空の向こうへ 作:アナタ
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「わっ、わーっ!」
「しっかり掴まってろよっ!」
空気の膜を突き破るように上空へと加速していく。
目を瞑りギュッと力強く俺にしがみつくヴィヴィオ、安心させてやる為に支えてやるのが1番なのかも知れないが、グラシュでの飛行は全身を使う。
片手を使うか使わないかでスピードも加速も何もかもが変わってくる。
それにグラシュにはペアリングという機能がある。
これは普段自分を覆うように纏うメンブレンを他人と一緒に纏う事で共に飛行する事を可能とする機能だ。
普通であればグラシュを履いた者同士が触れ合おうすると、磁石のように反発し合い弾かれるのだがペアリングをすればそうなる事もなく一緒に飛べる。
ただ1度ペアリングしてしまうと1度降りるまで解除は不能で、逆に離れる事が出来なくなるというデメリットは存在するが普通は気にしないだろう。
「おちるっ!おちるぅぅ〜」
「大丈夫、つっても初めてなら仕方ねぇか。それよか向こうさんは待ってくれねぇみたいだ」
腐っても騎士、シスター。
初動は遅れていたが既に目に見える範囲まで追い付いて来ている。
実際こっちはあくまで一般向けのグラシュでペアリングまでしてる状態なのだ、向こうの管理局なんかにも支給されている競技や実践用のグラシュの出力には到底適わない。
いかにも当たり前だというようにこっちの後ろに付くように飛んで来た。
「貴様っ!殿下を離せっ!」
「ペアリングしてんだからさぁ、離せるわけねぇだろばーか」
「おのれっ、何処までも愚弄するかっ!」
騎士の1人が此方に向かって魔法を使ってくる。
グラシュの煌びやかなコントレイルに混じって魔法陣が浮かび上がる。
普通グラシュを起動している時はほかのデバイスを用いようと魔法を発動できないのだが、管理局等の一部のグラシュには反重力もといアンチグラビトンの魔法式以外に1つだけ発動可能の魔法が記録されているのだ。
それがグラシュの強制解除魔法。
これを当てられるとグラシュが自動で安全な場所に緩やかに着地、そして機能を停止させられてしまう。
俺のグラシュ、競技用にもプライベート用にも勿論そんな無粋な物は入っちゃいない。
そんな余分なメモリーを使うぐらいならば最高速ないし加速度を上げてもらうに決まっている。
シューターにも似たその弾丸が追尾するように俺に向かってくる。
コイツはかなり追尾性能がある、普通に飛んでいるだけじゃ避けられない。
出来るだけ上に飛ぶように前進し加速、それに並行して飛んでくる弾丸を上に飛ぶことで創り出したスペースに誘導する。
俺の創ったスペースに誘導してしまえば後はどうとでもなる、螺旋を描くように回転し弾丸を上に身体を下に入れてそのまま速度を一気に落とし急旋回。
ピッタリとくっ付いてくる弾丸が曲がったのを見て俺は脚を折り曲げ身体を丸め、脚と腕を接触させ空中を蹴る。
エアキックターン。
メンブレンの移動をショートカットさせて空中を蹴り急速でターンする技だ。
空中を蹴り急速ターンし弾丸とすれ違う。
これで誘導は切れた筈だ。
まさか俺が停止弾を回避するだなんて思っていなかったのか驚いた様子が伝わってくるが、すぐさま騎士達は隊列を組んで俺の上を取ってきた。
普段ならばそう易々と上は取らせないのだが基本性能が違い過ぎるのと、あまりメンブレン関係の技が使えないが故に無茶はしない。
この圧力を掛けるように飛ぶ隊列は間違いなく俺の飛ぶスペースを減らし、地上へと押しやる為のものだ。
実際FCの試合でも俺みたいな典型的なスピーダーを相手にする時には今のように選択肢を潰し、スペースを減らす事は非常に有効な手だ。
それに今の俺はペアリング状態で大それた技は使えないと来た。
強引に突破しようにも隊列を組まれてちゃ隙間なんてないし、触れられてしまえばさらに地上へと押しやられてしまう。
