S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
勿論細かい所で説明してない部分はありますが、そこは追々と言うことで
あと活動報告に送っていただいたコメントに対してこちらで返信をしたりとかグッド押したりとか出来ないんですね…知りませんでした(-_-;)
質問を下さった方、活動報告の方に返答を置いておきましたのでご覧ください!
そして今後は質問は感想の方で募集しようかなと思います…利便性考えるとそっちの方が良いと思いますので
では、どうぞ!
「よぉお前ら!今日の授業を始めるぞ」
「あら同志。街で起こった殺人事件は解決したの?」
「ああ、問題ねえぜ。てことで始めんぞ。今日の授業内容は『優先狙撃目標』と『E&E』の2点だ」
スナイパースクールの座学も早いもので3日目となった
その1時間目はスカーレットが担当するようだ
「優先狙撃目標、ですか…」
「そうだ。スナイパーが撃てる数は多くても数発程度、ごく限られた発砲数で最大の効果を齎すために『何を撃つべきか』を知る必要がある。今からそれを教えてやるからしっかり聞いておけよ。1つ目は『通信手/指揮官』だ。軍隊ってのは指揮命令系統に従って活動する組織であることは分かってるな?だから敵の指揮統制を破壊するのは敵の動きを麻痺させる最も効果的な選択肢となる。その中でも通信手は最も重要な狙撃目標だ、指揮通信網を寸断すれば敵は本隊との連絡手段を失うことになる。支援要請も出来なくなるし、指揮官を排除出来れば尚良しだ。練度の低い民兵みたいな集弾なら指揮官が撃たれただけで壊滅することも多い。そうでなくとも一時的に指揮は混乱するし、士気も低下する。グリフィンの指揮官が基地の中から指揮を執るのはこうした事態を防ぐ目的もあるわけだな。更に人形全員に通信モジュールが搭載されているのも同様だ。だからこそ通信そのものを妨害されると壊滅の危険性が高いわけだが…ま、うちでそれを心配する必要はねぇから気にすんな。2つ目は『火力の高い火器を持つ兵士』だ。少数で高い火力を発揮出来る機関銃や支援火器は制圧効果が高い。こうした火器を排除出来れば味方部隊が戦闘を行う際に有利に場を進めることが可能になるだろう」
「ぶっちゃけると当たり前のことよね」
「ま、そうだな。だがしっかりと頭に入れておけよ。3つ目は『対戦車火器/対空射手』だ。これは今のグリフィンにはあまり関係ないが、対戦車火器や対空火器の存在は味方戦車や航空機の行動を制約するものとなる。逆に排除出来りゃ味方部隊にとって有利になるって寸法だな。まぁこっちに戦車がないとしても対戦車火器は脅威だ、地上部隊に撃ち込まれると下手すりゃ一撃でかなりの被害を被りかねねえ。だからどっちにせよ優先的に排除するべきことに変わりはねえな。4つ目は『敵スナイパー』だ。前にも言った通りスナイパーの存在は敵味方への心理的影響が高く、その正確無比な射撃能力は純粋な脅威となる。また、後のE&Eでも説明するがスナイパーチームの離脱にとっても敵スナイパーの存在は厄介だ。発見したなら優先的に排除しておけ。5つ目は『特殊技術者』だな。何らかの特殊兵器やUAV・UGVなど運用に高度な専門技術が要求されるような機器が存在する時、そのオペレーターを撃つのは効果的だぜ。どんなに高価で高性能な機械だろうが動かなけりゃ鉄屑同然、ただのゴミだ」
「基本的に脅威度が高くて排除することで得られる益が大きいものを優先的に撃つ、ということですね」
