ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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浸食されていた

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 船体に近づき手で触れていたククールさんは、私が近づいたのに気付いて手を降ろした。

 

「どうした?」

「いえ、ちょっとした実験を。ルーラでこの船を海まで運べないかと思いまして」

「これを?」

 

 ククールさんは再度船を見上げ、肩を竦めた。

 

「常人なら鼻で笑うところだが、リツだからな。本気でやってしまいそうだ」

 

 場所を譲る様に下がるククールさんに目礼し、船体に触れてみる。

 木造船の船体は冷たく、木の割れを防ぐためか何かが塗られており、つるりとした感触だ。

 

「リツさん、ルーラでいけそうですか?」

 

 後ろから掛かったエイトさんの声に、私は正直微妙だと首を傾げる。

 

「一度試してみていいですか?」

「大丈夫ですか?」

「一応、行先は港にしておきます。私だけ飛んでしまっても、これだけ異様なものならルーラの行先として指定可能だと思いますからすぐに戻ります」

「何でも良い! やってみるのだリツ!」

「判りました」

 

 王の指示が入ったので船体に触れたままルーラを唱える。一瞬にしてルーラの構築陣が形成され私の身体がふわりと浮かぶが、残念ながら私のみが浮かんだようだ。

 こりゃ駄目だなと思って魔力の供給を辿ってルーラの構築陣を消す。

 すとん、と着地し肩を落とす。いけるかなと思っていたが、現実はそんなに甘くないらしい。

 

「どうも駄目みたいです。対象の選定に外れたみたいです」

 

 触れている事が対象選定に重要な事だと考えていたが、そうでもないらしい。もしくは、足りない要素があるか、そもそも土台無理な話だったか。

 

「そうですか……だとすると、やっぱりトロデーンに戻って調べた方がいいですね」

「そうじゃな。城には古い記録も保管しておる。そこでならこの船の事も何か判るであろう!」

 

 エイトさんと王はさして気落ちした様子もない。こちらはちょっと気落ちしていただけに有り難い反応だ。

 それに、確かにこれだけものがあれば為政の下には何かしらの情報が残されているかもしれない。

 

「いやいやいや」

「ね、ねえちょっといい?」

 

 さくさくと話を纏めて次はトロデーンに飛ぶぞというところで、何故か待ったを掛けてくるゼシカさんとククールさん。

 何だ? と、私とエイトさんが視線を向けると戸惑った二人が顔を見合わせて、諦めたように溜息をついた。

 

「まぁ、いいわ。後で聞くから」

「そうだな。後でじっくり聞くわ」

 

 何だかよく判らないが、ひとまず後程で良いという事らしい。首を傾げつつそれぞれ手を繋いでもらいルーラを唱えた。

 

「……リツ?」

 

 ゼシカさんの問いに私は『あれ?』と思いつつ、エイトさんを見た。

 

「すみません。エイトさん、ルーラをお願いしていいですか?」

「え? あ、はい」

 

 今度はエイトさんがルーラを唱え、やっぱり誰一人として飛ぶことは無かった。

 

「あれ?」

 

 エイトさんも戸惑いの声をあげて私を見た。他の面々の視線も感じる。王は「早くせよ」とわーわー言っているが、ちょっと待ってほしい。私も混乱気味だ。

 

「すみません。ちょっといいですか?」

 

 断りを入れて船から離れ、再度ルーラを唱える。と、私の身体は浮かび少しだけ移動して着地した。うん。間違いなくこの船を目標にルーラは出来る。

 ルーラ自体は問題なく発動するという事は、あとは行先の問題となるが……

 

「ねぇ、どうしたの?」

「飛ばないのか?」

「いや、飛ぼうとしたんだけど……何故か飛べないんだ」

「はあ?」

「どういう事だ?」

「僕にも何が何だか……リツさん、判ります?」

 

 エイトさんの振りに「うーん」と唸ってしまう。

 

「推測でしかないですけど、行先の指定に失敗している気がします」

 

 『どういう事だ?』という視線にあくまで推測でしかないですけど、と前置きをしておく。

 

「ルーラの構築陣は、どこへ飛ぶにしても同じなんです。つまり、行先事に構築陣が書き換えられているわけではないという事になります。

 行先は私達が思い浮かべている場所が指定されていますから、頭の中の情報を読み取って、この世界と照合を掛けているのではないか、と」

 

 ちょっと壮大な話になってしまうが、他に推論が無いのだ。あるならぜひとも聞きたい。自分でもどうかと思う推論だ。

 

