──身体が重い。そう思いながら学校へ向かう朝。そうなる原因は分かりきってる。
「(失望されたよね)」
あんなにも一緒だったのに、言葉一つでああも全てに裏切られた表情をされて……。
一昨日の倉田さんの表情が頭から離れない。昔は隣で笑顔を見せてくれていた少女の初めて見る顔。今にも泣きそうな、そして崩れそうな顔。それがどうしようもなく僕の心に刺さった。
「よっ柊」
後ろから声をかけられる。その声は今の僕の心境とは真逆に明るく、いつも通りの調子の声。
「り、理人……おはよう」
「おう、おはよー」
一昨日の事など知らないかのようにいつも通りすぎる挨拶。きっと気を使ってくれてるのだろう。理人はそういうやつだ。
席に座りお互いに何変わることなく一日を過ごした。休み時間、昼休み、掃除の時間……それぞれいつものように、他愛のない会話をしながら過ぎていった。
その間、一昨日の話題は全く出ていない。
触れなければこのままなのだろうか? でもそれは少しモヤモヤする。……別に触れてほしい訳ではないのに、触れられないのはそれはそれで変な気分になる。
「……この前は、ごめん」
その結果自分から触れてしまった。
間接的にでも理人に嫌な思いをさせてしまった事は確かだ。だから一度謝ろう。
……そんな事しても意味無いのは分かってるのに。
「悪いとは思ってるんだな」
「……うん」
帰宅途中の足を止め理人は応えてくれた。そのまま「寄り道するか」と言い、近くにある公園の方を親指で指した。
近くの公園のベンチに向かい、お互い腰をかけた所で理人は話を切り出した。
「で? お前は何であんな事言ったんだ?」
「…………」
質問に黙り込んでしまう。
頭の中では後悔している。グチャグチャと思考が交差する。それはきっと、僕の心が弱いから……。
黙り、俯く僕に理人は確信を突く言葉を投げる。
「──怖いか? 倉田が。お前の目に映った、変化しゆく倉田ましろが」
「──っ」
“怖い” 確かにそうだ。だって
「怖い、よ。だってあそこに立っていた少女を僕は、知らない……」
僕の中の“倉田ましろ” とMorfonicaの“倉田ましろ” の完全なる別人。そう区切りが生まれた。
「容姿、声が同じだけで別人だったんだよ? 怖いよそんなの」
無意識に自分の手を握りしめる。
「なぁ柊。本当にあいつは変わってたのか? 本当にあれはお前が知らない奴だったか?」
確認といった風に聞かれるが、何当たり前な事を聞くのだろう、と内心思った。
それに対し少し棘のある言い方をしてしまう。
「別人だよ。今言ったじゃないか」
「……そっか。別人、別人か。ま、それが聞けただけでいいや」
「? 理人?」
ベンチから立ち上がると理人は「帰るぞー」と言いつつ公園を出る。
「え、ちょ。待ってってば!」
僕も慌ててその後を追う。
何か含みのある言い方にも思えたが、その時の僕は探ろうとしなかった。
それを探った所で僕に何の得がある、理人は必要以上に人と干渉しない。それは僕がよく知ってる。
「おせーぞ柊ー」
「理人が早いんだって!」
そう、理人は必要以上に干渉してこない。その時の僕はそう思っていたのだった。