Never, never, never, never give up!   作:処炉崙霸β

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Act2

「とりあえず弾抜くけど、これ噛んどきなさい」

 そうしてHK337は俺に無地のハンカチを渡す。

ラベンダーのような香りがして、なるほど人形でもこういうところは気にするのか…と少し感心する。

 

「言っとくけど、痛くても蹴ったりしないでよ?3秒我慢しなさい。いいわね?」

 そういってHK337は俺の服を上げ、血まみれになった腹部……脇腹に付けられた銃創の中にえぐりこんでいる銃弾を見つけると、ピンセットのようなものを腰のベルトに取り付けられたポーチらしきものから取り出して。

 

「行くわよ。ハンカチ強く噛みなさい。奥歯砕けることはないから。それじゃあ、さーん」

 彼女は少し早口でそう説明し、俺がハンカチを思い切り噛んでいるのを確認すれば、躊躇なくピンセットの先を傷口に差し込み。

 

「ぐ、ふぅぅう!」

 激痛が脳髄を走り抜ける。

いたい、いたい、いたい、いたい。

 

「ちょっと、足バタバタしないでよ。にぃ〜」

 ガリガリ、と指先がコンクリートの床を思い切り掴み、俺は天井を見上げて滝のように汗を流す。

 

「それじゃ抜くわよ。いーち」

 刹那、ぐじゅり。と音が聞こえたかと思えば、激痛が徐々引いていって。

 

「ゼロッ。んー、拳銃弾か。ホローポイントじゃなくて良かったわね」

 そう言って彼女は、ピンセットの先で摘まれた血まみれになっている形の歪んだ金属の塊をからん、と床に投げ捨てて。

 

「さて、と。あいにく今は消毒液しか持ってないけど本部についたらすぐ病院に行くことね。アンタ、筋肉ズタズタになりかけてるわよ」

 そう言葉を吐くと、乱暴に半透明のプラスチック製容器に入ったアルコール臭い消毒液を俺の傷口に水でもかけるように振りかけて。

 

「ぁぁぁぁ!い、つぅぅぅぅぅぅ!」

 めちゃくちゃに沁みるので、思わず床を転げまわってしまう。

「大げさね。まぁいいわ。それで、ある程度歩けるでしょ?早くセーフハウスに行かないと日が暮れるわ。日が暮れるとゾンビ共が活発になるの……なんでか知らないけどね。夜行性なのかしら?」

 

「この廃ビルじゃ、駄目なのか?」

「死にたいならいいんじゃない?さっきの化け物はたまたま気付かなかったけど、普通だったらあんたの血痕からこの中まで入ってくるわ。そうなりたくないなら、さっさとついてくることね」

 HK337は肩にかけていた自身のアサルトライフルを両手に携えると、俺を見下ろす形でそう返事をして。

 

 

 

 

 

 

 東京、新宿の路地裏を俺たちはひたすらに歩いている。

荒廃した風は鼻腔をくすぐり、すっかり冷え切った雨は布の下にある肌を冷やし、そして濡らす。

 

 思わずハーフライフルを握る手が強張るが、HK337は一切そのような素振りは見せず、辺りを警戒しながら俺を先導していて。

 

「な、なぁ。ハーフハウスってどこにあるんだ?」

「しっ。化け物よ、黙って息潜めなさい」

 そろそろ路地裏を抜けられるとなったときに、俺が彼女に疑問を投げようとすると、彼女は右手を横に伸ばし、俺が先に行かないように止め、短く言葉を紡ぐと、近くのゴミ箱へと身を隠した。

 それに従うかのように俺も息を止め、慌てて彼女の後ろに隠れる。

 

 それから数秒だった頃だろうか。どしん、どしん。と地面の揺れる音ともに、不規則な足音が鳴り響いた。

 おそらくE.L.I.Dだろう。

音は徐々に近づいてくる。俺は息を押し潜め、ひたすら化け物が立ち去るのを待つ。

 

 

 風が吹きすさび、雨は一向に止まる気配を見せない。

俺たちの気配を感じ取ったのか……ふと先程まで響いていた足音が止まる。

 

 終わった。

殺される。

 

 そう目を瞑るが、一向に想像していた暴力が訪れることはない。

 そうして恐怖に俺が怯えていると、止まっていた足音がまた響き始め、そして足音は徐々に遠くなっていく。

 

 

「運が良かった。あのデカブツ、匂いがうまく感じ取れなかったのね。雨に助けられたわ」

 HK337はそう呟くと、ビルの角に隠れながら道路の左右を 見て、一通りの安全があると自身の電脳確認したのだろう。視点はそのままで、未だゴミ箱に隠れている俺に対し手招きし、ついてくるように促してくる。

 

 そして彼女の手招きに従うように足元をふらつかせながら、路地裏から出る。

 するとそこに道幅の広い道路が現れ、思わずそこに広がる情景に息を呑む。

あたりに壊れた車が転がり、遠方には中程から上の折れた東京タワーが立っており、まるで映画のような……なんとも現実味のない風景が俺の目に焼き付く。

 

「ぼーっとしてるとまた化け物が来るわよ。早く来なさい」

 突然耳に響いた凛とした声。

慌てて意識を現実に引き戻し、焦りつつも先に歩き始めたHK337についていく。

 

 だが、再度東京タワーに目をやる。

真ん中から上は圧し折れた東京タワー……かつて子供の頃に見た真紅の輝かしい日本の象徴はそこにはなく、あらためてこの世界は崩壊したんだと実感させられる。

 

 ほんと、クソッタレな世界だと心から思う。

だけど、クソッタレな世界だからと死ぬ理由にはならないんだ。

 

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