「そういうこった。スナイパーが敵の一般歩兵を撃つことはないとも言えるな。勿論状況次第だがな?さて、次は『戦車及び航空機への狙撃』に関してだ。スナイパーにとって敵戦車や航空機も優先目標となるが、適当に撃っていたのでは効果は薄い。特に戦車は装甲に撃ったって何の意味もねぇ。そこで今から『何処を撃てば無力化出来るのか』を説明する。無論口径が10ミリ前後しかない銃弾でこうした兵器を完全に破壊することは出来ねえぞ、一時的に無力化するのが関の山だ。だが逆に言えばたった数百円の弾丸一発で一機当たり数億~数十億円もするような兵器を無力化出来る…極めて費用対効果に優れているな。そんな狙撃テクニックについて今から教えるぞ。まずは戦車の無力化法だが、知っての通り戦車は頑強な装甲に覆われていて銃弾が効く箇所は非常に少ない。知らない奴からしたら撃つだけ無駄だと思うだろう、だがそんな戦車にも明確な弱点が存在している。戦車の上面に配置されている各種センサーや光学機器、アンテナなどがそうだ。これらはどれも戦闘に必要なものばかりだから破壊してやりゃ能力の低下や一時的な戦闘不能に追いやることが可能だ。戦車の上面にある都合上狙いを付けるのも容易だ、進軍が止まって停止している時なんか滅茶苦茶狙い時だぜ。それと戦車や装甲車両ではその乗員も有効な狙撃目標だ。高度な訓練を受けた乗員は簡単に替えの効くものじゃねぇ、奴らを撃てば確実に無力化出来るぜ。幸いなことに奴らは戦闘中でもなけりゃ上半身をハッチから露出させてることが多い、見かけたら遠慮なく撃ち殺してやれ」
「なるほど…戦車なんて相手に出来ないって思ってたけど意外と何とかなるのね」
「だろうな。ここら辺はもっと広まって欲しいもんだが…まぁ、良いか。戦車に関しては以上だ、航空機…特に戦闘機に関して見ていくぞ。航空機全般に言えることだが空を飛ぶために軽量にする必要があり、装甲がないと言って良い。戦闘機ともなれば音速を越えるような速度で飛ぶから余計な重しにしかならない装甲なんてまずついてねぇ。更にその性質上戦車以上に精密機器の塊だ、スナイパーにとって滅茶苦茶狙いやすいターゲットだな。僅かな破損でも飛行不能になるし、長時間の修理を要する。具体的にはまず機首のノーズコーンが狙い目だ。この中には戦闘機の眼とも言うべきレーダーが格納されている、ここを撃ってやればこのレーダーを破壊出来る。ノーズコーンはレーダーの電波を透過させるために非金属製だから狙撃用の弾なら普通に撃ち抜くことが可能だ。更にノーズコーンの形状というものは航空力学に於いて重大な意味がある、ここを破損すると物理的にも飛べなくなるわけだな。次に狙うべきは翼だ、フラップのような可動部を破損させりゃこれも戦闘機が飛べなくなる。それに主翼内の燃料タンクに焼夷弾を撃ち込めば爆発させることも可能だ。とは言え焼夷弾は銃弾としての性能があまり高くない、これはかなり限定的になっちまうな。それでもAP弾で燃料タンクごと撃ち抜きゃ飛べなくなることに変わりはないし、修理により時間を掛けさせることが可能だから依然有効なターゲットだな。これ以外にも各所の可動部、配線、センサー類も有効な狙撃目標だ。また戦車同様、乗員を狙うのも良いな。航空機搭乗員ってのは戦車乗員以上に替えが効かねえし、育成に膨大な金が掛かる。敵部隊に重大な損害を出すことが出来るわけだな、他にも整備士や整備に用いる危機への狙撃も有効だぜ。勿論優先度は低めだがな。これまでの説明で分かるだろうがスナイパーは常日頃からこういった兵器に関する情報を収集して弱点についての知識を深めていくべきだ。それとこれは今となっては開催されることがなくなっちまたが…兵器ショーや航空ショーと言ったものは最新兵器をまじかに観察する絶好の機会だ、もしもそういうイベントがあれば積極的に参加しろ」
「戦闘機を相手にするなんて最早起こりそうにないですが…でもいつか来るかもしれませんもんね」
「そうだ、知っておいて損になることはない。さて、次は『E&E』だな。何度も言うが少人数で行動するスナイパーチームの火力は乏しい。故に行動は隠密に行うわけだが、万が一にも敵性地域内で敵軍に発見された場合は拘束されないよう全力で脱出しなければならん。こうした脱出を専門用語で『Escape&Evasion』と言う、略してE&Eってわけだな。映画なんかだと良く見る緊迫した状況だが、現実ではまず起こらないと考えて良い。そもそも一般部隊ではスナイパーチームをE&Eを行う可能性があるようなAO(作戦地域)に派遣することがないからだ。通常のスナイパーの育成過程ではE&Eに関する教育自体がないくらいだしな。ならどの過程でE&Eを学ぶんだ?って思うよな。そいつは特殊部隊を目指した時だ。アメリカ陸軍では
