「今日も暑いわね……」
熱い日が続く毎日、そんな炎天下の下、何時もの道を歩く。
横島くんの家へと続く道だ。
「……フフ」
自然と笑みがこぼれてしまった。
何時もの道、なんて思うくらいには私は横島くんの家によく行っている。
今までは学校もない日は適当にふらついて、目についた妖怪に勝負を挑み友人帳に名前を書かせていた。
それがこんな風に変わるなんて、少し前の私には考えられないことよね。
「あら?」
ふと足を止める。一つの電柱に……電柱に張られたポスターが目についたからだ。
「納涼夏祭り……花火もあげるのね」
それはこの付近で行われる夏祭りのポスター。毎年、夏休みの最後らへんで行われる催しだ。
まだ少し先の話だけど……そっか、もう夏祭りの時期なのよね。
何時もは一緒に行く相手もいないし、行ったところで奇異の目で見られるだけだって行かなかったけど。
「…………」
ふと、横島くんの顔が浮かぶ。
二人で夏祭りへ行く光景まで浮かんでしまう。
なんだかふわふわした気持ちが湧き出てきてむず痒い気持ちになってしまった。
そんな気分を誤魔化すように軽く頭をふり、再び横島くんの家へと向かって歩きだした。
「こんにちわ、……横島くん?」
あれからすぐ家に着き、チャイムのない家屋だからノックをしたのだけれど、中から反応は返ってこなかった。
鍵は開いているようなのでゆっくり玄関のドアを開け、中を覗くように静かに顔を覗かせた。
トイレもお風呂も外にあり、そもそも一部屋だけの家だから横島くんの姿がないのはすぐに分かった。
だけど、横島くん以外の姿はある。妖の子供キコだ。
疑問が浮かぶ。いつものこの子なら私が来たならすぐさま笑顔で駆け寄って抱きついてくる。
それこそ主人の帰りを察して玄関先で待ち構える犬のように待っていたこともあるくらいだ。
それなのに今日は私が来たにもかかわらず私に背を向ける形で寝転んで何かをしているようだ。多分私が来たことに気がついてないわね、あれ。
というか何をしているのかしら?
気づかれないようにそーっと近づく。どうやら何か本を読んでいるみたいね。
「~♪」
足をパタパタさせながら機嫌よく本を読みふけっている。横島くんが絵本か何か買ってあげたのかしら。
あれで子供には素直に優しいからね横島くんは。
どんな絵本買ってあげたのかしら?覗き込んで見る。
――――――エロ本だった。
ズコーー!!
「っ!レイコ!」
ずっこけた事でキコが私に気づき笑顔を浮かべよってくる。
エッチな本をその手に持って。
「って、それ寄越しなさい!こんなもの読んだらダメでしょ!」
「あっ……あー!」
返して返してー!と、取り上げたエッチな本を取り返そうとする。取られないように手をあげると不貞腐れた顔で私を見てくる。
そんな顔しても渡さないわよ。子供には早い代物よ。
というかなんでこんなエ、エッチな本があるのよ!いや、十中八九横島くんのせいなんだろうけど。
「ていうか貴方、これがどういう本か分かっているの?」
「?」
私の質問に首を傾けるキコ。どうやら意味も分からず見ていただけみたいね。
「とにかくこれは没収!いいわね」
「むー!」
「膨れてもダメなものはダメ。全く……この子がいるのになんて物を買ってるのよ横島くん……」
視線を手に持つエッチな本に移す。
「…………」
もちろんこういう本の存在はしっていたけれど、そういえば中身を見たことなんてなかったわね……。
「…………」
「…………」
チラッ。ジー……。
「……横島くんには後でちゃんと怒らないといけない。でも中身も知らずに怒るのは少し違うわよね?うん。仕方ないこと!うん、うん」
全く本意じゃないけれど、意を決して恐る恐るページを開く。
――ペラ。
「わっ、わー!」
――ペラ。
「え?こんなポーズも!?」
――ペラ。
「嘘!?……ど、どうなってるのこれ?」
――ペラ。ペラ。
「ほ、ほんとに入って……!」
――ペラ。ペラペラペラペラ!!
「ただいまー」
「きゃあーーーっ!!!?」
「お、夏目ちゃん来てたんぶほっ!?」
横島くんの急な帰宅に思わず慌てて読んでいたエッチな本をなげつけてしまう。
わ、私がエッチな本見てたのバレてないわよね?
「いきなり何すんじゃー!!」
「な、何じゃないわよ!キコもいるのに何て物を買ってるのよ!」
「え?……ああ、これか」
そう言って顔に投げられた本を見る。どうやら私が見てたことはバレてないみたいだけれど……何か反応が淡白だ。
普通男の子って、こういうのって見つかったら恥ずかしがるものじゃないの?
