S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常   作:フォルカー・シュッツェン

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今回は少しオウム真理教や地下鉄サリン事件に関する言及があります
彼らを賞賛するわけでも非難するわけでもなく中立的な目線からの言及ですので不快に思う方もいらっしゃるかもしれません、苦手な方はご注意下さい
それは置いといて今回は神経毒スペシャルという感じの回になります、というわけで神経の作用に関しても少しだけ解説を行っております
出来る限り分かりやすく簡素にしているので一切理解出来ない、なんて事態にはならないと思いますが…もし何か疑問があればお聞きください
『私に答えられる範囲』でお答えします(私も専門家ではないのでガバってるところはあります、見逃してくださいお願いします何でもしまs――)

では、どうぞ!


座学3日目 三時間目

 

「お、ちゃんと準備出来てるな!んじゃあ早速2回目の毒物解説に行くぞ~」

 

 S09H基地の資料棟の教室ではここ最近いつもの流れになりつつあるが、FN49とモシン・ナガンが並んで座っていた

そこへスカーレットが入って来るが今日は前置きもなしにいきなり授業へと入るようである

 

「なんかちょっと急ぎ気味ね」

 

「まぁ今日はちょいと解説する項目が多くてな…神経毒について見ていくわけだが、一気に色々と見ていくぞ」

 

「どうして1つずつではないのですか?」

 

「理由の1つ目は『神経毒はお前達には効かない』こと、そもそもこれは生物の神経系に作用するがお前達人形には該当する作用点が存在しない。よって効かないしちょいとばかりざっくりと見る程度で良いってこったな。2つ目に『解毒や併用に関して話をする』こと、特にフグ毒とトリカブトに関しては併用の話をしたいしサリンやVXガスに於ける解毒の話も絡めて授業をしていきたいんだ。こんなところだな」

 

「なるほどね、了解よ」

 

「納得もしてもらえたことで始めていくぞ。神経毒と言うのはさっきも言った通り生物の神経系に作用する物質だ。特徴としては少量でも死に至るものが非常に多いこと、それから『後遺症が少なく、対処法さえ知っていれば治療が簡単』というのもあるな。まず神経に作用すると言ったがこれには色んな経路があってな…だが最終的には全て『神経作用を止める』という現象を起こす。これによって呼吸が止まって死に至るのが大半だ。フグ毒もトリカブトもサリンも同じ。だが神経作用の『何処に、どのように』干渉するかに違いがある。それを説明する為にまずは神経というものがどういう段階を経て情報を運んでいるかを説明しよう。まず第一段階『神経興奮』、これは神経細胞にナトリウムイオンが流入することによって発生する。神経細胞が活性化し(情報を受け取っ)て次に移行しようとしている段階だ。第二段階が『神経伝導』、これは受け取った刺激(情報)を同じ神経細胞内で伝えていく作用だ。神経細胞と言うのは刺激を受け取る樹状細胞に長い管みたいなものがくっつている構造をしていてな、樹状細胞で受け取った情報をその長い管に通していくのがこの神経伝導だ。最終段階『神経伝達』、これは良く聞く言葉かもしれねえが、違う神経細胞に情報を伝達する作用だ。神経細胞と言うのは全てが一繋ぎになっているわけではなくてな、それぞれが分離しているんだ。だがこのままじゃ情報の遣り取りに支障が出るからそれを解決する為に離れた神経細胞へ情報を飛ばして渡す作用が存在する、それが神経伝達だ。神経毒というものはざっくり言えばこの3つの段階の何れかへ干渉してその作用を妨害するものだ。その結果として全身をピクリとも動かせなくなるわけだな。とは言え死ぬのは基本的に横隔膜を動かせなくなることによる呼吸不全からの窒息死だ、逆に言えば人工呼吸と胸骨圧迫をしっかりやれば生き残らせることが可能だってこったな。後は肝臓の代謝に任せちまえば良い」

 

「なるほど…神経毒だと分かった時点でしっかり対処すればどうにかなるんですね」

 

