13
「しかしお主もたいがいのおせっかいだのう。だが無駄なことよ。いくら本物の水晶を持ってきてもまた捨てるのみ!」
啖呵切ったもじゃもじゃ頭の男を前に、私は後ろからエイトさんにぼそっと聞いた。
「エイトさん。話が見えないんですが」
「いや僕もいきなりでちょっと」
エイトさんも戸惑っていた。
「おいおいおっさん、滝壺に捨てるってんじゃねえよな? あたると古傷がひらいちまうんだから止めろよ?」
なんとヤンガスさんは判ったようで言い返している。
「なに? 滝壺には捨てるな? あたると今度は古傷がひらくだと? わけがわからんぞ!」
いきなりドラマ調で語り始めた電波おっちゃんに対して、ちゃんと返したというのにわけがわからないと切り捨てられてしまっている。これはヤンガスさん、怒ってもいいと思う。
「まあよいわ。いいかよく聞けよ。わしがどうして水晶を捨てたか……その理由はユリマも知らんことだ。ましてやあんたらなど……」
立ち上がったもじゃもじゃ頭の男はこちらに近づいてきた。
「その水晶玉をよこせ! 今度は二度と拾ってこれぬよう粉々にくだいてくれる!」
「やめて! やめて、お父さん!」
奥からあの時の少女が駆け出して来た。奥に居たのか。
「私もう知ってるから! ずっと前から私……なぜ水晶を捨てたのか知ってたから。私……」
「……ユリマ、お前……。じゃあ自分の本当の親のことを?」
衝撃を受けたようなもじゃ
「うん……。でも私はお父さんのせいで両親が死んだなんて思ってないよ」
「どうしてだ? ユリマ? そこまで知っていながらどうしてそう思う? このわしを恨んでも……」
もじゃ
「ううんお父さんはただ占いをしただけだもん。私は知らないけど、お父さんの占いってとってもすごかったんでしょ。だからどこに逃げたのかわからなかった私の両親の居場所もあっさりと当ててしまったんだよね」
「………………」
天を仰ぐもじゃ
「あの頃わしに占えないものなどないと思っていた……。わしの名は世界中に鳴り響きわしは有頂天じゃったよ。占えることはかたっぱしから占ったもんじゃ。自分のことばかり考えて頼んでくる連中が善人か悪人かそんなことすら考えなかった……」
「もういいの。もういいのよ。だってお父さんはひとりぼっちになった赤ちゃんの私を育ててくれたじゃない。私見てみたいな。高名だった頃の自信に満ちたお父さんを。どんなことでも占えたお父さんを」
「……ユリマ……」
だれかー。誰かこの空気をなんとかしてくれー。
というか、よくもまあ他人が居る中でそこまで話せたものだ。詳細不明だが、昔々凄腕占い師のもじゃ
ヤンガスさんハンカチ取り出して鼻かんでるし……ハンカチ持ってるとか何気にこの人女子力高いよな。
とりあえず私としては空気が空気なのでエイトさんとヤンガスさんの袖を掴んで一旦外へと避難。
「………」
「………」
「………ぐずっ」
ヤンガスさん、まだもらい泣きしてるよ。
私はエイトさんと顔を見合わせて苦笑い。はてさて、どうしたものか。
「出直します?」
「そうですね。今はちょっと取り込み中みたいですから」
提案するとエイトさんは頷いた。他に選択肢が無いから仕方が無い。
「そういえば剣はどうされたんですか?」
ふと気付けば、トロデーンを出立した時に持っていた筈の剣が無い。ヤンガスさんの方は斧を橋で落とした後、木の棒をいくつか拾っているのを見かけたのでそれを使っているのだろう。
エイトさんは恥ずかしそうに、それと申し訳なさそうに頬を掻いた。
「折ってしまいました」
「折った?」
「あれだけ魔物に会えばしかたがないでげす」
使い過ぎて耐久値を超えたって事か?
