(小隊長の補佐をする下士官:一等軍曹)やセクションリーダー/チームリーダー(二等軍曹)がスナイパーの資格を有していることも多い。要するに隊長以下の人員全てがスナイパーって感じだと思ってくれていい。無論、小隊長がスナイパーの場合もある。だがそうは言ってもそうした下士官が狙撃任務に就くことは殆どなく、本来の役割に徹することが多いな。こうした人員がスナイパーであるのは単に自身がスナイパーであればスナイパーの運用や行動理念、思想が分かるから便利って理由からだ」
「なるほどね…私達は指揮官の指揮に従うこと以外は殆どないけれど、編成によっては別の誰かの指揮に下ることもあり得ると思っていた方が良いのかしら?」
「そうだな。さっきも言った通り私は現場派だ、正直指揮を執るのは性に合わねえ。だからここではジェリコやワルサー、クレアなんかが実質的な指揮を執る場合も多いぞ」
「そ、それで良いのでしょうか…?」
「良いんだよ、作戦を成功に導いて任務を達成出来てりゃあな。より成功率が高い方を選ぶのに何を躊躇する必要がある?」
「そ、それはそうですが…」
「その辺に対する柔軟な発想も優秀な兵士には必要になってくるぜ、今は納得出来ないかもしれねえが…いずれ分かる。何より戦場はそんな甘い場所じゃねえからな、規律云々で死ぬくらいなら無視した方が良いに決まってらあ。さ、ここからはスナイパーがどのように運用されるのかの実例を見ていくぞ。シャキッとしろ」
「は、はい!」
「まずは最も一般的な『偵察任務』での運用について述べる。スカウト小隊スナイパーセクションから情報収集・偵察のため2名のスナイパーを用いるとしよう。他にはそうだな…この任務では接敵の可能性が高いとする、よってスナイパーチームをバックアップする目的でB中隊第3小隊をセキュリティーとして付随させる。無論第3小隊がスナイパーチームと共に行動しちまえば少数の偵察ユニットの意味が損なわれる、その為小隊は被発見率を下げる為にやや後方で待機してスナイパーチームのみが目的地までの潜入・浸透を行う。浸透に関しては覚えてるか?」
「勿論よ、同志。ワルサーに空挺資格を取らせるから覚悟しなさいって脅されたもの、忘れようがないわ」
「良いだろう。因みにこの時のスナイパーチームを含めた部隊の指揮は第3小隊が執る。そしてスナイパーチームが偵察する目的地を
「了解です」
「よし、じゃあ次だ。次はそうだな…要人警護について話していこう。グリフィンだと考えられるのは本社の重鎮やIOPのペルシカの護衛とかになりそうだな。今回は…こんなことはこれから先起こることはまずないだろうが、次期戦術人形開発の資料収集の為にペルシカが戦闘地域を訪問して来ると仮定しよう」
「割ととんでもない仮定ね…」
「だが分かりやすいだろう?」
「それは、まぁ…」
「さて、このペルシカの安全を確保するためにスナイパーを
「カウンタースナイプ…スナイパー同士の対決ですよね?」
「簡単に言えばそうだな。ペルシカが敵スナイパーの狙撃によって負傷を負えばIOPにとってもグリフィンにとってもかなりの大損害を被る可能性が高い。そして敵の迫撃砲とかそういったものは比較的見付けやすいがスナイパーとなるとそうもいかん。スナイパーは環境に溶け込み隠密に行動する、普通の歩兵にその存在を看破して排除するのはまず不可能だ。スナイパーの心理や行動を読み取って排除することが出来るのは実質スナイパーだけだと言って良い。他にはスナイパーがいそうな所にしこたま迫撃砲を撃ち込んだり、ガンシップで掃射なりして一帯を面的に薙ぎ払うような攻撃をするしかないな」
「それをされるって考えるとおっそろしいわね…」
「実際かなり怖いぞ?私もクレアと2人で行動してる時、コブラ3機に野山を追い回されたことがあるが…あれは勘弁してほしいぜ、2度と体験したくねえ……」
「良く生き残ってたわねその状況で!?」
「まあな。だが昨日の授業でも言ってたろ?ヘリを含めた航空機ってのは飛翔する為に軽量に作られている、だから脆弱な部分を撃ち抜けば行動能力を奪って撃墜させることも出来るんだよ」
