狩人は四方世界の夢を見る   作:赤い月の魔物

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アメンドーズ、アメンドーズ…

憐れなる落とし子に慈悲を…

イーヒッヒッヒ…ハーハッハッハッハ!!


4話 異なる景色

外に出ると狩人が待っていた。置いていってもおかしくはない筈なのだが彼はそこにいた。まともではないと本人は言っていたがこうして待っているあたりそうでもないのかもしれないと女神官は一人思った。例の液体(鎮静剤)の件は置いておいて。

 

「これから先は連中と交戦する機会が増える。これを持て」

 

狩人が腰に下げている物と同じ鉄の筒のような物を投げ渡した。落とさないように両手で受け止めるとそこにはずっしりとした金属の重みがあった。

 

「ずっと気にはなっていたんですけど・・・これは何ですか?」

 

「銃だ。火薬の力で弾丸を飛ばす武器だ。多くの狩人は皆仕掛け武器と銃を持ち獣を狩ってきた」

 

「武器、ですか・・・でも・・・あっ」

 

「どうした」

 

武器と聞いて思わず自分の信仰する地母神の戒律を思い出した。地母神の信徒は基本武装することを良しとしない。自衛をすること以上の戦闘は忌避するし過度な武装は当然ながら肌を覆い隠す事も良い顔をされない。「守り、癒し、救え」の三つを教えを原則としている以上それらを余りにも破ろう物なら最悪授かった奇跡を剥奪される可能性だってあり得る。

 

「その、地母神様の・・・えっと私が信仰している神様の教えでは過度な武装はしてはいけないんです」

 

「それがどうした」

 

「えっ?」

 

しかしそんな自らの不安を狩人はバッサリと一言で切り捨てた。この間一寸の間も無く即答である。思わず女神官も目を丸くしてしまった。

 

「お前も見ただろう。この街の有様を。そしてついさっきにこの神殿の中も。あの有様を見てまだ神様とやらが助けてくれると信じているのか?」

 

「っ・・・それは・・・」

 

「手を合わせて祈るのは勝手だがここではそんな事をしても誰も助けてはくれない。この街の惨状を見た以上それが分からないような阿呆ではないだろう?」

 

「で、ですが!」

 

「くだらん意地を張るのは勝手だがそれが原因で死にそうになっても知らんぞ。言ったはずだ、自衛の手段は覚えて貰うと」

 

「く、くだらないって・・・」

 

「自身の身を守る事すらその神様とやらが許さんなら信仰などやめてしまえ。神頼みなど何の役にも立たん」

 

自身の信仰した神を否定され女神官は顔を顰める。まぁ元々献身的に奉仕することが習わしの宗派なので仕方ないのだが・・・その点目の前の狩人を見れば自分の地母神の信仰を真っ向から否定するような姿をしていると言っても過言では無いだろう。肌をくまなく覆い隠し、両手に武器を持ち、彼の言動を見るに他者への献身など皆無だろう。

 

「っ・・・分かりました。で、でもホントに最小限です。身を守るくらいの・・・」

 

「何も俺のように着込んで武装しろと言っているわけじゃない。それにその身体付きでは狩装束など着れんだろうしな」

 

「―っ」

 

上から下へ撫でるようにその視線を動かすのを見て思わず女神官は顔を赤らめ自身の身体を両手で抱いた。まだ、まだ成長期はあるはずだと自分に言い聞かせながら狩人を力いっぱい睨んだ。まだ十四なんだから仕方ないじゃないですか。と誰にいうわけでもなく女神官は言葉を飲み込んだ。

 

「そんな顔が出来るなら平気だな。・・・これがそれに込める弾だ」

 

狩人がそういって渡してきたのは先端が尖った銀色の小さな芯のような物で所々赤い色が混じっている。

 

「水銀弾だ。鉛の弾は獣には殆ど役に立たないから専用の弾を使う。一先ずそれで身を守れるはずだ」

 

「あの使い方とかは・・・」

 

