横島友人帳。   作:ちょりあん

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本日二回目の更新です。


レイコと痛み

 

 

 

 最近、少し浮かれていたのかもしれない。

 

 横島くんと出会い。ここ数日は色々な事が起こった。

 私と同じで妖怪の事が見える横島くん。その関係で少し縁が出来た妖の少女のキコ。猫の幽霊の件で知り合った三船のお婆ちゃん。

 

 騒がしくて、余計な事を考える暇がなかった。

 

 だけど、忘れていたわけじゃない。

 

「あ、おい見ろレイコがいるぞ」

 

 ただ、油断していただけ――

 

 

 

 

「あなた、きれいな名前なのね。これであなたは私の子分。名前を呼んだら飛んできてね」

 

 そう言って、名前を書かせた妖怪に別れを告げる。何かを訴える妖怪の瞳は無視して。

 

「…………」

 

 そういえば、友人帳に名前を書かせたのは横島くんが現れてから初めてかしら?

 そんな時間、なかったのもあるけど。

 

 あまり認めたくはないのだけれど、友人帳は私の憂さ晴らしのための手段だ。

 つまり、最近は憂さ晴らしをする必要がなかったという事でもある。

 

「……横島くん、何処にいるのかしら」

 

 ふと口に出る。

 

 本当は今日、一度横島くんの家に行ったのだけど、何処かへ出かけたのか留守だった。

 肩透かしをくらい、これからどうしようかと宛もなく歩いていると学校の連中に出会ってしまったというわけだ。

 

 そっと頬に触れる。

 

 鏡がないのでわからないけれど、さっきの妖怪にも言われたが石を投げられつけられた傷があるのだろう。

 

 こんな事、よくある事だから別に平気だけどね。

 

 それから偶々いいところにいた妖怪に憂さ晴らしに勝負を挑んで今に至る。

 

 あ~あ、何かつまらないなぁ。

 宛もなく歩く。いつもの事だ。

 

 家にいても居心地が悪いだけ。一緒に遊ぶ相手もいないから目的地も特にない。ふらふら歩き、その途中見つけた妖怪相手に勝負を挑む。

 そんな毎日。いつもの事、いつもの……。

 

 

 

 

『僕たちが君に何かしたかい?』

 

『どうしてそんな嘘ばかり言うの?』

 

『気味が悪い』

 

『おーい!アイツの近くにいると呪われるぞー!』

 

『ごめん、ごめんよ』

 

『私達には何も見えないよ』

 

 

 

「っ!」

 

 慌ててブンブンと首をふる。

 

 ダメ……こんな時、余計な事ばかり思い出してしまう。

 くだらない事、わけない事よ。こんな記憶。

 散々思い知らされて、理解させられた事じゃない。何を気にする必要なんてない事よ。

 

「…………あ」

 

 視線の先、距離はまだあるけれど見えたのは一人の男の子。赤いバンダナが特徴のかなりスケベな横島くんだった。

 周りには特に何もない一本道、そこにポツンと居を構えていた。

 探していたけどこんな直ぐに見つかるとは思わなかった。

 

「あら?」

 

 でもそこにいたのは横島くんだけじゃない。あれは……横島くんがキコと名付けた妖怪の女の子。それにもう一人、女の人がいる。

 

 何か話をしてるみたいだけど……ここからじゃ聞こえないわね。ということでそっと近づいてみる。

 

「こんにちはお姉さん!僕、横島忠夫!さぁ座って座って!」

 

「え?ええ?き、急に何ですか?」

 

 横島くんは手を揉みながら女の人……二十歳くらいかしら?に、声をかけ、目の前にある長さ1メートルくらいの机に女の人を誘導する。

 どうやらたまたま歩いていた所を捕まったようね。

 

 木で出来た机は手作りのようで、その上には小さな木の板があり何か文字が書いてある。

 何なに……『なんでも屋横島。困ったがあれば雑用から幅広く何でもやります!料金は要相談。美女、美少女は優遇します』……何を書いてるの横島くんは。

 

 女の人は言われるままに机の前にあった椅子に座らされている。

 あ、この女の人……。

 