「え、まさか指揮官…」
「ああ、その時は必死でコブラのローターを狙撃によって破損させて墜とした。クレアもM110 CSASSに取り付けたM203で1機墜としたな。人間、極限状態になると自分でも思ってないような実力を発揮するってのをあの時初めて実感したぜ」
「うへぇ…」
スカーレットの話を聞いたFN49とモシン・ナガンは非常に表現しにくい表情をしていた
彼女のしてきた壮絶な経験に対する驚きやその突破方法に対する呆れに尊敬、そしてもしかしたら自分もそういう目に遭う可能性がなくはないという恐怖かが混じり合っている
「とまぁ、話はちょいと逸れたがこれが要人警護の大体の流れだ。さっきの例だと場合によっては私の部隊だけでペルシカを護衛するってのも考えられなくはない。そういった時には私の指揮下のままだったりするし、もしくは正規軍の部隊が出張るようならそこの指揮下に入ることも考えられる。いずれにせよ要人警護を行う際にはどの部隊の指揮下に入るかを常に意識しておけ。次に行くぞ、次は…今は滅多にすることはないだろうが砲撃誘導支援もスナイパーにとって重要な任務だ。UAVフィードやスナイパーの偵察によって鉄血の拠点の位置を捕捉、その後155mm砲で砲撃することが決定したとする。そうすると砲弾の着弾観測をするため、砲撃誘導員を敵拠点を見下ろせる観測点まで送り込まなければならなくなる。この時、砲撃誘導員を支援する目的でチームを編成するとしよう。スナイパー2名、メディック1名、スカウトセクションリーダー1名の計5名のチームを組もうか」
「ん?さっきセクションリーダーが出ることは少ないって…」
「そう言ったな。だが決してないわけじゃねえ、今回のように作戦の可否が超重要でこれからの戦局を大きく左右する場合には出張ることもある。例えばこの仮定に於いて発見したのが鉄血の本拠地…エルダーブレインのいる拠点だったりとかな」
「それは…デカいわね」
「だろう?そういう責任重大な任務の際には下士官とか士官とかそんなの関係なく経験が豊富で優秀な奴を向かわせる必要がある。それが今回はセクションリーダーだった、って感じだ。後は責任の所在を明らかにして失敗時の揉め事の回避や発生時の早期解決のため…ってのもあるがな」
「ちょっと、嫌な理由ですね…」
「私もそういう理由なのはイケ好かねえ…だが重要だ。失敗しても素早く次の行動に移すために、取り敢えず責任を擦り付ける相手を決めとくと便利なのは確かだしな。あとこれは昨日の授業でも言ったが、スナイパー自身が砲撃誘導資格を取得している場合はスナイパーチーム2名のみで作戦に当たることも可能だ。隠密がなにより求められる状況であればそうすべきだな」
「ふむ…何をするにしても状況次第ってことね」
「そういうこった。スナイパーの運用用途は非常に幅広い、全部言ってるとキリがねえからここら辺で切り上げて次に移るが…これらはあくまでも極一部に過ぎないってことを覚えておけ。またここから少し蛇足になるが、FN49の今後に関わる点だから話しておく。スナイパーの運用担当者はISR(情報収集・偵察)の上では大隊S2(情報担当幕僚)が大きく関わることになるが、運用決定権は大隊S3(作戦担当幕僚)が持つ。無論最終決定権は大隊長にあるがな。スナイパーをどのように活用するのか、小隊長や大隊S3、そして大隊長の経験や判断能力…何より連携が求められる。だがここで1つ問題が発生する。それは分隊が行動している際に精密な射撃能力を有する者でなければ排除出来ない脅威が突然現れた時だ。スナイパーってのは簡単に言っちまえば本部の指示によって動く兵科、分隊長の要請があったとしてもすぐさま動かせる存在じゃないってこったな。分隊長から要請があり、状況説明などを受けて本部で話し合ってスナイパーを派遣するしないを決定する…なんてしてたら時間もかかるし状況次第ではその分隊が壊滅するかもしれねえ。そんな時に分隊長の一存で運用出来る簡易的な狙撃手がいると便利だよな?それが所謂マークスマンってやつだ。厳密に言えば
