ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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見方が変わった

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「駄目って言うかと思いました」

 

 船に駆け乗っていくゼシカさんの後ろ姿を眺めていると、隣に並んだエイトさんが呟いた。

 

「駄目と言っても彼女は一人で行ってしまいそうでしたから」

「でもゼシカが苦手じゃなかったんですか?」

 

 隣を見れば意外そうな顔。抜けている割に機微に敏いとはこれいかに。

 

「バレてましたか。苦手という程ではありませんけど、苛つかせてしまう事が多いタイプなので気をつけないと、とは思ってました」

「一緒に旅する事になって良かったんですか?」

 

 再度問うエイトさんに苦笑が出る。

 

「あの恰好で旅をするという発言からして危なそうじゃないですか。放っておけないですよ」

「それはまぁ……旅慣れているとは言えないかな」

「私達もですけどね」

「あはは、確かに人の事は言えないですね」

「ただ、旅に支障が出るような事になるなら説得してリーザスに帰ってもらいます」

 

 これは確定事項。状況にもよるが王が認めても帰ってもらうつもりだ。

 

「説得……」

 

 微妙な反応を示すエイトさん。そりゃそうだろう。あのタイプはそう簡単に説得に応じるようなタイプではない。正面からの説得では。

 

「エイトさんは良かったんですか?」

「兄弟が居ないのでよくわからないですけど、家族が居たら同じように思うのかなって……止める言葉も見つからなくて」

 

 真面目な青年だ。それに邪魔になるならないじゃなくて、ゼシカさんの意志を考えて同意するとはお人好しだろう。

 

「あと、ゼシカなら戦闘になっても怯まずに魔法を撃てるだろうなって」

 

 おぅふ。

 

「痛いとこを。確かにその通りでしょうが」

「リツさんは出来れば陛下と姫様の傍にいてほしいんです。何かあってもリツさんならうまく切り抜けてくれると思ってますから」

 

 からかい混じりのエイトさんに、こちらもにやりと笑う。

 

「お~言ってくれますね。そう言われたら期待に応えたくなりますよ」

「でも無茶は駄目ですよ。ああ見えて陛下はかなり腕が立ちますから、最悪姫様だけでも助けてくれれば大丈夫です」

 

 をいをい。冗談が過ぎるぞ。

 

「その発言は拙いでしょ。心配せずとも無茶はしませんし、無茶になる前に二人を連れて離脱しますから」

「頼りにしてます」

 

 素直にお願いしてくれたエイトさんに、私は居住まいを正し胸に手を当てた。

 

「頼られましょう」

 

 ついでに「その代り」と続ける。

 

「ドルマゲスについては、頼りにしてますよ」

 

 エイトさんは束の間考えるように上を向いて、何を思ったのか私と全く同じポーズを取った。

 

「頼られましょう」

 

 口調まで真似てきたエイトさんに思わず吹き出せば、エイトさんもつられるように笑っていた。

 

「おーい、兄貴~早く乗るでがすよ~」

「もー早く来なさいよ! あなた達だけよ!」

 

 船の上から呼ばれ、私とエイトさんは笑いをひっこめて船に乗った。

 甲板に上がると、待ってましたとばかりにゼシカさんに腕を掴まれた。『大丈夫?』という顔のエイトさんに平気平気と手を振っておく。

 

「あのね、リツにいろいろ聞きたい事があるの」

「何でしょう?」

 

 引っ張られて積んである木枠に腰かけさせられる。いいんだろうか、これに座って。船員は全く気にしてないようなのでまぁいいか。

 

「メラとヒャドしか使えないって本当なの?」

「あー……嘘です」

 

 一瞬黙っていようかとも思ったが、この先バレたら余計にややこしくなると思って止めた。

 

「やっぱり! 何で嘘をついたのよ」

 

 口を尖らせるゼシカさんに弱って頭を掻く。

 

「戦闘で使った事が無いというのは事実ですよ。使いこなせていないものを使えるというのも不安じゃないですか」

「でも使えるんでしょ? 何が使えるの?」

「ええと、バギとギラとイオですね。あ、あと一応メラミも成功しました」

「メラミ? 氷が得意じゃなかったの?」

「練度の話でしたらメラとヒャドは同じぐらいだと思います。逆にそれ以外は相当低いですね」

 

 全く遊んでないので。

 

