誤字報告含め、本当にありがとうございます。
今回前半はレイコさん。後半は夏目視点になってます。
その場所には、いつもの様に木の幹に座る人物がいた。
「相変わらずそこで見ているだけなのね」
「おや?珍しい、君から会いに来てくれるなんて」
「あら嫌味?じゃ、これはいらないかしら?」
いるいる!と慌てる、笑った顔の翁のお面をつけるお爺さん。苦笑してから、小さな祠にミカンを置いてあげた。
「さっき女の人とすれ違ったわ。ほらアナタが前に教えてくれた人よ」
「ああ、ハナさんだね。また拝みに来てくれたんだ。ほら、ハナさんもミカンをくれたよ」
手に持つミカンを見せてくれる。仮面越しにだけど、嬉しい気持ちが伝わってくる。
「あの人、アナタのお気に入りなんでしょ?一度くらい声をかけてみればいいじゃない」
「……人に私の姿は見えんさ。分かっているだろう?」
「そうね……そうだったわね」
「本当にどうしたんだい、レイコ?今日はなんだか様子が変だ」
「別に、なんでもないわ。ただなんとなく聞いてみただけよ、ツユカミ」
いつもの様に薄く笑ってみせる。
ツユカミはそうか。とだけ言ってそれ以上は聞いてこない。
此処は七つ森。ツユカミが住む祠に私は来ていた。
理由は……私にもよくわかってない。
「はじめてみる」
「何が?」
「君の……レイコのそんな顔だよ」
「どんな顔よ?」
そう聞くと、困ったように顔を傾け顎に手を当てる。
「すまない……上手く言葉に出来ないようだ。ただ、そうだな……人の顔をしているよ」
「もしかしてバカにしてるの?私は元々人の子なんだけど?」
「そうではない。君はいつもそうやって薄く笑っている。それはどんな時でも……まるで私の面のようさ。少なくとも私はレイコのその表情しか知らなんだ。でも今のレイコはとても人間らしい表情をしているように感じたんだよ」
ツユカミの言葉に私は動きを止めた。
それから思わず自分の手で顔に触れてみたりしたけれど、鏡も何もない場所では私がどんな顔をしているかなんてわからない。
「何かいい事でもあったのかい?」
「いい事?悪い事じゃなくて?」
「悪い事のようには感じない。でもそれがいい事かと聞かれても……うーん、私にはよくわからないなぁ」
「ふふ、何よそれ」
確かに最近色々あったからね。そのせいで少し心の中がざわついているのは理解してる。
この感情の処理の仕方が私にはまだわからない。ツユカミの言う通り悪い事ではないのだけどね。
「さて……と」
「もう行くのかい?」
「ええ。少し用事があるの」
その心をざわつかせる原因に会いにいかないといけないのよ。別に約束なんかはしてないけど、知りたい事がたくさんあるの。
「ありがとうツユカミ。少し楽になったわ」
「そうかい。……レイコ」
「何?」
「何かあったらまたおいで。いや、何もなくとも来てくれたらいい。またこうして私と話をしよう」
「……ええ。気が向いたらまた来るわ」
優しく手を振るツユカミに背を向け、歩きだす。
横島くんの所へと向かって。
田んぼが続く道を抜けた先、そこから五分程歩いた場所にその小屋はあった。
長い間使われていなかったのが一目でわかるボロ家。
だけど中には寝るための場所があり、水道も通っている。家の横には昨日作ったのでしょうね、ドラム缶風呂がおいてある。トイレも外にある。
中から物音がするから居るんでしょうけど、一応ノックはする。ちなみにチャイムなんてものはない。
「はーい、鍵は空いてるぜー」
横島くんの声。
よし、了承も得た事だし入りますか。
「おじゃまするわよ」
中に入ると長く使われていなかった故のホコリ臭さと、満面の笑みの妖の女の子が迎えてくれた。
「あら、アナタまたいるの?おはよう……って、わっ」
そのまま抱きついてくる女の子。こら、皺になっちゃうでしょ……もう。
「おはよう夏目ちゃん!相変わらずセーラー服似合ってんな!」
「ただの制服を褒められてもねぇ……」
「心配すんなって!俺の時代じゃ価値が爆発的に上がってるから!!」
「いや不安にしか思えないわよ」
セーラー服に価値が出るって何?将来の日本が少し心配になってくるじゃない。