「は、はい!」
「私がならないのはボルトアクションだからかしら?」
「まぁぶっちゃけるとそうだな。別にマークスマンの持つライフル、所謂DMRがセミオートでなければならないなんて規定はないんだが…任務の性質を考えればセミオート一択だろう。流石に現代戦で分隊に属する者がボルトアクションライフルを扱うのは厳しいものがある。どうしたって連射性に欠けるし作戦行動に枷を掛けるようなもんだ。またセミオートだとどうしても火力が乏しくなりがちなことから最近ではDMRにM203みたいなアンダーバレルグレネードランチャーを装着することも増えている。他のアサルトライフルを持った奴で制圧してる間にグレランで一掃する、って感じだな」
「でも私の銃にはそんなものを取り付ける機能は…」
「安心しろ、試験に合格した暁には原型を留めない程の先進的改修を施したものをくれてやる。無論今までと使い勝手が異なるから追加訓練は必要になるが…なぁに、私の試験を突破出来る能力があるならすぐに使いこなせるようになるさ。これはモシン、お前にも言えることだからな?」
「そう言えばM14さんの銃も原型を留めていませんでしたね…」
「言われてみればそうね…でも私の銃がどんな風に改造されるのか、ちょっと気になるわ」
「見てみたいなら一刻も早く試験を突破してみせろ。さて、実際の任務内容の軽い説明はこれくらいにして次に移るか。今から説明するのは『スナイパーハイド』だ」
「さっきも言ってたけれどそれって何なのかしら」
「スナイパーハイドとは、スナイパーが敵性領域に潜入・浸透した際に構築する拠点のことだ。…お前達の言いたいことは分かってる、それってLP/OPと同じじゃないかってこったろ?」
「ええ。違う物なのですか?」
「大体は同じだが、ニュアンスが違う。LP/OPはどちらかと言うと『監視拠点』だ。別に目標が所持ライフルの射程外でも構わん、本質的には攻撃ではなく情報収集のためのものだからな。それに対してスナイパーハイドは『狙撃拠点』、つまり目標がライフルの射程距離内に納まる位置に作らなきゃならねえ。こっちは攻撃がその本質となるからな、攻撃出来ない位置に作っても何の意味もねえぞ」
「なるほど、理解したわ」
「だからスナイパーハイドは『一連の任務に於けるスナイパーの最終拠点』って言い方も出来るかもな。基本的にスナイパーはスナイパーハイドから狙撃を行った後は速やかに離脱を行う、その為スナイパーハイドがスナイパーにとって最後に身を落ち着ける場所になったりするんだ。そしてこのスナイパーハイドはLP/OPと同様周囲の環境や状況に適応するように構築する。当然、OCOKAについて完璧な理解がなけりゃ到底出来ねえ作業だな。敵からの視認性や攻撃からの防護だけじゃなくて天候も考慮に入れる必要があるぞ」
「確かに雨だと狙撃は難しくなるものね…レンズに雨粒がついたりしたら狙撃どころじゃないわ」
「そうだな。だが雨という天候はスナイパーにとって味方にもなる。雨音は足音を消してくれるし雨の匂いは人間の汗や人形の生体パーツの匂いを隠してくれる。潜むには好条件となるんだ、対して狙撃する際にはモシンのいうように視界は悪いしレンズに雨粒が付きゃあ正確な狙撃なぞ出来るわけもない。だからスナイパーハイドや周辺にある木なんかを利用して雨が狙撃の邪魔にならないようにしてやるのさ。視界が悪いのはどうしようもねえが、それも慣れりゃ結構当てられるようになる。そして雨は分かりやすいが、快晴も時に邪魔になる。あまりにも日照りが強いと蜃気楼が発生したりレンズに多くの光が入りすぎて目標がレンズ越しに見えなくなることもある。場合によってはそのまま目をやられて兵士生命が絶たれたりな。そうした時には自身の周囲を暗くして余計な光が入って来ないようにしてやることである程度軽減することが可能だ。これは昼間の砂漠なんかに多いな。当然、周りから見て不自然にならないよう気を配る必要があるぞ」
