今からおよそ7〜8年程前、平和な海に突如として奴らは現れた。
大きさ、見た目共に我々人間と大差ない者もいれば、種類によっては見た目が真っ黒な魚のような形をしており、むしろ人より小さい者もいた。
しかしながら奴らと対峙して誰もが一同に感じる事、それは(圧倒的武力)と(凶暴性)。
人を発見すると口、もしくは手や身体に付いている砲塔を向けて撃ってきた。それは視界に入った者達だけでなく、陸地にも被害を及ぼした。海外や自国の貨物船を攻撃し、輸入も輸出も出来ず制海権を失ってしまった。
そして、なにより恐ろしかった事は奴らは人のナリこそしているが撃ち込まれた砲弾はまさに戦艦そのもの。かわってコチラの戦艦の砲撃は奴らになんのダメージも与えられなかった。ならばと戦闘機による機銃やミサイル、爆撃などを行うも全く意に返さず、むしろ奴らは黒く歪な形をした物体飛ばし攻撃をする航空戦力を無力化、制空権を奪った。
陸からの攻撃でも奴らに通用せず、かといって艦船や航空機でも勝つことは愚か傷1つつけることもままならない。
人々はその事実に打ちひしがれ絶望し、誰もが死を待つしかないと思っていた。
そんな時、ある一報が届いた。(突如として現れた少女が奴らを沈めた)と。
最初は誰もがどこからか流れ出たデマだと思っていた。だが、その姿を目にしたとき人々は驚愕と同時に僅かな希望の光をその眼に灯した。
その少女達の容姿は小学生から大人程まで様々な姿をしていた。
しかし、その手に持っている物や背負っていた巨大な砲塔をまさしく我々は知っている。それは昔の大戦時代の頃、自国を守り戦った戦艦の砲塔と酷似していた。
それからは世界の反撃が始まった。彼女達の攻撃は今まで無傷だった奴らに傷をつけ、あまつさえ沈める者もいた。
自国の艦船の艤装を纏い、海を駆け、奴らと砲雷撃戦を繰り広げる様はまさしくかつての戦艦と呼ぶに相応しく、彼女達も自らをこう呼称した。
『艦娘』と。
ある時、損害を受けた奴らは撤退を始めた。我らは追撃のチャンスとも思ったが、戦える艦娘達の数も少なく、尾行して奴らの拠点を探る事にした。しかしそれは途中で断念する事となる。
奴らは途中から海に潜ったのだ。
空からのレーダーでは捉えきれず、かといって船や潜水艦を出した所で魚雷や機雷の餌食になるのが関の山だろう。
ついぞ奴らの拠点を突き止める事はできなかった。
奴らについての情報は、それぞれ種類があり空母や戦艦などのような艦船の特性を持つ.人間を仇のように襲う.通常兵器が全く持って通用しない.海中を行動可能で拠点も海中にある可能性あり
のみであった。最後の事から各国は奴らの事を通称[深海棲艦]と名付けた。
それぞれの国はまた深海棲艦が襲ってくる事を懸念して早急に対抗策を練る必要があった。
そうして出来たのが艦娘を配置させて深海棲艦が来たときの為に各地に設置されて[鎮守府]とそれを管理する[大本営]である。
当時の技術では作れたとしてもハリボテの建物のみであっただろうが、それを可能にしたのが艦娘や深海棲艦と同時期に発見された妖精という存在。
妖精の技術力は壮大で艦娘に必要な傷を治す入渠施設、新たな艦娘を生み出す建造施設、装備等を作り出す開発施設等を作り上げた。
それ故に、大本営を運営する海軍は妖精の力を少しでも借りようとするが妖精達は気ままに行動して言うことはあまり聞いてくれず、尚かつ素質あるものにしかその姿は見えなかった。
艦娘達の言うには自分達の艤装や艦載機を動かしているのも妖精だという。
そして、そんな妖精を見える者こそが『提督』の素質がある者だと言うのだ。
