S09地区のとある指揮官と戦術人形達の和やかな日常と殺伐とした日常 作:フォルカー・シュッツェン
そして今回なんですが…最初はリシンの作用機序、ちゃんと書くつもりだったんですけど辞めました('ω')
文字に起こすと『何言ってんだこいつ…』感が強いのと戦術人形達にはあまり関係がないので端折ることにしました
気になる方は論文とか漁って見てみて下さい、多分( ゚Д゚)ハァ?ってなると思います、私もなりました
では、どうぞ!
「さぁ毒物解説も早いもんで第3回だ!そして毒に関しては今回で終わりになる」
「随分唐突ね…まぁ良いけれど。それで、4時間目で終わりってことは次の授業では何をするのかしら?」
S09H基地の資料棟の教室、最早説明不要だろうがそこではスカーレットによる授業が行われていた
「次の授業では『銃創とヘッドショットについて』をやる予定だ。ま、それは良いだろ。とにかく今から暗殺で使われがちな毒物…『青酸とリシン』について教えていくぞ」
「よろしくお願いします!」
「おう!んじゃまずは青酸からだな。青酸は前回やったような神経毒ではないし勿論出血毒ともまた違う毒だ。こいつの作用機序は…っとその前に致死量からだな、これを見ろ」
ラット経口 LD50 5~10mg/kg
「なんか強いのかそうじゃないのか良くわかんないわね」
「フグ毒とかと比べると明らかに少ないですけど…案外大したことないんでしょうか」
「馬鹿言っちゃいけねえ、この青酸も猛毒だ。今までやってきたやつが毒の中でも規格外ってだけだしな。この青酸の作用機序は一言で言えば『細胞を殺す』という作用を持っている。これだけじゃ余りにも雑過ぎるからもう少し細かく見ていくか。まず青酸はシアン化水素とも呼ばれていて、気体だ。さっきのLD50に関してはシアン化水素のLD50のデータが見つからなかったからシアン化カリウム…所謂青酸カリというもののLD50である点に注意しろ。シアン化カリウムは個体だから経口なわけだな。シアン化水素は呼気によって肺から吸収され、シアン化イオンとして血中に入る。その後全身の細胞へと到達し、そこで毒性を発揮するわけだな。んで青酸が具体的に何をするかだが…『シトクロムcオキシダーゼの阻害による細胞呼吸の阻害』、って言って分かるか?」
「何がなんだがさっぱりです…」
「意味不明ね」
「ま、そうだよな。よし、簡単に説明すっぞ、まずは細胞呼吸が何なのかってところだな。私達が普段言うような呼吸と生物学的に言う際の呼吸というものには若干の差異があってな、生物学的には外呼吸と内呼吸に分けられる。この内の内呼吸が細胞呼吸だな。外呼吸と言うのは私達が普段から認識している呼吸のことで、肺を使って酸素を取り込む作用のことだ。その外呼吸の後に取り込まれた酸素を使って細胞の生存に必要なエネルギーを産生するのが細胞呼吸になる。こっからは細胞呼吸によってどうやってエネルギーを生み出しているかを見ていくが…あまりにも複雑だから簡素に行くぞ。んで細胞呼吸を行う際に必要な酵素の中にシトクロムcオキシダーゼというものがある」
「さっきも出てきたやつよね。それって何をする酵素なの?」
「細かい話は省くが、エネルギー産生経路の最後に作用する酵素だ。つまりこいつが働かなくなると細胞内のエネルギー産生機構がエネルギーを意味出すことが出来なくなっちまう。これ即ち、細胞の生存に必要な機構が停止するってこった」
「それじゃあ細胞で出来ている生物は…」
「ああ、死ぬ。簡単に纏めると青酸はイオン化することで細胞の生存に必要なエネルギーを産生する細胞呼吸に必要な酵素の1つを阻害することで結果的に細胞を殺す毒、ってところか。もっと簡単に言えば酸素がそこら中にあるのに身体は窒息してるような状態になるってこった。因みに青酸カリは個体だから口から摂取して胃酸と反応することで青酸となり、それが血中へ吸収されて…後は同じ経路を辿って毒性を発揮するぞ」
「酸素があるのに窒息って…えげつないわね」
「これって解毒剤とかは…」
「一応あるが、そう都合良く近くに解毒剤があるとは思わないこったな。それに青酸と言うと良く『アーモンド臭がする』という話を聞くだろう、青酸で殺された人の口からアーモンド臭がするってな。あれ、危ないからやっちゃいけないぜ」
「え、漫画とかでは良くやってるくない?」
「漫画は漫画だ、現実とごっちゃにするな。青酸を含んだ空気を自ら体内に入れることになりかねないから危険なんだよ。ほんの0.1%の濃度でも一瞬にして意識混濁状態とかになるかもしれねえ」
「うっは、そんなのもうあの漫画の主人公死んでるじゃない」
「ま、そうだな。それとその漫画で言うならあの麻酔針なんかも超絶危険な代物だな。あんなもん撃ち込まれりゃ普通の人間は一発でお陀仏だ。ああいった創作物に対して現実的な目線で突っ込むのはナンセンスではあるが、現実ではどうなのかを知らねえと危険な目に遭ったり知らず知らずの内に誰かを追い詰めたりしかねないから知っておくことは大事だ。『