「そっか、晴れてても狙撃に悪影響が出ることはあるんですね」
「そうだ。これは戦術人形であるお前達にはあまり関係がないが、人間には人種というものがある。私のような白人は虹彩の色が淡い関係上、夜目が効きやすい反面強い日差しに弱いといった弱点がある。そういった場合にはサングラスを掛けて狙撃を行ったりするんだ。正確にはサングラスじゃなくて特殊な加工を施したシューティンググラスだが…似たようなもんだな。当然スコープのアイリリーフをその分調整しなくちゃならねえし、普通に裸眼よりも視界は悪いから慣れが必要だ」
「もしかして同志が普段からサングラス掛けてるのって…」
「ああ、そうだ。そういう状況になった時の為に普段から慣らしてる。また眼鏡の問題は何も人種だけに留まる話じゃない、お前達戦術人形にも関りがある点で言えば砂塵の舞う環境だな。当然目に砂が飛んで来るような状況じゃちゃんとした狙撃は出来ない、その際にゴーグルをつけることもある。それにレンズに砂がぶつかりまくって傷が入ると厄介だ。そうした影響を最小限に止められるようなスナイパーハイドの構築はスナイパーにとってかなり重要な項目なんだよ」
「なるほど…これはいち早く習得しなきゃダメですね」
「スナイパーハイドの重要性については理解したな?じゃあ細かい説明に入るぞ。まずハイドの位置はマップ・リコン(地図、衛星や航空写真、UAVフィードなどで得た情報を元に分析する偵察行動)によって出撃前に予め使えそうな場所を候補として見付けておけ。可能であればハイドと目標の間に何らかの移動を遅らせる障害物…OCOKAの2つ目のOだな、これがあるのが理想だ。万が一自分の位置が補足された時に離脱する時間が稼ぎやすいからな。私の経験談だがアフガニスタンに派遣された時、敵兵は必ず川の対岸…それも橋からかなり離れている位置からアンブッシュを仕掛けてきた。少数、小火力で大きな敵と戦うには敵の追撃を妨害する地形の利用ってのは戦術の基本だってこった。その時は私が狙撃による面制圧をしている間に回り込んだ歩兵による強襲でなんとかなったが、状況次第ではこっちがやられてたかもしれねえ。話を戻すが、ハイド構築する際にはそうした障害物以外にも離脱するための出入り口を必ず設けることも注意しておけ。そして出入口はドアやカーテン状のもので覆って出入りする時だけ開けるようにする必要もある。これは差し込む光によって射手の視界を妨害しないこと、そして敵兵からの被発見率を下げる為だ。当然この出入口は外から見ても分からないようにカモフラージュしなければならない。それとハイド内やその付近での動きは必要最低限に抑えろ。スナイパーチームは自身の存在が常に敵のカウンタースナイパーの視界内にあるという意識で行動するんだ」
「かなり…精神的にキツそうね」
「ああ、実際身体も相当キツいがそれ以上に精神を摩耗するな。そして精神が摩耗したことによってより一層体力が削られていくという悪循環に陥りやすい、そうならないようこれから滅茶苦茶に追い込んで精神力を鍛えまくるぞ」
「…が、がんばります」
「良いぞ、怯んでいても気概を持ってそんな自分を鼓舞出来るなら上出来だ。お前達には期待しているからな、精一杯努力してくれよ?さて、ハイドの概要を説明したところで次に教えるのはハイドの種類だ。まずは今から書き出すからメモしておけ」
⑴ ベリーハイド
⑵ インプローヴド・ファイア・トレンチハイド
⑶ セミパーマメントハイド
⑷ ルームハイド
⑸ クロール・スペースハイド
⑹ ルーフハイド
⑺ ツリー・オア・スタンプハイド
⑻ インプロヴァイズドハイド