「僕、今日からこういうの初めたんです!お姉さんが初めてのお客なんでサービスしますよ!最近何か困った事ないっすか?」

 

「なんでも屋?え、でも……困った事なんて別に」

 

「嘘はいけないなーお姉さん。最近肩が重かったりしないっすか?」

 

「ど、どうしてそれを!」

 

「ふっ、なんでも屋横島は何でもお見通しなんすよ」

 

 そう言って人差し指をたてポーズを決める横島くん。その隣でキコも真似をして人差し指をたてていた。

 

「俺に任せればその肩の重み軽くしてみせますよ。もしダメだったら料金は取らないっすから?ものは試しってことで。ね?ね?」

 

「えー……じゃ、じゃあちょっとだけなら」

 

「よっしゃーー!!」

 

 女の人は元々押しに弱い性格の人なのか、困った顔をしながらも渋々頷く。横島くんのご機嫌がこれでもかと上がったわね。

 

「んじゃまずは……ぐへへ」

 

「ん?」

 

 思わず声がでる。

 横島くんは女の人の肩に取り憑いていた妖を軽くデコピンをくらわせた。

 

 そう、私には見えていたのだけれど。彼女の肩には少しいやらしい顔をした妖怪が乗っていた。だから肩が重いって感じていたんでしょう。

 

 だからその事には別に驚いていたわけじゃない。

 

 なんでも屋横島なんてふざけた看板を見ていたのもあるのだけど……あ、助けてあげるんだ。綺麗な人なのもあるんでしょうけど良いところあるじゃない横島くん。なんて思ったくらい。

 だから驚いたのはデコピンで妖怪が『ひゃ〜!』っと逃げていった後も、手をワキワキさせ何かしようとする横島くんを見たからだ。

 

「…………」

 

 ……何だか嫌な予感しかしないわね。

 

 私は足早に横島くんたちへと近づいた。

 

「最初はマッサージっすね。肩から始めて……最後はその胸を!」

 

「む、胸!?え?そ、それはちょっと……!」

 

「治療の為!これはその為に仕方ない事なんや!仕方ない犠牲なんやー!!」

 

「え?ええ!?」

 

「はぁっ……はぁっ!じゃ、じゃあ行きますよ!!」

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

「や、やっと……やっと美味しい思いが出来る!こんな美女の乳を合法的に揉めるなんて……過去に来てよかったー!生まれてきて良かったー!!もう死んでもいいー!!「じゃあそのまま死になさい」ほぎゅらん!?」

 

 胸を揉もうとして少し屈んでいた横島くんの頭を後ろから蹴り倒す。すると勢い良く机に衝突したので、そのまま頭を踏んづけた。

 

「え?え?ええ?」

 

「貴方、早く行きなさい。もう肩の重みは取れてるでしょ?」

 

「え?ほんとだ……あっ!お金は」

 

「そんなのいらないわ、ねぇ?横島くん」

 

「な、夏目ちゃん!あ、頭が割れる!割れてまうーー!!」

 

 泣きわめく横島くんを無視して、女の人にさっさと行きなさいと手をふる。

 少しだけどうしたらいいか迷った後、軽く頭を下げて女の人は去っていき……

 

「あ、あ、ま、待って!せめて電話番号を「しつこい」いぎゃー!?ぐりぐりはアカンーー!?」

 

 往生際の悪い悲痛な叫び声が辺りに木霊した。

 

 

 

 

 

「レーコ、レーコ」

 

「はいはい。それと私はレイコ。伸ばしちゃだめよ」

 

「レ……イコ?」

 

「よくできました」

 

 戯れてくる妖怪の女の子……キコの頭を撫でる。すると無邪気な笑顔で私を見てくる。ふふ、可愛いものね。

 それに比べてこの男は……。

 

「ちくしょー!後ちょっとやったのにー!!ええやんか!たまには美味しい思いしてもええやないかーー!!」

 

「いや、痴漢行為は普通に犯罪よ」

 

「仕方なかったんやー!!こっち来てからそういうチャンスがなくて、溢れんばかりのリビドーが暴走しただけんやーー!!」

 

「ただの最低な言い訳にしか聞こえないんだけど」

 

「さいてー、さいてー」

 

