横島友人帳。   作:ちょりあん

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本当にお待たせしました。


夏目と友達

 

 

 

 小さな頃から、時々変なものを見た。

 それらはおそらく妖怪といわれるものの類。

 

 祖母であるレイコさんは強力な妖力を持ち、出逢った妖怪に片っ端から勝負を挑み、いびり負かして子分になるよう証として紙に名を書かせ集めた。

 

 持つ者に名を呼ばれれば決して逆らえない契約書の束である友人帳。

 

 遺品としてそれを継いで以来、妖に襲われたり名を返したりと、てんてこまいの日々を過ごしていた。

 

 だけど。

 

「此処が学校ですか……人の子がたくさんいます!」

 

 まさか妖怪と一緒に学校に登校する日がくるとは思ってもいなかったな。

 

「もう学校についたから返事はあまりできないぞ」

 

「わかってます。いい子にしてますから」

 

「信じてるよキコ」

 

 なんでもない学校の校舎の中を楽しそうにあちこみ見渡すキコの手を引き廊下を歩く。

 通いなれた学校の風景も、妖怪であるキコには新鮮に見えるのだろうか。

 

「おはよう夏目」

 

「おはよう夏目くん」

 

「おはよう」

 

 教室へ向かう途中、同級生たちとすれ違い挨拶を交わす。この学校に来てから西村や北村を初め、友達と呼べる人たちがたくさん出来た。

 友達と挨拶を交わす。まだちょっと慣れなくて照れくさいけれど、少しも嫌な事じゃない。

 

 そんな様子をキコが嬉しそうに見ていた。

 

 

 

「――であるからして」

 

 少し時間は進み、三時間目の授業中。

 外からは体育の時間の生徒たちの声が聞こえてくる。

 

 キコは今傍にいない。二時間目の授業が始まるまでは一緒に教室にいたのだけど…… 

 

「夏目、少し探検してきますね!」

 

 と、ワクワクした表情で校舎内を探検しに行ってしまった。何か問題を起こしてなければいいけれど。

 

 ……先生はもうヒノエの所にいるだろうか?

 放課後まではまだ時間があるし、もしかしたら中級たちと明るいうちからお酒を飲んでいるかもしれないな。

 

「…………」

 

 横島忠夫。

 

 妖怪の名前しか書かれていない筈の友人帳に書かれていた人間の名前。

 レイコさんの前に現れた、妖が見える人。

 

 今朝の出来事でその人格に不安を覚えはしたけど、昨日のキコの話を聞くかぎり悪い人ではなさそうではある。

 

 キコは昨日、横島忠夫さんが消えてしまった事でレイコさんはショックを受け、再び周りを遠ざけるようになったと言っていた。

 それが本当なら、それほどレイコさんにとって横島忠夫さんは大きな存在になっていたという事。

 

 レイコさんとはどんな関係だったのかな?

 恋人……だったとか?まさかな。 

 

「夏目、ただいま戻りました……」

 

 と、キコが戻ってきた。そのまま机の右横に立つ。

 授業中で人の目があるので返事はできないが、視線と小さく頷く事で反応を返すことにする。

 

 あれ?なんだか元気がない……?

 

「……何かあったのか?」

 

 心配になり周りに聞こえないようにできるだけ小声で問いかける。

 

「夏目――やはり『じょしこーいしつ』を男子が覗くというのは嘘だったようです」

 

 ゴンッ!!

 

「な、夏目どうした!いきなり机に頭を打ち付けて?」

 

「い、いえ、すいません!寝落ちして頭をぶつけてしまいました……」

 

「おいおい今は授業中だぞ、しっかり起きておいてくれよ」

 

 先生に注意され、周りのクラスメートに笑われる。

 愛想笑いを浮かべながらなんとか誤魔化した。

 

 あ、危なかった……!

 

「夏目、大丈夫ですか?」

 

 キコのせいだよ!キコの!

 というかわざわざ確認しに行ってたのか!?

 

 そう視線で問いかける。

 

「先程、たくさんの女子達が『こーいしつに行こう』と言っているのが聞こえついて行ったのです。するとやはりそこは『じょしこーいしつ』だったようで女子達は着替えを始めました。しかし待てども待てども男子達は着替えを覗きには来ませんでした……。タダオの言っていた事は残念ながら嘘だったようです……」

 

 当たり前だよ!

 何処に行ったのかと思っていたけど、そんな事を確認していたなんて……。

 ある意味問題を起こされるより困る。

 

「……暫くはジッとしててくれよ」

 

「……はい」

 

 落ち込んでいるキコは素直に頷いた。

 

 

 

 

「夏目!」

 

「田沼!どうした?」

 

「ちょっと来てくれるか?」

 

「……?ああ、いいよ」

 

 昼休み、廊下を歩いていると田沼に呼び止められた。

 

 田沼要。おれの友達で、おれが妖怪を見ることが出来る事を知っている学校で唯一の人物でもある。

 その田沼に連れられ、人目が少ない廊下の隅へと移動する。

 

「夏目、その……大丈夫か?」

 

「え?特に問題はないけど、どうしたんだ?」

 

 すると少しだけ言いにくそうに躊躇ってから……

 

「なぁ、また何か問題に巻き込まれているんじゃないか?」

 

 と、言った。

 

 思わず横にいるキコを見てしまう。

 

「やっぱりそこに何かいるのか?」

 

「見えるのか?」

 

「いや……でも違和感は感じるんだ。さっき遠目から夏目を見つけた時、夏目の隣に違和感を感じて……それで声をかけたんだ」

 

