「は、初めまして……っ! 倉田ましろ……です!」
「え、あ、うん。初めまして……柊結人です」
それは中学一年生での最初の思い出。
小学校を卒業して、新しい環境での生活が始まり不安だった私が勇気を出して動いた日の記憶。
とりあえず隣の席の人と自己紹介、という事から始まった私の中学生生活は、隣の席に座っていた男の子──柊 結人くんに話しかける事から始まった。
第一印象は静かな人だな、と思った。
その予想は的中。小学校の時の知り合いだろうか、親しげな雰囲気な人と話している時や、このクラスで初めて会ったややハイテンションな人と話す時も一定のリズム……決して相手に流されないで自分の調子で話していた。
私との挨拶の時だってそうだ。
慌てる私とは全く違って、少し呆気に取られたものの普通に挨拶を返してくれた。きっとそれが普通なんだろうけど、私にとってはとてもすごく思えたのだ。
そんな出会いをした私達の関係は中学生三年間ずっと続いていた。
休みの日や学校行事、グループワークなどでクラスの女の子とも一緒に居たが、それ以上に私自身は柊くんと居た時間が長かったと思う。
二年生の修学旅行では退屈そうにしていた柊くんと自由行動の時ずっと一緒に行動をしていた。文化祭は空き教室で寝ていた柊くんを見つけて、クラスに連れていった。その後は二人で他のクラスの屋台などを見て回った。
三年生になってからは受験でクラスの雰囲気がピリピリとする中、柊くんだけはいつも通りに過ごしていたのを覚えてる。
「柊くんは高校どうするの?」
「え? あー……静かなところがいいかな。ほら、名前忘れたけど近くにある高校」
「近く……でもそこって男子校じゃなかった? 静かとはかけ離れてそう……」
「いやいや。男子って案外、つまらなそうな人間はほっといてくれるもんだよ。そう考えると男子校が楽」
「ふふっ、柊くんらしい」
「……そういう倉田さんは?」
「え。わ、私?」
「うん」
まさか聞き返されるとは思ってなかったから少し驚いてしまった。
「えっと……まだ決めてない、かな」
「ふーん……。ま、別に焦る必要もないと思うけどね」
その時の私はまだ曖昧な考えしか持っていなかった。ハッキリと「ここに行きたい」という場所が見つからなかったのだ。
だけどそれは、柊くんの一言によって変わったのである。
「僕は何もないから適当に選んだけど、倉田さんは何か夢とか目標……みたいなのあるでしょ。……いや知らないけどさ。もしもそういうのがあるのなら、それに向かうような所に行けばいいんじゃない」
「夢……」
普通に考えれば誰だって自分の望む未来を手にする為に、その道に近付く為に進路を選ぶ。しかし当時の私はそれが怖かった。
いくら良い未来を想像したところで本当にその未来に辿り着けるのか? その行動は、その努力は、無駄になるのではないか? と何故かマイナス面に考えてしまっていたから。
「僕が言っても説得力はないけど、倉田さんはきっと大丈夫。どこへ行ってもちゃんとやれる……と思う」
本人にとっては何でもない言葉だったのだろう。だけど、その言葉は、私を背中を押すには十分過ぎる言葉だった。
「うんっ。ありがと柊くん」
「ん」
その時、私に一つの目標が出来た。
目標というか夢というか、自分が思い描く自分に近付きたいと思った。
前向きに、誰かの支えになる……今の私とは正反対の自分に。
そう決めてからの行動は順調に進んだ。
憧れから選んだ名門 月ノ森女子学園。そこに進学すると言った時にはクラスメイトや家族から驚かれたものの、止められたり反対はされなかった。
むしろ家族は「ましろが決意を持ってそこに行くというのなら、私達は応援する」と言い背中を押してくれた。
そうして、後先考えずに行動していた私は月ノ森女子学園の受験に合格。柊くんも何事もなく
私達の合格が決まってからは卒業式まであっという間だった。正確に言うなら、いつも通りに過ごしていたら卒業式になっていた。
式が終わりクラスでそれぞれが友達との別れを悲しむ中、柊くんはやはり自分のペースを乱さないまま席に座っていた。
「柊くん、卒業おめでとう」
「うん。倉田さんもおめでとう」
窓の外、桜を眺めながら返事をされる。
相変わらずだなぁ、と思う私はある事に気付く。
机の横に掛けられた鞄に先程貰った卒業アルバムがもう入れられていたのだ。きっと柊くんの性格上、先生が言っていた一言メッセージをやりたくないからだろう。
そのアルバムを見てある事を思い付いた私は、ゆっくりと鞄からアルバムを抜き取り最後のページにメッセージを書いて、再び鞄へ戻した。
最後の先生の話も終わり生徒が徐々にクラスを出ていく中、柊くんはみんなが出るまで何故か席を立とうとしなかった。
そして教室が私達だけになった時にようやく席から立ち上がり……。
「──よし。それじゃあ倉田さん、今までありがとう。これから頑張ってね」
突然言われた。
何だか、柊くんなりに言葉に表してくれて嬉しく感じてしまう。
「こちらこそありがとうだよ。頑張るのは柊くんも、じゃないかな」
「僕は変わらないよ。ずっと同じさ」
その言葉に少し笑ってしまう。確かに柊くんは大人になってもずっと変わらない感じがした。
「それじゃあ私も──」
と、そこで私は留まり、そして──。
「──私は、頑張るよ。頑張ってみる」
自分の決意を口にした。
「…………そっか」
鞄を手に取り、柊くんは教室の出口へとゆっくりと歩く。私の横を通り過ぎ出口に着いたところで、くるりと私の方へ振り向いて。
「じゃあ、さよなら倉田さん」
“さよなら”と、まるでお別れのような言葉を使われる。
それに対して私は。
「うん。またね柊くん」
反発するかのように“いつかまた、きっと会う”と意味を込めて返事をしたのだった。
……それが私の中学校で出会った柊 結人という少年。そして、私の中学校での思い出。
そんな私は現在高校生となり、また新たな環境でのスタートを迎えた。
「柊くん……」
名前を呟き、開いていた卒業アルバムを閉じて棚へ戻す。
不安はもちろんある。だがその中で新しい出会いがあり、関係も増え、そして……変わることの出来る場所を見つけた。
そこで私は変わるんだ。臆病な私からきっと──。