「………で、どういう事なんじゃ?」

 

 黙り込んだ面々の中、理解出来なかったらしい王が口を開いた。その問いに答えたのは私ではなくゼシカさんだった。

 

「つまり、あなたたちが思い浮かべたトロデーンと、今のトロデーンの姿がずれているって事?」

 

 ゼシカさんは私の推論を笑う事なく真面目に取り合ってくれるらしい。

 

「そう思うって事は、そのずれを修正する事は出来るのか?」

 

 ククールさんも取り合ってくれるらしい。何というか、詐欺にひっかからないか心配になるが笑われたいわけではないので、こちらも真面目に考える。

 

「少し前までは飛べたので、その時点で私のイメージはぎりぎり許容範囲だったのだと思います。なので、イメージの修正も多少で良いかと……やってみますね」

 

 再度手を繋ぐよう促し、茨に包まれてしまったトロデーンをイメージ。そして唱えた。

 

「ルーラ」

 

 今度は全員の身体が浮かび上がった。高速で流れる景色を横目に、私は暗澹たる心地になった。

 こうして成功しているという事は、推論が当たっているか、遠からずという事だ。つまり、茨は浸食しているのだろう。あの穏やかだったトロデーンを。

 ゆっくりとルーラで降り立った先にあるのは、茨に覆われた城下町の門。閉ざされた扉をさらに固く戒めるその姿に腹立たしいものを感じながら、私は手のひらを向けた。

 

「メラ」

 

 放った火球は小さく扉を焦がしたものの、狙った通り茨を焼き払った。

 驚いた顔で私を見る面々の間をすり抜け、扉に手をかけ力を込めて開ける。ミシリと小さな抵抗の声を上げた扉だったが、隣に立ったエイトさんが一緒に力を込めると難なく道を開けた。

 広がる光景に、後ろで息を呑む音がした。

 そこここでのたくる茨の太い胴。道を家屋を城壁を破壊し我が物顔で居座り、驚いて飛び出してきた人々を戒めていたかつての姿から、植物人間のような人ならざる姿へと変貌させていた。怯えた顔も恐怖に染まった顔も、あの時のままに。

 『はぁ』と一度息を吐き気持ちを整え、ともすればアミダさんの家がある方へと視線が行きそうになるのを抑える。

 

「美しかったわが城のなんと荒れ果ててしまったことか。これも全てあのドルマゲスによる呪いのせいじゃ。わしらの旅はあの日わが城の秘宝が奪われたことから始まったのじゃったな……」

 

 静かな王の声に、耳の裏に皆の声が甦り思わず奥歯を噛む。

 

「あの時……。結界の中にいたわしらや魔法を使ったリツはともかく、どうしてお前が無事だったのかのう?」

「それは……僕にも」

「……ふむ。わからんか。まあ運が良かったのじゃろうな。お前は昔からそうじゃったし……」

「兄貴ぃ~! そんな所でおっさんと突っ立って何してんでさあ? 城の中であの船の事調べんでげしょう? さっさと行くでがすよ~!」

 

 沈みそうになる意識をヤンガスさんの声が強制的に浮上させるように、王もエイトさんも苦笑して顔を前に向けた。

 

「……そうじゃったな。たしか城の図書室はあの辺にあったはずじゃ」

 

 歩きはじめた二人の後ろ、姫様の様子を確認するがこちらもしっかりとした顔で前を、故郷の惨状を見詰めている。心配は無用のようだ。

 歩き出した姫様の影にいたククールさんは、何を思ったのか目を閉じ片手で十字を切っていた。

 

「別に祈ったからってなんかこいつらが助かる訳でもねえよなあ。オレの気休めさ」

 

 私の視線に気づくと苦笑いを浮かべ、視線を逸らすように足早にエイトさん達の方へと向かった。まだ足が止まっていたゼシカさんの背をそっと押すと我に返ったような顔をして彼女も歩きはじめる。

 

「私達が追ってた敵ってこんなに……こんな、強い奴なの? ドルマゲスは……城を滅ぼすなんて……」

 

 ゼシカさんは譫言のように小さな声で呟く。たぶん、耳で聞くのと実際に目で見るのとでは大きく違ったのだろう。私達の言葉を信用していなかったわけでは無いだろうが、自分の想像以上の光景に動揺しているのだろう。

 

「……船…手に入っても、ほんとに私達……」

 