アホな事を言った横島くんはどうやら雑巾で家の中を掃除していたみたいだ。
大きさは八畳くらい、窓は網戸をして全開になっている。とはいえこの暑さだ。少しマシな程度でしょうね。
荷物はほとんどなく、布団が一組とちゃぶ台だけ。後あるのは洗面台くらいかしら。
「でも何年も使ってなかった割にはいい所ね」
「だな。水道もすぐ使えるようにしてくれたし婆さんには感謝だな」
そう、実はこの家というか小屋は昨日の三船のお婆ちゃんの持ち物件で。
あの後、お婆ちゃんが住む所がない横島くんに融通してくれたのだ。
なんでも――
『クロが最後にね、アンタが困ってるって言ってたのさ。アタシも感謝してる……そのお礼さ』
『それに元々物置代わりにしてたとこさ、荷物もそんなになかった筈だからすぐ住めるよ』
とのこと。
正に渡りに船というわけだ。
その後、必要最低限片付けて寝れるようになった事で、この小屋は横島くんの仮宿になった。
時間が遅くなってきたので私は帰ったけれど、横島くんはお婆ちゃんの家でご飯をご馳走になったそうだ。
そう言えば帰る時、お婆ちゃんが私に――
『アンタ、例の噂の子だろ?……悪かったね。私も噂を鵜呑みにしてたよ。それからありがとうね、クロはアンタにも感謝してたよ』
なんて言われた。
……そういうのはやめて欲しい。
胸がざわついて、どんな反応をすればいいかわからなくなるもの。
「……横島くん、雑巾私にも貸して。手伝ってあげる」
「おお!サンキュー!じゃあそこにあるの使って適当に使ってくれ」
「これね。わかったわ」
「くぅ〜!女子高生が一緒に部屋の掃除を……感激やーー!!」
「……泣くほど嬉しい事?それ」
こういう所がなければなぁ……。
いつも通りな横島くんにドン引きしながらも、私達は掃除をはじめた。
元々狭いこともあり二人と妖一人(この子は応援だけで役にはたってなかったけど)だと、お昼前にはあらかた片付ける事が出来た。
ずっと中にいたので息抜きのためにも外へ出て深呼吸をする。新鮮な空気が体に入ってくる、これが中々気持ちいい。
「あれ?」
ふと家の横、お風呂とは反対側ね……に小さな木が植えてあるのを見つけた。五十センチくらいの高さだけど、これ切った枝かしら?
来た時は気が付かなかったわね、これ。
「横島くん、これは何?」
「何だよ夏目ちゃん?あ、それか!それはコイツの木から切って持ってきたんだよ」
入り口からひょっこりと顔を出した横島くんが、同じくひょっこりと顔を出した妖の女の子の頭をポンと叩く。
「その子の?」
「そ、コイツからお願いされてな。そこに植えることにしたんだ」
「なんでまた」
「夏目ちゃんと一緒でコイツも夜には自分の木に帰ってるだろ?それは木がコイツの本体であり家でもあるからで、ここにコイツの木の一部を植えておけば、それが言わば仮宿みたいになる。寂しいからここに居たいんだと」
横島くんの言葉に照れくさそうに笑う妖の女の子。いや、それって横島くんと一緒に寝泊まりするってこと?仮にも女の子がそれでいいの?……いいみたいね。
まぁ横島くんもこの子くらい幼い女の子には反応しないみたいで、いいお兄さんみたいな感じで接してることだし……うーん、大丈夫かな?
「そうだ。いつまでもお前やコイツじゃ可哀相だし、俺でよけりゃ名前つけてやろうか?」
ブンブンと勢いよく縦に振る女の子。
ちょっと興奮しすぎで首とれちゃうわよ?
「え?いいの、そんな勝手なことをしても?」
「だって不便だろ?それに名前がないんだったら俺がつけても別に問題ないだろうしよ」
「ええ〜?」
そういう問題なのかしら?
まぁ本人も凄く乗り気みたいだし、気にしないほうがいいのかしら?
「うーん、そうだな〜……木の子供だからキコとかどうだ?」
「……流石に安直すぎない?」
もっといい名前があるでしょう。ちゃんと考えてあげなさいよ。
「いい名前だと思ったんやけどなー……じゃあ……」
「キ……コ……」
「「……ん?」」
今、随分可愛らしい声が聞こえた気が……。
その発生源に視線を移す。
「キコ……わ、たし……キコ!」
するとそこには、はにかみながら与えられた名前を口にする妖の女の子がいた。それより!