「まさか帰りは素手だったんですか?」
「いえ、一応折れても使えますから」
ヤンガスさんを見る。ヤンガスさんは黙って首を振っている。キツイという事だ。
「……武器を売っているところはここにありますか?」
「ありやす。あっしも変えたほうがいいって言ったんでげすが……」
ちらっとエイトさんを伺うヤンガスさん。
なるほど、エイトさんは異なる意見なのか。
「折れた剣の代わりはあるんですか?」
「いえ……そういうわけではないんですけど」
「では変えませんか?」
エイトさんは腕を組み悩んでいるようだったが、やがて組んでいた腕を解いた。
「ちょっといいですか?」
腕を引かれヤンガスさんから離れるエイトさん。
えらく堂々とした内緒話だなと思いながらついていくと、振り向いたエイトさんは深刻な顔をしていた。
「宿代どうしてます?」
「払いましたよ? 前払いでしたので」
「え?」
「え?」
私の言葉にエイトさんが驚き、エイトさんが驚いた事に私は驚く。互いに腕を組み視線を落とした。
「ちょっと確認しましょう」
「そうしましょう」
エイトさんの提案に一も二もなく頷く。
「宿代はどこから出したんです?」
「トロデーンの台所にありました食材代と思われる袋です。計千六百七十ゴールドありました。使用許可は陛下に頂いています」
「……台所」
「厨房と言った方が正確ですか?」
「いえ、いいです。大丈夫です。確か換金用にいくつか貴金属もありましたよね?」
「はい。今のところ換金はしていません。どれぐらい移動が必要なのかもわからないので別の資金源を考えています」
「資金源?」
「アミダさんの手伝いをしていたので普通の薬草、毒消草、満月草なら卸せます」
「作れるんですか?」
「アミダさんみたいに効果を高めた特薬草とかは作れません。上薬草までなら何とか」
「……十分です。そっか……リツさんも考えてたのか」
「エイトさんも資金繰りを?」
「ええまぁ。魔物を倒せばゴールドが手に入りますから」
「ゴールド……ほんとに出るのか」
「え?」
「いえいえ。それで魔物を倒してどれぐらい稼げます?」
「移動するだけなら敢えてお金を稼がなくても大丈夫じゃないかと思ってます。一日で六百ゴールドは稼げましたから」
「おお。魔物を倒す方が効率良さそうですね」
「リツさん……」
「無理や無茶はしませんよ。とりあえず懐事情はこれでお互いに把握出来たと思いますが、武器はどうします?」
「………買います」
結論が出たので、ヤンガスさんのところへと戻る。
「武器を買う事になりました」
「さすが姉御でやすね!」
……姉御って。
エイトさんを見たら笑いを堪えていた。その笑いはあれか? 誤解を解かないお前が悪いというやつか?
「……ヤンガスさん。あのですね、私はエイトさんの追っかけでも無ければエイトさんのこれでもありません。ですから姉御はやめてください」
「照れなくてもいいでげすよ!」
「照れではなく、事実です」
「わかってやすよ!」
「わかっていなさそうだから言ってるんです」
「大丈夫でげす! 姉御ならお似合いでげす!」
エイトさんが後ろを向いて必死に笑いを堪えているのが横目に見えた。こいつ……
「……わかりました。細かい事はもういいです。でも一つだけ『姉御』は止めてください」
「え? いやでも兄貴の姉御でげすから……」
「止めてください。止めてくれなければ今後ヤンガスさんの食事から肉を抜きます」
「え!? わ、わかりやしたでげす!」
ふっ。さすが食狙い。
「でもそしたら何て呼べばいいんでげす?」
「嬢ちゃんでもリツでも呼びやすいもので」
「うーん……兄貴の姉御を嬢ちゃん……いやでもリツとも……じゃあリツ嬢さんと呼ばせてもらうでげす」
……もういいよそれで。エイトさんも笑い堪えてないで早く武器屋に行きますよ。