「銃身を倒して弾を込めろ。あとは相手目掛けて引き金を引け。撃つときは指差すように撃て。殺せなくてもいい。音と衝撃で怯ませるだけで十分だ」

 

「でも、それじゃ・・・」

 

「あとは当たり前だが弾に限りがある。無駄に撃つなよ。無くなっても補充はできるがそれも無限にできるわけじゃない。やばい時にだけ使え」

 

「・・・分かりました」

 

一通り使い方を教わると女神官は受け取った短銃を左手に持つと右手に錫杖を持った。松明はどうするのかと聞こうとしたが聞く前に狩人が答えた。

 

「外なら松明はいらん。どちらにせよこの街から出るには―」

 

そう言って狩人が後ろへ振り返る。その先を女神官も釣られて見た。

 

「・・・悪夢の元凶を潰さねばな」

 

そう言って歩き出した狩人の後をついて行く。

 

空には綺麗な白い月が輝いていた。

街は血で染まっているのに月はいつもと変わらなかった。

 

一つしか無いことを除けば。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

女神官をつれて歩き出した狩人は先ほどと同じように路地裏を通って群衆や獣の目を逃れるように動いていた。自衛手段を与えたがそれでもこの少女を戦力として数えるのは無謀だろう。渡した短銃は強化もしていない新品の豆撃ちのような状態だがそれでもそこから放たれる水銀の弾丸は連中を怯ませるには十分だろう。自身の血質が優れていれば威力の不足はどうにかなったがそれも刺銃剣(レイテルパラッシュ)が使える程度の血質では望むべくもなかった。しかし無いものねだりをしても仕方が無い。過酷な運命を乗り越え血に優れぬ体質ながらもそれを補えるだけの神秘に見えた。気の狂う旅路ではあったが得るものは確かにあったのだ。

 

・・・多くの人間は出会っても最後には死んだ。正気を保っている者は死んだ。

 

ある男は言った。獣ではなく人を狩っているのだと。

 

ある男は言った。人は皆獣なんだと。

 

ならば上位者達を狩り続けた己は何になる?4本の『3本目』を得た自分はなんだと言うのか。・・・答えはない。得るはずの答えはあの夜に消えた。そして未だに人のフリをしている。だがそれでも・・・

 

人々の為に怪異を狩った狩人が人殺しなどと・・・憐れではないか。俺たち狩人が・・・だからこそ我々は狩り続ける。終わらないと分かっていても何度も訪れると分かっていても夜が来る度狩りに出るのだ。

 

そういえばこの少女は神官と言っていたか。神官ということは聖職者の類。つまり彼女もかの教区長(エミーリア)のように悍ましい獣になる可能性があるという事だ。まぁ見たところよそ者である以上その兆候は無さそうだが・・・そういえばヤーナムで出会った者達から受けた血の施し。ああ、実に甘美な血だった。この少女は血の聖女では無いのかもしれないがさぞその血は美味なのだろう。

 

・・・そこまで思い至って、懐から鎮静剤を取り出し再び煽った。自分はいつからこんなにも気狂いになったのだろうか。一人の時ならともかくこの少女の前で全身から血を噴き出す事態は避けねばならない。あとで夢に戻ってカレル文字を刻みなおそうか。

 

「あ、あの大丈夫ですか・・・?」

 

後ろから件の少女の心配そうな声が上がる。振り返ると少し怯えたような表情ではあるもののこちらを気遣っているのが伺える。振り返り努めて何でもないように答える。

 

「・・・心配はいらない。自分の身を守る事だけ考えていろ」

 

そう言うと少女は何か言いたそうな顔をしたがすぐに押し黙った。・・・彼女が心優しい性格をしているのは振る舞いや言動を見るだけで分かる。だがそれ故に危険だ。ヤーナムなら真っ先に死ぬタイプであろう。・・・だがどうしてか、彼女を見ていると助ける事ができなかったリボンの少女を思い出すのだ。無残にも人食い豚に食い殺された何の罪もない少女を。

 

――――――――。

 

自分も決してまともではない。だがそれでも。

 