「いや作ってるの!?」
「たりめえだ。毒物と言えど上手く使えば薬にもなる、それに青酸は工業的に重要な物質だからな。構造も単純だしその気になりゃあ私でも作れる。だがこれは逆に適切な機械さえあれば簡単に作れ、誰でも入手が容易であるということの裏返しでもある。更に青酸の恐ろしさはな、『誰にも気付かれることなく容易出来てしまう』という点にもある」
「どういうことですか?普通毒物なんて集めようとしたらどこかで分かるような気がするんですが…」
「青酸配糖体という言葉を聞いたことはあるか?」
「いや、ないわね…でも字面から察するに青酸が含まれている物質ってところかしら」
「そんなところだ。この青酸配糖体なんだがな…身近なところだと果物なんかに含まれてたりするんだよ」
「果物に!?ど、どういうことですか?」
「果物、特に未成熟な実や種なんかにはアミグダリンという物質が含まれている。このアミグダリンは青酸配糖体の一種でな、これ自体に毒性はないんだが体内で代謝を受けることで最終的にシアン化水素…要は青酸となる。とは言え含有量はほんの僅かだ、未成熟な梅の実で死のうと思ったら成人で300個くらい摂取する必要がある」
「いや無理でしょ…てことは梅酒なんかも安全なわけ?」
「梅酒か、それに関しちゃ大丈夫だ。梅の実300個分も飲めるわけねえし、もし飲んだとしても先にアルコールで死ぬ。それにそもそも青酸は安定性が高くない、長期間保存することで勝手に消滅してるから安全だ。だが逆に考えてみろ、『梅酒を作るんです~』とか言って無成熟な梅の実を集めて中からアミグダリンだけを抽出することが出来た場合…誰にも悟られることなく致死量の青酸を入手することも不可能ではない。梅酒を作るのであれば一度に300個以上の梅の実を扱ったって別に不思議じゃねえしな」
「なるほど…そんなことも可能なんですね」
「それにこれは梅の実に限って話してるが、他にも青酸配糖体を含んでいる自然物と言うのは多くある。それらから青酸を抽出してやれば猛毒の完成だ、青酸の恐ろしさはこの『入手の容易さ』にあると個人的には思っている」
「そう言えば何かの豆にも含まれてるとか聞いたことあるわね…加熱調理せずに磨り潰して振り掛けのようにして食べるダイエット法がテレビで報道されたせいで、多くの家庭で青酸による中毒が発生したとか…」
「良く知ってるな、そいつは確か日本で起こった事件だったか。その事件からも分かる通り一般にはあまり知られていないのも危険性の1つだろうな。これで青酸に関しては良いだろう、さっさとリシンについて教えねえとな」
「リシンねぇ…聞いたことのない毒ね」
「ですね」
「まぁ一般にはあまり知られていないものだな。こいつはトウゴマの種子に含まれている毒になる」
「ゴマ?ゴマってあの…」
「何を考えてるか分かるが、違うぞ。普段私達が食すゴマとは別物だ。トウゴマは食用ではなくその種子に含まれる油分を目的に栽培されている、ヒマシ油って奴だな。暗殺に使われるって点だが、これは実際に起こっている。アメリカでも大統領などに送られた封筒からリシンの反応が検出されたりとかな」
「アメリカ大統領にって…そりゃもう暗殺する気満々じゃないの」
「もしくは何かしらの警告か…ま、なんにせよ時折ニュースになることがあるから知ってる奴は知ってるかもな。んでこのリシンのLD50だが、こうなっている」
マウス経口 LD50 30μg/kg
「ざっと計算すれば60㎏の成人が1.8㎎で半数死ぬことになるのね」
「そうだな、まぁマウスの数値だから違いは出るだろうが…まさか人間を使って実験するわけにもいかねえしな。よし、それじゃあ作用機序の方を見ていくぞ。リシンの作用機序は『細胞質中のリボソームを阻害し、タンパク質合成を阻害する』だ」
「…それだけじゃ何も分かりませんね」
「だろうな。つぅことでちょっとだけ、ほんのちょっとだけ細かく見ていくぞ」
「なんでそんなちょっとだけを強調するのよ」
「いやこのリシンに関しては非常にややこしくてな…真面目に解説しようとすると多分10時間くらいかかっちまう」
「…どんだけよ」
「だから滅茶苦茶端折る、そうでもしねえと解説の仕様がねえからな。てことで行くぞ、このリシンだがまずは細胞質の中へ侵入する必要がある。だが細胞質の中へ入るには細胞膜を突破しなきゃならん。んでこの細胞膜と言うのは結構優秀でな、タンパク質であるリシンごときが簡単に侵入出来るほど柔じゃねえんだ。だがリシンはこの問題を色々なものを利用して解決し、侵入する。その後もなんやかんやとあって細胞質へ移動し、プロテアソームというものによって分解を受けて初めて毒性を発揮することになる」
「クッソ端折るわね」
