「で、リツはなにしてたんだ?」
食堂で食事を始めるなりククールさんが聞いてきた。若干言い方に『どーせまた変な事してたんだろ』的な含みがあるのがアレだが、素直に答える。
「ちょっとした実験とかですね。あ、そういえば前に言っていたのが出来ましたよ。補助砲台としても使えると思うので後でゼシカさんと確認してもらえますか?」
「補助砲台?」
「杖です。牽制程度には使えるのではないでしょうか?」
爆弾岩を利用した杖で、イオの効果があるものだ。威力はさほど出ないだろうが注意を引いたり目眩しには使えるのではないか、と思う。
「それと、道具の方でもいくつか作りましたから、そちらも皆さんで確認してみてください」
「どんだけ作ってんだよ」
「というか、そんなに早く作れたっけ」
疑問を口にするエイトさんに、私はちらっと姫様とわいわいしている王を見た。
「陛下が修繕? してくださいまして、なんだか錬金速度が上がったようです。あと、単純に入れられるものも増えたので組み合わせ激増です」
「ふふふ。すごいじゃろう!」
「お父様、すごいですわ」
「そうじゃろそうじゃろ」
楽しそうな親子に生暖かい視線を送りつつ、ククールさんはこちらに大丈夫なのか? という視線をくれた。ついでにエイトさんも控えめに同様の視線をくれている。
まぁ心配はわからないでもないが、ここまでくるとあの不気味な釜の性能と、王の技量を認めないわけにはいかない。出来上がったものの安全性もインパスで確認する限り大丈夫そうなのだ。
問題ない旨、軽く頷いて肯定すると二人は諦めたような様子で視線を外した。
「それで、実験っていうのは?」
錬金にはそこまで反応しないゼシカさんの問いに、私はにんまりとした笑みを抑えられなかった。
「え、なに、その顔。どうしたの?」
「実はですねぇ、小さなメダルを集めたいなーと思っていたんですけどね」
「あぁ、メダルと何か交換してくれるっていう? あの小島にいる変わった一族の?」
「そうそう、それです」
「やめたほうがいいんじゃない? 集めようとして破産したっていう話もあるわよ?」
いるのか。破産した人。ちょっと驚いたが、私はさすがにそこまでする気は無いと首を振る。
「無理に、とはさすがに考えてないですよ? ただ、ある魔法をそれ用に特化出来ないかなと思いまして、結構うまく行きそうなんです」
「へぇ、ある魔法って?」
「レミラーマです」
画面内に見えている範囲で落ちている宝の位置を知らせてくれる呪文。それが基本形だ。その宝というのを小さなメダル限定とし、捜索範囲を大幅に拡大させてみた。その結果、とんでもない魔力消費量と化した――魔力総量とんでもないっぽい私が貧血のような感覚を覚えた――のだが私は笑いが止まらなかった。
ちなみに、実験中の私には誰も近づかなかったことから、かなりやばい顔をしていたのであろうと反省している。
「あれってよくわからない魔法よね? 何をもって宝っていうのかしら?」
そこは開発陣の設定故にというところだろうが、ここでは発動した人物が考える宝というイメージが元になっているような感触だった。なのでやりようによってはガラクタでも反応したりする。ゲームで馬のフンに反応したのは……まぁ、その、人それぞれということで。開発者に畜産関係の人でも居たのだろうか……
「一応、発動者のイメージを基準としていますから、人によって誤差は出るでしょうね」
「ふぅん。で、リツはそれを調整したのね」
実験ではイメージだとブレが出ると考え、掌に握った対象物と同様の物質、誤差数パーセント以内として調べた。
「はい。ある程度の場所は特定できました。で、これがそのメモです」
ペラリとポケットから折りたたんだ紙をゼシカさんに渡す。世界地図を書き写して、そこにこれでもかと書き込んだ代物だ。
「もし良ければ、近場を通った時にでも見てもらえますか? 私も暇なときにでも探してきますので」
