前回はタケルが暴走しているところを雫が止めるというところで終わりましたが、さてどうなることやら。
では第7話、Reay GO!
「何やってるのよ!?そんな事すれば怪我じゃ済まないかもしれないのよ!?」
雫は未だ目を覚さない香織に付き添っていたが、ふと外の空気を吸おうと部屋を出た時叫び声が聞こえ駆け付けてみれば、タケルが像に頭を打ち付けようとしている現場に居合わせ慌てて止めに入った。
--だが、今のタケルにはそんな事はどうでも良かった。
「……離せ」
「え?」
「離せやボケェ!!どいつもコイツも!邪魔すんなや!何で俺の自由にさせてくれへんのじゃああああああ!!!!!」
「ちょっ!?落ち着いて!」
ジタバタと暴れるも、女性とはいえステータスも身長も自分より高い雫の拘束を振り解けない。
「くそっ!くそっ!クソがあ!!消えてまえどいつもコイツもぉ!エヒトも!イシュタルも天之河も!クラスの連中も役に立たへん教師も!俺の足ばっかり引っ張る連中全部消えてまえ!!!」
雫は困惑していた。いつものボーッとした様子でも、光輝に物申した時の毅然とした様子でも、褒められて照れくさそうに誤魔化してる様子でもない。そのどれにも当てはまらない、駄々を捏ねる子供の様な姿。疑問に思いながらも、今最優先にすべき事を考え必死に取り押さえる。少しでも力を抜いてタケルが抜け出してしまえば、何をしようとするか……想像に難くはなかった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
遂には獣の様な唸り声をあげながらジタバタともがく。それでも拘束を解く事ができないと、やがてだらんと力が抜けた。
前触れもなくいきなり暴走が止んだことに、雫が不思議に思い肩越しに覗き込むと──
「……うぅ……ヒック…うわぁあああああ……」
「…えぇ?…泣い、てる?」
──泣いていた。直前まであんなに暴れていた人物が今度は泣いている。そのあまりに情緒不安定すぎる光景に雫は本気で混乱したが、それでも万が一の為に泣き続けるタケルをしっかりと抱きとめていた。
◇
「……ヒック……おい」
「何?」
「……離してくれ、もう暴れたりせぇへんから……頼む。」
暫くして漸く泣き止んだタケルは、嗚咽を漏らしながらも落ち着いた声で雫に懇願する。
先のこともあり多少警戒はしたが、いつまでもこうしていては話も聞けないと思い拘束を解いた。
すると、タケルはその場にストンと腰を下ろす。俯いて動かず表情は読み取れないが、あまり大丈夫とはいえない状態であるのは先の暴れようからも明らかである。
どう声をかけるべきか……雫が黙りこくって思考を巡らせていると、その様子に疑問を覚えたのかタケルが逆に問いかけてきた。
「何も……聞かへんのか?」
「え?」
「明らかに異常やろ。あんな暴れて……かと思えばいきなり泣いて……お前も混乱したやろ?」
「それは……」
「……ええよ。あのアホ勇者や小悪党共ならともかく、お前ならまだ話しても……聞いたところで何も変わらんやろうしな…」
どこか投げやり気味に言うと、ポツポツと話し始める。自身の障害について、ハジメ家族や母以外には言ってこなかった事を初めて同級生に語る。
その間、雫は真剣な顔つきで黙って話を聞いていた。
◇
「──とまあ、こんな感じや。どうや?異常やろ?」
全てを語り終えると、自嘲した様に笑うタケル。その目には光が点っておらず、全てがどうでも良いとでも言いたげな雰囲気だった。
「残念やけど、これが普通やねん。周りから見たら異常に見えるやろうけど、俺にとっては普通の事や。」
「……」
雫は黙りこくって、動かない。あまりの事に声も出ないのかと思いながら尚も言葉を紡いでいく。
「今まで自分なりに頑張って来たんやけどなぁ……イラッとする事があっても耐えて、取り繕って……必死に表に出さん様にしてたんやけどなぁ。結局、何にも変わってへん。自己中で頭のおかしい人間って事かのぅ……ハハ」
笑いながら自分自身を貶す。そんな惨めな姿を晒しているタケルを見兼ねて、雫が徐に口を開く。
「……何で笑ってるのよ。」
「は?」
「何でそんな風に笑えるのよ!馬鹿じゃないの!?あんな風に暴れるくらい、泣き出しちゃうくらい心が弱ってるのに!とっくに壊れててもおかしくないのに!笑えないわよ!辛いもの!悲しいもの!」
よく見れば雫の目に涙が溜まっている。だが、タケルには理解できなかった。何故泣いているのか、自分の事でもない他人の事なのに……
「っ……何でお前がそんな顔すんねん。お前には関係ないやろ。」
「あるわよ!もう話聞いちゃったもの!そんな話聞かされて、ほっとけって方が無理な話でしょ!?だから──!」
「それが迷惑なんじゃ!」
「!?」
雫の言い分に我慢できないとばかりに声を張り上げるタケル。その声に雫の口が閉じられる。