「…中々にきっついこと言ってくれるじゃない」
「自分を、捨てる…?」
「そうだ、戦術人形であるお前達にとってはより一層辛いことだろう。だが重要なことだ。この先行う訓練でもE&Eをやらせるが、その際には私を含めたこの基地の精鋭が全力で殺しにかかる。もしも半身となる銃を捨てれずに見つかったりなんてしたら…その時は覚悟しておけ。さて、説明に戻るがE&Eに必要な装備は一般的に『E&Eパック』と呼ばれる独立した小型のバックやポーチに入れておく。内訳は任務や状況に応じて異なるが、大体はナイフ・マルチツール・小型ボトル(飲料水入り)・エネルギーバー・小型無線機・現金に金貨・GPS及びビーコン発信機・拳銃の予備マガジン・地図・ファイアースターター・エマージェンシーブランケット・フラッシュライトなどだ。後は拳銃をベストや腰、脚のホルスターに入れておけば十分だ。緊急時には脱出の邪魔になる思いバックパックや装備類を放棄して身軽なE&Eバックだけで行動することになる、その為に独立した別のバックにする必要があるわけだな。それと特殊部隊員やスナイパーには高級時計の愛用者が多いが、これはE&Eに大きく関係している。現地で質屋に持ち込めば現金を入手可能だ。叩き売ったとしても凡そ10万円は手に入る。その資金を元に、食料を主とした必要な物資を入手する手段もあるってことだ、覚えておけ」
「ふうん、なるほどね。戦場に持って行く腕時計は耐久性とか以外にも気を配らなきゃいけないのね」
「他には巻き方も重要だ、。文字盤を外側じゃなくて内側に向けるようにしろよ。さて、E&Eだが…こいつについて学ぶべきことは非常に多い。その気になりゃあE&E1つだけで本が一冊書けちまう程だ、この時間で全てを説明することは出来ないし仮に出来たとしても記憶することは困難だろう。よって今回はE&Eについて最低限認識しておくべき基礎的な要点を教える、これだけは絶対に覚えておけ。行くぞ?」
・『自分は絶対に逃げ切るんだ!』という強靭な意思(Suvivor's Mindset)を常に持つこと。気持ちが挫けたらその時点で何もかも終わり
・周囲の空間認識、空気を読むこと。何か異常はないか、状況を警戒する癖を身に着けて危機を回避する。脱出経路を組む際に、例えば建物内なら‘東側もしkは西側の出口’というように複数のオプションを考えられるようにしておく
・一般的に敵兵の捜索は包囲網を狭めるように行われる。逃げるだけではいずれ追い詰められかねない、包囲を突破することも考えて行動すること
・活動地域の言語を習得すること。語学の学習は困難だが可能な限り覚えておくと良いし、習慣や文化にも精通しておくと尚良い。敵性地域・国家の人間は誰一人として信用するべきではないが、場合によっては民間人と交渉することで脱出に協力させることが出来るかもしれない。その為様々な心理学や人心掌握術に長けている者がチームにいるとかなり有利となる
・カモフラージュすること。泥でも土でも何でも良いので周辺にあるものを利用して自身の存在を風景に溶け込ませることが重要となる。これは臭いを消して追跡犬の嗅覚を誤魔化す効果もある
・音と光を出さないこと。音や光を出せば当たり前だが被発見率は上がる、高く立ち上る煙にも注意すべし
・シェルターが必要な場合は『BLISS』を守ること。BLISSとは
・万が一にも敵に捕らえられ捕虜となった場合、可能な限り早期に脱出を行うこと。時間が経てば経つほど体力が減り、脱水症状を始めとした様々な悪影響が起きる危険性がある上により警備の厳しい施設に移設される為だ
・敵を理解すること。例えば敵がイスラム勢力であるならば、コーランを熟読して捕虜になった時にあたかも自分がムスリムであるかのようにハッタリをかませるぐらいの知識を付けておくと良い。しかし、ハッタリがバレた場合はより凄惨な拷問や処刑が行われる可能性があるため諸刃の刃である
「なるほど…色々と覚えなきゃいけないことが増えていきますね」