「そうだ。とは言えテロでVXガスが使用された場合、それに触れた者全員に同様の対処を行わなければならん。そうなると流石に人手不足に陥って助けられなくなる奴が出てくるだろう…こればっかりはどうすることも出来ん、テロ行為を起こさせないようにするかもしくはガスに対する対処法や道具を予め住民全員に叩き込んでおくかくらいしか出来ないな。後は人工呼吸器を街の各所に大量に用意しておいてその使い方を徹底的に教え込んでおくとか…ま、対処が難しいのは確かだな」

 

「…ねぇ、1つ気になったんだけど聞いてもいいかしら?」

 

「なんだ?」

 

「神経毒は後遺症が少ないのよね?でも日本で起きた地下鉄サリン事件では多くの人が後遺症に苦しんだって聞くわよ?矛盾してないかしら」

 

「それか…それに関しては今の時代からじゃ昔のこと過ぎて正確なことは分からん。だが幾らか推測は出来るから私の予想で良ければ答えてやる。当時オウム真理教は警察の捜査から逃れる為に大量の違法物を廃棄していた。だが幹部の1人がサリンの生成に必須となる三塩化リンを含む幾つかの化学物質を隠すことで廃棄から逃したらしい。その後それを行った幹部が警察の捜査を攪乱する為に地下鉄でサリンをばら撒くことを提言し、サリンが生成された。しかし廃棄から逃れた物質は極一部でな、純粋なサリンを生成することは出来なかった。完成したサリンは不純物を多く含んだ謂わば『サリン擬き』だったんだ。その証拠として純粋なサリンは無色透明無味無臭だが、当時地下鉄でばら撒かれた際には異臭が漂ったとされている。あの事件の被害者に後遺症を患ってしまった人が大勢いたのはサリンが不純物であったことが原因だと思われる…ってところだな。不純物が故に異臭が地下鉄内に蔓延し、より警察の目をそちらに向けることには成功したんだろうが…その甲斐も虚しくオウム真理教は教祖を含む大勢が逮捕されたことで半ば壊滅した。残存勢力も残っていたらしいし結構きな臭い感じだったみたいだが…日本そのものが崩壊した今となっては気にすることでもないだろ。こんな感じで疑問は晴れたか、モシン」

 

「十分よ。にしてもあの事件でのサリンが不純物だったなんてね…毒性が弱まった代わりに後遺症が残るようになってしまったってところかしら」

 

「多分そうだろうな。閉鎖空間となる地下鉄内、それも大勢の乗客がいたというのに死亡者は『僅か』14名だとされている。サリンの毒性を考えりゃこれは明らかに少ない、不純物だったお陰で助かった人が大勢いたのは確かだ…とは言え喜べることではないんだがな。モシンの言う通りその分後遺症が残った人も大勢いるし、当時の悲惨な様子にPTSDを患った者も大勢いただろう。因みにVXガスはそんなサリンの超強化バージョンって感じの毒物だ、こんなこと言うと不謹慎なんだろうがあの時ばら撒かれたのがVXガスじゃなくて良かったと思わずにはいられねえな」

 

「おっそろしいわね…カルト宗教の怖さが良く分かるわ」

 

「ですね…」

 

「ま、そんなわけで神経毒の恐ろしさに関して分かったところでもう少し細かく見ていくぞ。まずはテトロドトキシンからだ、こいつの致死量…LD50は以下の通りだ」

 

マウス経口 LD50 0.01mg/kg

マウス皮下 LD50 0.0085mg/kg

 

「この表記だが『体重1kg当たりどれくらいの量で半数が死亡するか』を表している。マウスと人間では体の構造が大きく違うから若干違いは出るが、この数字を人間に代用すれば60㎏の人間が0.6mgで半分は死ぬってこったな。クッソ単純に言えば1.2mgありゃ100%死ぬってところか」

 

「1.2mgって…そんな僅かな量で死ぬのね」

 

「そんなんだとフグを食べればそれ以上の量を普通に摂取してしまいそうです…」

 

「そうだな。だからフグ毒に当たった場合、周囲に対処法を知ってる奴がいない限り絶対に死ぬと思うべきだ。そんなんだからフグを捌くのに国家試験が必要になってたりしたわけだな。んじゃこっからこの毒の作用機序を見ていくぞ。ちょいと難しい話になるからそのつもりでな」