「仕方ねえだろ、ここら辺はまだ解説しても良いかとも思ったがぶっちゃけ解説したところで大して意味もないしよ。んで分解を受けたリシンの内一部が毒性を持ち、活性化したリシンはリボソームのサブユニットに存在する重要な部分を切り取る…まぁ要するに細胞質中のタンパク質の生成に関わる機関の一部を切除するってこったな」
「ということは…タンパク質を作れなくなる?」
「そうだ。しかもリシンは切り取るだけ、リシン自体には何の変化も起こりゃしねえ。他の物質なら何かしらに結合することで効果を発揮するものが多く、形が変わったりするんだが…リシンにはそれがない。これが何を意味するか分かるか?」
「変化が起きないってことは…活性化したリシンは毒性を失わない?」
「ちぃと違うが…概ねその通りだ。たった1つでもリシンが活性化しちまえばそのリシンは全身の細胞質中のリボソームを切除して壊しまくる。活性化したリシンが1つだけなんてこともねえから生体はもうタンパク質を生成することが不可能となる。んでタンパク質を生成出来なくなると細胞は『アポトーシス』という現象を起こす」
「アポトーシス?なによ、それ」
「一言で言えば『細胞の自殺』だ」
「え、自殺って…てことは」
「ああ、全身の細胞が死ぬ。本来アポトーシスは生体に不要となった細胞を劣化させて排出するための機構でな、人間で言うなら古い皮膚が垢になって落ちるだろ?あれがそうだ」
「じゃあリシンはそのアポトーシスを無理矢理引き起こすことで全身の細胞を殺していく…」
「そういうこったな。しかもこんな作用だ、他と同様…いや、他のやつ以上に解毒なんて出来ないと思え。もしこの毒に曝された場合、私でも最早どうにも出来ずに死ぬだろう」
「いくら強くても人間、生物であることを利用した殺し方には無力ってことなのね」
「悔しいが、その通りだ。その為私達はそういった毒に接触することがないよう警戒するしかない、お前達人形は細胞を持たないから何も起きないんだがな」
「…こうしてみると私達って毒に対する切り札と言っても過言ではない気がしてきますね」
「そうだな、この毒物に関する授業を行ったのには知識を広げる他にもそのことを意識して欲しいというものがある。毒が蔓延してようが一部を除いてお前達には効果がない、ドールジャマーは戦術人形の各種システムをダウンさせるがシステムに頼らないこの基地の奴らには無意味だ。こうすることでどれほど過酷な状況だろうが活動出来るようにしているわけだな。ま、流石に崩壊液に対する耐性を持たせることはまだ出来ないがな。放射線に関しちゃ影響を受けるのは生体パーツのみ、つまり生体パーツを除去したボディに換装すりゃあ良い。後は訓練で様々な環境に於ける戦闘技術を叩き込んでやれば…恐ろしい軍隊の完成だ」
「結構えげつない考え方ね…でも理には適ってるわ。でもそれならわざわざここまで授業で説明するまでもなかったんじゃないの?効かないってことだけ教えてくれれば良かったように思うけど」
「確かにそうですよね」
「浅はかだな。正しく知り、正しく警戒する。これは一見必要ないように見えて非常に重要だ。ちゃんと知っておけば正しい理解から正しい行動に移せる、知ってなきゃ出来ない。ほれ、一昔前に世界中で新しい型のウイルスが流行した時だって大勢の人間が正しい理解をしていなかったせいで正しい警戒をすることが出来てなかったじゃねえか。本質を見極められず意味のない行動や規制、非難とか色々と酷いことをずっと繰り返してやがった。馬鹿なんじゃねえかとしか思えねえな」
「け、結構容赦なく言いますね…でも言いたいことは分かりました」
「そうね、知ってなきゃ頓珍漢なことしか出来ないってことなのね」
「まぁ言っちまえばそうだな。ってことで今回の授業はここまでだ、前々回と同様質問がありゃあ遠慮なくしな」
「あら、それじゃあここなんだけど…」
毒物最後の授業も終えたところで余った時間を質問時間へと割り当てたスカーレットは2人からの質問に丁寧に答えていく
そうこうして時間も来たところで彼女は2人に『あ、次の授業は若干グロい表現も出てくるから覚悟しとけよ』とだけ言い残して教室を出て行った
その言葉を聞いたFN49とモシン・ナガンは『…マジ?』という顔をしてゲンナリとしたが、気を取り直して復習に励むのであった
さぁ座学編最後の授業は銃創とヘッドショットのあれこれについてですね
これに関しては結構医療従事者ですら勘違いしていることとかもあるのでそこら辺も説明するつもりです
ただまぁ話題が話題なのでちょいとグロい表現だとか…後は所謂『検索してはいけないワード』に類すると個人的に思っているワードも出します
これに関しては本当に気になったら、グロ耐性があるなら自己責任でどうぞという感じなので私は責任持ちません!
ではまた次回(@^^)/~~~
ゆかりさんが何処に配属されるか
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その他(例:音楽隊のサブボーカルなど)