「そうね…因みに言語学習も訓練でやるのかしら?」
「今はまだだがいずれやるな。一応言っておくがここで戦場に出る資格を得るには最低4ヶ国語の習得が必須だ」
「4ヶ国!?ちょ、無茶じゃないの?」
「WA2000は9ヶ国語を自在に操るぞ。因みに私は12ヶ国語、クレアに至っては13ヶ国語を扱える」
「…どんな頭してんのよ、貴女達は」
「いついかなる時も貪欲に知識を貪ろうとする知識欲を持てってことだな。勉強熱心じゃないと良い兵士にはなれないってのは前にも言ったろ?実際私も様々な分野に造詣が深い、これに関しては次以降の授業で思い知らせてやるよ」
「なんか、ちょっと怖いです…」
「ま、その辺はまた次にな…ってことでE&Eの超基本的なことの説明は終えるが、ここまでの説明でE&Eが高度なテクニックであることは分かるだろう。そもそもE&Eを行うような状況下では逃げる側同様に追って側も必死だ、なんせ仲間を狙撃されてるしな。必死どころか腸が煮えくり返っていたって不思議ではない。しかもここで逃がせばまた被害が出るかもしれない…ってなると自分の命の為にも必死になるのは当たり前だよな?そういった敵から逃げる為の具体的な手法を2つ程紹介する、耳の穴かっぽじって良く聞いておけ。まず1つ目は『スリップ・ザ・ストリーム』だ。これは脱出に於いて敵を撒くタイプのテクニックだな。一言で言えば敵を偽の逃亡経路へと誘導し、その隙に脱出を図る、というものだ。ただしこの方法は河川を利用するから常に使えるもんじゃねえし、河川のサイズも重要だ。川幅は数m程度がベストだろうな、あまり大きな河川でもダメだし小さすぎるのも出来ねえ。さて、具体的な説明をする為に状況を設定するぞ。狙撃任務完了後、真北に向けて逃げ、追手は南から迫っているとする。敵はこちらの足跡や踏み倒した草木の痕跡などを辿って来るのが普通だ。そして河川は東から西へ流れているとしようか。真北へ進み暫くして河川が近づいて来た、そして河川の100m手前で進行方向を真北から45°北東方面へ変えるんだ。この変針は追手に分かるようある程度はあからさまに、しかしわざとらしさが無いように気を付けろ。そのまま河川を徒歩で渡河し、45°の方向へ進んでいく。そしてこれが
「そういうことね、理解したわ」
「結構斬新なやり方に聞こえますけど…常套手段なのでしょうか」
「そうだな。私も訓練を受けるまではこんな方法想像もしなかったが、これはずっと昔から行われているやり方だ。そして2つ目もまた昔から続いている手法で、その名も『フィッシュフック』という。これは脱出を行う際に敵へダメージを与えて怯ませることで隙を生じさせ、その間に離脱する方法だ。まず地図上でそれほど高くない丘を見付けておき、その丘へ向かって逃げることで敵を誘導する。そして丘へ着いたらその丘を一周するように頂上付近…自分が辿って来たルートを見下ろせる位置に着け。要するに痕跡を辿って来た敵を待ち伏せして側撃するってこったな。成功のポイントは敵が正確にこちらのルートを辿ってくれるようにしっかりとした痕跡を残しておくことだ。無論、わざとらしくならないよう気を付けろよ。アンブッシュエリアを選定したら‘キルゾーン’を設定し、クレイモア対人地雷などを設置する。ルート上を進む敵に対する『リニア・アンブッシュ』だな。敵がキルゾーンに差し掛かったらクレイモア対人地雷を同時に爆破し、合わせて銃撃を行う。アンブッシュは威力の大きい武器で行うのが鉄則だ、M203グレネードランチャーがあれば40mmグレネード弾をありったけ撃ち込んでやれ。手榴弾もあるだけ使うんだ。とにかくこっちは少人数だから火力が大きいと敵に思わなせなけりゃならねえ。クレイモアに40mmグレネード、手榴弾や銃撃を組み合わせたアンブッシュは強力でな、上手く決まれば敵は殆どが戦死乃至重傷を負うだろう。だが万が一にもアンブッシュが失敗もしくは不完全となり、残存戦力がフランク(迂回しての攻撃)をして来るとかなり厳しい状況になる。それに備えて自身の左右や敵の予測迂回ルートにもブービートラップを設置しておくと良いだろう。