「相変わらずデタラメよねぇ……」
ゼシカさんの感想はスルーする事にして、ククールさんとエイトさんにも同様のメモを渡す。ヤンガスさんは基本的にエイトさんから離れる事がないので割愛。いや、メモ作るのも結構大変なのですよ。
メモの中身を見たエイトさんが唖然とした顔を晒し、ククールさんは「細かっ」と声を上げた。
えー、はい。正直自分でも書き込み過ぎたかなぁとは思っています。オリハルコンをぶら下げられて暴走気味だったのも認めます。なので、こいつ頭イカれてんじゃね? みたいな視線を向けてくるのやめてくれませんかね特にククールさん。
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「あ、はいどうぞ」
トルネコさんにメモを渡すと、隣に座っているモリーさんも覗き込んだ。
「これは確かに……」
「うむ……」
ちょっと引き気味のお二方に、やり過ぎなのねと反省。ククールさんはともかく、この二人にそんな目で見られたら反省するしかない。
「それはそうと、次は西の大陸ですよね?」
視線に耐えかねて良心の塊であるエイトさんに向けて話をする。
「その予定です」
さすがのエイトさんはメモから目を離してすぐに反応してくれた。
「パルミドの情報屋の男性、覚えてます?」
「はい。どうかしたんですか?」
「その方から、西の大陸のカジノで不穏な動きがあると連絡があったんです」
いきなりガルーダが飛んできたときにはすわ何事かと王が臨戦態勢に入ったが、モリーさんが嬉しそうに手を振って呼び寄せたので『あ。おたくのとこの子ね』と、王をライアンさんとで取り押さえた。
モリーさんに聞けば、ルーラで行けない所とか、モリーさん自身が移動している時に伝書鳩ならぬ伝書ガルーダとして飛んでくれる個体らしい。ガルーダの中でも特にモリーさんに懐いているこの子しか出来ない芸当だそうで、何かあった時のためにバトルロードに残してきていたそうだ。
で、そのガルーダくんが持っていたのが情報屋からの手紙だった。
「カジノ?」
「西の大陸でって話だと、ベルガラックか?」
エイトさんは知らないようだが、ククールさんは知っていたようだ。
「はい。何でも強盗があったとかでカジノを閉めたらしく、それにしては長引いており不審だと。その他に目立った異変というものはないようです」
「なんでそんなに情報くれるんだ?」
……あれ? 情報屋との協力の件、話してなかったか。いやでもヤンガスさんいたよな?
と思って見れば、黙々とご飯をかきこむ姿。あの時も、話は聞いてなかったような気がする。
「すみません。説明してなかったです」
「おう、おっさんに説明とか無理だろ」
私の視線から察したらしいククールさんに突っ込まれる。
いやはや面目無い。ヤンガスさんも気がきくところはあるのだよ? 限定されてると思うけど。
「ドルマゲスの事は私達で活動するには、規模が大きな話になると感じていたんです。事が起きたのがトロデーンの城、つまり一国を相手にしていましたから、そこからして普通ではありませんでした。そして続けて事件は起こり、それならば専門の方の力を借りようと考えたわけです」
「それが情報屋?」
エイトさんの問いに頷く。
「思いがけず協力関係を結ぶ事が出来たので、金銭的な対価を支払わずこうして情報を回していただけるようになっています」
「へーよく協力してもらえたな」
「それについては先方に協力理由を聞いたところ予感だそうです。良くない事が起こりそうだと」
「良くない事……」
エイトさんの呟きに、それまで口を出さずにいた面々がやや固くした表情で視線を交わした。
「僭越ながら……不確かな不安を議論するよりも、今を楽しまれた方が心と身体は休まるかと。戦わねばならない時は、くるときはきてしまうものですから」