「アナタ、今っ」
「しゃ、喋ったーーーー!?」
横島くんの大きな声が辺りに響いた。
「という訳で、私はタダオに名付けてもらいました。急に言葉を口にして二人は驚いていましたが」
外では月が輝いている夜。
おれと先生はレイコさん、そして友人帳に名前が書かれていた横島忠夫さんを知るキコという妖の少女の話を聞いていた。
「おそらく名前のせいだな。名は体を表すという、名前を付けられた事で存在の力が強くなったのだろ。付けた相手がその者だったというのもあるだろうがな」
先生がフムフムと横で頷いている。
なるほど、そういうものなのかな。
「どうでしょうか?多々上手く説明出来ていない部分はありましたが、今のがレイコとタダオと出会った時の話です」
「いや、大まかな流れはちゃんと分かったよ。ありがとうキコ」
「いえ、私も二人の事を話せて楽しかったですから」
とは言ったものの、わからない部分は確かに多かったのも事実である。
横島忠夫さんに出会った翌日、遊びに会いに行くと猫の幽霊に会って頼み事をされ、なんやかんやレイコさんと三人で解決した。そしたら猫の幽霊の飼い主だった人が家を貸してくれたようで横島忠夫さんはそこに住む事に、ついでにキコの木の一部を家の横に植え、更に名前をつけてもらったら話せるようになった。
と、こんな所だろうか?
欲を言えば、なんやかんやの部分が凄く聞きたかったのだけれど、光る手でとか、珠がなんだとか、ここの部分は曖昧でよく分からなかった。
幽霊が見えると聞いた時、先生もかなり驚いていたし、おれも驚いた。
確かに幽霊と呼ばれる存在には会ったことがない。
それだけ、横島忠夫さんは力の強い人ってことなんだろう。
「凄い人なんだな……横島忠夫さんは」
「そうです!タダオは凄いんです!」
自分の事のように誇らしく胸を張るキコに苦笑して、聞きたかった事を聞く。
「なぁキコ。一つだけいいかな?」
「なんなりと、レイコの孫」
「お前の話で横島忠夫さんが凄く力の強い人だったのは分かった。だけどだからこそ疑問なんだ。どうしてそんな強い人の事を誰も知らないんだ?」
「どういうことだ夏目」
「先生も思わなかったか?おれが知らないのは当然だけど、どうして妖怪達は彼の事を口にしない?レイコさんと一緒にいた力の強い祓い屋。話に出てきてもいいと思うんだ」
今まで名前を返した妖怪も、よく会う中級たちからも彼の話を聞いた事はない。
「それに名前を返す時、その妖怪たちのレイコさんとの思い出が流れ込んでくることがある。だけど、そこにはやっぱりレイコさんは一人で……男の人が出てきたことはないんだ」
いつも少し冷たい薄い笑みを浮かべ、孤独なレイコさんの姿しか僕は知らない。
「確かに。記憶を辿ってみたが、やはり私もレイコからそんな人間の話は聞いたことはなかったしな……」
「キコ。レイコさんと横島忠夫さんの事を本当に嬉しそうに話すお前が嘘をついているだなんておれは思わない。でもだからこそ不思議なんだ」
「もちろん理由はありますよ」
そんなおれの疑問に、寂しげな声でキコが言う。
様々な感情の揺れ動きが見えた気がした。
「最初、タダオは急に私の木の傍に現れたと言いましたね?」
「あ、ああ。頭から地面に刺さってたっていうちょっと信じられない話だっけ?」
そこの部分だけは全く信じてない。いや、信じられない。人が地面に刺さるって何だよ?ホラー映画じゃあるまいし……。
きっとただ倒れていただけだろう。
「それと同じ事が起こったのです。タダオは急に現れ、急に消えたのです」
「急に消えたって……何処かへ引っ越したとかなのか?」
いいえ。と首をふられる。
引っ越したんじゃないとしたらなんだ?こうやって会いにくるくらいだし亡くなったって事はないだろう。……まさか本当に人が消えるなんて話がある訳ないだろうし。
でもキコから聞かされた話は、予想の斜め上をいっていた。
「言葉通りですレイコの孫。タダオは急に消えた――」
「神に連れ去られ消えてしまったのです」
「…………」
「…………」
「「……へ?」」
ツユカミさん登場!好きなキャラなのでちょっとだけでも出せてよかったです。
キコの木の枝の件でネットで調べたら挿し木だなんだ色々あってびっくり。でもそこ別に重要じゃないしいっかという事であまり深くは書いてないです。
夏目の一人称、原作みたら意外とおれ呼びが多い。なので基本おれで行くことにしました。
では、また次回も読んでくれると嬉しいです。