「ほら、この子も言ってるわよ」

 

 キコの場合よく分かってないのだろうけど、笑顔だし。

 ただ少しは効いたみたいで「ぐっ」と唸った後、机に突っ伏し静かになった。

 

 今、私達がいるのはさっきの場所。簡素な机の前に二人揃って座っている。キコにも椅子が用意されているが、この子は座らずに私と横島くんの周りを楽しそうにウロウロ動いている。

 

「それより一体何なのよこれ?」

 

「ん?何が?」

 

「このお店!『なんでも屋横島』って名前もそこに書いてある内容もふざけたお店よ」

 

「ふざけたって、別にそんなつもりはないんだけど……」

 

 そう恨めしそうにこっちを見ながら机に突っ伏していた上半身をのしっと起こす。

 

「小遣い稼ぎみたいなもんだよ。あって困るもんでもないしな」

 

「小遣い稼ぎって……横島くん、アナタ三船のお婆ちゃんの紹介で牛乳配達してるじゃない?」

 

 住む家もなかった横島くんはもちろんお金もなかった。未来から来たのだし当然ではあるけれど。

 それを心配した三船のお婆ちゃんがお金を工面しようとしたのだけれど、横島くんはそれは悪いと断り、何か仕事がないかと相談した。

 それでお婆ちゃんの伝により、朝、牛乳配達の仕事をすることが決まったのだ。素直に少し見直したりしたのだけど……。

 

「それとこれとは別ってやつだよ。言ったけど金はあって困るもんでもないだろ?それにやることもなくて暇だしな」

 

「それで『なんでも屋横島』?」

 

「なんでも屋なんて書いたけどメインは雑用なんかじゃなくてさ、ここって夏目ちゃんが例外で見える人っていないだろ?だったらそれ関連で困ってる人ってそれなりにいるだろうし、元々そういう霊障なんかを解決する仕事してるのもある。だからいい商売になるかと思ってな」

 

「ふーん、なるほどね」

 

「まぁさっきは欲望に負けちまったけどな」

 

「駄目じゃない」

 

 それに何か見るからに怪しいし、大丈夫なのかしらこのお店?人来るの?そもそも人通りも多くない場所だし。

 

 奇抜な行動は人から白い目で見られるわよ。

 

 声に出ていたのだろうか?こういう商売は怪しいくらいが丁度いいと横島くんは笑った。

 

 

 

 

「さてと……ほい、夏目ちゃん」

 

「何?……タオル?」

 

 ふと、横島くんが濡れたタオルを渡してくる。見た所タオルは新品のを使ったみたいだ。

 それを水分補給用に持ってきていたヤカンの水でついさっき濡らしていた。てっきり自分で使うものかと思ったけど……。

 

「ここ。髪と一緒で顔は女の命っていうだろ」

 

「あ……」

 

 横島くんが自分の顔を指す。正確には頬。私には今、その場所と同じ所に傷が出来ている。

 同級生に石を投げられ出来た傷だ。

 

「別に……」

 

「ん?」

 

「別にこんなのなんでもないわ。石を投げられるくらいいつもの事だし。……平気よ」

 

 いつもの様に薄く笑う。

 キコが心配そうな顔をしているけどなんてこと無い。こんな事はいつもの事なのだから。

 そう思いながら、手に持つタオルを少しだけ握りしめる。

 

「いや、そりゃ嘘だろ」

 

 それなのに横島くんはあっけらかんとそんなことを言ってのけた。

 

「傷出来てるし、見るからに痛そーだって」

 

 ひー!なんて、頬を押さえ涙目になりながらそう言う横島くん。

 一瞬、声が詰まってしまうのが自分でもわかった。

 

「…………き、傷くらいなによ。それに嘘なんかじゃないわ!こんなこと何時もの事って言ったでしょ。……だから平気。慣れよ慣れ!横島くんだって上司の……美神って人に毎日折檻されてるけど慣れてきたって言ってたじゃない」

 

 横島くんの場合、覗きやなんだの自業自得だけど。それと一緒だ。ようは慣れているのよ、こんな事は。

 

「ん?そりゃ違うって夏目ちゃん」

 

「違う?なにがよ」

 