柔らかな笑みを浮かべ、穏やかに語るトルネコさん。それを懐かしそうに目を細めて見遣り、小さく頷くライアンさん。
二人の間に流れる空気は緩やかで、けれどどっしりとした大木のようなものがある。そう感じるのは、この二人がとんでもない旅をしてきたと知っているからなのか……
だが、私以外も苦笑気味に肩の力を抜いたのを見れば、先人の余裕ともいうべきものが実際に感じられるのだろう。
「すみません、私も言い方が悪かったです。あくまで予感めいたものですので。私たちは私たちで出来ることを重ねていく事が肝要かと。ということで、一先ず西の大陸、その中でもベルガラックへとまずは舵を切りませんか?」
「そういうことなら、はい。行きましょう」
「了解」
「いいんじゃない? 人が集まるところだし、聞き込みにはいいかもしれないわ」
「カジノでがすかぁ」
一名違う想像をしているが、まあいいだろう。ヤンガスさんらしいといえばらしいのだから。……便乗して王が騒がなければいいが。
「リツさん。良ければこれ、貸していただけませんか?」
「メダルのメモですか? はい、構いませんが」
「これ、モリーさんと一緒に伝手を使ってみますね」
「え?」
トルネコさんの提案というか協力宣言に驚いてモリーさんを見ると、うむうむと頷かれた。
「以前から考えていたのですが、リツさんは目的があってメダルを集められているのでしょう?」
「はい……まぁ、一応オリハルコンが欲しくて」
「それは所有したいからというわけではなく、何かに使うためですよね?」
「ええと、錬金の素材に使いたくてですね」
「それはこの旅の助けになるのではないですか?」
「そこは正直わかりませんが……」
トロデーンの城で見つけた古びた剣を修復出来ればいいが、必ず出来るとは限らない。かなりあやふやな事なのでトルネコさんやモリーさんの力を借りるのは申し訳ないというか。
「チャンピオンがどんなものを作るのか見てみたいという好奇心がうずくのだよ」
モリーさんが狭い食堂で座ったままポーズをとろうとして隣のライアンさんに手を降ろされている。
なんか今この二人の関係性が見えたような……。まさかのライアンさんがモリーさんのフォロー係とは。トルネコさんはモリーさんの言葉に笑い、同意するように頷いた。
「そうですね。好奇心がうずくのですよ。ですから、協力させてください」
「それは……ありがとうございます」
本当にいいのかな? と思いつつ頭を小さく下げると、二人は視線を交わして頷きあった。何故だか怖い気がするのだが気のせいだろうか。
進路を決めた後の航海も特に何が起きるわけでもなく、西の大陸が見えてきて接岸する場所を探してさらに船を進めた。途中大地と大地の間の海の上に橋を架けてそこに街を建てたらしいところが見えたが、あれには驚いた。ある意味海上都市だが、めちゃくちゃ危険な立地に何故街が造られたのか謎でしかない。一緒に魔物と遊んでいたモリーさんに聞いたらリブルアーチという街で昔からあそこにあったらしく、特に疑問もないらしい。
接岸ポイントを探しているうちに沿岸から協会のような建物が目視でき、とりあえずそこに船を停泊させて降りる。
留守番はいつも通りのグラッドさん。船の護衛にライアンさんとモリーさん。後のメンバーでベルガラックを目指す事になったが、今回は今後の活動の事を考えてラーミアチームも一緒に行くことに。
「っと」
数日ぶりに降りたので足元がまだ揺れている気がするのが、ちょっと面白い。
エイトさんとククールさんで教会に道を聞きに行ってきてくれたので、地図で確認してベルガラックへと足を向けた。
道中魔物に遭遇することもやはりなく、事前に説明したトルネコさんは聖地ゴルドでの魔物の出現率との違いに一人唖然としていたりした。
天気も良く、開けた草原を轍に従って行くと、昼を回ったあたりで遠目に町が見えてきた。