こうすることで敵を疑心暗鬼に陥らせ、それ以上の攻撃や追跡を慎重にさせることが可能だ。一方でこちらはアンブッシュ実行後はすぐに現場を離脱して味方との合流地点まで全力で移動する。ただし!私を含めた色んな奴の経験則から言わせてもらえばこの程度のテクニックはアメリカ軍であれば第82空挺師団や第75レンジャー連隊のような精鋭部隊には通用しないことが多い。精鋭部隊はこうした戦術を熟知していて簡単には引っ掛かってくれねえ。こうしたアンブッシュを行う際には相手の実力を考慮した上で実行する必要があるってこったな。まぁ相手が精鋭ならそれを逆に利用して罠に嵌めてやりゃ良いんだがな」
「どっちも敢えて痕跡を残すことが重要なんですね…寧ろ消すものかと思ってました」
「確かに基本的には痕跡は残さないようにするぞ。さっきも言った通りこれは『狙撃完了後敵に位置を捕捉されて追手が掛かっており、非常に危険な状態からの強引な離脱方法』だ。普通はこうなることがまずない、完全隠密で最後まで任務をやり遂げるのが普通となる。だから痕跡も一切残さないのが基本だぞ」
「そう言えばそうよね、今やってる授業だけに集中してると思わず忘れそうになるわ。気を付けないとね」
「そこはしっかりと注意しておけ、今までの授業全てを統合して一つの知識として定着させなきゃならねえからな。さて、これでE&Eの脱出テクニックを2つ説明したがここからは軍用犬…より広義的に追跡犬と言おうか。こいつの説明をするぞ。スリップ・ザ・ストリームでも軽く言ったが敵の追跡から逃れる時、敵が練度の高い追跡犬を連れていると非常に厄介だ。対策を教える前にまずは追跡犬について理解する必要がある。警察犬や軍用犬には長頭種…口吻の長い犬のことでシェパードやドーベルマンなんかがそうだな、こうした犬種が多いのは臭い物質を吸着する『嗅上皮』と呼ばれる細胞層の面積が広くてより臭いに鋭敏だからだ。さっき『犬は人間の100万倍の嗅覚がある』と言ったがこれは‘臭いを100万倍強く感じる’ということではなく、‘空気中の臭い物質の濃度が100万分の1でも嗅ぎ取れる’という意味だ。それに花や草木など犬にとってどうでも良い臭いに対してはあまり反応せず、動物が発する有機物の臭いに対して敏感に反応するぞ。ってことでこっからは具体的に追跡犬が何の臭いを嗅いで追跡してるのかを説明すっぞ。答えから言うと人間の身体から発せられる微量な臭い物質だ。例えば皮膚からは垢やフケといった細かい皮膚細胞の破片や頭髪が汗にまみれてバクテリアによる作用を加えつつ、常に落下・飛散している。更に人間の足の裏からは微量な有機物が揮発しててな、靴を通り越して地面にまで残留する。過去のテレビ番組で良く観かけるが、警察犬が地面の臭いを嗅いで犯人や行方不明者の進行方向や居場所を特定出来るのはこうした有機物質を手掛かりにしているわけだな」
「ふむふむ…嗅覚が鋭いっていうのは臭いをより強く感じるわけじゃないのが意外でしたね」
「そうね、私もてっきりそっちだと思ってたわ」
「もし本当にそうだとしたら人間社会で生きる犬はあまりに強い臭いにやられて死にかねねえだろ。少なくとも異常が生じるのは間違いない。まぁこの話は別に膨らませなくても良いか、次に行くぞ。今から説明するのは追跡犬の行動を妨げる…臭いによる追跡を困難にする方法だ。まず1つ目は『頭髪を短くする』ことだな」
「…ギャグかしら?」
「いんや、ガチだ。私の髪が長いのは一応理由があるから後で説明してやる、とにかく行くぞ。頭髪が長ければそれだけ臭い物質の量も多く、追跡犬の追跡を容易にしてしまう。短ければそれが少なくなった上に風で錯乱する可能性も高いから追跡犬の仕事を難しくすることが可能だ。長髪だと汗をかきやすいってのもデメリットだな。んで私の髪が何故長いのかだが…その理由の1つ目は『うちで造った消臭剤の存在』にある。これは結構色んな臭いを無臭状態にまで持って行くことが出来る優れものでな、作用機序としては臭いの原因となる物質に結合することによって別な物質へと変換することで効果を発揮している。こいつの強力さを理解するには、死体に振り掛けてやれば凡そ数時間程死臭を消すことが出来るって言えば十分だな」