「ねえ、あのヒャドってどうやってるの? ヒャドを見たことはあるけどあんなの見たこと無いわ」

「えーと、狙いに使用している領域をですね、温度の制御に置き換えて投擲してみました。最低限手元で暴発しないように気を付けましたがボールを投げるような代物なので戦闘で敵に当てるというような事はまず出来ないと思います」

 

 野球選手なみの投球技術があったら別だろうが。

 

「それって構築陣を変えてるって事? そんな事が出来るの?」

「一般的に構築陣は固定されているという認識の方が多いみたいですけど、師匠曰く昔はもっと生活に使えるよう個人によって調整されていたそうです」

 

 そう言うと、ゼシカさんの目が輝いた。実にわかりやすい。

 

「へえー。じゃあ私にも出来るかしら」

「出来ると思いますよ。あ、でも構築陣を変える時は気をつけてください。下手なところをいじると自爆します」

「ええ? そうなの? 難しいのね……ねぇ、どこを変えたらいいのか教えてくれない?」

「構いませんが、私よりゼシカさんが持っている魔導書の方が正確じゃないですか?」

 

 私が持っているのはアミダさんからの貰い物で、かなり擦り切れているし構築陣のどの部分がどういう意味を持っているのかという所までは書かれていない。竈に普通のメラをぶつけて怒られた時に大きさを調整できる事を教えて貰って、そこから遊び始めただけの知識だ。名士の家であるゼシカさんの方がちゃんとした魔導書を持っているだろう。

 

「何言ってるのよ、構築陣の意味なんてどこにも書いて無いわよ」

「……そうなんですか?」

「そうよ」

 

 そうなのか。それなら納得。教科書がそれなら構築陣が固定のものだと認識されるのも無理は無い。アミダさんはよく知ってたものだ。

 

「ゼシカさんはメラを使われるんですよね」

「そうよ」

「ではメラの構築陣からにしましょう」

 

 よく使っているものの方がイメージしやすいだろうと、懐から手帳を取り出してペラペラと捲りゼシカさんに見せる。

 

「これ自分で書いたの?」

「はは……ちょっと汚いのは許してください」

「わかるから大丈夫よ」

 

 無難なフォローありがとう。お世辞を言わない素直なあたりが彼女らしい。

 

「ここが規模、大きさで、ここが熱量、ここが照準、こっちが効果の表出形態を決定している場所です。規模はこんな感じで……」

 

 ぺらぺらと捲って規模について纏めたページを出す。

 

「大きくなればなるほど複雑化します」

「これは? この並びからして小さくなる方じゃないの? 難しくなってるみたいだけど」

「小さくする方も難しくなりますね。一番簡素なのが一般的なメラです」

「へぇ」

「で、これが熱量の場合です。こちらも一緒ですね。高温になればなるほど複雑化しますし、温度を下げれば下げる程複雑化します」

「下げる? メラで?」

「面白いんですよね、メラとヒャドって構築陣が似ていると思いませんか?」

「……もしかして熱量の部分だけが違うの?」

「それと、表出形態の決定部分ですね。規模や大きさ、照準と最大容量は一緒です」

「容量?」

「この外縁です。構築陣自体の大きさを決定している部分ですが、これが大きければ大きい程描き込める量が増えるので自然と威力が増します。メラならメラミとかそういう感じですね。使う魔力も増えますけど」

 

 個人的にはメラの容量でいじくるのが一番コスパがいいのではないかと考えている。まだ試している段階だが、描く線の太さも調整してコストを抑えられる気配がある。

 

「ふぅん……これ、ちょっと見てもいい?」

「どうぞ」

 

 ゼシカさんは真剣な顔でペラペラと手帳をめくりはじめた。

 私は説明する必要が無くなったので暇になり、こっくりこっくりと舟を漕ぐ。天気がいいので眠くて仕方が無い。半分起きて半分寝ているような曖昧な中で、誰かが背中合わせに座っているのを感じた。もたれ掛ってしまっているので悪いなぁと思いながら、だけど向こうも私にもたれ掛っているのでお互い様だと言い訳をする。それにしてもあったかい。

 

「ねぇ、ねぇったら」

「…ふぁい、なんでしょう」

 

 肩を揺さぶられて目を擦り何かと横を見る。

 

「これ何が書かれてるの?」

 

 何々? と手帳に顔を寄せて見る。

 

 AM09:00 N案件打ち合わせ レジュメ

 

「あぁ、それ私の地域の言葉です。気にしないでください。魔法の事は書いてないですから」

「そうなんだ」

「………」

 

 あれ?