 

「神経ってなると前回よりもややこしいわよね…理解出来るかしら」

 

「安心しろ、なるべく簡単に説明してやるから。まずテトロドトキシンは神経興奮に作用する毒だ、そこを覚えておけ。だから神経興奮について簡単に解説するぞ。神経細胞の刺激を受け取る部分にはナトリウムチャネルというものが存在していてな、こいつは言っちまえば扉みてえなもんだ。この扉が開閉することでナトリウムイオンの流入を制御している。だがテトロドトキシンはこのナトリウムチャネルを閉じたままにする」

 

「そんなことをしたら神経が刺激を受け取れない…ですか?」

 

「そうだ。全身のナトリウムチャネルが阻害されて神経興奮が起こらなくなることによって身体を動かすことが不可能になるわけだな。因みにトリカブトに含まれるアルカロイド類はこれの全く逆の作用をしている」

 

「つまりナトリウムチャネルを開きっぱなしにするってこと?それって問題になるのかしら」

 

「大問題だぜ。ナトリウムイオンを受け入れて興奮状態に移行した神経細胞はナトリウムチャネルを閉じない限り元の鎮静状態になれないんだ。しかしアルカロイド類によってナトリウムチャネルは閉じることが出来ない、それによって常に興奮しっぱなしになる。そして興奮状態にある神経細胞は新たな刺激(情報)を受け取ることが出来なくなっちまう」

 

「つまり直接起こす現象は違うけど最終的には同じ症状が起こるってことですか?」

 

「そういうこったな。どっちにしろ神経作用の第一段階となる神経興奮を阻害して大本から断つ毒だ。これらの物質が毒性を発揮している間神経は機能しなくなる。因みに脳神経が阻害されるかだが…なんとも言えねえな。中枢神経ってのは生物の身体の中で最も厳重に管理されている区画でな、イメージとしてはめっちゃ審査の厳しい関所がある感じだ。だから余計な物質はそもそも中枢神経に到達すること自体が不可能だ。だが中にはその関所を突破する強者もいる。最も有名なのがアルコールだな、後はカフェインとかか。んでテトロドトキシンやアルカロイド類がその関所を突破出来るかだが…おそらくは不可能なんだろうな。私も専門家じゃねえから細かい所までは把握してないが、少なくとも脳に作用するという文献を見たことはない。だからこそ大抵の神経毒は呼吸さえなんとかしてやれば助かるわけだしな」

 

「脳神経の作用まで止められちゃどう足掻こうが助からないものね…」

 

「一概にそうとは言えねえが…ま、それくらい危険なんだと思っておいた方が良いな。んでこっからテトロドトキシンとアルカロイド類の併用の話をするぞ」

 

「その2つを併用…そんなの打ち消し合って終わりじゃないんですか?」

 

「言われてみればそうね、真逆の作用を持ってるんだから中和されちゃんじゃないの?」

 

「概ね正解だ、だが惜しいな。さっきの授業で薬物動態学について少しだけ話しただろう?あの知識を使ってもう少しだけ深く知ればそうとも限らないことが分かる」

 

「薬物動態学…確か『吸収・分布・代謝・排泄』でしたっけ」

 

「そうだ、その4段階が非常に重要になってくる。このテトロドトキシンとアルカロイド類の併用に関して有名なのは『トリカブト保険金殺人事件』だな。事件の詳細については各々で調べてくれ。ここではあくまでも薬物動態的な話をさせてもらう。さて、この事件だがざっくり言えば新婚夫婦の妻の方が新婚旅行中に突然死したものだ。色々あってこの妻がトリカブトによる中毒死であることが判明し、更に多額の生命保険が掛かっていたことから夫の関与が疑われたんだが…これが物理的に不可能なことだったんだよ」

 

「…?どういうことよ」

 

「それがな、この新婚旅行なんだが夫は妻と途中で別れていてそこから先は妻とその友人達で旅行を楽しんでいたらしい。だが妻の体調が悪化し、中毒症状を起こしたのは夫と別れてから3時間も後のことだった。厳密には夫に『栄養剤だ』と言われて渡されたカプセル剤を飲んでから3時間後だな、これはその妻の友人達も目の前で見てるから間違いない。だが通常トリカブトによる中毒症状は即効性でな、15分ほどで作用が起こらないと可笑しいんだ」