 田沼は、おれが妖怪を見ることができるのを知っている。田沼自身も見ることは出来ないけれど、その存在を多少なりと感じることは出来る。

 それで隣を歩くキコの気配を感じとったのだろう。

 

「夏目、この者は私が見えるのですか?」

 

「ううん、見えるわけじゃないけど感じることができるんだ」

 

「なんと!それは珍しい」

 

 言葉通り物珍しいのか、田沼の周りを周りだす。

 

「夏目?」

 

「あ、大丈夫だよ。今回は本当に問題ないんだ」

 

「そうなのか?でも何だか疲れた顔をしてたぞ?」

 

「今朝頼まれたんだ。一度人が通う学校を見てみたいって。疲れた顔をしてたのは……ちょっと寝不足でさ」

 

 原因はキコというか横島忠夫さんのせいなんだけど、説明がややこしいし女子更衣室のくだりなんて言いたくない。それに友人帳の事もあるし田沼には話さない方がいいだろう。

 

 嘘をつくのは相変わらずいい気分ではないけれど。

 

「本当に大丈夫なんだな?」

 

「うん、大丈夫。ありがとう、田沼」

 

「いや、それならよかった……そういえば、今傍に妖怪がいるってことなのか?」

 

「ああ、田沼の周りを周ってるよ」

 

「うぇっ!?」

 

 田沼は慌てて自分の周りを見渡す。

 はは、キコは反対側だぞ。

 

「大丈夫だよ田沼。その子は優しい妖怪だから」

 

「そ、そうか?ちなみにどんな妖怪なんだ?」

 

「小さな女の子の妖怪だよ。今田沼の正面にいるよ」

 

「え!しょ、正面に……」

 

 じーっと正面を見つめる田沼。

 だけどキコは背が小さい。田沼が見つめる視線の先はキコの頭の上だ。

 キコも不思議そうに田沼を見つめている。すると……

 

「ふむ」

 

 一言頷き田沼の横に移動した後、右手を顔の横まで上げ人差し指を立てる。

 それから集中するように目を閉じた。

 

「はぁぁぁぁ……えいっ」

 

「わひゃっ!?」

 

「田沼っ!?」

 

 掛け声と共に人差し指を田沼の脇腹につき指すと、驚いた田沼が変な声を上げて仰け反った。……って今触ったのか!?

 

「見ましたか夏目!素養のある人ならば私でも力を込めれば触れるみたいです!」

 

「みたいって、田沼で試すなよ!」

 

「な、夏目今のは……?」

 

「ごめん田沼!でも、ただのいたずらだから心配しないでくれ」

 

「イタズラではありません!これは夏目に私の力をですね……!」

 

「キコは黙っててくれ!」

 

「む〜〜!!」

 

 膨れるキコを置いておいて田沼を助け起こす。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ああ。脇腹を軽く突かれただけみたいだし。びっくりしたけど」

 

 そう笑って気にしてない、とおどける。

 それから突かれた脇腹に手をあて、確かめるように擦る。

 

「よく考えたら俺、今妖怪に触られたんだよな……」

 

 しみじみと、感涙深く呟く。

 普通、先生みたいな強い妖怪や、一部の獣妖怪、またはそういう道具がなければ妖怪は視認出来ないし知覚も出来ない。

 触られていても、何も感じないんだ。

 

 でも今のは田沼の体質とキコの力?で、触れられた事を知覚することが出来た。

 それは田沼にとって特別な事だったんだろう。

 

「ほら夏目!この者もこう言っているではありませんか!」

 

「そういう問題じゃないだろ?それに大人しくしてる約束じゃないか」

 

「む〜!む〜!」

 

 リスのようにむくれてるな……。

 少し言い過ぎたか?いや、でも危険な事じゃなくても田沼を驚かせたくない。

 

「夏目?その、妖怪でも小さな女の子のなんだろ?俺は怒ってないから強くあたらないでやってくれ」

 

「田沼……ありがとう」

 

「よく言ってくれました人の子!どれもう一度私の力を……」

 

「調子にのるな!」

 

「あいたー!?」

 

 

 

 

 

「ひどいです夏目」

 

 自業自得だよ。

 

 あの後、危険はないと分かった田沼と別れ教室に戻った。すぐに授業が始まり、キコは頭を押さえながら恨めしそうにこっちを睨んでいる。

 

「やはり夏目はレイコの孫ですね。暴力的な所はよく似てます」

 

 失礼な奴だ。

 レイコさんは自分から勝負を挑んでいたから暴力的と言われても仕方ないと思うけど、おれは一度だって自分から勝負を挑んだ覚えはないぞ。

 

「レイコも私が抱きつきくっつきすぎると『鬱陶しい!』と言って頭を叩いてきたものです」

 

 そうしみじみと呟く。

 その光景が頭に浮かんで少し笑みがこぼれてしまう。

 

 それからもキコはレイコさんと横島忠夫さんの話を続けていく。

 全く……授業中なんだけどな。

 

 そんな事を思いながらも、授業よりもキコの話に耳を傾けてしまうのだった。

 

 

 

 




更新止まっている間も感想で応援をもらい力をもらいました。
実はこの話は更新が止まった三月には書きあがっていたのですが、次の話でつまり、この話だけ投稿しても……と思い今まで眠っていたのですが、続きが書けたので投稿しました。
待ってくれていた方、本当にすいませんでした。
これからちまちま投稿していくので、またお付き合いしていただけると嬉しいです。

次の話も今日中に投稿しますのでよかったら見て下さい。
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