「以上が代表的なハイドだ、これから1つずつ見ていくぞ。まずは『ベリーハイド』、これは私とM200があの時作ったものだな。簡易な構造で機動性を必要とする任務に於いて選択されるハイドだ。短期間のみ使用することが前提となるな。地面の土を最小限(下半身が地表面より下になるように)掘る、もしくは同様の地形を利用する。横幅はスナイパーとスポッターが2人並んでうつ伏せになれるくらいだ。頭と肩が露出するからギリースーツの着用が必要不可欠となる。また、ネットやメッシュなんかで上面を覆うことも多いな。素早く構築出来て構造もシンプル、機動性を重視する際には複数地点に構築して移動しながら使うなど応用が効きやすいのが利点だ。だが簡易であるが故に快適性に欠け、長期間の使用が困難であることと雨などの天候の影響をガッツリ受けることなどが欠点だ。とは言え現代戦に於ける屋外戦闘ではこのベリーハイドを築くことが多い、そういう意味では最も多くのスナイパーに愛用されたと言っても過言じゃないと思うぜ。次の『インプローヴド・ファイア・トレンチハイド』だが、これはつまるところ歩兵の塹壕だ。現代戦では使われず、過去の遺物となっている…が、それはスナイパーハイドとして見た時だ。大規模な軍隊同士が正面切ってドンパチやる場合、塹壕は歩兵にとって心強い防御壁となる。今ではそう言った戦闘がほぼ起こらないという意味で過去の物ってことだな、状況次第では構築することもあるかもしれないから一応知っておけ」
「塹壕自体に効果がなくなったんじゃなくてそれを有効に使える戦闘が行われなくなったからってことね、了解よ」
「戦闘の性質が変わった…という解釈であってるでしょうか?」
「それで概ね相違ないぜ。時間も惜しい、次々行くぜ。次は『セミパーマメントハイド』だな、これは十分な深さと広さを持っていてある程度の防護性を持つ天蓋に覆われたものだ。文字通り半永久的な構造物で、冷戦期なんかには国境線とかに構築されていたらしいな。スナイパーチームが交代で使うことも多い、その際にはレンジカードの譲渡と説明を怠るなよ。こういった使用をする関係上これは自軍の支配領域の監視及び狙撃地点として構築することが多いな。当然この基地の周辺にもいくつか存在している、見付けるのは困難だろうが是非探してみると良い。次の『ルームハイド』だが、これは市街地で適当な部屋を見繕って窓や壁の穴から視界と射界を得るものだ。これに関しては後で詳しく話す」
「視界も射界もかなり狭そうなんだけれど…本当にそれでイケるの?」
「安心しろ、現代に於ける市街地戦ではまず間違いなくこのルームハイドが用いられる。それ即ち有効だってこった、問題点がデカけりゃ長い間使われ続けるなんてことにはならねえからな」
「そうかもしれませんが…それでもちょっと不安ですね」
「ま、気持ちは分かるぜ。それに関しちゃ後々の説明と実際にやってみて払拭してくれ。さて、次の『クロール・スペースハイド』なんだがこれは屋根裏や岩の隙間なんかの這って入れるスペースを利用したハイドだ。わざわざ道具を用いて構築する手間はないが素早い離脱が難しい点や埃、虫なんかの不快及び危険な要素が多くなりがちな点に注意しろ。お前達戦術人形は生物毒の幾つかを無視出来るが中には無視出来ないものもある、特に出血毒を持つ蛇には注意しろよ。そして『ルーフハイド』は読んで字の如く市街地で屋根の上に置くハイドだ。主に自軍がその領域を支配している場合に使われる。特に味方が制空権を確保している場合になるな」
「埃はともかく虫は嫌ね…蛇も嫌だけど虫よりはマシよ」
「私も虫は苦手です…」
「安心しろ、蛇に関してはその内旨そうに見えるようになるから。それに虫だって結構旨いしな」
「…同志、貴女まさか」
「無論、蛇も食わすし昆虫食に関しても叩き込んでいくぜ?」
「うっ…」
スカーレットの言葉に思わずFN49が口を抑えた
モシン・ナガンも顔を顰めて嫌悪感を露わにしている
しかし戦場では常に安全で綺麗な食事が摂れるとは限らない、無論そうであるに越したことはないのだがそうもいかないのが現実だ
それに昆虫食はれっきとした文化として古来より続いているものだ、その歴史の積み重ねにより美味しい虫や調理法も多数発見されてきた
蛇も戦場に於いては御馳走だ、何より鹿や猪と比べて遥かに少ない労力で確保出来る点が評価出来る
更には調理の手間も大してかからず腹も膨れるとなれば重要な食料となるのは当然であろう