 

「なるほど、つまりその時間差から夫には毒殺することが出来ないと」

 

「ああ。だが後の調査でこの夫が漁港から大量のフグを買っていたことが判明した。これに着目した研究員が研究をすることで…『フグ毒とトリカブト毒を併用すると数時間後に作用が現れる』ということが分かった。そのことが発覚し、更に夫の名義で借りていたアパートから実験動物や実験器具等が発見されたことで夫は逮捕された」

 

「そんなことが起るのね…でもどうして併用したら数時間後に作用が現れるなんてことになるのかしら?」

 

「それを今から話してやる…んだがな、この毒物の併用に関しちゃ100%何もかもが判明してるわけじゃねえ。諸々の条件で結果は変わるだろうからな、だからざっくりと判明してることだけ話すぞ。まず薬物動態学では吸収・分布・代謝・排泄の4段階が大切だというのは既に覚えているだろう。よってこれからはこの2つの毒に関してこの4段階の違いを見ていく。テトロドトキシンとアルカロイド類の動態を比較した際、吸収においてあまり差はなく代謝に於いてテトロドトキシンの方が速く代謝されるんだ。テトロドトキシンはアルカロイド類と比べて血中濃度の最高値にちょっとだけ遅く到達し、体内から消失するスピードが速いということが分かっている」

 

「それってつまり…」

 

「そうだ、テトロドトキシンはアルカロイド類よりも先に効果を失うことになる。そうすると未だ体内に残っているアルカロイド類の作用が現れ、中毒症状が発生するということだな」

 

「なんておっそろしい…まるで時限爆弾ね」

 

「投与されてから暫くはテトロドトキシンの作用によってアルカロイド類の作用が相殺されるけど、時間が経つに連れてテトロドトキシンが体内から消失…そこからアルカロイド類の毒性が発揮される。確かに時限爆弾ですね」

 

「時限爆弾か、言い得て妙だな。私個人としちゃあこんなガチの研究者でもなければ到達出来ないような知識の会得や実験を行う気概をもっと良い方向に発揮して欲しいと思うぜ」

 

「そうよね…だってその夫一般人なんでしょ?良くやったわよ本当に……」

 

「全くですね…」

 

「ま、この辺でテトロドトキシンとアルカロイド類に関しちゃ以上だな。次はサリンとVXガスについて見ていくぞ。こいつらはさっきとは違って神経伝達に作用する毒だ。まずはLD50からだな、これを見ろ」

 

サリン ヒト経皮投与 LD50 28mg/kg

 

VXガス ラット呼気  LD50 15μg/kg

 

「いや待って、2つくらい突っ込みたい所があるんだけど!?」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「まずサリンのLD50のヒトって…まさか人体実験でもしたの?」

 

「いんや、そういうわけじゃない。こいつは一応予測値になってるらしい」

 

「そう…良かったわ」

 

「ま、本当かどうか知らねえがな」

 

「…不安にさせるようなこと言わないで頂戴」

 

「ま、そこら辺は今は良いだろ。んでもう1つはなんだ?」

 

「そんなの、もう…」

 

「VXガスの致死量の少なさ…ですよね」

 

「ええ、そうね。明らかに強すぎないかしら?体重1㎏当たり15μgって…」

 

「べらぼうに強いな。だが世の中にはもっと少ない量で死に至るようなものもある、とは言え滅茶苦茶毒性が強いことに変わりはないんだがな?」

 

「もっと上があるのね…やばっ」

 

「これ以上って…何があるんですか?」

 

「投与方法が違うから一概には言えねえが…例えばボツリヌストキシンとかだな。マウスの静脈注射だが、1μg~0.001μgでLD50に達する」

 

「…格が違うわね。最早どうやってその量だけ投与したのよ」

 

「確かにそれは私も気になるな。ま、その辺は知りたきゃ科学の専門家にでも聞け。私達に必要な知識じゃねえしな。ってわけでサリンやVXガスの毒性の強さは分かったな?だが注目すべきは数字じゃない、投与方法だ」

