臆病な僕らは   作:小鴉丸

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13話 ライブに向けて

「──♪ ──……っ」

 

 来週のライブに向けて練習を続ける私達。それは今日も同じで、ななみちゃんのアトリエで練習をしていた。

 

「──うん……うん! いい感じだよしろちゃん!」

 

「ほ、本当?」

 

「うんうん! 本当だよ、嘘なんて言わないよ〜」

 

 ななみちゃんが私に抱き着いてくる。そして私の周りに集まるようにみんなが寄ってきた。

 

「さっすがシロ! やっぱり気合入ってるだけはあるな!」

 

「うん! ましろちゃん凄いよ!」

 

 透子ちゃん、つくしちゃんもななみちゃん同様に褒めてくれた。そして私はオドオドしながらるいさんに今の演奏の評価をしてもらう。

 

「る、るいさんは……今の、どうかな……?」

 

「……いいんじゃないかしら。日に日に音が綺麗になってるもの」

 

 その言葉にるいさんを除く全員が顔を明るくして喜んだ。

 私達の中ではるいさんに認めてもらえばとりあえずはオッケーという感じが出来つつあるのだ。……るいさんとしては少し不服だろうけど。

 

 いつもなら私も満足しているのかもしれない。だけど今回はもう少し上を目指したいと思った。

 

「(ライブは来週……それまでにもっと、私の全力を観せれるようにしないと……!)」

 

 

『──僕は、応援してるから』

 

 

 あの頃から変わった私。そんな私を応援してくれる柊くんの為に、今の……Morfonicaの倉田ましろを観せたい。

 変わりゆく私を、変わるきっかけをくれた柊くんに。

 

「(私は変わったんだ! って、ちゃんと形にして……!)」

 

 子供が親に成長した自分を見てほしい、と思うのと同じような感覚。それが私の場合は対象が違うだけ。

 

 私の中の歯車は動き続けてる。ゆっくり、ゆっくりと未来へ向かって、変わる自分へと向かって。

 

「あ、そういえばさ」

 

 決意を固めていると、透子ちゃんがふと思い出したように言う。

 

「ユイ達ってライブがいつあるか知らないんじゃね? あたしあの時言ってないわ」

 

「あっ、そういえば……」

 

 私もその言葉にハッとなる。「ライブを観て」と伝えただけでいつライブをするのかを柊くんにも森川くんにも伝えてなかった気がする。

 

「そうなの?」

 

「あー……確かにそうかもね。でもしろちゃんはゆーくんの連絡先持ってるでしょ? それなら安心じゃないかなぁ」

 

「……え?」

 

「え?」

 

 ななみちゃんの言った事に私は「何で?」という反応をしてしまう。逆にななみちゃんもだが、それを返すかのような反応をする。

 

「私、柊くんの連絡先知らないよ?」

 

「えぇっ!?」

 

 当たり前、というふうに言った私にななみちゃんは珍しく声を上げて驚いた。それと透子ちゃんもつくしちゃんも驚いていて……そんなにも驚く事かなぁ、と思う。

 

「ほ、本当に知らないの……?」

 

「う、うん……」

 

 柊くんが携帯を持ったのは高校から。それは中学時代に柊くん自身が「携帯は中学を卒業してから買ってもらえる……らしい」って言ってたのを知ってるから。

 クラスの子達は卒業式の当日や何日か前に携帯をこっそりと持って来て、連絡先を交換しているのを見られたが私達はそんな事はしていなかった。

 

 ななみちゃんはガックリと肩を落とす。

 

「え、えっと……ごめんねななみちゃん、力になれなくて」

 

「い、いやしろちゃんが謝らなくてもいいよ……」

 

「んー。でもそうなると困ったなぁ。その日にユイが大事な予定入ってたらどうしようもないし」

 

 私もどう柊くんに連絡をつけるか悩む。ライブをする事しか考えてなかったからこうなる事は考えてもいなかった。

 

「──二葉さんが何か言いたげにしてるわよ」

 

「うぇっ!? ……あー、えっとぉ」

 

 るいさんの言葉でつくしちゃんが小さく手を挙げているのに気付く。

 

「どうしたのつくしちゃん?」

 

「連絡の件なんだけど、私が森川くんに送ってるから心配しなくていいよ、って……」

 

「森川──あぁ、りっくんかぁ。…………あれ? つーちゃんとりっくんって知り合いだっけ?」

 

「(りっくん……)」

 

 ななみちゃんの独特なニックネーム付けを謎に思いながらも私はその意見に身を寄せる。

 

 つくしちゃんと森川くんは前に一回会ったきりだと思うんだけど……。

 

「あ、いや前にましろちゃんと買い物に行った時にたまたま会って、その時に少し色々あったから──」

 

「色々……あ。私達と別れた後に森川くんと連絡先交換したの?」

 

「え……あ、ま、まぁ? あはは……」

 

「?」

 

 目を泳がせる。まるで図星を突かれた、というふうに動揺するつくしちゃんをななみちゃんや透子ちゃんは見逃す訳もなかった。

 

「ふーん? 具体的にどんな事があったんだぁふーすけぇ?」

 

「私も気になるなぁー。つーちゃん、りっくんとどんな楽しい事があったのかなぁ〜?」

 

「べっ、別に何もないから! わぁっもう! 離れてよ〜!」

 

 つくしちゃんの事も気にはなるが、私としてはいつ森川くんとななみちゃんが知り合ったのかも気になるけど……また今度聞こ。

 

 ワイワイとする三人を眺めていると後ろから声をかけられた。

 

「倉田さん。少しいいかしら」

 

「? う、うん……」

 

 いつものように少し離れていた所から見ていたるいさんに急に声をかけられて少し驚く。どうやら話があるらしく、みんなに気付かれないようにアトリエの外に私達は出た。

 

 冷たい風に当たりつつ、少しアトリエから離れるように歩くるいさんの背中を追ってゆく。そしてしばらくしてから、るいさんは話を始めた。

 

「私は今の倉田さんは何処に向かって歩いているのか、それが気になった。今のあなたはまさに感情にしか従ってない。なのにどうしてそう真っ直ぐに進めるのかが分からない」

 

 そのるいさんの言葉は、いつかの時に言われた言葉を連想させた。

 

「同じ感情に従う行動でも“変わりたいからバンドをする”あなたと“柊結人に関係するから変わる”あなたは、似てるようで全然違う。……はっきり言わせてもらうと、弱く不安定なあなたが、先にある困難に臆する事もなく進める理由が知りたい」

 

 感情を優先した事がないるいさんだから出来る質問。あなたは弱いのに、どうして危険を顧みずに進めるのか、という質問。

 

 どうして? と言われても一つの事しか思い付かない。理由どころかある種の束縛に近いような、そうでないような感じはするが、私はその事を心にいつも動いている。

 

「約束、したから。柊くんと……」

 

 そう。ただの約束。

 一つの約束が、私をここまで変えてくれる。進む勇気を、変わる事への自信をくれる。

 

「約束なんて子供みたいね。いつ崩れさるか分からない物に身を、心を委ねてるなんて」

 

 るいさんらしい厳しい言葉。

 

「ふふっ。そうだね。でも私にとっては何よりも大きい支えなんだ」

 

 いつもならたじろいだりするんだろう。だけど今回はそうはならない。

 

「……やっぱり分からないわね。時間を取って悪かったわ、戻りましょうか」

 

 そう言うとるいさんは再びアトリエの方へ戻っていく。私も少し遅れてアトリエに戻った。

 

 戻る最中、雲ひとつない空を見上げ、その日何かが起こる予感を感じながら私は思う。

 

「(ライブまであと──)」

 

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