白い家壁に、所々キラキラとした金のようなものが見えて、お金がかかっていそうなのがわかる。私のイメージするネオン眩しいカジノとは違うが、白壁に映える金が海外のリゾート地のようだ。
さぞかし賑わっているのだろうと思ったら、着いてみれば人はまばらでどことなく不穏な空気に包まれていた。
カジノ自体は大きかったのでひと目で分かったのだが、ほかに目ぼしい産業は無いようで、カジノの閉鎖で街自体が寂れてしまったようだ。
ちなみにカジノのオーナー、ギャリング氏の邸宅の門には守衛らしき人物が立っており、ギャリング氏は誰にも会いたくないという名目で門前払いだった。真偽の程は定かではないが。
「どうしましょう?」
「無難に聞き込みでしょうか」
エイトさんの言葉にトルネコさんが応える。
「幸い人手はありますから、手分けして聞けば何か出てくるでしょう」
「何も出なかったら?」
と、ククールさんの返しにトルネコさんは肩を竦めて「次の街に行くだけです」と答えた。確かに、ここで何もわからなかったら情報を求めて移動するぐらいしか手はない。
「じゃ一通り聞いたら宿に集合って事でいいんじゃない? その間、リツ達は宿で例のやつやってみたら?」
「え、いや、ジョーさん達はまだ街に入ったのは初めてですから」
ゼシカさんの唐突な振りに、傍で微動だにしないジョーさんを見やる。
「大丈夫でしょ。不審がられてないし、堂々としてるから護衛だって言えば問題ないわよ。それに、すごくやりたそうよ?」
ゼシカさんの視線の先には、馬の姿で期待に満ちた目をしている姫様。
「のうリツや、姫の願いを叶えてはくれんか。わしも護衛として一緒におるから」
という王に「いや護衛が一番要るのは陛下ですから」と返しそうになり飲み込む。
私としてはもう少しジョーさん(スラリン&チビイカ入り)に対する人の反応を見てみたかったのだが……まぁ確かに道中も特に問題行動なんて無かったし、街に入ってからも奇異な視線は感じなかった。どちらかというとフードをかぶっている王の方が視線を集めていたが、場所柄なのか奇異なものを見るというより、お忍びで来ている偉い人をそっと伺っているような感じだ。
「んじゃエイトを見張り役として、あとのメンバーで聞き込み。それなら問題ないだろ」
「それなら、はい」
提案したククールさんにちょっと驚きながら頷く。まさか、ククールさんが姫様を気遣うような提案をするとは思わなかったので、まじまじと見てしまう。それはエイトさんも同じだったようで、
「いいの?」
「なんだよ、俺ってそんなに薄情な奴だと思われてるわけ?」
思わずと言った様子で聞くエイトさんに、ククールさんは嫌そうな顔をした。
「そういうわけじゃないけど」
「努力してるやつ見ればそれなりに応援ぐらいするっての。はいはい、決まり決まり。さっさと動く」
言いながら、ククールさんは行ってしまった。それに続くようにゼシカさんも「また後で」と行ってしまい、ヤンガスさんも空気を読んで「あっしも行ってきやす」と走って行き、トルネコさんは「ここに来る人は耳が肥えていますから、認められれば他でもきっと通用しますよ」と言って離れて行ってしまった。
「みんな姫様のこと、見てくれてますね」
そう呟けば姫様は恥ずかしそうに、けれど本当に嬉しそうに微笑んで頷いた。馬の姿の今、私以外に声は届かないがそれでも『ありがとうございます』と声を送っていた。
みんなの好意を無駄にしないためにも早速移動だ。とりあえず馬車があると動きづらいので、一旦船に戻ろうとルーラを使った。
船を降りたところにある教会を目印に飛んだのだが、ふと気づいた。もしエイトさんがルーラを使っていたらライアンさん達は今頃、唐突な空の旅を味わっていたかもしれない。
「エイトさん、今後ルーラを使う時は注意しないと事故が起きるかもしれません」
教会に降り立つなり言った私にエイトさんは目を瞬かせた。