 

「投与方法…確かに両方違うわね。VXガスの呼気は分かるけど、サリンの経皮は…確か皮膚に接触することだったかしら」

 

「そうだ。これじゃイマイチイメージしにくいだろうから例えるが、たった一滴のサリンが皮膚に付着しただけでゲームオーバーだ」

 

「こ、怖いですね…って一滴?サリンは気体ではないのですか?」

 

「そのことか。実はサリンもVXガスも常温常圧では液体なんだよ、だから使用する際には何かしらの方法で噴霧したりだとかで散布する。地下鉄サリン事件ではサリンを有機溶剤に溶解させたものを袋に密閉し、穴を空けて染み出させることによって散布が行われたな」

 

「なるほど、そういうことでしたか…」

 

「納得は出来たな?んじゃ作用機序の話に行くぞ。こいつはさっきも言ったように神経伝達に関わる毒だ、よって神経伝達に関して少しだけ説明する。神経細胞はそれぞれが繋がっていないのはさっき言った通りだ、その別れた神経細胞間で情報の遣り取りを行うのが神経伝達なわけだがちょっと特殊な手法を用いている。まずは神経興奮が起こり、神経伝導によって末端まで情報が伝わったとする。すると神経末端は次の神経細胞に向けてアセチルコリンという物質を放出するんだ。そしてそれを受ける神経細胞にはアセチルコリン受容体が存在する、この受容体とアセチルコリンが結びつくことによって次の神経細胞へ情報が伝わるわけだな。だがアセチルコリンをずっと放出し続けるわけにもいかない、そんなことしてたら同じ情報が永遠に伝わり続けちまうからな。だからこのアセチルコリンを分解する『アセチルコリンエステラーゼ』という物質がアセチルコリンの放出から一瞬の間を置いた後に出てくる。このアセチルコリンエステラーゼによってアセチルコリンが分解を受け、同じ情報が余計に流入し続けるという事態を防ぐことで正常な神経作用が行われているわけだ。だがサリンやVXガスはこのアセチルコリンエステラーゼを分解しちまう。こうなると一度放出されたアセチルコリンを分解することが出来ず、延々と続いてしまうな?こうなると神経がしっかりとした情報の遣り取りが出来なくなり、結果として神経作用は止まる。起こる症状は他の神経毒と似たり寄ったりといったところだな。そういやノビチョクなんかも同じ作用機序だったか」

 

「要するに神経伝達が出来なくなって呼吸が止まっちゃうってことね?」

 

「そういうこった。これも同様に呼吸をなんとかしてやれば対処は出来る…が」

 

「地下鉄サリン事件の例を見れば分かるわよ、それが難しいってことくらいね」

 

「そうだ。あんな風にばら撒かれると最早手のつけようがない。初期段階で大混乱が発生し、医療従事者の言葉にすら耳を傾けなくなるのが人間ってもんだからな」

 

「パニックになった群衆程怖いものはない…」

 

「若干事態が違うが…ま、そうだな。だから私の管轄街ではこうした毒物に関する授業を義務教育で行うよう徹底させている。生き残りたきゃ知れ、ってな。このご時世だ、こうした知識が無駄になるなんてことはないだろう…出来れば無駄になるような世界を築いていきたいもんだが」

 

「でもそうなると…」

 

「ああ、私達は仕事を失う。ったく、ままならねえもんだぜ…っとこれは関係ねえな。今回の授業に関しちゃこんなもんか?もっと他にも神経毒はあるが…どれも特徴は似てるし対処の仕方は、っと大事なことを言い忘れてたな。解毒についてだ」

 

「めっちゃ大事なことじゃないの。それで、どうやって解毒するのかしら?」

 

「結論から言っちまうが…無理だと思った方が良い」

 

「「え?」」

 

「確かに神経毒に関しちゃ蛇の持つ毒に対する血清だったり、サリンやVXガスの効力を逆手に取った解毒方法はある。テトロドトキシンとアルカロイド類なんかは真逆の作用を持つわけだから一見解毒に使えるようにも見える。だがな、ぶっちゃけ無理なんだよ」

 

「それは、どうしてですか?」

 