この少女を悪夢から覚ましてやることくらいは、出来るはずだ。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

狩人が再びあの液体を飲んだのを見て思わず心配になって声を掛けた女神官であったが心配はいらないと言われて押し黙る。・・・だがその背はどこか何かに耐えているような気がした。何か自分ができることは無いだろうか。元より冒険者の役に立とうと思いその道を志したのだ。たとえ狩人がまともな人物では無くとも自分は彼に助けられたのだ。ならば助けられっぱなしでいるわけにはいかなかった。

 

(何かしてあげられないでしょうか・・・何か私に・・・)「わぷっ!?」

 

そうして物思いに耽っていると狩人が急に立ち止まりぶつかってしまう。どうしたのかと思い狩人の顔を伺うが狩人は何かを考え込んでいるようだった。

 

「・・・チッ。眷属(アメンボ)が・・・」

 

何やらボソりと悪態を吐いているようだった。内容は女神官にも聞こえていたのだがアメンボと聞いて女神官は首をかしげた。アメンボというとよく池の上などにいる虫のことなのだが違うのだろうか?それとも狩人の言うアメンボは何か別の事を指しているのか女神官は頭の上に?を浮かべているが狩人はそしらぬ顔で前を指さした。

 

「あそこを見ろ。扉が開いている建物があるのが見えるか?」

 

その方向を見ると大きな建物があり目を凝らして見れば扉の横にはADVENTURE'S GUILD(冒険者ギルド)と書かれていた。

 

「あ、あそこって・・・!」

 

自分が成人して行こうとした場所に思わず息を飲む。本来なら人の往来で賑わっているであろう場所もすっかり人の気は無く・・・いやあるにはあるがギルドの前は群衆で溢れかえっていた。人が皆一様に集まっておりあそこに何かがあるのだろうか?

 

「何やら冒険者ギルドというところらしいが・・・それは今はどうでもいい。足に自信はあるか?」

 

「・・・ないです」

 

「・・・・・・・・・」

 

「し、仕方無いじゃないですか!昨日までずっと神殿で暮らしていたのに・・・」

 

半眼になって此方を見る狩人に女神官は抗議した。昨日まで神殿暮らしの戦いとは無縁だった神官に運動神経を期待されても困るというものだ。さすがに鈍足とまではいかないと思いたいが長距離を走り続けるのは厳しいだろう。狩人は何やら考え込んでいる。群衆の数は遠目で見ても三十はくだらない。近くに身を隠す遮蔽物も無く真っ向から挑むのは無謀だろう。戦いに関してはドがつくほどの素人である女神官でさえこう思うのだから狩人もそれは分かっているだろう。どうにか無事に済む方法を

 

「仕方無い。突っ込むぞ」

 

「・・・え?」

 

考える間も無く狩人は言い放った。女神官は何を言ったのか理解出来なかった。突っ込む?あの群れに?何を言っているのだろうかこの人は。一拍おいて狩人に女神官は青ざめた顔で抗議した。

 

「む、無茶ですよ!いくらなんでもあの数は危険です!」

 

「別に連中を相手取る必要は無い。ようはあの建物に入れれば良い」

 

「建物に入ればって・・・その後はどうするんですか?」

 

「入ってくる奴は殺す。・・・必要はなさそうだがな」

 

「どういう事ですか?必要はないって・・・それじゃ・・・」

 

狩人の言っている事がよく分からず不安を募らせるが狩人は淡々と言葉を述べる。

 

「心配するな。別にお前を囮にしたりするわけじゃない。ちょっとした力押しをするだけだ・・・行くぞ」

 

「え?力押しって・・・ひゃぁ!?」

 

そう言うと狩人は女神官を左肩にひょいと担ぐようと素早く飛び出した。いくら華奢で小柄とは言え人一人の重さを抱えてこの群れを突っ切るなど正気だろうかとそんな事を考えている自分がいた。狩人に気づいた群衆達が手に持つ農具や武器の類を振りかぶって追いかけてくるがそこまで足の早い者はいなかった。・・・正直なところ女神官でも十分に逃げ切れる速さではあった。今更言ってももう遅いのだが。

 

そして半ばまで来たところで空が光った。正確に言うと冒険者ギルドの壁の上方が光ったのだ。思わず女神官がそちらを見るが何もない。気のせいかと思ったが次の瞬間に光った場所から眩い光が迸った。

 

―ビィィィィィィ!