「いやなにサラッと頭おかしい物作ってるのよ」
「…この基地が常識外なのは兵士だけではないのでしょうか」
「ま、そうだな。んで理由の2つ目は『敢えて髪の一部を痕跡として残すことでフォルス・トレイルへと誘導する』ことだ。頭髪を短くしているとこれは難しいだろ?長髪であることのデメリットを消しつつ通常使われることのないメリットを生み出す、その為に私は長髪を維持してるってわけだな」
「なるほどね…私達もその消臭剤を使うことになりそうね」
「そうなるな。ま、この話はこの辺にして次に行っちまおうか。気を付けるべきことの2つ目は『日常的に清潔な皮膚を心がけ、任務中は露出を最小限にする』ことだ。不潔ではバクテリアの量が増えやすく、皮膚が露出していれば落下する皮膚組織の量が多くなる。稀に犬どころか人間でも追跡出来るんじゃねえかってくらい体臭のキツイ奴がいるが…ま、スナイパーどころか軍人に向いてねえわな。3つ目は『唾などを不用意に吐かず、糞尿の始末に注意する』ことだ。これはもう読んで字の如くだな。唾を吐くな、排泄物の始末には気を払えってだけだ。臭い物質が身体に付かないようにしろよ。まぁこれに関してもさっきの消臭剤を利用すれば問題はない。4つ目は『食べ物の始末をする』ことだな。食料の残りを封を開けたままバックパックやポケットに入れるのはNGだぞ、ぶっちゃけこれは日常生活でもやるべきではないわな。犬は食欲が旺盛であることが多い、こうしたものをそのままにしているとその臭いを積極的に辿って来るぞ。これを利用して誘導することも可能っちゃ可能だが…難しいな。5つ目は『装備品を整理整頓しておく』ことだ。例えばそうだな、銃のスリングや装備のストラップがダラダラと余分に長い場合、それだけ枝や地面に接触する。この時スリングの表面などに付着していた皮膚細胞の破片を撒き散らすことになる。つうかこれに関しちゃあれだな、臭い云々の前に安全上の問題があるしこんな奴が隣にいたら蹴り穿ってやるところだ
」
「いや死ぬでしょそれ」
「部隊の足引っ張って仲間を危機に陥れるような奴なんざ殺した方が良いだろ。つか特殊部隊にいながらそんな基本的なことを守らない時点でそいつは部隊を舐めてる」
「理屈は分かりますけど…」
「ま、確かに殺すなんてことは普通しないがな。殺したくはなるが実際に殺すと色々問題があるしな…まぁどうにかなるパターンもあるが」
「え、あるの?」
「まぁな…さて、続きを話していくぞ。6つ目は『通気口のあるブーツを履かない』ことだ。足の臭いってのは人間でも気付くほどに強烈だ。だから靴に通気口があると歩く度にそこから有機物質が放出され、追跡犬に目印を撒いて歩いているようなものになっちまう。7つ目に『喫煙しない』ことも重要だ。つっても私が喫煙者であることからも分かり通り、これに関しちゃどうとでもなる。喫煙をしたいならまずニコチン依存症にならないよう注意しろ、吹かしで吸ってりゃかなり依存症になりにくくなる。機会があればニコチン依存症の原理についても説明してやる、脳神経の話になるからかなり複雑になるがな。次に気を付けるべきは口臭だ。これは市販のブレスケア商品でも結構効果があるが、完全に影響を排除したいならより専門性の高いものを使用しろ。8つ目は『石鹸・香水・デオドラントの使用に注意する』ことだ。まず臭いの強いものは避けろ、そして使用する際は普段から最小量にしておけ。香水は出来るなら一切使用しない方が良いだろう、不潔で体臭がキツイのも問題だが香料の臭いがするのもまた問題となる。まぁこの辺もうちの消臭剤で解決出来る点ではあるが…ま、意識はしておくようにな」
「んー…そこら辺は割と自由にさせてくれるって認識で良いかしら?」
「ぶっちゃけるとそうだな。私だって煙草は吸ってるし、中には自室でアロマを炊く奴もいる。こうしたものは戦場で疲れた心を癒す効果があるからそれを全面禁止にしちまうとな…いずれ精神を摩耗して壊れかねん」