 

「…………」

「どうしたの?」

 

 後ろを振り返っていた私にゼシカさんが手を止めて聞いたが……あれ?

 

「あの、誰か後ろに居ませんでした?」

「いないわよ?」

「ずっと?」

「そんな狭いところにいるわけないじゃない」

「……それもそうですね」

 

 後ろは船室の壁面で、私が座っている木枠は然程大きくない。背中合わせに座るとすると体育座りでそうとう無理しないと無理だ。寝ぼけたか?

 

「リツさん」

 

 呼ばれて顔を戻すとエイトさんとヤンガスさんが居た。

 

「陛下を見てませんか?」

「陛下? 見てないです。姫様のところでは?」

「それが居なかったんですよね……」

「探してきましょうか?」

 

 エイトさんは首を横に振った。

 

「騒ぎになってないから大丈夫だと思います」

「姫様は?」

「中で休まれています」

 

 んー。ゼシカさんは手帳があればそっちに集中しているだろうから、私は姫様のところに居ようか。

 

「そういえば聞きたかったんだけどさ、二人はいったいどういう関係なの?」

 

 ゼシカさんの視線はエイトさんとヤンガスさんを行ったり来たりしている。

 

「アッシと兄貴でげすか?」

「そうそう。どう考えたって兄貴は逆に思えるんだけど」

 

 だよなぁ。私もそう思うよ。

 

「よくぞ聞いてくれたでげす! 不肖ヤンガス、エイトの兄貴の旅のお供をしてるのにゃあ聞くも涙語るも涙の壮大な物語があるでげすよ」

 

 どんと胸を叩いて前に出るヤンガスさん。そんな壮大な物語、あっただろうか? エイトさんも戸惑い気味の顏だ。

 

「へ…へえ……? じゃあその辺りから適当に教えてくれる?」

「いいともでげすよ」

 

 こっちも引き気味のゼシカさんに、ヤンガスさんは大きく頷いて語り始めた。

 

「そう……あの日はたしか夏の盛り……遠くでセミが鳴いていたでげすよ。それまでのしがない山賊暮らしに嫌気が差したアッシは足を洗おうと住み慣れた町を捨てたでげす。

 ところがこの風体のせいかどこに行っても山賊と恐れられ人間らしい扱いをされなかったでげすよ」

 

 ……。

 

「やがてカネも底を尽き空腹にもたえかねたアッシは結局山賊に戻る事を決めたでがす。エイトの兄貴に出会ったのはちょうどそんな頃でがしたね……」

 

 遠い目をして橋での出会いを語るヤンガスさんは、すごく楽しそうだった。

 これは――反省、だな。警戒自体は仕方なかった。素性の知れない者を簡単に信用するわけにはいかない。だが、一緒に居てみて悪い人ではないと言ったエイトさんの言葉にある程度の同意を示す事は出来た。それでも何か裏があるんじゃないかと警戒を緩めなかったが……。

 

「……ふーん。そんな事があったのね。で、それのどこが聞くも涙語るも涙の壮大な物語なの?」

「い……いや! 話はまだ終わりじゃないでげすよ! ここからが重要でげす。それからもアッシは真人間としてのいろんなことを兄貴に教わったでげすよ」

「……あー、もういいわ。続きはまた今度お願いするわ。リツ、これ船が港に着くまで借りてていい?」

「はい、いいですよ」

「ありがと」

 

 ゼシカさんはさらりと行ってしまった。

 

「やっぱりアッシと兄貴の兄弟仁義はしょせん男同士にしか理解できない話でがしたかね。まあいいでがすよ」

 

 気にした様子もなくヤンガスさんは肩を竦める。

 うーん……どうしよう。今さら何を言ったらいいのかわからないし、一応警戒を表に出していたわけでもないから謝罪するのもおかしな話だ。

 

「ヤンガスさん」

「なんでがすか?」

「これからもよろしくお願いします」

「きゅ、急になんでがすか!?」

 

 頭を下げたらヤンガスさんはおろおろしだした。

 

「私が居ると魔物が………なので、エイトさんをこれからもよろしくお願いします」

「も、もちろんでがすよ!」

 

 横で驚いたような顔をしているエイトさんには苦笑い。いやほんと、疑いっぱなしでごめんなさい。

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