ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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腹がへった

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 久しぶりに顔を合わせると、それぞれ言葉は通じないもののやる気に満ちていることだけは伝わってきた。なので、それならまぁ一回ぐらいはいいかと思って次のランクであるランクFに登録した。

 結論から言うと、優勝した。

 あからさまに格上と思われる個体の相手チームに、何故か勝った。今度はフレンドリーファイアはなかった。そして求められるままにランクEに登録した。

 

 ………優勝した。

 

 さすがに何かおかしいと周りが騒ぎ出した。

 私的には一番最初のランクGから変だったよと言いたい。まぁ私の言葉は右から左へと流されていたが。

 ロープやら鎖やら持った人達に取り囲まれたのには少し引いたが、モリーさんのとりなしもあって物騒な拘束具は魔封じの物品によるもののみに留まり、闘技場ではなく上の観客席へと隔離され、中断される事なくランクDを始めることになった。

 私が何かしているのでは? と、疑問を持つのもわかるので構わないのだが、やるなら疑念を抱いたランクGをもう一度しないのだろうか。エキサイトしているおっさんやらマダムやらの間に割って入る勇気はないので口を挟みはしないが、変なところで素直というかなんというか。

 それはそうと、私が拘束されたあたりから闘技場の三名が異様な気配を発しており、そちらが気になって仕方なかった。そして若干どころではなくチビイカの吐き出す炎の火力が上がって、ランクD優勝。

 チビイカよ、君は何かい? 仲間が囚われると力を増すヒーロー属性でもあるのかい? そしてジョーさん、あなたはタスキでもつけているのかい? 致命と思われる攻撃に対してなんで立っていられるの。

 周りは賭けのオッズがえらいことになってて悲鳴と勝鬨と涙と唾とで阿鼻叫喚。さすがにこの上のランクでは負けるだろうと思われ、でも勝って、いやいやもうさすがにこの上は。の、繰り返し。途中でモリーさんが私の拘束を取っ払ってくれたけど、もう誰もそれに気づいちゃいねぇ。

 とうとうランクAまで優勝して騒然となった。誰もランクAを突破出来なかったらしい。それを弱小としか思えないチームで打ち破ったのだから、周りはもうお手上げ諦めお笑いムード。要するに小細工でどうにかなるレベルではないので、実力なのだろうと認めてくれた上で祝福してくれたのだ。

 やれやれこれで終いかと肩の力が抜けて優勝商品の受け取りにカウンターへと向かう。

 いや。終いではないのかな?

 モリーさんが自分が負ける事があればとかなんとか言っていたわけだし……となると、あと一戦要求される可能性があるのか。もう十分戦ったので終わりにして欲しいのだが……というか、時間的にエイトさんの用事は穏便に済めば、そろそろあの場所に帰ってきているのではないかと思われる。ついでに言うと、お腹すいた。夜明けから何も食べていないのだ。もう昼はとうに過ぎている。

 空腹に耐えながら英雄のヤリという高価らしいものを受け取ると、後ろから拍手がした。振り向いてみれば非常に機嫌の良さそうなモリーさん。

 

「はっはっは。とうとうこの日を迎えてしまったな」

 

 モリーさんは腕を組むと静かに目を閉じた。

 

「お礼を言わせてくれ、ガール。思えばわしとガールの出会いはほんの偶然だったのに……ガールはわしの言葉を信じここまでの存在になってくれた。わしはそれが嬉しくてたまらんのだ。もうわしからガールにしてやれることは何もない。だが最後にこういうのはどうだ?」

 

 お礼を言われる事もしていないし、何かしてもらった記憶もないのだが……

 何だかしんみりとした事を言ったかと思ったら、突如グワッと目をかっぴらきこちらを指差す。

 

「ガール! このわしを倒し最強のモンスターチームオーナーとなれ!! 戦いのステージはもちろんここだっ!! ファイナルランク……ランクS!!

 ランクSの一回戦と二回戦はわしの知る限りの最強のふたりが相手となるよう手はずしておこう。そしてもちろん最終戦はこのわしが相手だ。

 さあガールよっ!!

 最強のチームでこのわしを圧倒し最強のオーナーである事を証明するのだっ!」

 

 もんのすごい盛り上がってるモリーさんを前にして、私はちらっと横にいるバニーさんへ視線を走らせた。そもそも、モリーさんと戦うことはある程度わかっていた事なので良いのだが、それとは別の問題があるのだ。腹減ったという重大な問題が。なので、バニーさんにこう問いかけてみる。

 

 ここで帰ったらダメですか?

