臆病な僕らは   作:小鴉丸

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1話 倉田 ましろという少女

 今年高校生一年生となった僕こと柊 結人(ひいらぎ ゆいと)は部屋を整理している最中、ある物が出てきたのでそれを眺めながら物思いにふけっていた。

 

「(中学のアルバム……)」

 

 中学の鞄を物置に入れようとしたら重みがあったので何かと思い取り出したら出てきたのだ。

 最後に中学校の鞄を使ったのは確か卒業式当日。おそらく、その時に貰い鞄に入れたままの状態だったのだろう。

 

 パラ……パラ……とページをめくると各クラスの先生、生徒の顔写真、集合写真と始まり徐々に行われた行事に沿ってその時の写真が載せられていた。

 

 普通なら何かしらの思い出が蘇り懐かしむのだろう。だけど僕は……。

 

「……この時何してたっけ」

 

 ページをめくる手が止まったのは文化祭の時の写真が載せられたページ。そのページに僕はいない。なんなら大体の写真に僕は写っていない。

 顔写真、集合写真以外で僕を見つけるのは中々難しいと思う。それほど僕は目立つような行動はした事がなかった。

 

 目立つような行動をしていない。

 つまり僕は基本的に人目に付かない所にいつも居たのだ。厄介事に巻き込まれたくない、変な重みを背負いたくない、そして何よりも“人間関係を悪化させたくない”という考えから来る事だった。

 

 例外はいるが、僕はどんな時でも人と接する時は壁を作ったり、距離を少し置いて話す癖がある。

 小学校高学年から始めたそれは、中学校でも続けるつもりだった。だった、というか実際に続けていたのだが、少しばかりイレギュラーが発生したのだ。

 

「倉田……ましろ……」

 

 写真は中学二年の修学旅行の時に撮られた一枚。その写真を見つけ当時を思い出すように、名前を呟いた。

 

 倉田ましろ……この少女こそ、そのイレギュラーな存在だ。

 

 僕から何かあって話しかけた訳でもない。親同士が知り合いとか、幼馴染みとかでも何でもない。ただ一度だけ席が隣になっただけのクラスメイト。

 

 そんなクラスメイトの倉田さんは、中学校生活の中で一番共にした時間が長いと言っても過言ではないくらい一緒に居た気がする。

 そりゃあ三年間同じクラスだったというのもあるが、それ以前に家の方向が同じだったので登下校を共にしたり、学校行事もほぼ一緒に居た。

 

 ……あぁそうだ。文化祭の時は空き教室に隠れてた僕を見つけて自分のクラスに連れて行かれたんだ。

 

 とまぁ、今思えば不思議なくらいに一緒にいた時間が長かったと思う。

 もちろんその事で何度もからかわれた事もあるが、それはそれ。周りからの嫉妬なんてまともに相手するだけ無駄だ。時間に身を任せ、自然に消えるのを待った。

 

 めくるのを止めていた手を再び動かす。

 卒業アルバムも終盤、残り数ページと言ったところで写真の貼られていない“メッセージ”と端に書かれたページへ差し掛かった。

 卒業式の日にアルバムをクラスメイトや友達達と交換して、一言メッセージを貰う、渡すというページ。本来ならここには何一つ書かれていないはずだった。

 

『まずは卒業おめでとう。柊くんのおかげでいつも楽しかったよ』

 

 しかし、僕とは異なるとても綺麗な文字でそこには言葉が綴られている。

 

『高校生になってもお互いに大変な事はあるだろうけど、頑張ろうね』

 

 そして卒業アルバムの最後は卒業式終了後、倉田さんと交わした言葉で締められていた。

 

『またね』

 

「“またね”……か……」

 

 卒業式終了後、誰も居なくなった教室で最後に交した言葉。その言葉、その瞬間を今でも鮮明に思い出せる。

 

 まるで、いつか会うかのように。

 

 いや──“会う”という事を疑わないように。

 

 

「今までありがとう。これから頑張ってね」

 

「こちらこそありがとうだよ。頑張るのは柊くんも、じゃないかな」

 

「僕は変わらないよ。ずっと同じさ」

 

「それじゃあ私も──」

 

「──私は、頑張るよ。頑張ってみる」

 

「…………そっか」

 

 

 その時どういう変化があったのか分からない。だけど倉田さんの中で何かがあったのだろう。

 

 それを僕は知る由もない。

 

 

「じゃあ、さよなら倉田さん」

 

「うん。またね柊くん」

 

 

 最後に交わした言葉は、お互い対になる意味を含んでいたのだから。

 

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