ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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スカウトした

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 改めて対戦相手を見るが……なんというか、はぐれメタルを見ると微妙な気持ちになる。必死こいてはぐりん仲間にしてパーティーに入れて、ラストダンジョン行ったら普通の敵にあっさりやられた記憶がこびりつき過ぎて、どうにも。お前、素早さマックスじゃねーのかよ! とコントローラーぶん投げそうになった。

 実際はあんなに早かったら攻撃当てるどころじゃない。

 

「最強のモンスターチームの称号は果たして誰の手に!? 答えはすぐそこだ!

 レディー!? ゴォーッ!!」

 

 と、思っていたのだが、何故かスラリンが開幕灼熱の炎を吐き出し相手チームを牽制した。一手譲られたのかと思ったが、モリーさんは目をかっぴらいてスラリンを凝視していたので違うらしい。

 スラリンの牽制をどう避けたのか見えないが、はぐれメタルは後方に下がってじっとしていたチビイカに体当たりーーしようとしてチビイカの貝殻に叩き潰された。ピチャッと銀色の液体が飛び散ってえらい事になっている。赤かったら完全に殺害現場だ。

 こちらからの攻撃が当たらない事を見越してカウンター狙いでもしていたのだろうか? メタルスライムが相手の時は普通に叩き潰しに行っていたが……相手の能力を見極めた? だとしたらチビイカ、恐ろしい子。

 ベホマスライムはジョーさんと切り結んでいるヘルなんとかに回復をかけていたのだが、はぐれメタルをヤったチビイカが背後から忍び寄り叩き潰した。

 ジョーさんは手数でおされているのか、鎧に幾筋もキズがつけられている。切り結ぶ速さは常人の視界では捉えることができず、私からは完全にヤムチャ視点。何となく拮抗しているようにも見えるが、相手に目立ったキズは無くジリジリとやられているようでもある。大丈夫だろうかとこのパーティーの中で比較的まとも枠である彼を心配していると、まともじゃない枠が揃って動いた。

 ほとばしる地獄もかくやの炎が切り結ぶ二つの影を飲み込み、ジョーさんは一旦後ろに下がった。

 炎が収まった後には、ほとんど変わらぬ姿のヘルなんとか。尚且つ、お返しとばかりに赤味がかった紫色の霧を吐き出した。

 反応が早かったのはスラリン。ジョーさんに体当たりしたところで霧に包まれポテリと地面に落ちた。そこに斬りかかるヘルなんとかだが、チビイカが滑り込むように貝殻(凶器)をぶん回して牽制。さらに遅ればせながらジョーさんが追撃をかける。

 スラリンは地面に転がったまま動かないので、マヒか眠りか状態異常に掛かっているのだろう。と、思っていたらチビイカがど突いてスラリンが動き出したので、眠りだったのだろう。必要な処置だったのかもしれないが、相変わらず酷い。

 スラリンとチビイカは一度大きく下がってじっと動きを止めた。力を溜めているのだろうか? 初戦でもチビイカが同じような動きをしていた。

 ギリギリ防戦で耐えていたジョーさんだったが、ついに片手が切り飛ばされた。しかし、痛覚など知らぬとばかりに残った手で剣を握り一歩も引かない。さまようよろいは中身が無いので実際ダメージが思った程では無いのかもしれないが、見ているこちらは心臓に悪い。ガツガツと鎧にキズが刻まれ、内、幾つかは裂ける手前の深さに見える。

 内心ハラハラしながら見ていると、チビイカとスラリンが同時に動いた。それに合わせジョーさんが無理矢理剣を打ち合わせ押し返して距離をとった。

 次の瞬間、闘技場を熱波が襲った。私のいる位置でも肌をチリチリと焼くような熱さで咄嗟にフバーハを使おうとしたら、それよりも早く柔らかい光に包まれた。光に包まれると熱が遮断されたように遠のく。見ればトーポさんが頷いていた。やってくれたのだろう。