 

 ダメです。

 

 バニーさんの目力。そして周囲で事の成り行きを見守っている野次馬の視線に負けた。

 私のテンションはだだ下がりなのだが、目の前の御仁は燃え上がってらっしゃる。さっきのセリフも昨日今日考えたものでは無さそうな気配だ。

 

「実際のところ、ランクSのメンバーを呼んでしまっているので一度は受けて欲しいのです」

 

 こそっとバニーさんに耳打ちされ、仕方ないかと諦め後ろのカウンターにとって返しランクSに登録した。

 その瞬間周囲から空気を震わせる程の狂気に満ちた雄叫びがあがり、早速賭けが開始された。胴元が揉みくちゃにされながらも必死に捌いているのを横目に、私はそそくさと下の闘技場へ移動した。

 階段を降りて控え室から闘技場への道に進むと三名が待っていたのか、スラリンに飛びつかれた。チビイカは私の足に巻きつき、ジョーさんは膝をついた。

 

「ご苦労様。なんかいろいろあったけど私は問題ないから。それより受けちゃったけどどうする? 嫌なら止めるよ?」

 

 むしろ止めようよという気持ちで伺ったのだが、チビイカは持っていた貝殻と言う名の、数多の対戦相手をぶっ飛ばし叩き潰した凶器をぶんぶこ振り回し、スラリンは無駄に動き回って俊敏さ? を、アピール。ジョーさんはいつのまにか保父さんポジをゲットしたのか、二人を見て微笑ましそうな気配を滲ませ立ち上がった。

 

「えーと、頑張って?」

 

 やる気一杯のようなので、とりあえず声援を送る。

 係りの人に促され闘技場の舞台へと出ると、頭上から雄叫びが聞こえてきた。上を見れば賭けに興じた人が血走った目をしているのが見えた。怖いので上は見ないようにしよう。

 対戦相手が姿を現すと、こちらも歓声が沸き起こった。恰幅のいい男性で、青と白のストライプが特徴的な服に、くすんだ赤のベスト。どこかで見たような出で立ちに誰だっけと首を捻る。

 

「さあさあ、やってまいりました!

 本日はランクSのバトルロードがこの格闘地にて繰り広げられます!

 場内騒然! 観客応援! オーナー同士は怪気炎!!」

 

 いや、毎回思うが怪気炎ではないよ。どこをどう見たら息巻いてるように見えるのか。

 

「第1バトル行って見ましょう!!

 赤コーナー! リツオーナー率いるラーミア!!

 青コーナー! トルネコオーナー率いるレイクナバから参上!! アイラブネネさんズ!!」

 

 ん?

 

「これは実力的にはほぼ互角かっ! それではバトル開始!

 レディー!? ゴォーッ!!」

 

 司会の男性が唾を飛ばしながら紹介した相手をまじまじと見てしまう。二次元の映像が三次元になったらこんな感じになるのかもしれない、というぐらいには似ている。そして何よりそのチームの名前。

 アイラブネネって、ネネさん、か?

 仮に目の前の、ちょっと疲れて老けたように見える男性があのトルネコだとすると、そのチーム名も納得の代物ではあるのだが。

 そうなると、この世界はドラクエ4の世界という事になるのか。いや、しかしドラクエ4にしては知らない魔物はいるし、世界地図も違う。国の名前も異なっているし……

 思い悩んでいる間に試合は進む。おどる宝石にでっかいミミック、あとふつうのミミックというお宝チームは実に彼らしい編成だと感じるが、我らがチームラーミアは私の感慨など御構い無しに蹂躙を開始していた。

 これまで撹乱役に徹していたスラリンと、最初から炎吐くマシーンと化しているチビイカによるダブル『しゃくねつのほのお』(らしきもの)。その直後の反撃をいなしチビイカを守るジョー。何気にその横で齧られぶっ飛ばされてるスラリンはひょっこり起きて、プルプルと震えると削れた身体が元どおりに。

 あれってもしかして『めいそう』なのでは……もしそうなら、最初の炎もまじで灼熱の炎かもしれない。でもってスラリンはレベル99という事に……

 いつの間にレベルアップを? ジョーもチビイカもレベルアップしてるとか??

 これまでのランクで格上相手に蹂躙戦しでかしたことを考えると、三名ともその可能性が非常に高い。のだが、モリーさんのところに預けられている魔物達の条件は皆一緒。彼らだけが急激なレベルアップを果たした理由がわからない。

 いろいろ疑問に思っている間にもこんがり焼けた箱と袋が出来上がり、審判の合図で試合終了。トルネコさんは目を丸くして、頭を下げて退場した。

 続く二戦目、舞台の反対側から姿を現したのは、やや赤みがかった鎧を纏った壮年の男性が率いるチーム。編成は首のない鎧にホイミスライム、そして最後はたぶんギガンテス。サイクロプスはランクAで見たので、ギガンテスだろう。ギガンテスなんて初めて見たが、まじで巨人の化け物だ。サイクロプスも相当なものだったが威圧感が違う。これを目の前にして、よくまぁ剣やら斧やら拳やらで突撃かましたなと、歴代の勇者たちに賞賛を送りたい。

 

「第1バトルの劇的な決着に場内まだどよめきが治りません!! モンスター・バトルロード、ランクS決戦!!

