ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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会話した

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「リツお姉さま大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。ただの気疲れなので」

 

 昨日は本当に濃い一日だった……本当に……

 今日はせっかくだからのんびりしようか。そう考えて食事をしながら姫様に湯浴みを提案する。馬の姿で水浴びはしていたが、それではスッキリしないだろう。姫様の部屋には立派な浴槽が付いていたので都合もいい、どうせならゼシカさんも一緒にという事で、暇そうにしていた彼女に声を掛け湯を張った。

 王族で人に肌を見られ慣れている姫様と、そういう事に頓着しないゼシカさん。そして一人だけ胸部装甲の薄い私。忘れていた。脱げばそりゃ目に入る。

 姫様の肩に手を置きながら、ゼシカさんが姫様の手伝いをしているのを達観した思いでやり過ごし、今度は姫様に私の肩を持ってもらった状態で自分の身体を洗う。

 

「あれ? リツ、ここってこんなだっけ?」

「うわっひゃい」

 

 いきなりゼシカさんが背中を撫でて来たので変な声が出た。

 

「ちょ、いきなりはくすぐったいですよ」

「ごめんごめん。前に見た時は白かったから。ここ、この部分だけ黒くなってるわよ?」

 

 この部分だと背中を撫でられるが、くすぐったいばかりでよくわからない。

 

「黒く?」

「どちらかというと、藍色でしょうか……不思議な形ですね。まるで翼みたいです」

「でしょ? そうなのよね。だから最初にあった頃、人間か? なんて聞いたのよねー」

「いや人間ですって」

「確かにこれを見るとそう聞きたくなる気持ちもわかります。この藍色の部分なんてキラキラしているように見えますもの」

「あ、ホントだ。何これすごいわね」

 

 ちょっと、そんな事言われたら私も気になるんですけど。

 非常に気になりながらお風呂を出て髪を乾かし、風呂の後始末をして一度自室に戻る。久々にサッパリしたわーと思いつつ忘れないうちに、クローゼットの内側に設置されている鏡の前に立って背中を見てみた。

 確かに。と、そう思った。

 ゼシカさんが言うように肩甲骨の内側から背中を覆うように白い羽のような痣が広がり、翼のように見える。そして左側の肩甲骨の内側、心臓の裏辺りの羽根が一枚藍色に染まっていた。よくよく見れば夜空のようにキラキラと輝いてさえいる。

 とりあえず服を着なおしてベッドに腰掛ける。

  ………えーと。

 

「にゅーちゃん?」

「〝はーい〟」

 

 タイムラグなく私の口が返事を返す。どうやら会話可能なようだ。意外と簡単だった。

 

「背中に変な痣があるんだけど、これにゅーちゃんの影響?」

「〝背中? どれかしら?〟」

 

 どうやら知らないようで、再び鏡の前で服を脱ぐ羽目になった。

 

「〝あーなるほど。ええ、これは私の影響ね。器ができた時に現れたんじゃないかしら? 〟」

「器?」

「〝この世界とリツの世界は少し理が違うでしょ? こちらに来た時に順応した結果って言ったらいいのかしら? 私の受け皿が改めて作られたのね〟」

 

 ……いつのまにか改造されていたとか……考えるのはよそう。怖くなる。

 

「一ヶ所黒いのは?」

「〝私が完全に目覚めたからかしら? 器が出来るまでは眠りについちゃったから、最初は真っ白だったんじゃないかしら〟」

 

 にゅーちゃんの言葉に、嫌な予感がした。

 

「にゅーちゃんって、欠片って言ってたけど……」

「〝ええ、そうよ。もちろん、他の欠片が宿れば他も染まると思うわ。あ、もしかして集めてくれるの? あらーなんだか楽しくなっちゃうわね〟」

「いやいやいや無理無理。どこに行っちゃったのかも判らないんでしょう? それに宿し方とか分からないから」

「〝そう? リツなら出来るわよ。だって私が宿れたんだもの〟」

 