 

「!?」

 

耳に障る音と共に光が地面をなぞると光がなぞった場所が爆発した。眩しい光の爆発に思わず目を瞑り、口から悲鳴が出そうになるがぐっとこらえた。その光が地面を次々と地面をなぞり爆発を引き起こすなか狩人はその中と群衆の間とを滑るように走り抜けて行く。そして爆発に巻き込まれた群衆は蒸発し文字通り塵と化した。群衆を振り切り扉を体当たりで開け放つとすぐに地面に女神官を放り捨てた。

 

「あッ、う・・・」

 

全身に衝撃が伝わり痛みが広がるが痛みをこらえてどうにか起き上がると狩人が入口から迫り来る群衆と対峙していた。大ぶりの攻撃をひょいと躱すと手に持った鋸刃のついた鉈で切り裂いて行く。

 

「・・・意外と上手く行くものだ」

 

狩人はなんとなく呟いたのであろうが女神官は聞き逃さなかった。どうやら半ば博打に近い策だったようで思わず女神官は声をあげた。

 

「もしかして半ば賭けだったんですか!?」

 

「お前を連れている以上どうしても行動が制限される。目を離せばどうなるか分からんし何よりお前が奴に狙い撃ちされる可能性もあったしそこかしこにいる連中に()()()()()()()可能性もあったからな」

 

「そういえばさっきの光はなんだったんでしょうか?それに狩人さんが言っていたのって・・・」

 

「忘れろ。前にも言ったが知らなければ良いもの、見なければ良いものがある。それを知ろうとするなど愚か者の所業だ」

 

「・・・あの、もう少しこう、教えてくれても良いじゃないですか。全部とは言わずとも少しくらい・・・」

 

そう言うと狩人は少し迷ったように黙り込んだがすぐに口を開いた。

 

「簡単に言えば見えない化物だ。それがあの光を放っていた。これで良いか?」

 

「・・・納得は行きませんが分かりました。でも狩人さんには見えているんですか?その言い方だと見えているような・・・」

 

「見える。・・・別に見たくて連中が見えるわけでは無いが」

 

そう言った狩人は溜息を吐いた。まるでもう見飽きたとでも言うような反応だった。相変わらず謎の多い人物ではあったがあそこで女神官を置いていくという選択肢を取らなかったあたりそこまで悪い人物ではないのだと思うようにもなった。実際彼にとっては女神官を連れるメリットはないのだから。すると狩人は何かに気づいたようで歩いていく。慌ててその後をついていくと何やら床から何やらランタンのような物が生えていた。灯りは点っていないがいくらなんでも床から直接生えているようなランタンがあるのは明らかに不自然だった。

 

「なんでしょうこれ・・・?ランタン?みたいですけど・・・」

 

「ん?これは見えるのか?」

 

「え?普通に見えていますけど・・・」

 

「・・・よく分からんな・・・まぁいい、見えているなら好都合だ」

 

何が好都合なのかと思っている内に狩人が明かりに向かって指を鳴らすとランタンに灯りが点った。菫色とでも言うべき薄い紫色の灯りは不思議ではあったがどこか安心させるような何かがあった。

 

「手をかざしてみろ」

 

「?えっと、こうですか?」

 

しゃがみこんで言われた通りに右手を前にかざすとだんだんと視界が暗くなって意識が薄れていく。しかし気づいたときにはもう遅く女神官の意識は落ちた。

 

 

 

誰もいなくなったその場には灯りだけが残っていた。

 

 

 

 

 

 




狩人「(聖職者の少女の血か・・・)」
女神官「(なんだか悪寒が・・・)」

女神官ちゃん、君最初になんでもするって(ry
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