ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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置いていかれた

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「テアーが安定すればその力を使う事も出来るでしょう。そうなればきっと貴女の道も開ける筈です」

 

 道が開けるのは結構だが、全く質問に答えてくれないイシュマウリさんにどうしたものかと思案。

 試しに沈黙でもって問いかけを表現してみたが、微笑むばかりのイシュマウリさんを見れば通じていないのは明白だ。

 

「先程の現象は――」

「共鳴出来るのはテアーだけではありません。このように」

 

 ぽろんとハープを奏でると辺りから淡い光が零れ出し、白い柱が立ち上がった。音に導かれ姿を見せたそれは、まさしく神殿という表現が合う荘厳な建造物――の、幻となった。

 実に幻想的な光景なのだが、セリフを遮られた方が問題で意識はあんまり向かない。さっきまで無意味に見つめ合う間があった癖に何故セリフを被せてくるのだ。エルフって人の話を聞かないタイプだっただろうかと思い返してみるが、所詮ゲーム内の彼らはプログラム。一定の言動しか取らないので話を聞かないタイプかどうか判別出来るわけもない。

 

「これはこの場が覚えているかつての姿。同じように貴女も現在に共鳴する事が出来ます」

「あの、まずは『テアー』が何なのかを教えていただけないでしょうか」

「テアーは……テアーだとしか言えないのですが……」

 

 『先生、判りません』と、シュピっと手を上げて聞いたらイシュマウリさんは言葉を探すように言いよどんだ。良かった。意思疎通が出来ないわけではないようだ。

 

「どう言ったら良いのでしょうか………」

「エルフの方ですか?」

「エルフ? いいえ、とんでもない」

 

 慌てたようにイシュマウリさんは否定した。

 なるほど、この反応では人でもないだろう。となれば……うーん。ドラクエがベースであるならば、あれだろうか。全くといっていいほど耳にしないが。

 

「精霊でしょうか?」

 

 イシュマウリさんはハッとしたような顔で私を見た。その驚きにはどうして知っているのだという疑問と、それを知っていても不思議ではないかもしれないという納得の相反するものが混ざり合っており、実に微妙なものとなっていた。

 

「ルビス……様、の事だったり?」

 

 呼び捨てはまずいかと思って尊称をつけて聞いてみると、イシュマウリさんは我に返ったようにゆるりと首を横に振った。

 

「いえ……そのようなお名前ではなかったと。貴女は他のテアーをご存知なのですか?」

「とんでもない」

 

 慌ててこちらも手を振る。

 

「お名前を耳にした事があるだけです。面識なんてないですから」

「そうでしたか……ですが、テアーの欠片を宿す貴女ならば出会っていたとしても不思議ではないかもしれませんね」

「その『欠片』というのは?」

 

 生憎と、それらしきものは何も持っていない。

 袖とかポケットとかあさっていたら笑われた。

 

「形あるものではありません。貴女の魂を依代としたテアーの一部の事ですよ」

「たましい……?」

 

 何やら怪談めいた話になってきた。止めてくれないだろうか? その手の話は得意ではないのだが。

 

「何をお考えになり数多の欠片となられたのかまでは私にも……まさか異界に渡られているとは思いませんでした」

「ええと……その、依代となる事で私の日常生活に影響は無いのでしょうか?」

 

 憑かれてて平気なのか!? と、直球で尋ねたいのを堪えて尋ねる。

 

「さあ、私も初めてお目にかかりますので」

 

 ひくりと口元が引き攣った。

 

「おや……名残惜しいですがそろそろ月の光りが陰る時ですね。またお会いしましょう」

「は? あ――」

 

 消えた。呼び止めようとしたら、イシュマウリさんはすぅっと消えた。

 

「……に…逃げられた」

 

 無意味に前に出してしまった手を頭にやり、明るんできた地平線に目を眇める。日の姿はまだ無い。それでも空は確かに夜の帳を上げつつあり、漆黒から紺へと色を変えている。

 空へ向けていた視線を地平へ戻し、周りをぐるりと見回してさらに十数秒。現実を見てがっくりと膝をついた。

 まさかこの歳になって『知らない人について行っては駄目』という小学生レベルの注意事項に引っかかるとは思わなかった。

 遠目からでも判る。この場所は素晴らしく高い。山の稜線が下に見えるのだ。それはもう高いだろう。

 頭痛を感じつつよいせと立ち上がり、とぼとぼと端まで歩いてみるが、やはり高い。ついでに降りる道が見当たらない。まさかと思いながら端を回ってみたが、どこにも降りる道が無かった。まるで断崖絶壁の頂上にドンと遺跡をのっけたような感じだ。

