「…………」
「…………」
柊達と別れて俺は二葉と電車に乗った。
どうせ俺とこいつは別の場所で降りるのだろう、そう思っていたのに……。
「……お前もこの駅だったんだな」
「森川くんこそ」
こちらの刺々しい言い方とは真逆に特にペースを乱すわけなく返される。
正直なところ気まずい。柊と倉田という共通の話題しかないため、その当の本人達と別れた今話す話題がないのだ。
「(オマケに道も一緒かよ)」
しばらく歩き、家の方向が同じという事も分かってしまった。これじゃ柊と倉田みたいじゃねぇか、と思ってしまう。
特に話す事もないので俺の目の前を歩く二葉を眺める。
……学校が学校だからか、何と言うか綺麗な歩き方だなと思った。優雅、とでも言うのだろうか。
「お嬢様学校、か。よくもまぁ、そんなとこに倉田も入ろうと思ったな……」
ほんと、あの倉田が月ノ森に入学してたってのすら信じられないくらいだ。大体は柊のやつが絡んでんだろうけど、それでも繋がりが見えない。
確か柊は“変わる”のがどうのこうの言ってた気が──。
「あれ? 森川くんはましろちゃんが月ノ森に入った理由知らないんだね」
「あ?」
突然前を歩いていた二葉に声をかけられる。
「……何で考えてた事が分かったんだ? エスパーか? 流石月ノ森……」
「月ノ森はエスパーでも何でもないよ!? ……気付いてなかったの? 普通に口に出てたよ」
なんと。エスパーとかじゃなくて純粋に俺の心の声が漏れてただけだったらしい。
俺は照れを隠すように短く咳払いをし、二葉にその事を質問してみた。
「あ、あー……二葉は知ってるのか、倉田が月ノ森に行った理由」
「えっと、月ノ森への憧れと自分を変えたい、からだったかな。それと柊くんが背中を押してくれたから……っても言ってたよ」
「柊がかぁ……」
案の定と言うべきか。先程の予想は当たっていた。まぁ、あの頃は二人で一人みたいなところはあったから当然といえば当然なのかもしれない。
「あいつにとって、倉田ってどんな存在なんだろうな」
「さぁ……? そっちは分からないけど、ましろちゃんは柊くんの事を「人生を変えてくれた人」って言ってたよ」
そりゃまた大きな話だ。
実際のところ本当に柊の中での倉田は何なのか、というのは気になる。本人は昔の俺のような人や似たような性格、としか言わないため分からない。
それこそ誰にも言わない、ずっと隠し通してるだけで恋人なのではないか? と思う程に、だ。
謎が謎であり続けるのは個人的にモヤモヤして嫌なので中学時代に何回かさり気なく質問していたが、話をはぐらかされたり、流されたりされ続けて本人からは聞き出す事が出来なかった。
……柊には悪いが、最近ではもう勝手に恋人同士という認識ではいるが。
「あいつらってさぁ」
ふと頭に浮かんだ事を呟く。
「お互いに依存してるよなぁ。片方が居るから自分も居る、みたいな」
自分でも言葉にしててよく分からない事を言ってると思う。当然だが二葉も同じようで、首を傾げて「んー」と唸っている。
「依存なのかは分からないけど、信頼はしあってるよね。ましろちゃんからたまに話を聞くけど、凄い信頼してる感じが伝わってくるよ」
「あー……それは分かる。お互いの言葉なら絶対に受け入れそうだもんなぁ、あいつら」
いつぞやの文化祭の件とかまさにそうだ。
「今回のライブだってましろちゃんは誰よりも気合入ってるんだ。十中八九、柊くんが関係してるからだろうけど」
それは何となく分かる。分かるというか、さっきのあれを見てれば嫌でも伝わってくる、と言った方が正しいか。
「きっと、ライブで何かを伝えたいんだと思うんだ。ましろちゃんなりのやり方で」
そして拳を握る。
「そんなましろちゃんの為にも、最高の演奏をする為にも、私も頑張らないと……! ましろちゃんの頑張りを無駄にしたくないから!」
「そっか。偉いなぁ二葉は」
拳を強く握り宣言する二葉。俺はそんな二葉の近くに行き、何となく頭を撫でた
因みにだが、別に他意はない。ただ小さい子が頑張ってるようで微笑ましくなっただけだ。
「なっ──!」
しかしそれは本人にとっては地雷だったようで。
「あ、わりぃ。丁度いい場所に頭があったからつい」
適当すぎる言い訳に、パシン! と俺の手を払う。もう少し良い言葉があっただろうけど、考えるより先に出た言葉だ、仕方がない。
そして二葉はというと、そのまま俺を睨みつけて声を荒らげた。
「何それ! 暗に私の事ちっちゃいって言ってるでしょ!」
「いや誰もそんな──否定は出来ないけど」
「ほらぁ!」
上から下まで見下ろして悲しい事に否定する事が出来なかった。
二葉は怒ったまま「もういい! 帰る!」と言い早足で歩き始める。その瞬間に俺はある事を思い出し二葉に声を投げた。
「あ、二葉ー!」
「なに!?」
「ライブの情報とか欲しいからお前の連絡先くれー!」
ラインの画面を開き二葉に見せながら声を発した。二葉は何とも言えない顔をしながら俺の元へ戻ってきて、ラインを交換してくれた。
「──はいっ! これでいいでしょ!? じゃあまた今度!! ばいばい森川くん!!」
「おーーう、じゃーなー二葉ー」
手を振りながら小さくなる背中を見送る。別にそんなに怒らなくても、と思ったが、まぁこれはこれで楽しいから良しとしよう。
「さーて。俺も帰るか」