臆病な僕らは   作:小鴉丸

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17話 曖昧な気持ち

 ──身体が重い。そう思いながら学校へ向かう朝。そうなる原因は分かりきってる。

 

「(失望されたよね)」

 

 あんなにも一緒だったのに、言葉一つでああも全てに裏切られた表情をされて……。

 

 一昨日の倉田さんの表情が頭から離れない。昔は隣で笑顔を見せてくれていた少女の初めて見る顔。今にも泣きそうな、そして崩れそうな顔。それがどうしようもなく僕の心に刺さった。

 

「よっ柊」

 

 後ろから声をかけられる。その声は今の僕の心境とは真逆に明るく、いつも通りの調子の声。

 

「り、理人……おはよう」

 

「おう、おはよー」

 

 一昨日の事など知らないかのようにいつも通りすぎる挨拶。きっと気を使ってくれてるのだろう。理人はそういうやつだ。

 

 席に座りお互いに何変わることなく一日を過ごした。休み時間、昼休み、掃除の時間……それぞれいつものように、他愛のない会話をしながら過ぎていった。

 

 その間、一昨日の話題は全く出ていない。

 触れなければこのままなのだろうか? でもそれは少しモヤモヤする。……別に触れてほしい訳ではないのに、触れられないのはそれはそれで変な気分になる。

 

「……この前は、ごめん」

 

 その結果自分から触れてしまった。

 間接的にでも理人に嫌な思いをさせてしまった事は確かだ。だから一度謝ろう。

 

 ……そんな事しても意味無いのは分かってるのに。

 

「悪いとは思ってるんだな」

 

「……うん」

 

 帰宅途中の足を止め理人は応えてくれた。そのまま「寄り道するか」と言い、近くにある公園の方を親指で指した。

 

 近くの公園のベンチに向かい、お互い腰をかけた所で理人は話を切り出した。

 

「で? お前は何であんな事言ったんだ?」

 

「…………」

 

 質問に黙り込んでしまう。

 頭の中では後悔している。グチャグチャと思考が交差する。それはきっと、僕の心が弱いから……。

 

 黙り、俯く僕に理人は確信を突く言葉を投げる。

 

「──怖いか? 倉田が。お前の目に映った、変化しゆく倉田ましろが」

 

「──っ」

 

 “怖い” 確かにそうだ。だってステージ(あそこ)に居た少女は僕の知ってる倉田ましろではなかったから。あんな堂々と声援()を受けて立ち、歌う少女なんて僕は知らない。

 

「怖い、よ。だってあそこに立っていた少女を僕は、知らない……」

 

 僕の中の“倉田ましろ” とMorfonicaの“倉田ましろ” の完全なる別人。そう区切りが生まれた。

 

「容姿、声が同じだけで別人だったんだよ? 怖いよそんなの」

 

 無意識に自分の手を握りしめる。

 

「なぁ柊。本当にあいつは変わってたのか? 本当にあれはお前が知らない奴だったか?」

 

 確認といった風に聞かれるが、何当たり前な事を聞くのだろう、と内心思った。

 

 それに対し少し棘のある言い方をしてしまう。

 

「別人だよ。今言ったじゃないか」

 

「……そっか。別人、別人か。ま、それが聞けただけでいいや」

 

「? 理人?」

 

 ベンチから立ち上がると理人は「帰るぞー」と言いつつ公園を出る。

 

「え、ちょ。待ってってば!」

 

 僕も慌ててその後を追う。

 

 何か含みのある言い方にも思えたが、その時の僕は探ろうとしなかった。

 それを探った所で僕に何の得がある、理人は必要以上に人と干渉しない。それは僕がよく知ってる。

 

「おせーぞ柊ー」

 

「理人が早いんだって!」

 

 

 

 

 

 そう、理人は必要以上に干渉してこない。その時の僕はそう思っていたのだった。

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