「説明したからなんや!?何か変わるんか!?そんな簡単な事やない!そんな簡単に解決したら苦労なんかするか!露骨に面倒見られても鬱陶しいだけや!これ以上は踏み込むな!ほっといてくれ!」
ハァハァと息を切らしながらまくし立てるタケルに怯みながらも、雫は何処かその姿に違和感を覚える。
(自己防衛の為だけ?…それにしては、苦しそうにしてる。鬱陶しいと思ってるのは嘘じゃないだろうけど……それとは別の感情がある様な……)
そこまで考えて「ハッ!?」と何か思い至った様にタケルを見据える。
「……怖いの?」
「……はあ?」
唐突な質問に疑問符を浮かべるタケル。
「誰かが障害の事を知り自分の事を気遣ってくれても、自分はそれを鬱陶しく思うかもしれない。そしたらいつか爆発して罵詈雑言を浴びせてしまい相手を傷つけてしまうかもしれない……それが怖くて、貴方はずっと我慢してきたんじゃないの?」
「っ!?違う!見当違いも甚だしい!自惚れんな!俺は本気で鬱陶しいと思ってんねん!ただそれだけや!お前の感情なんか知ったこっちゃない!」
「じゃあ何で、貴方は今そんな辛そうな顔しているの?」
「っ!?そ、そんな事は……」
そう言われてペタペタと顔を触る。触ったところで自分がどんな顔をしているのかわかるわけではないが、その行動自体が雫の仮説を立証していた。
「……ほら、やっぱり、貴方は自分が思ってるよりずぅっと優しい心の持ち主なのよ。」
「あ……あああ……っ!」
“完全に見透かされている”……そう思いながらも、意地になって否定し続ける。
「違う…違う違う違う!俺は自己中で最低な人間や!周りの気遣いもずっと鬱陶しく思ってた!皆消えればいいのにって!お母さんだってそうや!ずっと疎ましかったんや!障害なんか持った状態で産みやがってって!何でもっと普通に産んでくれへんかったんやってぇ!」
最低な発言だ。自分を産み育ててくれた親の侮辱。普通ならば激怒されてもおかしくない……だが、雫は悲しげに、どこか慈愛のこもった声で問う。
「じゃあ、言えば良かったんじゃない?それを貴方のお母様に全部ぶちまけちゃえば楽になれたんじゃない?自己中で最低な人間と称するなら、どうして言わなかったの?」
「……っ……それは……」
答えられなかった……否、答えはすでに出ているのに、自分の中の意地がそれを邪魔していた。
「……ほら、やっぱり貴方は……とっても優しい人よ」
そう言うと、真正面からタケルを優しく抱きしめる雫。
「な!?お、おい!?」
タケルは雫の突然に困惑し引き剥がそうとするも、続く雫の言葉に自身の中の何かが崩れていくのを感じた。
「大丈夫だから。私は、貴方が何を言おうと否定しないから……受け止めるから……だからもう、我慢しなくて良いのよ?」
「──っ!?」
優しく包み込むような柔らかな声。その瞬間、タケルの頬を温かい物がつたう。それが自身の涙であると理解した瞬間、今まで溜め込んだ感情が、波のように溢れだした。
「あ…あああ…ああああああっ!」
堰を切った様に再び溢れ出す大粒の涙。それで服が濡れるのも構わずしっかりと雫はタケルを抱きしめる。
「苦しかった!心が壊れそうなくらいに辛かった!誰かにぶち撒けてまいたかった!でも……言えんかった……だって、あんなに良うしてくれるハジメとその家族に…こんな醜い本心聞かせたくなかった……お母さんだって、ホンマやったらもっと健康な、普通の子供に産んであげたかったって思ってるはずやもん!何不自由なく友達と遊んで、健康に育って欲しいって思ってるはずやもん!そんなお母さんに、あんな酷いこと言える訳ないやんかぁ!」
「うん……うんっ」
雫の胸に顔をうずめ、泣きじゃくりながら本心を吐露するタケル。雫はそんなタケルの言葉を一言一句聞き漏らさずに受け止める。
「俺が我慢すればそれで大丈夫やって!そうすれば皆傷付けんですむって!そう思ってた……でも、そうすればするほど……自分の心がボロボロになっていった。どんどんどんどん廃れていって、醜くなっていった!……もう、嫌や……何で、何で俺ばっかりこんな目に合わなあかんねん!もっと、もっと──」
嗚咽を漏らしながら、力一杯貯めて最後の本心を続ける。
「──普通が、良かったぁっ……ああああああああああああああ!!!!!!!!!」
誰にも話せず、ずっと仕舞い込んでいた本心。決して綺麗とは言えないかもしれない……だがその全てを雫はしっかりと心に刻み付けた。
「……頑張ったわね。でも、もう無理しなくていいから……もっと泣いてもいいから。今は一杯、枯れるまで涙を流していいからね?」
まるで、悪夢にうなされた子供を優しくあやす母の様に……決して離すことなく抱きしめた。
◇
「……一度ならず二度までも、すまん」
「い、いや…私も勢い余って抱きしめたりして…ごめんなさい。」
一通り涙を流した後、素面に戻った両名は自分たちの体勢に度肝を抜き、残像が見えるのではないかと言う速さで離れた。
(やってしもた…幾ら精神的に限界やからって…普通同級生の女子の体に顔埋めて泣くか!?)
