空の向こうへ 作:アナタ
「ただいまー」
「おかえ.......り」
リビングの方から顔を覗かせた妹がぴきり、と動きを止めた。
目線は凍り付いたように俺の頭上、つまり肩車しているヴィヴィオに集中していた。
あー。
そう言えば何の考えもなしに連れて来たけどこれって割と不味かったり?
ヴィヴィオと名乗る少女に「俺ん家来るか?」って聞いて「うんっ!」って元気よく返事されたもんだから流れで家に連れて来ちまった訳だけど。
「あぁ.......兄さんが犯罪者に」
「おい待て誤解だ。ていうか取り敢えずデバイス下ろせ、セットアップしようとするな!」
落ち着け話し合おう。
あーだこーだと言い合う俺達。
取り敢えず掻い摘んでどうしてこうなったかという説明をするとこめかみを抑えてため息を吐かれた。
これだから兄さんは、と呆れ気味に目線を向けてくる我が妹。
これだからとはなんだこれだからとは。
どうやら兄としての威厳なんてものはないらしい。
こいつが俺の義妹、ティアナ・ランスター。
今は何でもあの馬鹿、ティアナの本当の兄で俺のダチだったティーダ・ランスターの夢でもある執務官になるべく猛勉強中らしい。
前までいた部隊で色々と成長出来たと語るティアナの表情を俺は今でも鮮明に思い出せる。
ずっと余裕がなさそうで何処か無茶しそうな雰囲気がずっとあったのに、そんなものはなくなっていて1本の真っ直ぐで芯の通った意思が今のティアナにはある。
多くは語ってはくれなかったけど、きっとその部隊で大切な何かを学び掴んだんだと思う。
嬉しく思う反面、自分の知りえないところでそうやって成長していく妹の姿に寂しく思う。
なるほど、あのバカがシスコンになる訳だと納得した。
そんな俺達を何処か緊張した様子で身体を縮こませながら俺の後ろに隠れて、ちょこんと顔だけだして様子を伺うように見上げるヴィヴィオを見て妹が
「もしかして、ヴィヴィオ?」
「なんだ知り合いだったのか?」
「まぁね。と言っても仕事先でちょっと知り合った程度だけど。それでも兄さんよりかはヴィヴィオの事は知ってると思うわよ」
「そうか。まぁ全く知らんより全然いいだろ、な?ヴィヴィオ」
「う、うん」
「でも多分皆心配してるわよ?」
「えっと.......殿下はちょっとつかれたからすとらいきします」
「す、ストライキ?」
お、おう。
まぁそういうことなら。
「じゃあ今日は飯一人分追加な」
「ちょっと、そんな勝手に決めたらなの.......じゃなくてヴィヴィオのお母さんが心配するじゃない」
あー、確かに。
殿下殿下と付いてきていたアイツらの事ばかり気にしていたが、そう言えばヴィヴィオにだって親がいるはずなんだ。
それを勝手に家に連れて来ちまった俺はやっぱり不味いのでは?
今更ながら顔色を悪くする俺に、ジト目でやっと気付きやがったかと呆れ気味のティアナ。
うん、普通に犯罪だよな。
やっぱり家に帰るか、とヴィヴィオに話し掛けようとするとヴィヴィオが口を開いた。
「大丈夫だよ。どうせママは今日も帰ってくるの遅いし.......それにすとらいき中だし」
ボソッと呟かれたのは置いておいて。
徐々に小さくなるように呟かれた言葉は正にヴィヴィオの気持ちを表していた。
そんな今にも泣きそうで、寂しそうに俯くヴィヴィオに何かを言おうとして何処かあー、と納得したような顔をするティアナ。
ティアナはヴィヴィオの母親を知っているのだろうか?