買い物袋と一緒に床に置きため息をつく横島くん。
「えと……好きなんじゃないの?こういう本?」
思わず聞いてしまう。
結構内容凄かったわよ。チラッとしか見てないけど。チラッとしか。
「いやぁはじめは俺もテンション上がったぜ?何せ俺からしたら昔のエロ本だしな」
タダオー。と、抱きついてくるキコを構いながら横島くんは続ける。
「なんつーか内容が淡白で、モザイクもでけーし。俺の時代のエロ本のが進んでるぶん凄かったからガッカリしちまってよ」
「アレ以上に凄いの未来のって!?どうなってるの未来!?」
かなり衝撃的な物だったんだけど!?それ以上って最早未知の領域よ!?
「いや、俺からしたら俺の時代のが普通だぜ?ん?ていうか夏目ちゃん……見たのか?」
「なっ!?ち、違うわキコが読んでるのが見えてしまっただけよ!変な勘違いはしないでよね」
キコが変な目でこっちを見ているけれど無視だ。
変な言いがかりはされたくないもの。
「そ、それより、今日もやるの?『なんでも屋横島』」
「ああ、特にやることもないしな」
「お客さんなんて来るの?」
「雑用なら何件かは。それでも小遣いにはなるんだぜ」
『なんでも屋横島』。横島くんが始めた商売で。
表向きは今言ったような雑用なんかを、裏向きは妖関係で何か困ったことがあれば解決する仕事だ。
今のところ妖関係の仕事は来てないみたい。
そもそも周りの人には看板や案内に霊媒や除霊と直接は書いてないため、唯の雑用請け負いの人だと思われているんじゃないかしら?
「今から行くんでしょ?私も付いていっていい?」
「おう、全然オッケー」
「キコもー」
「ああ、お前もな」
横島くんがキコの頭を一なでしてから三人で家の外へ出る。それからドラム缶のお風呂のそばに置いてある手作りの机を脇に抱えた。
「それ、わざわざ持って帰って来てるのよね。そんなに大きい机じゃないけど大変じゃない?」
「向こうの仕事じゃこれ以上に重たい荷物背負ってたからなー。特に大変って訳じゃないな。それに勝手に放置しとくわけにもいかねーだろ」
路上でお店をやること自体は三船のおばあちゃん経由で許可はもらっているらしい。要領がいいものだ。
それにしても……。
「横島くんってさ……」
「あん?」
「変なところは常識人よね」
「どういう意味じゃ!どういう!?」
悪態をつきながら空いている手で椅子を持とうとする。それを横から奪ってやった。
「あ、おい」
「手伝うわ」
「ちょ、夏目ちゃん」
「手伝う」
「……たく、サンキューな」
「うん」
困ったようにポリポリと頭をかく横島くんを見て、私は笑みを浮かべた。
横島くんが居を構える場所は横島くんの家から歩いて十分程の場所にある。
もちろん町の中にあるのだけれど場所はお店をやるには良くない。
住宅地から離れた一本道。元々田舎であるこの町でも余り人通りは良くない場所だ。だからこそ三船のおばあちゃんの伝があったとはいえ、簡単に許可がおりたとも言える。
横島くん自身、暇潰しでやり始めたからか客足を気にしてはおらず、のんびり出来ていいらしい。
ほとんどが最初は奇異の目で見てくるらしいが……これは横島くんの人柄のおかげなんでしょうね、明るく話しかけてくる横島くんに今では慣れた人が多いみたい。
雑用とはいえ実際に仕事の依頼が来ているんだもの。感心するわ。相変わらず女の人には相手にされていないみたいだけど。
さて、あれから十分程たち、私たち三人は目的の場所――横島くんがお店を開く場所まで来たのだけど……。
「ん?」
「あら?」
そこには既に先客がいた。
その先客も気がついたのか軽く会釈をしたあと、こっちに駆け寄ってきた。
「あの、どうも」
「ども……中々のイケメンが来やがったな」
横島くんが相手の顔を見て最後にボソッと呟く。
イケメンってなにかしら?横島くんと手を繋いでいるキコも首をかしげている。
話しかけてきたのは年の頃は同じくらいの男の子。同じ学生みたいだけど見たことはないわね。
「失礼ですがあなたが最近この場所でお店を開いているという……」
「ああ、それなら俺っす。仕事の依頼っすか?雑用なり何でも請け負いますよ」
「あ、いえ、雑用とかの依頼ではなくて」
そこで男の子はチラリと私を見た。
何かしら?私の悪い噂は絶えないから向こうは私を知っているのかも。
でもこの男の子からは他の人とは違って嫌悪感が感じられない。
なんてことを考えていると、男の子は一度深呼吸をして口を開き――
「その、僕の名前は多軌慎一郎と言います。お願いします、僕を妖怪にあわせて下さい!」
そんなことを言った。
慎一郎さん登場。
確か慎一郎さんは詳しい年齢が分かってないので勝手にレイコさんとは同世代に。多分そこまで外れてのないたでしょうし。それから名字も明確になってなかった筈ですが、この作品では多軌でやります。多分きっと原作でも多軌なはず……。
年内にもう一度更新しますので、また見てくれると嬉しいです。
いつも感想、誤字報告ありがとうございます。