「俺は唯の一度だって痛いことが平気だなんて思ったことはないぞ」

 

「……え?」

 

「確かに折檻はされ過ぎて逆に慣れたってのはあるかもしんねーけど……美神さんの折檻は半端ないんだって!」

 

 冗談つうじないんやあの人はー!!なんて軽く叫びながら横島くんは続けた。

 

「元から痛がりの恐がりで逃げることは得意な質ってのもあんだろうけどさ、折檻されりゃ痛いし、痛いのは嫌だ。平気もくそもあるかい」

 

 それから横島くんはゆっくり私を見た。

 気のせいかその目は何時もと違って優しく揺れているような気がした。

 

「痛いもんは痛い!……夏目ちゃんがしょっちゅうそういう目にあってんのは聞いてる。言ってたもんな自分で。でも夏目ちゃん、多分慣れと平気は別もんだって。石を投げられることには慣れてもぶつけられりゃやっぱり痛いし、嫌だ。……だから、平気なわけないって」

 

 

 

 ―――――。

 

 

 

 ―――――。

 

 

 

 ―――――。

 

 

 

「っ!」

 

 慌てて横島くんから顔をそらし、顔が隠れるように両手でタオルを顔に押しあて下を向く。

 そうしないと何かがこぼれ落ちそうになる気がしたから。

 

「……何よそれ。私は横島くんとは違うわ。一緒にしないで」

 

 平気よ。

 何時もの事。

 

 痛みなんてない。感じてなんかやらない。

 誰かの行為に揺れてなんかやるもんですか。

 

 だって訴えたところで誰も分かってなんてくれないじゃない。

 

 勝手に気味悪がって。

 勝手に失望して。

 

 私が何を言ったところで何も信じないくせに。

 

 だから私は笑うのよ。

 何をされたところで私は気にしない。平気だって。

 

「ま、そりゃそうだけど……」

 

「大体そんなに痛いのが嫌なら覗きとかやめればいいじゃない」

 

「嫌やー!あんな安い時給でこき使われてんのや!元をとるまで辞めれるかーー!!」

 

 あの女の乳、尻、太股を堪能するまでは諦めきれるかー!!なんて続けて叫ぶ。

 

 なんて欲望に忠実な男の子なのかしら。思ったことを口にして喚いたり泣いたり。

 

「横島くんってさ」

 

 でもそれは裏を返せば正直に生きていることの証明みたいなもので、私には出来ない生き方で。

 

「呆れるくらいバカよね」

 

「なんだとー!?」

 

 羨ましいと思ってしまう自分がいる。

 

「それにすごくスケベ」

 

「うっ、それは否定出来んけど……」

 

 そんなことを考えてしまうのは、きっと顔にあてたタオルが冷たすぎるから。つまりは横島くんのせい。

 

 そういうことにしてしまおう。

 

 せめて言い訳くらいは作りたいのよ。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……横島くん」

 

「ん?」

 

 ……………………。

 

「ほんとはね。………………ほんとは、ちょっと痛い」

 

「おう、分かってるよ」

 

「――――……そっか。そっか」

 

 タオルで隠していた顔をあげる。今度は私がゆっくり横島くんを見た。

 

「……?何だよ夏目ちゃん?」

 

 初めて、わかった。

 

「ううん……」

 

 私が痛みを感じていることを理解してくれる人がいる。

 それがこんなにも嬉しく思えることなんて。

 

 

 

 

 

 

「――なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!これはまさか夏目ちゃんの『優しく抱きしめてキッスをして!』のサイン!?よっしゃー!任せぶべらっ!?」

 

「どうしてこの流れでそんなアホな台詞が出てくるのよっ!!」

 

 

 






何を隠そうこの話を書き上げるのに今まで時間がかかっていました。途中ぐらいまでは出来てたんですが、そこから全然進まなくなってしまい今に至ります。
その間デレマスしたりミリマスしたりプリコネしたり最近は原神してたりで忙しかったのもあります。オイ

次の話はもう出来ているので近いうちに投稿します。

感想、誤字報告ありがとうございます。久しぶりの更新なのに暖かいコメント力になりました!

では、また見てくれると嬉しいです。
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