でも今はそれよりも。
しゃがみ込みヴィヴィオの頭の上にぽん、と手を乗せる。
不思議そうに首を傾げるヴィヴィオにニコッと無駄に良い笑顔をしてから俺は、俺のせいでボサボサになった髪を更にぐちゃぐちゃにする勢いでわしゃわしゃした。
「わー、わぁー!髪がぁ!」
「このっこの!そんな顔すんじゃねぇよ。取り敢えず今日は此処で飯食ってけ」
「でも.......」
「馬鹿野郎、ガキが遠慮すんな。それに1人で飯食ったって寂しいだけだろ?」
ボサボサになった髪を抑えながら俺を遠慮がちに見上げるオッドアイの瞳は俺を見て、ティアナを見る。
「勿論歓迎するわ。ヴィヴィオのお母さんほど美味しい料理は作れないかもだけど、我慢してね」
「.......うんっ!ありがとうっ!」
少し考えた後ティアナの言葉にぱぁっ、と顔に花を咲かせる。
きっとこの笑顔の方がヴィヴィオの本当の顔なのだろう。
ほんと良い笑顔しやがるな。
いざ夕食を食べようってなって席に付いてまた緊張してきたのか落ち着かない様子だったヴィヴィオだったが、夕食が出来て食べ始めると途端に元気になった。
元気いっぱいに今日あった事や俺の試合の話、昨日の勉強した内容等を無邪気に話しこれでもかってぐらいに笑顔を振り撒く姿はこっちまで元気を貰うぐらい。
色々と話したい事が溜まっていたんだろう、家じゃそういう話をあまり出来ていなかった反動なのか眠くなり目を擦り出す瞬間まで本当に楽しそうだった。
まぁ俺が騎士達相手にドッグファイトしたのを楽しそうに語ってくれやがったから、俺はティアナからありがだーいお説教が確定した訳なんだが。
あの時のティアナの視線、あれは人を殺してる奴の目だったな。
「ティアナ、お前ヴィヴィオの親知ってるだろ?」
「知ってるけど.......まさか」
「そのまさかだ。明日はちょっと文句言ってくるわ」
「ちょっと止めてよ。確かに問題だと思うけどあの人達はとても忙しいから仕方がない部分もあるの」
「そうだろうよ。でも仕方がないからってガキにあんな思いさせてんのが許されんのかっての。例え愛してくれてるって分かってても不安なものは不安なんだよ」
ヴィヴィオの親には既にこっちで預かるからと連絡を入れてくれているらしい。
明日にはヴィヴィオを返す事になっているのだがそれに俺も付いていく事にした。
今日1日という短い間だがずっと一緒にいて、俺はヴィヴィオの気持ちに触れた。
まだ全然俺はヴィヴィオの事を知らないだろう。
好きな食べ物も服の好みも魔力素質も殆ど、何もかも知らないと言っていい。
でも間違いなく今日出会った時の顔は寂しくて寂しくて堪らない、そういう顔をしていた。
俺はヴィヴィオと飛んで楽しそうに笑う姿を見た、幸せそうにご飯を食べて顔を綻ばせている姿を見た、嬉しそうに体験した出来事を語る姿を見た。
本来そうやって全身で感情を表現出来る子なんだ。
そんな子にあんな顔をどういう理由であれさせていたのを黙って見ているだけなんて出来なかった。
あの時、騎士から逃げる時。
1人の時は、ヴィヴィオは教会に預けられていたんだと思う。
それで自分とは違う誰かに重ねられて嫌気がさして外に出て、たまたま俺と出会い、たまたまそこを抜け出せる手段を得た。
あの時確かにヴィヴィオは自分の意思でそこから飛び出した。
飛んだのは俺だが飛ぼうと、そこから飛び出したのは間違いなくヴィヴィオ自身の意思。
偶然が重なったにしてもヴィヴィオは確かに自らの意思で飛び出したんだ。
今はまだ自由に飛べない翼かも知れない、でも今は俺がいる、ティアナもそして親だって騎士達だってそうだ。
何も知らないままだなんてそんなのは勿体ないから、今は俺が連れて行ってやるんだ。
「はぁ、ほんと兄さんはいつもいつも.......」
「なんだって?」
「なんでもないわよ馬鹿」
何だか妹の当たりが異様に強い件について。
今日は妹にため息を付かれっぱなしな気がする。
「兄さん明日練習でしょ?」
「そんなもん休む休む」
「それでいいの?次元世界チャンプ.......」
なんたって次元世界で1番自由な男だからな。
もう既に連絡済みだ。
なんか他に色々ラウからメッセージが飛んできてるが明日でいいか。
お小言は今は聞きたくない気分だ。
またため息をを付くティアナに「そんなにため息をばかり付いてると幸せが逃げるぞ」と言うと足を踏まれた。
やっぱり今日は当たりが強い。
ボソッとまた何かを言っていたが悪口なら俺がいないところで言おうな、俺でも普通に傷付くから。