 司会の男性やモリーさんは大丈夫なのかと視線を走らせるが炎が巻き起こっている状態でよくわからない。

 数秒か、数十秒か。被害を心配していた私には長く感じた。

 やがて、炎が収まったそこにはヘルなんとかが膝をついていた。あれだけの熱量を受けたにもかかわらず尚も動き始めた姿に目を見張るが、そこにジョーさんが駆けた。気づけば全ての武器を切り飛ばされ、ゆっくりと地面に倒れるところだった。

 

「勝負ありました!!」

 

 ハッとして見れば、司会の男性はモリーさんに庇われており、二人ともピンピンしている。頭上の観客も退避していたのかそろそろと顔を見せていた。

 

「只今のバトルの勝利チーム……すなわち、モンスター・バトルロードランクSの優勝チームは、リツオーナー率いるラーミアに決まりましたっ!!」

 

 高らかな宣言に震えるような歓声が沸き起こった。紙吹雪のようなものが舞い、ついでにゴミのようなものも舞った。目の前に落ちてきたそれを手に取るとどうやらモリーさんに賭けていたらしい。ような、じゃなくて、ゴミだ。「ちくしょー」とか聞こえてくるが、あんまり悔しがっている雰囲気はない。この試合そのものが見世物であったのだろう。

 

「いやあ……言葉を失うってのは、こういう時のことを言うんでしょうね」

 

 そう言ったのは、試合の受付から商品の授与まで担当している男性で、きっとこれまで多くチームを見てきたからなのだろう。感慨深そうにしている。

 

「ホントもう、何て言っていいやら……。とにかく……これが賞品だそうです。はい、どうぞ」

 

 手渡されたのはやたらと触り心地のいいローブだった。インパスで調べて見るとドラゴンローブとあった。焦った。終盤で手に入りそうな代物なのだが、もらっていいのだろうか。

 

「ガール……」

 

 高価なものを手にしてキョドッていると後ろから声をかけられた。

 振り向くと神妙な表情のモリーさんがいた。

 

「いや、今日からはこう呼ぼう。ガールはチャンピオンだ。

 わしはこの立場にありながら一日とてモンスターチームの研究を怠ったことなどない。どうすればもっとチームが強くなるのか、新しい技が出るのかそんな事ばかり飽きもせず考えている。だが、チャンピオンのような真の天才の前ではわしのような凡人の努力など虚しいものだな」

 

 モリーさんの言葉に、なんだかいたたまれなくなる。あの三名が規格外なだけで、私は傍観していたに過ぎない。

 

「ありがとうチャンピオン。チャンピオンはわしの夢を叶えてくれた。わしはずっと待っていたのだ。わしを打ち負かしてくれる真の天才が現れるこの日を……」

 

 いや、なんかホントすみません。と思っても謝るなど彼にとっては侮辱に近い事だろう。曖昧な笑みを浮かべるので精一杯だ。

 

「さて、約束であったな。ガールの船へと行くとするか」

「え、もうですか?」

 

 これから行こうと言わんばかりのモリーさんに聞き返す。準備とかここの後任とか、いろいろやらないといけないのではないのだろうか。

 

「なぁに、話をした時からこうなる事は予感しておったさ。だからこそ早い段階でランクSのメンバーを呼んで来られたのだ」

 

 あ。そういや、あの人たちの事もあったか。

 

「モリーさん、あの方達とはどういったお知り合いで?」

「ん? 彼らは何年前かな、未知なるモンスターを探している頃に出会ったのだよ。何でも世界を渡る術を探しているとかでな」

「世界を渡る?」

 

 モリーさんは「ふむ」と腕を組むと私に近づき囁いた。

 

「なんでも、違う世界から迷い込んだそうだ」

 

 それ……って事は……

 

「大抵の者は信じないだろうが、わしは真実だと思っている。嘘を言うような御仁ではないからな」

 

 驚く私を見て元の位置に戻ると、からりと笑った。

 