 いや、それはそうかもしれないが故意にでは無い。元の世界に戻ることさえ出来ないのに、さらに他の欠片とか……他の………。

 ……テアーの力を宿す私なら元の世界に戻る事も……まさか……

 イシュマウリさんの言葉が頭をよぎり、導き出される答えが無理ゲー過ぎて頭を抱えたくなった。

 テアーの欠片を集める必要があるって事なら詰みじゃないか。どうやって宿したのかも知らないのに……

 とりあえず落ち込んでても仕方ない。

 

「これ、特に害はないのよね?」

「〝ええ。只の印みたいなものだから〟」

 

 ならばよしとしよう。深く考えるのはやめよう。

 

「そっか。ありがとう教えてくれて」

「〝どういたしまして〟」

 

 楽しげな声に苦笑が溢れる。にゅーちゃんはいつでもいつも通りなのだろう。ブレない存在というのは、なんだか安心感がある。もろもろの原因であるのは置いとくとして。

 

「………そういえば、こんな風に話したのは初めて?」

 

 どことなく、慣れた感覚が自分の中にあり違和感を覚えていたら、あっさりとにゅーちゃんは教えてくれた。

 

「〝いいえ、夢でお話ししたわよ? まだ忘れちゃったままなのかしら〟」

「夢………ゆめ。ゆめー………えーと………」

 

 記憶をひっくり返してみるが、それらしきものは無い。

 

「〝いいわよ、無理に思い出さなくて。ヒトは夢での出来事をはっきり覚えていないものだという事を、わたしも忘れていたから。それに全部覚えていないわけじゃなくて、無意識にでも残っているようだから〟」

「んーちなみにどんな話をしたの?」

「〝お話? そうねぇ。自己紹介して、名前が発音できないからにゅーちゃんでいいわよって〟」

 

 あぁ。やっぱりにゅーちゃんて愛称なのね。

 

「〝ずっと、にゅ、にゅって言ってるんだもの。可愛かったわ〟」

 

 にゅにゅってなんだ。蛸入道か?

 

「ちなみに正式名は聞けたりする?」

「〝えー? わかるかしら? Νύξよ?〟」

 

 あ……あー……。

 

 ピンと何かが繋がった。雲がかかった記憶が晴れたような、そんな感覚がして思い出した。

 確かに『にゅ』だ。それ以上聞こえるのだが、発音が出来ない。

 そうだそうだ。テアーって女神だって言われたんだ。それで創造主だと推測したんだ。えらい軽い創造主だなとか無意識に思ったような。

 

「〝あら、思い出したの?〟」

「うん。ごめん、忘れてて」

 

 名前を呼んでもらえないって拗ねていた様子を思い起こし謝ると、何て事はないと首を振られた。

 

「〝テアーであった頃には見えなかったものが沢山見れるから、とても楽しいの。ありがとうね、律〟」

「……どういたしまして」

 

 にゅーちゃんのリツは、リツじゃなくて、律。ほんの些細な違いなのに、ちょっと、久しぶりに聞いて胸にきた。夢で聞いた時は名字を知っていた事に驚いて思考を巡らしていたが、気を抜いて聞いてしまうと駄目のようだ。

 またお話しましょうと言って静かになった室内で、ふうと呼吸を整える。小さな窓から覗く外はどこまでも続く青。本当に遠くまで来たものだという感傷を沈め、そろそろお昼になるかと立ち上がる。

 身体の疲労は然程でもなく、先程湯を沸かしたりするのに魔法を使ったがふらつきもない。気分はお風呂でリフレッシュして、新たな情報に叩き落とされたのでプラマイゼロ。エイトさんの休んでないのかというツッコミが聞こえて来そうだが気にしたら負けだ。

 食堂に行く前にトルネコさんのところへ寄ったが部屋には居らず、食堂へ行くとそこにいた。そして何故か豆をさやから出してボールに入れていた。

 

「すいません。回復魔法の件遅くなりました。どうしましょう? 今します?」

 

 豆のことは一先ず置いといて、聞いてみるとトルネコさんは顔を上げて『おや』という顔をした。

 

「もうお加減はよろしいんですか?」

「はい。寝れば回復しますから」

「そうですか。ではお願いしてもいいですか?」

 