(何やってんのよ私!?幾ら木場君が余りにもボロボロで健気で見てられないからって…普通抱きしめたりする!?)
顔を真っ赤にしてガチガチに固まる2人。居住まいを正して俯いた姿勢で向かい合っているその光景は、側から見ればかなり異様だろう。
((な、何か……話さん(話さない)と!))
「「あ、あの……あ、どうぞどうぞ!」」
((アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!))
見事に被ってしまいまた微妙な空気が流れる。と……
「……ククッ!」
「……フフフッ!」
「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」」
今度は2人して笑い出す。そのまま暫しの間笑い続けた後、雫が切り出す。
「もう、大丈夫なの?」
「……分からん。でも、かなり楽にはなった。」
まだ少し不安げながらも笑顔を見せる。
「溜め込んだもん全部出して、だいぶマシや。完全に消えた訳ではないけども、もう大丈夫やと思う。多分やけどな?」
「そう、なら良かったわ。」
微笑み返す雫に、頬を掻きながら言葉を捻り出すタケル。
「…あー、その……お前が居てくれへんかったら、多分……もっと酷い事になってたかも知れへんし……助かったって思ってる。」
「別に良いわよこのくらい「だから!」ん?」
「あ、ありが……とう。」
これ以上ないくらい赤面して、消え入りそうな声で礼を告げるタケル。
「……プフッ!」
「な!?お前人が精一杯勇気振り絞ってお礼言うたっちゅうのに!」
」
「だってぇ…ふふっ…明らかに言い慣れてないんだろうなぁって感じで言うんだもの。しかも…ふふふ…顔真っ赤だし!あはは!」
「〜〜〜〜〜〜!?もう知らん!寝る!」
肩を強張らせ怒ってますアピールをしながら部屋へと戻ろうとするタケルの背中に雫が呼びかける。
「木場君!」
「……ん?」
そして、先程と同じ優しい笑顔で告げた。
「おやすみなさい。」
「……ああ、おやすみ。」
挨拶を交わすと、踵を返してその場を後にする。もう頭の中のもう一人の自分が呼び掛けてくることはなく、その顔は最初ここに来た時とは似ても似つかないほど、晴れやかなモノだった。
◇
──宿を出たとある一角。夜遅いこんな時間に男が1人座り込んでいた。
その顔は醜く歪み、ほの暗い笑みを浮かべている。
「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんな雑魚に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ……」
その男──檜山は誰かに言い訳でもする様に呟いている。
そう、この男こそがあの時ハジメに魔法弾を放った犯人だ。
当初から香織に歪んだ愛情を抱いていた檜山は、ハジメの事が邪魔で邪魔でしかたなかった。
故にあの時、溜まりに溜まった鬱憤が爆発し、とうとう悪魔に魂を売ったのだ。
そして、そんな檜山を陰から見つめる者が1人……その人物は徐に檜山に近づいていく。その顔は檜山以上に醜く歪んでおり、まるでそれは、自身の目的遂行の為……他の全てを捨てでもそれを成し遂げんとする、そんな覚悟の現れの様だった。
そして物語は、更なる混沌へと誘われていく──
いかがでしたか?
今回のは作者が書きたかった話の一つなんですよねぇ。しかし、端から見たら低身長の男子が長身の女性に取り押さえられているという異様な光景という……
まあそれはさておき、全部ぶちまけてやりましたよ!そしてそれを受け止める雫のオカン力!
この二人の関係性は之からもドンドン描写していくのでご期待頂ければ幸いです。
最後になりましたが、前回の投稿の際誤字報告していただきました『春はる』さん、ありがとうございました。
それではまた次回、チャオ~