当然ながら毒には気を付けなければならないが
蛇は神経毒と出血毒を保有している可能性があるため、食す際にはしっかり同定作業をしておこう
「ま、その辺は後々教えてやるから覚悟だけしとけ。さて次は『ツリー・オア・スタンプハイド』だな。こいつは大木や切り株なんかを上手く利用してその後方や横に配置するハイドだ。この時森林の外縁じゃなくてやや奥まった場所を選ぶのが基本だ、なんせ被発見率が格段に低下するからな。木のせいで射界は限定されるが被弾率もその分下がる、安全性を優先するならこいつを選ぶと良いだろう。最後の『インプロヴァイズドハイド』は文字通り
「こうしてみるとスナイパーって本当に大変なのね…今までの自分が恥ずかしいわ」
「仕方がありませんよモシンさん。私達にはここまでの専門知識はインストールされてませんし、一般募集も広く行っているグリフィンでは指揮官のようにこうした教育が行える人も少ないでしょうから…」
「そうだな、そこら辺はグリフィンにとっての課題だろう。機会さえあればグリフィンの指揮官や戦術人形を集めて今してるようなスナイパースクールを大々的に行いたいくらいだ。とは言えそこまで安泰した戦況じゃねえから出来ないんだがな…やれやれ。ま、そんな話は置いといて続きだ。さっきスナイパーハイドに於ける快適性は重要度が低いみたいなことを言ったが、気にしなくてもいいものかと言われればそれは違う。ハイドからの監視というのは非常にストレスの溜まるものだ、可能な限り心身に負担がかからないように配慮した方が良い。監視時の姿勢や保温性、通気性なんかだな。長時間の任務になるならハイド内に座ってくつろげるような場所を設けるのもありだ。当然、快適過ぎて眠くなるようなのはダメだがな?また、ベリーハイドなどではこうした休憩スペースを設けることは不可能だ。そこら辺も考慮してどんなハイドを構築するかを考えろ。そしてハイドは短時間で、堅牢且つ隠密性の高いものを作ることが求められる。だが構築に必要なEツール(折り畳みシャベル)に斧や鋸といった道具、それに土嚢なんかはかなり嵩張る。スナイパーチームは最小限何が必要かを事前に話し合って少ない持ち物で最大の効果を得られるように取捨選択をする必要がある。その為にも普段から少ない工具でハイドを構築する訓練を行っておくべきだ、勿論ここでもそうするぞ。さて、市街地に於けるスナイパーハイドの話をする前に身を潜めたスナイパーが映った写真を3枚見せる。この中からスナイパーを見付けてみろ」
「…わっかんないわ」
「全然見つかりません…」
「ま、だろうな。この写真たちはこれでも比較的近距離から撮られている、それでもこの見付けにくさだ。これが1kmも離れてたらまず普通の歩兵に見付けるのが不可能なのも頷けるだろ?訓練を続けていけば自然とスナイパーの思考が読み取れるようになるからこの距離なら意外とすぐに分かるようになる、訓練の途中にまたこの写真を見せてやるからその時に成長を実感しな。さ、今から市街地に於けるスナイパーハイドについて少し詳しく教えていくぞ。結構重要だからしっかり聞いとけよ?」
「はい!」
「分かったわ」
「良い返事だ、じゃあ行くぞ。まず市街地の建物を利用したスナイパーハイドってのは森林や砂漠地帯のハイドと比較して格段に遮蔽と隠蔽の効果が期待出来る。壁や天井で覆われてるから天候からの防護性にも長けているなど利点は多いが、同時に欠点…というか注意点も当然ながら存在する。まず目立つ建物内に潜むのはNGだ。ハイドを構築するには建物の選択が重要となるが、例えば周囲に何もなくてポツンと立っているものや周囲よりも飛び抜けて高い塔などは目立つから避けろ。簡単に位置バレする。特に高い塔は視界が広くてLP/OPとしてはメリットがある分選びがちだ。だが狙撃することを考えると発砲後の被発見率も高いし脱出ルートが限られるしでデメリットが多い。特に敵が迫撃砲やロケットランチャーなんかを持ってたらそれを撃ち込まれて塔が倒壊、そのまま死亡なんてことにもなりかねねえ」