 引き続きどちらのチームも気力充分! 観客興奮!! 彼女の家まで十五分!!

 それでは第2バトル行って見ましょうっ!

 赤コーナー! リツオーナー率いるラーミア!!

 青コーナー! ライアンオーナー率いる王宮のモンスターたち! ホイミングレイス!!」

 

 ライアン…っすか。

 

「これは実力的にはほぼ互角かっ! それではバトル開始です! レディー!? ゴォーッ!!」

 

 ……本当にここドラクエ4なのか?

 考えても謎が深まるばかりだ。試合が終わったら何とか話が出来ないものだろうか。彼らから話しが聞ければはっきり出来るだろうが。でも何と話すか……

 開幕の炎はお決まりらしく、スラリンとチビイカによる灼熱の炎で、ホイミスライムがこんがり焼かれ……なかった。何あれ。ホイミスライムの耐久力じゃないぞ。

 文字通り周囲の空気を焼き尽くす勢いの業火に包まれてなお、ホイミスライムは健在だった。と思ったらチビイカに貝殻(鈍器)で殴打されて地に落ちた。ライアンさんの頬がピクついた。

 あのライアンなら、そりゃホイミスライムは大事な存在だろうが…………あれ、ホイミンではないよな? あの子って人間になったし。 じゃああのホイミスライムは新しく仲間にした?

 首なし鎧はジョーと切り結んでおり、持っていた盾が噛み付く分有利に動いていたが、背後に回ったチビイカの振りかぶった貝殻によって叩き潰された。また、ギガンテスの方はスラリンを叩き潰そうとするが、すばしっこくてモグラ叩きのように空振りし地面を叩き続けている。当たらなければどうという事はない、というのを体現しているが、ギガンテスの方も体力があるようで全く動きに疲れが見えない。そこへチビイカの炎がスラリンもろとも襲った。相変わらずスラリンに厳しいチビイカだ。

 スラリンは水分が蒸発したのか湯気を出していたが、プルプル震えるとあっという間に元どおり。チビイカと一緒になって怯んだギガンテスに炎を吐き出していた。

 やがて、ギガンテスの持っていたどでかい棍棒も黒炭と化し、大きな地響きを立ててその巨体は崩れ落ちた。

 これで二戦目も勝利だ。ホイミスライムだけでも早急に治療せねば後が怖いと思って、目眩を我慢して回復魔法をかけるとライアンさんが近づいてきた。

 

「よもやこの編成で負けるとは思わなかった。素晴らしいチームであるな」

「あ、ありがとうございます」

「良ければまた手合せして欲しい」

 

 手を差し出され軽く握ると、ゴツゴツした手のひらだった。鎧を纏うその姿は伊達ではない事がわかる。

 良かった。とりあえずホイミスライムをボコった事については怒ってないようだ。

 胸をなでおろしつつ後ろに下がると、司会の男性が進み出た。

 

「レディースエーンドジェントルメン!

 一体誰がこのようなステージを迎える日のことを想像したでしょう……。

 リツ様の規格外の強さがこの新たな戦いのステージを生み出しました」

 

 私が強いわけではない。非常識なのは目の前の子らだ。

 

「その名も……ラーンク…………………Sッ!!」

 

 たっぷり間を開けて迸るように叫ぶ司会に、頭上の観客がさらに盛り上がる。

 

「モリー様が世界中から屈指の猛者を集めて行われた、このランクSもここに最終決戦を迎えるに至りましたっ! では参りましょうっ!! モンスター・バトルロードの究極の究極!! これ以上のバトルは存在しませんっ!!」

 

 向かいからモリーさんが魔物を引き連れて現れる。

 はぐれメタルにベホマスライム。あと地獄の騎士かと思ったが何となく違う。骸骨っぽさがあんまりないし、ランクAでボーンファイターが出ていたので上位互換のヘル……ヘル……なんとかだと思われる。名前は忘れた。

 

「さあ来いガール! わしはバトルとなったら油断という言葉を知らん。本気で行くぞ!!」

 

 決めポーズで言ってくるモリーさん。

 返事しないとダメだろうか……ダメ?

 司会の男性が早く早くと手を振るので、眼前に並ぶ三名に視線をやれば、やる気を見せる彼らに苦笑が漏れる。

 

「私は戦術について詳しくありません。ですので、彼らを信じるだけです」

 

 私の言葉にモリーさんはどこか満足そうに、そして凄味のある笑みを浮かべた。

 と、同時に私の前に並ぶ三名の姿が大きくなったように見えた。瞬きをして見たが、多分気のせいだろう。変わらぬように見える。ちょっとばかり好戦的な様子ではあるが。

 

 

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