それからは、大本営は提督の素質がある者を発見、育成して鎮守府を運営させ、妖精や艦娘の情報を入手と同時に深海棲艦から輸入出ルートの確保と本土の防衛に努めた。
数年後、ようやくある程度制海権を取り戻した各国は自国の危機を脱した。
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太平洋に面しており少数の艦娘が所属する泊地、宿毛湾泊地にその男はいた。
「坂本中佐、巡回中の艦隊から連絡がきました。駆逐艦イ級を2隻発見との事、どうなさいますか?」
「……ん?ああ、いつのまにか寝ちょったか…」
執務室の扉を開けて報告に来たのは穏やかな雰囲気と落ち着きを持った軽空母、鳳翔だった。
中佐と呼ばれた土佐訛りのある男は海軍の軍服を着崩しており、帽子を深く被って腕と足を組んで眠っていたようだった。
呼ばれて起きた彼は後ろで結んだ黒髪を揺らしながら背伸びをして目を覚ます。
「たしか呉んとこの艦隊が何隻かうち漏らした言うとったし、おそらくソイツやろうな。はぐれは追跡しても無駄やし、沈めてもかまんやろ。」
「わかりました。…後、執務中なんですから居眠りや飲酒をしては駄目ですよ。では」
最後に釘を指して退出する鳳翔。その口振りからも普段からそういうおこないをしているのだろう。
「はぁ…、また説教されるんやろか。ちゃっちゃと仕事終わらせて逃げようかな…」
そう言って彼は机に置いてある紙の山を見て量と後に来るであろう鳳翔の説教に溜息を漏らしながら仕事を捌きはじめる。
そんな彼はこの泊地を管理、司令をする海軍士官。
坂本 竜《さかもと たつ》中佐
見た目は少々野生的ながらもキリッとした目で顔は平均より僅かに上といった位だろう。潮風によく当たるせいか髪は少し癖がついた黒い長髪だが普段は後ろで留めて小さなポニーテールにしている。
大雑把で、酒と賭博やゲーム等の娯楽が好きなのだが賭博はよく負けるのでその界隈では[ネギを背負った竜]なんて呼ばれている。
そしてなにより、若くしてあの深海棲艦が現れた時に戦艦に乗って仲間と共に前線で戦った兵士達の生き残りである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブーーッ,ブーーッ,ブーーッ,
あれから暫くして、突如施設内に鳴り響くサイレン。しかし、このサイレンは深海棲艦が襲ってきたときのような緊急の音ではなかった。
「おっ、帰ってきたな。」
そう、これは出撃していた艦娘達が帰って来た時の合図だった。本当は貨物船を客船などが入渠、入泊する時の合図だったのだが、どうせならと艦娘の帰還報告用にと残しておいたのだ。
コン コン コン コン
「おお、入ってかまんぞ」
「失礼します。第一艦隊、ただいま帰投しました。」
ノックをして入室してきたのは先程帰投した第一艦隊の旗艦、大井。戦果報告にきたのは間違いないだろう。
「全艦、損傷は無し。発見、撃沈させたのは駆逐艦イ級2隻のみです。偵察機によっても周囲に他の深海棲艦は確認されませんでした。」
「そうか、やっぱただのはぐれやったか。了解した。なら今日はもう出撃予定はないき休んでかまんよ」
「はい、それでは失礼しますね。」
報告を受け終わり、もう残り少なくなった仕事を終わらせに掛かる。気が付けば日も段々と傾いて来ており、空がほんのり赤みを帯びてきていた。
書類の処理を再開して暫く、残り一枚の紙を残して他すべての書類を終えた。その一枚には大本営からの辞令と書いてあった。
「遂に、この時が来たか…あんまり気乗りはせんがやけんどなぁ…」