「まず分かりやすいのがテトロドトキシンとアルカロイド類だな。これに関しちゃ中毒症状に陥った患者に対して『適正な量』の毒を服用させなきゃならん。少なければ効かねえし多ければ結局はより強い中毒症状を引き起こしかねん。しかもその適量を患者を『目で見て』判断出来るか?無理だろ?だから解毒は肝臓に任せる他ないと思っておけ。サリンやVXガスに関しては一応完全に無毒化出来る解毒薬はある、しかしこれらにも問題があってな…2種類あるんだが、1つはさっきと同じように適量を患者を目で見て判断しなきゃならねえ。もう1つは毒性に曝されてから時間が経つ毎に解毒の効果が減弱されていくという欠点がある。要するに早い段階で使用しないと意味がねえってこった。血清に関してもこれと同様の弱点があったりするし、そもそも…そういった毒を持つ蛇が存在する地域に血清はないからな。全部が全部ないとは言わないが、頼りには出来ねえ。つぅわけで解毒剤なんてないものと思って行動した方が良い。解毒剤によって助かったなんて実例は極少数だからな」

 

「なるほど…そう上手くはいかないものなのね」

 

「というか解毒剤が意味を為さないって言うのにそれでも解毒できる肝臓が優秀過ぎる気がするんですが」

 

「言われてみれば、確かに…人間の肝臓って滅茶苦茶凄かったり?」

 

「滅茶苦茶凄いぞ。ほぼ全ての物質を無毒化出来ると言っても過言ではないほどの性能を持っている。だから肝臓によって解毒されるまでの間なんとかして患者を生存させることさえ出来れば取り敢えず命だけは助かるってこったな。神経毒は神経作用を止めるだけで神経を壊す毒ではないし、呼吸を促して生存させてやりゃ後遺症もなく助けることが出来るって点は人間にとって朗報だろう。しかしそれが実際に出来るか否かは現場の状況によるし、その知識をどれだけの奴が持ってて尚且つパニックの中正しい行動に移せるのか…それを考えりゃ楽観視は出来ねえ。ここら辺はしっかりと教育して訓練させた方が良いと私は思ってるぜ」

 

「…世界がこうなる以前の資料を見てもそういったことを行っている場所は最早ないと言っても良いくらいなんでしょうか?」

 

「残念ながら、な。()()()()()()()()()()()()()んだし、そこら辺もっと危機感持ってやった方が良いと思うんだがなぁ…ま、こうなっちまった以上人間の意識も変わってるだろうしそういった教育や訓練はありがたがられる位だろうよ」

 

「そうね。私達もいざという時に動けるようしっかり訓練しなくちゃね」

 

「特にお前達人形は神経毒は効かん、よってVXガスなんかがばら撒かれた状況でも安全に行動することが可能だ。私やクレア、イーサンはほんの少しでも吸えばアウトになるから事実上無力化されるからお前達だけが頼りになる。もし万が一そうなった時は頼むぞ?」

 

「「はい!」」

 

「良い返事だ。よし、今回の授業はこれで終わりにしよう。時間も丁度いいしな。今回は比較的テロ目線だったが次回は暗殺で使われる可能性が高い青酸とリシンについて教えるぞ、予習をする必要はねえが一応伝えておく。んじゃ、解散!」

 

 そう言ってスカーレットは教室を出て行った

後に残ったFN49とモシン・ナガンはスカーレットから頼りにされることが嬉しかったのか気分が上がっており、いつもよりも復習に力が入るのを感じていた

こうして今回も無事に授業は終わり、次へ向けて彼女達は動いていくのであった

 




如何でしたでしょうか?
今回の話は前回に比べて少々難しい内容だとおもうのですが、大丈夫でしょうか
これでも『それなりに深い内容を滅茶苦茶簡素に説明した』という感じなのでもっと細かい所まで知ろうとすると…最早知恵熱が出ます、はい(実体験)
…案外アンケートで『めっちゃ深く』に票が入らなくて良かったのかもしれません(-_-;)

ではまた次回(@^^)/~~~

ゆかりさんが何処に配属されるか

  • 諜報部隊
  • LSP
  • その他(例:音楽隊のサブボーカルなど)
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