「それは勘弁願いたいわね…」
「だろう?実戦ではこうしたメリット・デメリットを理解して臨機応変にLP/OPやスナイパーハイドの位置を判断する能力が必要だ。そして身を潜める市街地が高層化のなされていない一般的なものであった場合、ハイドは2階に構築するのが良いだろう。人ってのは意識せずに2階を見上げることは少ない、よって通行人からの被発見率が低くなる。逆に言えば敵スナイパーもそうした箇所に潜む可能性がある、注意した方が良いぞ。それと視界と射界の確保方法にも注意しろ。どちらも市街地の場合は窓から得るのが一般的だが、視界・射界を意識するあまり窓に手を加えるのはNGだ。外から見た時に不自然な印象を与えちまうからな。例えば窓ガラスが汚れてて外を見にくくてもその汚れを拭き取るのはダメだ。また、多くの窓にカーテンがあるような建物なら視界が狭まるからってカーテンを外すようなことはするなよ。さっきも言ったようにハイドは『外から見て溶け込む』ようにしなければならないからな」
「逆に言えば溶け込めるなら手を加えてしまっても良いんでしょうか?」
「その通りだ!良い着眼点をしてるな、FN49。実際窓以外にも視界・射界を得る方法は無数にあり、ドリルで壁に穴を空けるなんてのも手だしレンガなど壁面の一部を取り外す方法もある。一見すると不自然極まりない感じになると思うだろうが、元より戦地になるような市街地には崩れた建物や崩れかけているものも多くある。そうしたものが近くにあるならそれは不自然にはならない、寧ろより自然になる可能性すらあるな。そしてこういった工作を行わなくとも最初から崩れかけた壁の穴をそのまま視界・射界を得る穴にしたって良い。そして次に脱出経路を『複数』確保することにも留意しろ。当然正面玄関などの目立つ場所からの離脱は余程のことがない限りナシだ。裏口や地下道(下水道)へのルートを確保しておけ。かなり目立つが状況次第では屋上からヘリにピックアップしてもらうこともあるしラぺリングで地上へ降りることもまたある。その為天井への経路と言うのも出来るだけ複数確保しておくと良いだろう。その気になれば天井から跳躍して隣の建物などに飛び移ってそこから地下道へ入って離脱、なんてことも出来る。だから余裕があるなら自分が隠れる建物だけではなく周辺の建物の内部構造も調べておけ。市街地は森林や砂漠と比べて交戦距離が短く、位置が露見すれば敵は短時間で迫って来る。それに死角も多い、建物の影に隠れてこっちが気付かない内に敵に接近される可能性も高い点にも注意するんだ。後は迷彩の選択だな。スナイパーに限らず兵士は地味な色の迷彩服等を着用するが、市街地はコンクリートグレーや土の茶色だけじゃなくて赤や青に黄色など鮮やかなカラーリングのものも存在することを忘れるな。地味な迷彩服が却って目立つ可能性があることは常に頭に入れておけ。それから靴の選択にも注意しろ。通常戦場に出る際は頑丈なジャングルブーツなどを着用するが、こうしたブーツには内部に鉄板が入っているものが多い。堅いブーツは大きく響く足音を発生させ、被発見率を高める要因となってしまう。だから市街地では靴底が柔らかい素材で出来ているトレッキングシューズなどを履くことを推奨する」
「想像してたよりも注意しなきゃいけないことが多いですね…特に靴は盲点でした」
「そうよね、普段私達ってこれが戦闘服でもあるからそこら辺あんまり気にしないものね」
「ぶっちゃけそこに関してはIOPの考えが一切分からんな。特にFN49の服なんて目立ちすぎて『見つけてください』って言ってるようなもんだ」
「うぅ…確かに」
「まぁ普段は別にそれでも良いんだけどな…ただ任務に赴く際にその服装なのは頂けない、着替えるようにな?モシンの服は雪原地帯ならカモフラージュ効果を得ることが可能だがそれ以外では非常に目立つな。白を基調とした街並みなら市街地でも同様の効果が得られる可能性は高いが…そういう街はあまり戦場になることがないんだよな、不思議と」
