臆病な僕らは   作:小鴉丸

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11話 二人の帰り道

「じゃあな柊、倉田」

 

「じゃあね柊くんっ! ましろちゃんはまた明日!」

 

 フードコート、ショッピングモールと出て僕らは駅前に居る。理人と二葉さん、僕と倉田さんという組み合わせで家の方向が同じで、電車に乗る理人達と別れの挨拶をしている最中だった。

 

「うん、じゃあね理人。二葉さんも」

 

「また明日つくしちゃん。森川くんもまたね」

 

 それぞれが言葉を交わし帰路に着く。

 駅に背を向ける形で僕と倉田さんは歩き始めた。

 

「……何だか懐かしいね。柊くんと一緒に帰るの」

 

「そうだね。久しぶり──ってのは当然か。なんせ学校が違うから」

 

 中学の時のように二人で横に並んで歩く。ただ、あの頃と違う事は複数あった。

 一つに制服が表してるが学校が違うこと。二つに中学時代とは逆に、反対の方向に向かって歩いていること。……三つに同じようで違う道を歩いていること。

 

「何だか不思議な気分だよ。高校も柊くんと同じだー、って最初は思ってたのに」

 

「あー、分かる。そんな話修学旅行の時にしてた気がする」

 

 卒業アルバムにある一枚の写真、その中に僕と倉田さんだけが写ってる写真がある。その写真を撮られた時にそんな話をしていたのを思い出す。

 

「あはは。そう言えばそうだね」

 

 倉田さんもその時の話を覚えていたようで懐かしむように笑った。

 

「もしも一緒の高校に行ってたら私達どうなってたのかな?」

 

「一緒の高校、ね」

 

 僕が先に決めたから消えてしまってた選択肢の一つを考えさせられる。だけどそう考える事でもないような気がしてくる。

 

「うーん……中学時代の延長線じゃないかなぁ。いつも二人で居て、適当な話をして……って感じで」

 

 そう。もしもその選択をしていたのなら、僕らは中学時代の延長線を送っていただろう。

 お互いに変化する事なく、ただただ寄り添いあって生活している。そしてそれは大学でも同じような気がして──。

 

「延長線……変わらない私達かぁ。すぐに想像出来ちゃうね」

 

 そんな僕らをイメージしたのか、再び倉田さんは笑う。

 

 それは僕だってすぐに想像出来る。

 だけどそのイメージは、今となっては違和感しかないものに感じてしまい……。

 

「……僕は」

 

「? どうしたの柊くん」

 

 突然足を止めた僕に気付き倉田さんも足を止める。僕の前で止まった事で、振り返るような形に倉田さんはなった。

 

 今の一瞬で並んで歩いていた道がズレた。僕は止まり、倉田さんは進んだ。

 

「やっぱり僕は変わってないんだな、って思っちゃって」

 

 それが今の僕らを表しているようで、胸が痛む。

 確かに僕は倉田さんが変わったのは嬉しいと思う。だけど変わった事によって、隣に居れないと思うと少し……悲しく感じてしまう。

 再会したから、とかじゃない。再会してなくてもずっとお互いに変わらないままだと思ってた。だから、今の状態を受け入れられない自分が心の何処かにいるのだろう。

 

 そしてその心の何処かでは、倉田さんが変わらない(居続ける)事が当たり前に思っていて──。

 

「倉田さん……本当に変わったね」

 

 嬉しさも悲しさも本当の気持ち。だからこそ、複雑な感情に呑み込まれてしまう。

 

「──うん、変わったよ。まだ実感はないけど……。だけどね柊くん」

 

 頷いて、倉田さんがこちらに歩いてくる。

 

「私を変えてくれたのは柊くんなんだよ? 柊くんが応援してくれたから、頑張ろうって思った」

 

「僕が……?」

 

 初耳だった。僕がいつ倉田さんを変えたんだろうか?

 

「やっぱり気付いてなかったんだね」

 

 倉田さんは僕の手を取り、引っ張りながら歩き始めた。その繋がれた手は、小さくて女の子らしい綺麗な手。

 その綺麗な手を見つめ記憶が蘇る。

 修学旅行や文化祭、二人きりの時には倉田さんが手を引いてくれていた。

 

 変わらない僕を変わりゆく倉田さんが引っ張る。

 

「柊くんは分からないかもだけど、私はいつだって柊くんに助けてもらってたと思ってるよ。こうして柊くんは私の手を……道を示してくれた。何気ない言葉でも、その言葉は私にとってはとても大きいものだった」

 

 そうして先に進む。

 “変わる事は恐ろしい”と思っていた僕を“変わってもそのまま”の少女が引っ張る。

 

「取り柄もなくて、周りに流されてばかりで、何も出来なくて、いつも逃げてばかりだった。そんな自分が嫌で変わりたいって……。だけど、そんなに簡単に変われない。変わるきっかけなんてない。今まで通り、全部想像で終わるんだ、って初めは思ってた」

 

 繋ぐ手に熱がより伝わる。

 

「でも、柊くんと出会って私の中の歯車は動き始めた。ゆっくり、ゆっくりと今だってその歯車は動き続けてる」

 

「だから──」と倉田さんは微笑みながら振り向き……。

 

「ありがとう柊くん。私を、変えてくれて」

 

「──っ」

 

 ──その笑顔が眩しかった。

 

 きっとその笑顔に見蕩れていたのかもしれない。しばらくの間自分が何を倉田さんと話していたのか覚えていない。気が付いたら倉田さんと別れる場所に着いていた。

 

「じゃあここでお別れだね。また今度ね、柊くん」

 

「え、あ……うん。またね倉田さん」

 

 情報処理が追い付かずたどたどしい返事になってしまう。

 

 ……それから倉田さんと別れて少し歩いた後、何となく繋いでいた手を見る。

 

「倉田さんの手……柔らかくて、温かかった……」

 

 そんな事を考えながら僕は家まで歩いたのだった。

 

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