実在するが到底不可能なコンボが成立するこの世界で俺は今日も決闘する 作:萌矢氏
ジジイ儂、そろそろ昇天なう。
むかーし孫に教わった、今では消えた流行語だったかの。
死の間際に、ふとその記憶と言葉だけがふわりと浮き上がったかのような。
死は恐ろしい。じゃが、死ぬことは怖くない。
儂は幸せじゃった。たくさんの子と孫に恵まれ、みなが儂の死を悲しんでくれる。
死なないで、なんてお願いを叶えられぬ儂を許しておくれ。
昔から儂は遊戯王カードが好きじゃった。
子供の頃に知って、高校生ぐらいまでやり続けた。
大学生の頃ぐらいから少しずつ触ることがなくなって。
社会人になって、忘れてしまった。
我ながら立派に勤め上げ、さあ老後を楽しむぞという時に、ふとそのことを思い出した。
もはやカードとして遊ぶことは叶わなんだが、それはそれとして集めることにした。コレクションというやつじゃな。
…………ついでに子供たちにも教えてあげた。
そこそこの企業で勤め上げたおかげで貯金と年金で充分に老後を楽しむに不備のない環境だったが、儂はカードを集め続けた。
しばらくして、テレビ局から取材を求められたのは少し可笑しかったのう。
儂の遺言には、集めたカードの中で希少価値のものには、他に求める人がいれば適正価格でのみ売り払ってもよいと書いておいた。
それ以外は、儂の遺産の中からコレクションの保存管理費を除いて分配した。
すまんな、お前たちも愛いものじゃが、カードはそれよりも好きなんだ。
もう死ぬ、と、心と体から伝わってくる。
なのに思い浮かんだのはカードのことばかりじゃったのう……。
来世でも、幸せな最期となりますように。
ピッ
ピッ
ピッ
ピ──────
……………………・・・・・・・・・・・・
ざわざわと、風に揺れる木々の音。
足元には草と土。
ふわりと風が吹くと、草もまたふわりと揺れた。
「……………………」
なんだここ。そもそも俺死んだんだよな?
いや、つまりここは死後の世界って奴か。随分きっちりと存在していたんだな。
「んーこほん。あーあー」
それにどうやら若返っているようだ。
体は言うことが利かず、何か話すのも一苦労。食べるのも寝るのも重労働だった先ほどまでとは打って変わり、元気モリモリだ。
「で、えーっと……」
さてどうしようかと前を向くと、小さな家があった。
なぜか、ああ、これが自分の家なんだな、というのを理解した。
「うーん、家なんだけどこの場合はどっちにすべきか」
迷ったので全部やるか。
コンコン。
ガチャリ。
「お邪魔します。ただいま」
誰もいないのはまあ分かっていた。
そして生活に必要な諸々が揃っていて、かつ使われた形跡はない。
極め付けに、机の上には鍵が置かれていた。外に出て回してみれば、案の定ドアを施錠できた。
「俺の家、でいいのかな」
……とりあえず物色するか。
まず電気は走ってなさそうだ。家具が見当たらない。
天井からランタンが吊るされているが、1つしかないにも関わらず、とても明るかった。あと紐がぶら下がっていて、引くと消えた。もう一度引くと点いた。なんで?
慌てて台所へ向かうとやはりコンロがいた。辺りを確認するが、電気もガスも見当たらない。そしてツマミを捻ると、火がついた。なんで??
もしかしてと思い、木製の大きな物入れに見えていた物を調べた。冷蔵庫だった。中身は肉やら野菜やら水やら満載で、ちゃんと冷たくて、電気はなかった。なんで???
理解が追いつかず、意味不明なので少し眠ろう。
気持ちを落ち着けてから、また考えよう。
居間を離れ、隣接していた寝室へ向かう。
寝室には、柔らかそうな白いベッドと、小さな箱が置いてあった。
とりあえず箱を開けてみたら、デュエルディスクが出てきた。
デュエルディスクが出てきた。
デュエルディスクがでてきました。
次回、「城之内、死す」。
デュエルスタンバイ!