 弱気とも取れる言葉を吐こうとした所でゼシカさんは自ら首を振って切った。

 

「ごめん、なんでもない。もう言わないわ。やるって決めたんだもの。なら、前に進んでいくだけの事よね」

 

 力強く自らに言い聞かせるように微笑むゼシカさん。若さ故の無謀とも見えるが、私はそれを無謀にしたくない。ゼシカさんだけじゃない。ククールさんも、エイトさんもヤンガスさんも、姫様も、王も、そしてこの国の人も。誰も不幸になどなって欲しくない。

 だから私は頷いた。

 

「はい」

 

 出来る事をする。それだけの事だ。城に本があるのならこの際知識を集められるだけ集めるのもいい。

 

「ゼシカ!」

 

 考えながら足を進めていると、突如先を歩いていたエイトさんが声を挙げた。

 普段大声を出さないエイトさんに驚いて前を見れば、茨の蔦が絡まり竜のような姿をした物体が数体うねり、エイトさん達に襲いかかっていた。

 

「魔物!? どうして? リツがいるのに」

「疑問は後で! 今は倒すよ! リツさんは陛下とミーティア姫をお願い!」

 

 ゼシカさんが駆け出すと同時にエイトさんが王をひっつかんでこっちに投げつけてきた。エイトさん……あなた大分アグレッシブになられましたね。と、感心している場合ではない。慌てて王をキャッチするが支えきれるはずもなく尻もちをついた。

 

「ったた」

「エイト! 何をするんじゃ!」

 

 すぐに王は起き上がってぴょんぴょんと跳ねながらエイトさんに怒りをぶつけるが、エイトさんは二体の蔦ドラゴンに絡まれそうになっていてそれどころではない。ククールさんもヤンガスさんも接近されて伸ばされる蔦を払うので手一杯。遠距離からゼシカさんがメラミやらヒャドやら飛ばしているが、フレンドリーファイヤを恐れてなかなか当てられていない。

 姫様や私達の周りには幸い他の魔物は近づいていない様子だが、油断は出来ない。

 すぐに地面に手を付き立ち上がる。

 

「大丈夫じゃよ、今近づいている魔物はあれらだけじゃ」

 

 耳元でした声に驚いて見れば、肩から腕に何かが降りて――って、トーポさんか。

 何時の間にエイトさんのポケットからこちらへ来たのか。そんな疑問は脇に置いておく。

 

「目前のあれらに注意すればいいという事ですね?」

 

 こちらも小声で尋ねれば、トーポさんは私の肩に昇った。

 

「そうじゃ。だが気を付けるのじゃよ。どうもここの魔物はおかしい」

「了解です」

 

 スクルトを急いで重ねがけ。続けてピオリム。と、そこまでかけたところで茨のドラゴンはエイトさんに切り裂かれて絶命した。

 荒い息をつくエイトさんやヤンガスさん、ククールさん。とりあえずトヘロスとベホマラーを唱え場所を移動する事を提案する。

 

「ここだと襲われた時に守り難いです。とりあえず城のどこかに」

「はい、助かりました。まさか襲われると思ってなくて」

 

 エイトさんは息を整え頷いた。

 

「とりあえず図書室へ行きましょう。外から直接入れますから」

 

 他の面々も異論は無く、足早に図書室だと言う所へと向かった。

 城の左端に増設されたような形となっている所、そこが図書室らしくエイトさんは扉に手をかけた。が、開かない。

 

「……鍵か」

 

 ポツリと呟き、エイトさんはやおら背中の剣に手を掛けた。

 

「あ、ちょっと待ってください。アバカム」

 

 強行突破しようとするエイトさんを慌てて止めて鍵開けの魔法を使い扉を開ける。

 

「へぇ……アバカムは鍵を開ける呪文なのか」

 

 横合いからククールさんが関心したような声で呟いた。私はアバカムの名前を覚えていたククールさんに驚きだ。一度しか言ってないのに。

 

「まだ覚えていたんですか」

「まぁな。知らない魔法とくれば誰だって気になるさ。だろ?」

 

 ククールさんに振られたゼシカさんは肩を竦めた。

 

「そうね。今はゆっくり聞くときじゃないから聞かないけどね」

「まぁ、時間が出来たらお話しします」

「リツさん、先に僕が見ます」

 

 扉を潜ろうとするとエイトさんに肩を掴まれ引き戻される。

 反対にエイトさんが扉をくぐり中の様子を見て、頷いた。

 

「大丈夫みたいです」

 

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