「なるほど…つまり禁止する方が損害が大きいからある程度自制出来るなら自由にして良いということですね」
「だな。さて、授業時間ももうあんまねえし…最後にスリップ・ザ・ストリームとフィッシュフック、そして追跡犬対策までやってのけた『とある映画』の話をしてやろうか」
「あら、そんな映画があるのね。かなり現実的で地味な映画?」
「だと思うだろ?ところがどっこい、それをやったのは『ランボー 最後の戦場』って映画なんだよな」
「ランボー!?あれってそんな高度なことする内容じゃないでしょ?」
「まぁそういうイメージは持つよな。だが意外とそういう現実的で高度な要素も含まれてっから時間のある時に観てみろ。んでそのシーンだが、ランボーが追跡犬に追われていることを悟るとすぐに一緒に逃げていた女性のシャツの一部を裂いて自分の足に巻き付けてその女性を自分とは別方向へ逃がした。追跡犬を自分の方へ誘い出して女性を逃がしたわけだな。更に不発弾が放置された場所まで誘き寄せるとシャツの切れ端をクレイモア爆弾と一緒に不発弾へ仕掛け、連鎖爆発で一網打尽にしている。現実じゃあここまで綺麗には決まらねえだろうが、考え方は悪くねぇ。訓練された特殊部隊員は瞬時に的確且つ有効な判断を下すことが可能だということを表している良いシーンだ。それと第1作でもランボーは警察の追手を受けた時に厄介な追跡犬から始末している。ランボーと言えば派手なアクションと荒唐無稽なストーリーが見所だが、こんなところにプロの演出が潜んでるんだな。こういうのは他にもあるから探してみると良い、意外と観察眼や集中力を鍛える良い訓練になるぜ」
「映画で訓練、ですか。そういうのもあるんですね」
「何でもそうだが、視点を変えりゃあなんでも役に立つもんだ。先入観を捨て去って様々な方向から綿密に観察すれば新しい活用法も思いつける、こうした考え方は大事だからこれからはちょいと意識して物事を見つめてみると良い。ってことで丁度授業時間も終わりだな、っとそうそう…お前達に言っておかなきゃいけないことがあるんだった」
「あら、何かしら」
「この座学だが、今回の授業でスナイパーに於ける知識のほぼ全てを教え終わった。勿論細かい所は色々とあるが…スナイパーとしての座学は今回でお終いだ。その代わり今日の残りの4時間でテロや暗殺に用いられる毒物などの解説を行う。これはテストには出ねえが知っておいて損はない、人形に毒は効かねえと思ってるかもしれねえがそんなことはねえしな」
「え、ちょっと待って!私達に毒は効かないでしょ?」
「殆どは、な。だが極一部効くものはある、これは戦術人形の生体パーツの組成を調べて実験も行って得た事実だ」
「ほ、本当にあるんですね…ショックです」
「そうだろうな、しっかりと解説してやるからちゃんと聞いとけよ。それと毒物解説は私が専門で行う、WA2000とM200はテスト作成と実技の準備をしてるから今日は来ねえぞ」
「了解したわ、同志」
「んじゃ、次の授業は20分後だ。復習をしっかりしとけよ~」
スカーレットはそう言うと教室を去り、後に残されたFN49とモシン・ナガンは少し狼狽えたものの取り敢えず復習をしようとなって机に着いた
これから先行われる授業が今までのものよりも難解で理解が難しいものであることを知らないままに…
というわけで次回から毒物の授業になりますね
初回は戦術人形にも効く(と私が考察している)毒となり、これはまだ簡単な内容になります
しかしその次以降がゲロゲロに難しくなるので楽しみにしておいてください(*'ω'*)
ではまた次回(@^^)/~~~
ゆかりさんが何処に配属されるか
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諜報部隊
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LSP
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その他(例:音楽隊のサブボーカルなど)