横島友人帳。   作:ちょりあん

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タダオくんとレイコちゃん2

「ほんどーにずびばぜんでじだ」

 

「……もういいわ。けど二度とあーいうことはやめてね」

 

 私の前には見事に土下座を決める男の子。おそらく私と同い年くらい。

 小さな妖怪に連れられ来てみた場所に上半身をめり込ませていた正体は目の前で土下座をするこの男の子だった。

 

『死ぬがど思ったー!!』

 

 と、勢いよく地面から出た彼は涙と土で顔を汚しながら叫び、数秒後ぶんぶんと顔を動かし辺りを見渡した。

 そこであまりの事に固まっていた私と目が合ったと思ったら一瞬で……

 

『生まれる前から愛していましたー!!』

 

 と、私に飛びかかって来た。急だったから思わず「きゃあっ」と可愛らしい悲鳴が出てしまったのは秘密だ。

 それから条件反射で彼の顔面を殴りつけ今に至る。ついでに言えば私を連れて来た妖怪の女の子は興味深そうに私達を見ている。

 

「いや、なんつーか本能ってか体が勝手に動くから約束は…………もちろん出来るに決まってます!」

 

 ふざけた事を言おうとしたので睨むと手の平を返し敬礼をする男の子。……ちょっと頭痛くなってきちゃった。

 

「……それで、なんであんな状態になっていたのよ?これまで色んな物を見てきたと思ってたけど流石にあんな光景は初めてだわ」

 

「そうか?あんな感じになるのはしょっちゅうあるぞ」

 

「人が頭から地面に刺さってるなんてこと、しょっちゅうあってたまるもんですか!!」

 

 駄目だ。この男の子ちょっと苦手かもしれない。人はもともと好きではないけれど、私が持っている人に対する嫌悪感とはまた別の感情。ふつーに苦手かも。

 

「つーかどうしてあんな状態だったかって言われてもなー。……ほんまに山ん中だな、さっきまで廃屋だったのに。やっぱり慌てて使うもんじゃねぇな」

 

 辺りを見渡した片手で頭を押さえながら独り言のように男の子が言う。廃屋?慌てて使う?何を言っているのだろうか。

 

「つまり、どういうこと?」

 

「んー事故みたいなもんかな。……自業自得とも言えるけど。まぁ日本みたいだし、変な場所に飛ばされなくてえがったえがった」

 

「……何言ってるかわからないんだけど?」

 

「あー歩きながら話すよ。もうすぐ日も暮れそうだしな。ところで公衆電話のある場所って知ってねーか?早いとこ連絡しないと俺の命と今月の給料がヤバイことになりかねん」

 

 給料?働いてるのかしら?……確かに詳しい話は後ね、日が暮れちゃうか。

 

「山を降りて少し歩いた場所にあるわ。仕方ないから案内してあげる」

 

 苦手なのはともかく男の子が気になるのは確かだ。妖怪の女の子は彼は人間って言ってたけどかなり怪しい。着てる服もあまり見た事ないし、まぁ見た目は人間なんだけどそれだけなら沢山いる。……人間っぽいとは思うけど。妖とは雰囲気が違いすぎる。

 

「サンキュー、言ってみるもんだな。お礼にこの後一緒にお茶でも「ぶん殴るわよ」じょ、冗談に決まっとるやないかー!わははー!!」

 

 呑気なもんだ。

 と、男の子は思い出したように私を見る。

 ……悪意のない瞳。人にそんな目で見られるのは久しぶりだな。だが……

 

「あ、俺は横島忠夫。せっかくだし名前聞いてもいいか?」

 

 私のそんな少しの感傷は、彼の一言で吹き飛んだ。

 

「レイコ。夏目レイコよ」

 

「え゛!?レ、レイコ……?」

 

「何?人の名前に文句でもあるの?」

 

「い、いや。上司の名前と一緒でびっくりしてさ(うおー名前といい、美神さんには遠いけどキツめな性格してそーだし、体がビクっちまった……。まぁ胸のサイズは月とスッポンだけどな)」

 

「ふぅん、上司とねー(なんか今すっごく失礼なこと言われた気がするわ)」

 

「ま、まぁそれは置いといて、よろしくなレイ「ギロっ!」……夏目ちゃん!」

 

「……はぁ、さっさと行くわ―」

 

 踵を返そうとした時、彼……横島くんの視線が斜め下へと移る。

 そこには何もない。少なくとも普通の人には何も見えない筈だ。なのに。

 

「んで、お前の名前は?」

 

 見えない筈の妖怪の女の子に横島くんは語りかけていた。

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 湧き上がった感情をなんと言うのだろうか。色々な思いが生まれたけれど、どれか一つを言えば落胆だったのかもしれない。

 

「……見えるの?その子が?」

 

「ん?おお見える見える。ほれ」

 

 横島くんの発言に驚いたのは私だけじゃなく、女の子も驚いていた。

 信じられなかったのか手を伸ばして横島くんに触ろうとして、それを『見た』横島くんが女の子の手に優しく触れた。

 

 なんだやっぱり……横島くんも。

 

「……アンタも妖怪だったのね」

 

「誰が妖怪じゃ!?確かによく疑われるけどもれっきとした人間だっつーの!!」

 

「嘘言わないでよ!だって横島くん、『その子』が見えてるんでしょ?」

 

 おかしいとは思ったのよ、普通の人間が地面に刺さってるなんてある訳ないもの!

 

「いや見えるけど、そんなら夏目ちゃんも見えてんじゃねぇか」

 

「そ、それはそうだけど……。え?じゃあ本当に人間?」

 

「だからそーだって!そもそもんな珍しいもんでもないだろ、妖怪が見えることくらい」

 

「……え?何を言ってるのよ、横島くんが初めてよ?私以外で妖怪が見える人って」

 

「へ?いやいや結構いるだろ?ん、いや待てよ……なんか嫌な予感が……。な、なぁ夏目ちゃん、GSって流石に知ってるよな?」

 

「ごーすとすいーぱー?いいえ、聞いたことないわ」

 

 ……んん?何か変ね。会話が噛み合ってないというか、お互いの認識にずれがあるような……?

 

 それにごーすとすいーぱー?初めて聞いた単語だけど、横島くんの反応を見る限り知ってて当たり前みたいな感じだし。

 

「いやいやGSだぜ?国家試験にもなって……ほ、ほら免許だって!」

 

 そう言って出された物は確かに免許証みたいな物だった。しかもかなり本物みたいな。でも――

 

「何よ、やっぱり偽物じゃない」

 

「いやいや!本物やっちゅーに!」

 

「証拠もあるわよ。というか本物って言うくらいなら年数くらいちゃんとしたら?発行日が未来の日付になってるわよ」

 

「はひぃ!?」

 

 すっとんきょな声を上げ免許証もどきを凝視する横島くんと気になったのか一緒に覗く妖怪の女の子。慌てふためくのかと思ったけど、確認が終わると安堵の表情になった。なんでよ?

 

「な、なんだよ別に間違ってねぇじゃねぇか。発行日もこれで合ってるし。もー驚かすなよ夏目ちゃん!」

 

「……え?横島くんこそ、何を言ってるの?」

 

「いや、だから…………え?」

 

「…………」

 

 暫く見つめ合う私達。

 

「…………ち、ちなみになんだけど」

 

「……何よ」

 

「今って何年?」

 

 

 

 私の言葉の後、横島くんの叫びが木霊した。

 

 




読んでくれてありがとうございました。
次もまた、読んでくれると嬉しいです。
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