 

「…………おー…ほっほ……」

 

 よしんば降りる道が見つかっても、どの辺に居るのか判らないので迷子再びだ。迷子の迷子とか誰得なのだろうか。思わず変な笑いが漏れた。

 取りあえずエルフからは距離をとろう。早々会う事も無いかもしれないが、またこんな風にどことも知れないところに放置されてはたまったものではない。

 

「……キメラの翼は持ってないんだよなぁ」

 

 ポケットやら懐やらを漁るが、記憶の通りキメラの翼は無かった。寝間着にしている簡素な服に外套をひっかけて出ただけなのでそれも仕方がない。従って必然的にルーラしかないのだが……未だに自分でルーラを唱えるのには抵抗があったりする。

 小一時間程うだうだ悩み、幾度も深呼吸をして気持ちを整える。

 

「ルーラっ!」

 

 最初はふわりと、けれど一瞬の後にぐんっと引っ張られるように空へと舞いあがった。

 強制移動させられる時の浮遊感とかは慣れて来たが、すごいスピードで飛ばされるのは怖い。安全装置無しのジェットコースターのようで、もういっそ目を閉じていたいが到着した時の着地にしくじるのも怖いので閉じる事も出来ない。

 それにしても結構飛んでいるので随分と離れたところに居たようだ。と、冷静に分析する事で心頭を滅却すれば火もまた涼しを体現しようとしたものの、アスカンタの街の前に降り立った時には足がガクガクしていて暫くまともに歩けなかった。世の中、精神論でどうにかなるならもっといろいろどうにかなっているだろう。当然の帰結だなと自嘲しつつよろよろと宿へと戻った。

 部屋に入り椅子に腰かけると、どっと疲れが押し寄せてきた。

 

「えらい目にあった……」

 

 どてーと机に突っ伏して、ぼけーっとする。

 夜中に目が覚めて、それからわずか数時間の事なのに疲労困憊だ。

 

「……『テアー』が表に出ると、私は動けない」

 

 ぼんやりしたまま知らず呟いていた。

 今まで二度、身体が動かなくなるという事があった。けれどいずれも『テアー』なるものが『表に出た』という感覚は無かった。私が気付かないだけで『テアー』なるものは表に出ていたのだろうか。

 あの時、私の口が勝手に動いて言葉を発した時、嫌な感じはしなかった。違和感もそんなに無い。不思議だなとは思うがその現象に対して危機感というものをまるで抱いていなかった。

 

「……鈍いのか?」

 

 鈍感というのはあるかもしれない。

 マイペースだと評された事もあるので、察しが悪いだけという可能性もある。

 

「まぁいっか。考えても判るわけないんだし」

 

 段々と日が昇り朝日が差し込んできた。朝日に目を細め、いい加減動くかと思って立ち上がろうとしたら、ずるりと姿勢が崩れて床に転がった。

 ごん、がん、と腰やら肩やら打ちつけてしこたま痛い。伸びていた腕が丁度クッションになって頭はぶつけなかったが、それでも十分痛い。

 

「……ホイミ」

 

 またしても動かない身体に溜息を堪え、とりあえず痛いのでホイミを唱えておく。骨にヒビでも入っていたら嫌だ。

 

「リツー、起きておるか? エイト達は……」

 

 ノックも無しに入ってきた王の言葉が止まった。

 寝っころがったまま目だけで王を見上げる私と、背伸びしてドアを開けたまま固まっている王。

 沈黙を破ったのは王だった。

 

「……何をしておるんじゃ?」

「寝苦しくて転がってたら床に転がり落ちてました」

「………エイト達は戻ったか?」

「部屋に居なければまだかと」

「…………………起きぬのか?」

「もう少し床の冷たさを味わっていたく」

「………………………そうか」

 

 王は静かにドアを閉めていった。

 見てはいけないモノを見てしまったという反応に涙。ましな言い訳を出せなかったので自業自得だが、変な人間だと確実に思われただろう。今後の旅路が不安になる。宿で床を勧められるようになったらどうしよう。