コンッ コンッ コンッ
「どーぞ。」
「やぁ、司令!飯の時間だぜ!」
入室許可をした瞬間元気よく飛び出したのは先程の第一艦隊の軽空母、隼鷹。帰還してそんな時間が経っていないのに既に顔は僅かながら赤みを帯びていた。
「やと思った。ほんで?わざわざそれ伝える為に来たわけじゃないんやろう?」
「あー、やっぱ分かった?実はね…」
普段はわざわざここに呼びに来ることもなんてないのだから当然なにかあると分かるのだが酔っている彼女は気付かないのかもしれないが。
俯き暫くして、パッと顔を上げた隼鷹は目を輝かせながら
「今日 巡回中にたまたま美味しそうな鯛がとれたんだよ!!今鳳翔さんに捌いて貰ってるから早く行かないといいつまみがなくなっちゃうよ!」
「おまんそれを早う言わんか!!直ぐ行く!絶対に全部食べるなよ!」
その言葉を聞いてからは坂本の動きは早かった。窮屈な軍服は脱ぎ捨て、酒loveとプリントされた白のTシャツに短パンを履いて急ぎ併設されている食堂に向かった。
この泊地は時たま燃料補給にくる貨物船や客船の為の施設を兼ね備えているが、基本的には艦娘寄りの施設になっており、建造施設は無いものの入渠設備と食堂、艦娘の寮を併設している。
この泊地は鎮守府程の大きさはなく、あくまで呉鎮守府の艦隊が来るまでの防衛線、索敵や警備を行なう為だけの場所であるが故に所属する艦娘も最小限となっている。
食堂は鳳翔が管理しているが、近くにある町に赴き皆で食べることもそれぞれ買いに行くこともある。
というのもこの町はよく言えば寛大、というか細かい事をあまり気にしない所がある。それに、泊地の近くに港もある為、漁船で安全海域となった近海へ漁に出る漁師と巡回中の艦娘が接触する事もあり緊急事態には救援に向かうこともありそのおかげで艦娘を悪く思う艦娘反対派のデモ隊が無く、艦娘達が買い物や呑みにきても軽く受け入れてくれた。
「鳳翔!鯛はまだ残っちゅうか!?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。いまお出ししたばかりですから。」
「司令はん、焦りすぎやぁ〜。いくら隼鷹さんでもそんなすぐは食べへんよ。」
急いで食堂に駆け込んだ坂本をみて鳳翔と黒髪でショートボブの駆逐艦、黒潮が微笑む。
「いや、黒潮。おまんは奴の事をなんも分かっちょらん!この前アイツに居酒屋へ呑みに行った時、呑む量も大概やけど食べる量もエグかったんぜよ!お陰でたった数時間で財布の諭吉が全員天に召されてしもうた…」
「あはははっ…奢りだってんでついね…」
「あれ〜?司令じゃん、早いねぇ?あ、もしかして鯛の話聞いたの?」
「なんですか司令そのシャツ…いくら泊内とはいえもっとマシな格好されてはいかがですか?」
財布から諭吉さんが飛んでいくのを遠い目で思い出していると、食堂の扉を開けて新たに2人入ってきた髪をみつ編みにしたおさげでのんびりとした口調で話しかけてきた北上と少々冷たい目を向けるのがさっきの大井だった。北上と黒潮は共に先程の第一艦隊である。
「しょうがないやろ。俺はファッションには疎いんぜよ。…っと、噂の鯛とやらは……おぉ」
自分のセンスについて既に開き直っている坂本中佐。過ぎ去ったお金の事は忘れて、机の上に置かれた目的の鯛料理に目をやる。
白く輝く鯛の姿造りがそこに鎮座していた。まるで今にも動き出しそうな兜の横には白い光沢を放つ見るからに肉厚な刺し身がズラリと並んでいて、まさしく新鮮なのだといのが見て取れる。