 じゃあちょっと失礼して、と手をかざしてホイミを唱える。

 トルネコさんはしばし手を止めていたが、一つ頷いてこちらを見た。

 

「何かわかりましたか?」

「いえ、他の方のホイミと同じように感じました。まぁ何かわかるとは考えていませんでしたが」

 

 苦笑気味に言って手を手ぬぐいで拭くと、腰につけている袋からさらに小さな袋を取り出して私に手渡した。

 

「お約束のものです」

 

 中を見れば、金色の小さなコインが何枚か入っていた。

 

「本当にこんな事でいいんですか?」

「貴方にお渡しした方が有効活用されそうですから。魔法の件はまぁもののついでのようなものです」

「……ありがとうございます」

 

 そしてすいません。さすが商人とか思ってました。あと、遊んでる時は肉壁だとか思ってすいません。取り柄がヒットポイントだけだとか思ってすいません。

 

「ところで何をされていたんです?」

「これですか? 昼食の下拵えですよ。聞けばお一人で準備されているとか。他にも物資を管理したり生活を整えたりと、なかなか大変なご様子なのでお手伝いさせていただこうかと思いまして」

「それはありがたいんですけど、いいんですか?」

「どうせこうして航海している間は暇ですからね」

 

 そういう事なら有り難く手を借りよう。どうせなので昼食はお任せして、こちらはザワークラウトを作っておく。一先ず一月もかかるような航海にはならなさそうだが、作って置いて損はないだろう。

 

「トルネコさんって手際がいいですね」

 

 ひょっとしなくても、私よりも料理上手だ。私も同時進行で二、三品作るがトルネコさんは器用に六品作っている。簡単なものではあるのだが手つきが鮮やかだ。

 

「まあ旅暮らしをそこそこ経験しましたからね。旅の仲間と交代して作ってました」

「というと、ライアンさんと?」

「ライアンも仲間の一人ですが他にも個性的な仲間がいましたよ。お姫様とか」

 

 おどけるように丸っこい目を笑みに変えるトルネコさん。お姫様と言ったらあれだ、アリーナ姫だろう。あのとんでもない女子力(物理)の持ち主の。

 彼女達との旅を過去形で語るという事は、ドラクエ4の物語は終わっているのだろうか。

 

「お姫様と旅をされるのもすごいですけど、お姫様が旅をすること自体がすごいですね」

 

 そういうと『おや?』という顔をトルネコさんはした。

 

「随分あっさり信じるんですね」

 

 そう言われて気づいた。普通はお姫様と旅をしたなんてジョークかと思うか。

 

「嘘なんですか?」

 

 しれっとして尋ねるとトルネコさんは可笑しそうに笑って否定した。

 

「嘘ではありませんよ。ちょっと特殊な経緯があって一緒になったんです。お付きの二人は振り回されて大変そうでした。あ、悪い方ではないですよ? とても元気いっぱいな方でお姫様という言葉の印象とは少し違う方でしたが」

 

 アリーナ姫、自分で城の壁ぶち破って出て行った猛者だからなぁ。

 

「こちらの方もなかなか個性的な方が集ってますね」

「私たちですか? そうですかね」

「教会騎士に有力氏族の娘に異界から来た貴方。そして謎の滅びを迎えたトロデーンの兵士」

 

 私は酢漬けにしたキャベツっぽい野菜を樽に詰める作業をしていたのだが、思わず手が止まりトルネコさんを見た。トルネコさんは肉と野菜の炒め物を皿に盛っているところだった。特に表情に含みは無いように見受けられるのだが……

 

「まぁ、一番はあの小柄な老人ですかねぇ。トロデ王でしょ?」

 

 昨日の今日でバレとる。何した王よ。いや、違う? もしや最初から?

 

「以前トロデ王に謁見する機会がありましてね、それでわかったんです」

 

 トルネコさんは不意に声を潜めて、

 

「こう言ってはあれですが、あんまり今のお姿と印象が変わらないんですよ」

 

 ………あー……あー、うん。確かに。そう言われたら不気味な感じとか? 背丈も変わらないし?