 それは嫌だなぁと思いながら目を閉じる。

 どうせ動けないのだから寝てしまえと思って寝たのだが、帰ってきたゼシカさんに見つかってしこたま怒られた。ちゃんとベッドで寝なさいと。その頃には身体が動くようになっていたので正座して聞くしか手が無かった。

 

「お帰りなさい」

「遅くなりました」

 

 ゼシカさんの説教から解放されて表に出てみると、馬車の用意をしているエイトさんを見つけた。

 アスカンタの王がどうなったのか、ゼシカさんには話を逸らすなと怒られそうで聞けなかったのでエイトさんに聞いてみる。

 

「どうでした? 王様は何とかなりました?」

「すごく不思議な事がありましたけど、なんとか王様の気持ちを前に向ける事が出来ました」

「お城の人も一安心?」

「です。実はお礼にと食事を振る舞われていて、それで遅くなったんです。僕らだけで申し訳ないんですけど……」

「功労者はエイトさん達ですから気にする必要はありませんけど……」

 

 王なら「ずるい」とか言うかもしれない。そう懸念した私に、エイトさんは乾いた笑みを浮かべた。

 

「陛下は拗ねちゃいました」

「ははは……まぁ予想通りの反応ですね」

「ですよねぇ……わかってはいたんですけど……」

 

 ヤンガスさんあたりが突っ走ったか。ククールさんもその場のノリで便乗したか。流されるエイトさんの姿しか想像出来なかった。

 

「お疲れ様です。まぁ適当に話を逸らしますから」

「お願いします……」

 

 背中が煤けて見えるのは目の錯覚ではないだろう。この歳で気苦労が多いと言うのも憐れだ。

 

「アスカンタの次はどこに向かいます?」

「南にパルミドという街があるそうです。そこに情報を扱う人が居るってヤンガスが言っているので、そこでドルマゲスの情報が聞けないか確認しようという事になりました」

「パルミドですか?」

 

 地図で確認すると距離がある。ついでに道も整備されていないようだ。

 

「………ちょっと思ったんですけど、ヤンガスさんにキメラの翼を使ってもらうっていうのはどうでしょう?」

 

 そうすればあっという間にパルミドだ。

 

「難しいと思います。キメラの翼は三ヶ月以上離れていた場所には飛び辛いですから」

「そうなんですか?」

「はい。だから他国へと使者を送る時はどうしても直接向かうという事になるみたいです」

 

 へぇ。それは知らなかった。

 行商人がキメラの翼を使わないのには関税とかの問題があるからだと思っていたが、物理的に支障があるのか。

 そういう事ならば地道に行くしかないだろうと納得して準備を手伝い、アスカンタを出発する。

 アスカンタから南方へと向かう道は整備されておらず、太陽の位置を目安に方角を適宜確認しながらの道となった。

 

「不思議な事があったって言われてましたけど、具体的にはどんな事があったんです?」

 

 そういえば変な事言ってたなと思って聞いてみると、先を進んでいたエイトさんは振り向いて答えてくれた。

 

「願い事が叶う丘があるって話を聞いたんです。

 何も手がかりが無かったからそこへ行ってみようという事になって、実際に行ってみたんですけど」

「あぁうん。驚いたわよね」

 

 エイトさんの視線を受けて続けたのはゼシカさん。

 

「昼は何の変哲もない場所だったのに、夜になったら月明かりで扉が出来たんだもの」

「扉?」

「元々何か建物があったんだと思うが、ほとんど壊れててな。それで残った窓枠が月明かりで影を作って、その影が壁に伸びたら光りだしたんだよ」

 

 姫様の向こう側から話に加わるククールさん。

 実にファンタジーな内容だが、影が扉になったという事だろうか? うーん。どうにも想像し難い。

 

「エイトが壁を押したら影の線にそって動いたの」

「真っ白で何があるのか見えなかったでがすが、兄貴が入っていったんであっし達もついていったんでげす」

「そうしたらいくつも月が浮かんでいる不思議な空間に出て、そこでイシュマウリっていう人に会ったの。彼が城に残った王妃の記憶を王に見せて、それで立ち直ったのよ」

 

 ……今、なんと?

 

「イシュマウリ、さん。ですか?」

「そう、不思議な人だったわ。いつの間にか消えちゃってたんだけど」

 

 そうか。消えたのか。そっちでも。

 

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