「…言われてみればそうね。どっちかって言うと観光地みたいなイメージしかないわ」
「っとまた話が逸れたな。まぁ要するに服や靴なんかの身に着けるものなんかも気に掛けろってこったな。そして市街地では室内をハイドにするわけだから、当然室内から狙撃を行う。そして室内射撃を行う際にはループホール(開口部)から可能な限り下がって行うのが定石だ。普通近付くんじゃないのか?と思いがちだが逆だ。ループホールに近い程被発見率が高くなるってのが主な理由だが、他にも離れるメリットはある。例えばループホールから下がることで部屋の空間が疑似的なサプレッサーとなり、減音効果を発揮する。こうすることで『外に聞こえる射撃音』が小さくなることから敵に射撃位置を誤認させることが可能だ。要するに発砲音が小さいから実際の距離よりも遠くから撃たれてると錯覚させることが出来るってこったな。サプレッサーを使用すりゃあ更に隠匿性は高まるが、サプレッサーを使うと音の質がかなり変わるな。そうすると敵にもサプレッサーを使ってることがバレて近くにいると気付かれる危険性がある、状況を見て『敢えてサプレッサーを外す』という選択を取るのもありだ。ただし、そうやって工夫しても連続した射撃を行えば敵に発見されやすいから緊急時を除いてしないようにしろよ。それとループホールからの射撃で最も多いミスがサイトラインとボアラインのズレによるものだ。サイトラインってのはスコープやサイトから伸びた線、ボアラインは銃口から伸びる線のことだ。スコープでは見えてても銃口の先が壁で塞がってて弾丸が壁に当たる、ってミスだな。当然敵に弾が当たらなくなる可能性が高いし、最悪の場合跳弾で負傷する危険性もある。そんなことになれば絶体絶命になることも少なくない、射手はサイトラインとボアライン両方を常に意識して撃てるかどうかの確認をしろ」
「自分だけじゃなくて仲間まで危険な目に遭わせかねないものね…気を付けるわ」
「皆の為にもミスは出来ませんものね…私、しっかりやってみせます!」
「良い気概だな、FN49。ワルサーの訓練のお陰か。対してモシン・ナガンが落ち着いていて冷静なのはM200の影響か?どっちにせよ良い傾向だ、今まで見てきた中でも結構な有望株だぞお前達は。無論、お世辞抜きでな。いずれは私を凌駕するようなスナイパーになってくれることを期待している」
「か、壁が高い…高すぎるわ」
「流石にそこまでの自信はまだありませんよ…」
「やれやれ…ま、これから訓練していきゃあどんどん能力を開花させていくだろ。お前達はワルサーやM200だけじゃなくて私も見込んで期待している、その事を忘れるなよ?」
「は、はい!」
「しょうがないわね、やれるだけやってやるわ!」
「良い顔してんじゃねえか。さて、今回の授業で説明することは全部終わりだ。あと少しだけ時間も残ってることだし何か聞きたいことはあるか?疑問点があるなら遠慮なく聞け」
「あ、それなら私これが気になってたんですけど―――」
その後FN49とモシン・ナガンは時間いっぱいまでスカーレットを質問攻めにした
たがそんなスカーレットの顔は嬉しそうであり、2人の積極性を心から評価しているようである
「こいつらは間違いなく化ける」、そんな確信を抱くスカーレットは授業時間が終わるまで彼女達に自分の持つ知識を次々と教えていくのであった
スカーレットがFN49とモシン・ナガンをベタ褒めしていますね、これは後々の主戦力だ間違いない
そして作中にもある通りこの2人が試験を突破した際にはマジで原型留めない程に銃を改造します
流石にあのままで現代戦、特にスカーレットの基準を満たすのはちょっと無理があるので…それを不快に思う方には申し訳ないと思います
寧ろ早く見せろという方はお待ちください、きっと来年中には書けるはずですので(大分アバウト)
ではまた次回(@^^)/~~~
ゆかりさんが何処に配属されるか
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