「じゃあ、頂くとするか。ん?そういやアイツらは今何処におる?もう食べ終わったんか?」
「ああ、それなら長良さんは今日非番だからと言って昼頃に町の方のジムへ行きましたね。名取さんは無理矢理連れて行かれましたけど…あとはーー」
「今帰ったわ!鳳翔さん手土産があるんだけど…あ、司令官もいるのね。」
「司令官さん、ここに居たのですね。神風、春風、ただいま戻りました。」
「おう、ってその手に持っちょるんはまさか…」
「あ、これはさっき帰る途中で魚屋の斎藤さんからウツボを頂きまして。」
「ようやった神風、春風!鳳翔、早速唐揚げにしてくれ!」
「ふふっ、わかりました。直ぐに調理しますね。」
「では鳳翔さん、お願いします。」
「あ、鳳翔さん、私もお手伝い致します!」
鳳翔に他の艦娘は何処にいるかを聞いている時、また扉を開き元気に入ってきたのは緋色の着物を身に纏った紅いロングヘアーに大きな黄色のリボンをつけた少女、神風と服の色は上下逆で茶髪の縦ロールの少女、春風だった。そして神風の手にはさっき言っていた魚屋から貰ったというウツボが入っているらしき袋を持っていた。それを、鳳翔に渡してテーブルにつき、春風は鳳翔の手伝いに厨房へ入っていった。
「となると後はアイツらだけか。」
「よっし!今日のトレーニング目標終わり!」
「ふぇぇ、今日も疲れたよぉ」
「これは司令官。今から食事でしたか。」
続けて入ってきたのはさっき鳳翔が話していた軽巡ので黒髪をサイドテールに結び、鉢巻をつけたラフな格好の長良と茶髪のショートボブでしろいカチューシャをした涙目の名取、そして駆逐艦で黒潮の姉、薄い桃色の髪をポニーテールにした不知火だった。
「おう、おまんらも帰ってきたか。けんど不知火は少し前に帰投しちょったやろう。なにしよった?」
「いえ、ただ部屋で少し精神統一をして入渠した時、たまたま長良さん達と一緒になっただげです。」
「あ、そういば司令。はいこれ、帰り際でお酒貰ったよ。」
「おお!ほんまか!今日はいい日やなぁ!」
「イエーイ!今日は呑むぞー!!」
「貴方達はいつも呑んでるでしょうに…」
そう言って酒を手渡す長良。それを受け取りテンションがさらに上がる坂本と隼鷹、その姿をみて呆れ気味に呟く大井。実質毎日酒を呑むのはこの2人で他は飲む事はなく、鳳翔も呑むときはあるがあまり呑んだりはせずにこの2人に付き合うように嗜む程度であった。
「はい、出来ましたよ。ウツボの唐揚げです。皆さんも食べて見てくださいね。」
厨房から鳳翔が二皿に分けた唐揚げを持ってきて、春風も皆の分の料理を運んできた。
これでこの宿毛湾泊地に所属する全員が揃った事になる。
主に周辺海域の警備、巡回をする第一艦隊、北上、大井、不知火、黒潮、隼鷹。
漁船や貨物船等の護衛をする第二艦隊、長良、名取、神風、春風、鳳翔。
それぞれの元に料理が運ばれ、運び終わると皆が席に着く。そして坂本はみんなの顔を視て
「そんなら頂くとするか。いいかおまんら。」
その言葉にそれぞれ頷き皆が両手を合わせる。
「ほんなら、せ〜の」
「「「いただきます!!」」」
数は少なくとも皆この生活に特に不満もなく楽しく過ごす。
そして今日も皆で賑やかに食事をして、坂本と隼鷹が呑みすぎて鳳翔に説教をされ、それを呆れ半分笑い半分に見届ける。
唯一いつもと違うのは執務室の机にある一枚の『宿毛湾泊地責任者、坂本 竜中佐。貴官ヲ横須賀鎮守府ヘノ異動ヲ命ズ』と書かれた紙が残されていることだった。
なれない人もいると思うので土佐弁を少し緩和して若干関西訛りも織り込んでいます。わからない言葉があれば返答するのでいつでも言ってください!