今はもう住宅街を抜けていて人工的に作られた湖の上という事もあって向こうは叩き付ける事も辞さないだろう。
なるほど、流石は騎士様シスター様だ。
しっかりと組まれて乱れない隊列と飛行姿勢を見るに相当訓練してきたんだろう。
「さぁ、これでお前は袋のネズミだぞ」
実際手も足も出ない状態で正に的を得た言葉。
俺を見上げる左右で違う瞳が不安そうに揺れている。
この包囲を抜け出すのは不可能に近い。
普通ならば。
でも俺は普通じゃない。
何故なら俺は次元世界で1番空を自由に飛ぶ男だから。
「そんな教科書通りのクソおもんねぇ飛び方してるお前らに、もっと楽しい飛び方を教えてやるよっ!」
俺は地上と並行に飛んでいた身体を垂直にする事によって急激にスピードを落とし、一時的に包囲から抜け出し上を取る為に上へと急上昇。
だが上を取っている向こうはそれでも余裕がある、上を取ろうとする俺の頭を抑えるように進行方向を防ぐように移動。
そうだよな、そっちはこっちを地上へと縛り付けたいんだからそうするのが当たり前だよな。
そんな事は分かっているしそうすればそもそものグラシュの性能差もあって余裕で抑え込まれる。
「突き抜けろぉぉぉぉー!」
加速する。
でも足りない、もっと、もっとスピードが必要だ。
ならば搾り出せばいい。
薄く感じるメンブレンの感覚が、肌を撫でる風の感覚が熱い。
俺の想いに答えるようにグラシュから溢れんばかりのコントレイルが、俺の空色の魔力光を迸らせ撒き散らし力強く輝いている。
もっとだ、もっと速く!
研ぎ澄まされた感覚がメンブレンへと伝わってそれを俺は何度も何度もシュートカット。
普通じゃありえないコントレイルの輝きに目を驚かせる騎士達を置き去りにして俺は光と一体化するように、一筋の流星が騎士達の横を通り過ぎて天空へと昇る。
「馬鹿なっ!?なんだあの加速は!?」
「誰だって出来るさ、メンブレンをもっと感じさえすればなっ!」
やった事の原理はエアキックターンと殆ど変わらない。
メンブレンの移動をショートカットさせただけだ。
そもそもグラシュは重力に反発する反重力の膜、メンブレンを全身に覆い空中に浮くというのは皆が知っての通りだ。
そしてそもそも浮いてどうやって進んでいるかと言うと星の重力による吸引力によって推進力を得ている。
すなわち、メンブレンを重力と反重力の繰り返しで動くが、正確にはメンブレンを濃くしたり薄くしたりの繰り返しで飛ぶ事が可能としている。
因みにこの原理はリニアモーターカーが動く原理にほぼ近い。
故にメンブレンの移動をショートカットをさせる事によって急激な加速を生み出す事が出来るのだ。
このメンブレンのショートカット自体、元々メンブレンの操作が直感や感覚的な部分が多く難易度が相当高い。
勿論練習すれば出来るようになるが、爆発的な加速を生み出すにはこれを短いスパンで連続で行う必要がある。
これを2回連続で出来ればプロレベルでそれ以上は未知の領域と言っていい、それを何処までも連続で絶え間なくショートカットさせたと言えばその凄さが伝わるだろうか。
元々このソニックブーストは十八番であり最も得意とする技、自由に空を飛ぶ為の技だ。
「見ろよヴィヴィオ」
「えっ?」
「空は何処までも続いてる、俺達が飛び続ける限り何処までもな」
俺の胸に顔を埋めるようにしがみついていたヴィヴィオが顔を上げる。
「わぁ.......」
雲ひとつない澄み切った青い空が何処までも続いていた。
自分達が飛んでいる限りこの景色は何処までも続いていて、自由な空を何処までも飛んで行ける。
それはなんて楽しそうで、素晴らしい事なんだろう。
人は誰だって何かを背負っている。
でも空にあるのは何処までも続く蒼で自由だ。
「すげぇだろ?楽しいだろ?ワクワクするだろ?」
「うんっ、うんっ!」
ヴィヴィオにとってこの空が俺と同じように見えていたらいいな。
だってここはこんなにも自由で、綺麗で、楽しいから。
その日、ミッドチルダの空に魔力が切れるギリギリまで空を飛んでいた2人組が居たという。