「なんなら彼らも誘うか? 世界を旅するのが目的だと言っておったからな」

「えっと……」

「冗談だよ、チャンピオンとわしの仲とはいえ、知らぬ者をそうすぐに信用は出来まい」

「あ、いえ、彼らが良ければ構わないのですが」

「良いのか?」

「はい。ただ、先に少し話してみたいとは思いますが」

「それはそうだろうな。よし、ついでだ巻き込んだ方が面白かろう」

 

 後半本音がだだ漏れなモリーさんに引き連れられ、地上への階段横にいたライアンさんに声をかける。

 

「ライアン殿」

「おお、モリー殿。先程は残念でしたな」

「いやいや、なかなかに楽しい試合だった。ライアン殿もそうではないのか?」

「はは、見透かされているか」

 

 モリーさんに対し闊達に笑うライアンさん。二人の仲は随分と良さそうだ。

 

「ところでライアン殿、物は相談だがこのチャンピオンの船に共に乗らぬか?」

「船?」

 

 ライアンさんの視線がモリーさんで隠れていた私に向けられる。

 

「先程ぶりです」

 

 頭を下げると、ライアンさんも律儀に下げてくれた。

 

「実は最近船を手に入れまして、いろいろなところを巡る事になるかと思うのですが、人員が足らずという状況でして。船の護衛をしてくれる人を探しているんです」

「ほう。船を所持とは大したものであるな」

「世界を旅するのが目的とモリーさんに伺ったのですが」

 

 ライアンさんは腕を組み重々しく頷いてみせた。

 

「故あってな。私ともう一人、今は別々にではあるが世界を回っている。

 ただ、回るといっても航路がある場所を伝ってでしか歩いていないゆえ、まだまだ踏んでおらぬ地も多い」

 

 私は少し考え、ライアンさんを見据えた。

 

「実は、私は迷子なんです」

 

 脈絡のない言葉にライアンさんもモリーさんも訝しげな顔をした。

 

「キメラの翼を使っても飛べません」

「お主……それはもしや」

 

 何かに気づいたライアンさんが目を見張った。

 それに苦笑を返し肯定する。

 

「はい。この世界ではない、異なる世界から迷い込んで来てしまったようなのです」

「ガールもなのか?」

 

 驚いたのかガール呼びに戻るモリーさん。そちらにも頷きを返しライアンさんに向き直る。

 

「ライアンさんも、異なる世界からこちらに来たのだと伺いました。どのようにこちらへ来たのか覚えておられますか? 元の世界へと帰る手立て……手掛かりは、何か見つかりましたか?」

 

 何かヒントが無いかと矢継ぎ早に尋ねてしまう私に、ライアンさんは申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。

 

「私は武者修行に出ていたところで霧に包まれ、気がついたらこの世界に居たのだ。元の世界へはいかにして戻ったら良いのか皆目見当がついておらん。力になれずすまん」

「いえ……」

 

 ある程度予想はしていた。モリーさんが違う世界からと言った時点で、この場に未だ居る事が戻る方法がわからないという事を示している。

 もっとも、手掛かりがあったとしても私の世界へと繋がっているのかは別の問題ではあるが。

 

「いきなり申し訳ありません。どうにも気になってしまい……不躾に失礼しました」

「いや、お主のような幼子が見知らぬ世界へ来たとあっては苦労ばかりであったであろう」

 

 憐れみと心配が混ざったような顔をされ、苦笑いしてしまう。どれだけ幼く見られている事やら。

 

「私の場合は幸いにもすぐに助けてもらえましたから、然程苦労というものはありませんでしたが………すみません。話を戻しましょう」

 

 私はモリーさんに説明したように道化師を追っている事を踏まえ、船の護衛をしてもらえないかという事を話した。

 ライアンさんはやや考えてから、いくつかの条件の下に了承してくれた。そしてもう一人、トルネコさんにも同じ話をして了承を得た。ただしトルネコさんは交易も兼ねたいという事なので、基本的にはライアンさんが留守の主戦力となった。

 


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