臆病な僕らは   作:小鴉丸

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14話 Morfonica

「意外と人多いな。流石ガールズバンドの新星って言われるだけはある」

 

 倉田さん達のライブ当日、僕と理人はCiRCLEに足を運んでいた。理人に連れられて来たいつかの記憶が蘇る中、僕らはライブハウスに入った。

 

 理人は既にハイテンションでライブは今か今か、と待ち望んでいる。

 

「楽しみだなMorfonicaのライブ!」

 

「うん、そうだね」

 

 Poppin'Partyの時ほどではないが人が多い。理人が最初に言ったように、流石期待を受けてるだけはあると思った。

 

 だけど、これ程の期待を倉田さんは背負えるのか? こんな大勢の前で歌えるのか? それが僕の頭の中には渦巻いていた。

 でもそれは所詮“過去の倉田ましろ”で“現在の倉田ましろ”ではない。

 

 ザワザワとする中でも少しは耳に入ってくる会話は「ボーカルの子変わった」 「前と比べて全体的に良くなった」など、様々だ。

 

 狭いようで広いこの空間を、一人の少女が引っ張る。その瞬間を僕はただ待つ。

 

「ほんと……楽しみだよ」

 

 

 

 

 

 衣装に着替え終わった私達は控え室でライブが始まるまでの間待機をしている。

 るいさんはいつも通り。透子ちゃんとつくしちゃんは、透子ちゃんがつくしちゃんをからかってるように見える。そして私はというと……。

 

「────ふぅ」

 

「……ほんとーにしろちゃん気合入ってるね〜」

 

「わっ。な、ななみちゃんっ」

 

 ななみちゃんに抱き着かれていた。

 大きな鏡で映る私達の姿はいつもと違う感じがした。

 

「広町さん。倉田さんは集中しているのだから、邪魔になるような事はしない方がいいんじゃないかしら」

 

「んー、それはそうだけど、詰め込みすぎは良くないよ〜」

 

 そう言うとななみちゃんは「うりうり〜」と私の頬っぺたを優しく摘んで上下左右と動かした。

 

「ひやぁ! にゃにゃみひゃんやめへ〜!」

 

「あはは。しろちゃんは可愛いなぁ」

 

 しばらくしてその手を離したななみちゃんは、とてとてと透子ちゃんの場所へ歩いていった。私は頬を手で擦りながらその姿を何となく眺めていた。

 

「ななみちゃんは相変わらずだなぁ」

 

 入れ替わるようにつくしちゃんが私のもとへと来る。

 

「それに少し慣れてきてる自分が居る気がする……」

 

「あははっ! でもそれもいい変化なんじゃないかな」

 

 笑顔で話しかけるつくしちゃんと違って、私は微妙な表情だ。

 

「ななみちゃんなりに緊張を解してくれてるんじゃない?」

 

「それは……何となく分かるけど……」

 

「……ましろちゃん、大丈夫?」

 

 更に曇ったのだろう、私の表情をつくしちゃんは覗き込む。

 きっと昔の私ならここでその曇りを振り払えなかっただろう。……だけど、今は違う。

 

「うん、大丈夫だよ。みんなが支えてくれるから、大丈夫」

 

「そっか」

 

 顔を上げ言うと優しく微笑んでくれる。

 

 そんなやり取りの後、るいさんがスタッフの人と話しているのが見えた。おそらくもう時間なのだろう。

 

 私は目を閉じて胸に手を当てた。

 今までの良い事も、辛い事も全て今の私を形成してくれる。昔とは違う私を、変わりゆく……いや、変わった私を観せるんだ。

 

 椅子から立ち上がりみんなを見渡す。それに気付いたみんなが目を合わせてくれる。

 

 胸が暖かくなるのを感じながら私は踏み出した。

 

「──行こう」

 

 あの時の約束を形にするために。

 

 

 

 

 

「来たぜ柊」

 

 理人が見つめる先──ライブステージの上には五人の人影……倉田さん達(Morfonica)が立っていた。

 その中心に居る倉田さんがマイクに手をかけ、一呼吸置いてから話し始める。

 

『こ、こんにちはMorfonicaです……っ!』

 

 ……あまり意識した事がなかったけど女の子は着る服一つで大きく変わるなぁ、と思った。中学の制服を見慣れてる僕としては高校の制服もだが、今見に纏ってるMorfonicaの衣装もとても違和感を感じた。

 何と言うか、むず痒い……のかな。言葉にしにくいがそんな感じだ。

 

『今日は私達のライブに来てくれてありがとうございます! えっと……えーっと、が、頑張りますっ!』

 

 倉田さんの挨拶……だろう、きっと。言葉に悩んで無理に終わらせた感が凄いが、二葉さん達が後ろでフォローしてるのが見て分かった。

 

 オロオロとしてた倉田さんは再びマイクを握り、今度はハッキリとした様子で話し始めた。

 

『──今日のライブはあの頃から変わった私達を観せたいから開きました。少しずつ、私達は私達なりに変化して、進んでいます。……なのでみなさんに観てほしいです』

 

「(……っ)」

 

 一瞬で、変わった。倉田さんの持つ雰囲気が急に変化したのが感じ取れた。

 

 バンドを始めたから、じゃないのだろう。信じ合える仲間が増えたからだ。きっと支える、支え合える存在が出来たから安心して前を向いて歩いて行ける。

 

 ──今の倉田さんは一人じゃないんだ。

 

「(じゃあ、僕は……)」

 

 ズキッ、と胸が傷んだ。

 

「?」

 

『それでは聴いてください。一曲目──』

 

 謎の痛みを感じてる間に一曲目が始まった。

 

 変化を纏った倉田さんはただ前を見ながら歌う。綺麗な透き通る声で、この空間を魅了する。

 

『──♪ ──♪ 』

 

「すげぇ……すげぇよ倉田! それにあいつも──! なぁ柊! ……柊?」

 

 それでいて力強く、音は遮られる事なく、僕の心に刺さる。

 

「……え。あ、あぁ、うん。凄いね倉田さん達」

 

「だよな!? やっべ、テンション上がるぜ!」

 

 楽しみにしていたライブ、応援をしていたライブ、なのに違和感が抜けない。

 

『──♪ ──♪』

 

 あの時のように心は高鳴る。しかし何かが違う。

 

『──!』

 

「っ」

 

『……──♪』

 

 ステージ上の倉田さんと一瞬だが確かに目が合った。倉田さんは短く微笑み、再び歌うのに専念する。

 

 倉田さんは僕が見上げる位置に居る。見上げるような場所に居る。同じ場所に並び立つのは、困難なのではないか。

 

 見せ付けられた現実。僕とこの少女は違うという現実。ハッキリと、このライブで線引きされてしまった。

 

「……本当に変わったよ」

 

 変わる君を応援した僕が自分で自分にダメージを受けるなんて、面白い話だ。

 

 ステージで歌う少女に僕はこう呟く。

 

 

 倉田さんは眩しいね……。

 

 

 

 

 

 

 

「(柊くんが観てくれてる……!)」

 

 色んな人が観てても緊張なんてない。私はただ、それだけでやる気が溢れてくる。

 

「(観てて、これが今の私なんだよ──っ!)」

 

 心を、想いを込めて私は歌う。

 

 

 届け──私の──!

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