 

「いや、肌の色とかはあんな色じゃ無いですよ、さすがに。雰囲気の話です」

 

 何を思ったのか、フォローするように言葉を繋ぐトルネコさん。

 

「雰囲気……」

「見る人が見ればわかるでしょうね」

「……気をつけます。トルネコさんはそれを誰かに話したりは」

「しないですよ。商人は信用が第一です。取引相手の事をベラベラ喋るようでは話になりません」

「ありがとうございます。そのうちバレるだろうなとは思ってましたが、言動ではなくて顔でバレるとは思っていませんでした」

「ははは。ところでミーティア姫は如何されているのです?」

「姫様は…」

 

 一瞬言い淀んだが、隠したところでこの人には無駄だろうと思い直した。昨日の今日でエイトさんとは最悪王や姫の事が知られても仕方が無いという結論には達しているのだ。

 

「陛下と同じく呪いで馬の姿にされています」

「なんと……それはまた……」

 

 言葉が出ないのか、トルネコさんは口を開けて閉じた。

 

「天空の剣があれば……いや無理か……」

 

 ボソッと呟くトルネコさん。ドラクエ4の天空の剣はモシャスの解除とか、マヌーサとかマホトーンの解除とか、凍てつく波動みたいな効果を持っていた筈だ。呪いに対しては言及が無いので未知数ではあるが現状では手に入れようも無いので考えても仕方のない話だ。

 

「呪いをかけた相手は分かっていますから、まぁどうにか頑張りますよ」

 

 一仕事終えた(世界を救った)であろうトルネコさんに暗い話で沈まれるのも気がひける。明るく言って空気を変え、料理が出来たようなのでみんなを呼んできますと食堂を出た。わざとらしかったが、トルネコさんならその辺も汲んでくれるだろう。

 ゼシカさんは部屋に、他のメンバーは甲板にいた。でもってエイトさんとライアンさんが剣を交えていた。ヤンガスさんと王は揃って見物し、ククールさんはつまらなそうに舵を握っていた。

 

「どうした?」

「食事の準備が出来たので呼びにきたんですけど……」

 

 ククールさんに応えながらも視線はライアンさんとエイトさんへと向けてしまう。不安定に揺れる足場で、二人ともよろめきもせず激しく木の棒を合わせているのだ。早すぎてもう私には細かい動きはわからない。

 

「あのおっさんかなり強いな」

 

 伊達にデスピサロやらエビルプリーストやら倒してきたわけじゃないと。あんな人外の化け物と戦うには、やっぱり人外じみた強さが必要なのだろう。

 

「エイトも強い部類だと思ってたが、上には上がいるもんだね」

 

 ライアンさんより強いとなるとアリーナ姫ぐらいだろうか。それと比べられるのもエイトさんがちょっと可哀想だ。

 

「おーい、お二人さん、飯出来たってよー」

 

 間延びたククールさんの声に二人は棒を下ろしてこちらを見た。

 

「着替えたら交代するから」

「いや、先に食べてそれから代わってくれ」

「いいの?」

「いいからさっさと行けって」

 

 しっしっと追い払うようにククールさんが手を振ると、エイトさんは妙に嬉しそうな様子で手を振って船室へと駆けて行った。あれだけ激しい動きをしていたのに、元気だ。

 ライアンさんも軽く会釈をして船室に消えた。

 

「なんでまた、二人はあんなことを?」

「エイトが稽古つけて欲しいって頼んだんだよ。自分より強いって感じたんだろ」

 

 はー。すごい向上心だ。責任感から強くなろうとしているというより、純粋に楽しんでいる節があるのが何ともはや……

 私もククールさんに急かされ船室へと戻り、ちょうどエイトさんと王とすれ違ったのでこちらの素性が知れていることを伝える。王はトルネコさんに会った事を覚えておらず首を傾げていたが、こちらの不利益にならないのなら問題無いとの事で姫様も食堂へとお連れした。




モシャスの件について。ククール、ゼシカ、主人公が覚える魔法以外の魔法は認識していないという設定です。知らない魔法は覚えようが無いという考えからです。が、まぁ作成側からすると処理が大変だからモシャスは削除したのではないのかなぁなんて思ったりもしてます。

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