「(さて、どうしたものか)」
あの後ゲーセンに行き適当に時間を潰していた。気分転換……と言っていいものか、まぁ程よい時間になったので、帰るために電車に乗っている時にある事を考えていた。
『別人だよ』
頭の中で繰り返されるのは先程の柊のあの言葉。その言葉が俺には引っかかる。
どうして柊自身、倉田の変化を望んでるのにそれを恐れるのか。何故恐れているのにも関わらず応援をしていたのか。色々と矛盾しすぎている。
それに理由を知ろうとすると拒絶という手を取り壁を作ってしまうから尚のことタチが悪い。
「(ほんっとガキなんだよなぁ、あいつ)」
頭を掻きながら思う。
ガキというか子供というか……いや、同じ意味だけども。普段は大人しくて年に合わない冷静さで、周りからは大人びてるだなんて言われたりもするけど、実際はなぁ……。
「……ん?」
小さくため息を着いたところで俺は見覚えのある顔があるのに気付く。周りよりもより小さいその影に近付いて、肩を叩いて声をかける。
「よっ」
「わっ。……も、森川くん?」
「おう」
その影であった少女、二葉は驚いたような顔を俺に向けたのだった。
電車から降り、暫く歩いた所にある自販機前で俺達は止まっている。それはある質問のためで……。
「お茶でいいか?」
「う、うん──って! も、申し訳ないよ! それくらい自分で……」
「いやいいって。何か、あったんだろ」
自販機のボタンを押しガシャン、とお茶が落ちてくる。その音、質問と共に二葉はピタリと大人しくなる。恐らく的を射たのだろう。
自販機近くのベンチに腰を下ろし二葉は、倉田のようにどこか暗い表情をする。電車で見かけた時もその顔だったから想像は容易だ。この手の人間が落ち込むなんて、よっぽどの事があったのだろう。
近くの柵に体重を預けながら俺は買った飲み物を一口含み、二葉に聞く。
「何だ、そっちで厄介事でも起きたか?」
「…………」
「……どうせ倉田だろ」
こくりと頷く。
「はぁーーっ。まぁだろうな」
あいつが相当なダメージを受けてるのは知ってた。通話の時の声のトーンといい何といい、あいつら自分で自分を傷付けてるからどうしようもない。
それでいて周りの事はあまり考えてないっぽいからなぁ。どういう神経してんだか。
「そ、それに」
「んあ?」
呆れていると二葉がボソリと呟く。
「こ、今回は私も原因が……ましろちゃんに余計な事言っちゃったから……」
「余計な事? 何言ったんだよ」
「えっとね──」
聞いたら聞いたでそれはとてもしょうもない事で、ため息すら出てしまう。
「……何だそれ、バカかよ」
「うっ。そ、そうだよねバカだよね──」
「いや二葉の事じゃなくて、倉田がだって」
「え?」
目を丸くする。
「あいつなんかより俺の方が柊の事は知ってるし。別に柊はあいつの物じゃねぇし」
「……森川くんの物?」
「アホか」
「うわぁっ! やめ、やめてよっ!」
バカな事を言う二葉の髪をノータイムでぐしゃぐしゃと掻き回す。両手で抵抗されるが、男の俺に叶うわけなく流れるままにされてしまう。
一通りした所で頭から手を離して二葉を見下ろす。
「不用意に刺激してしまったのは確かに悪い。だけどな二葉。これだけは覚えとけ」
それはいつかの自分に重ねてしまう。俺はあいつとそう言い合ったことはないが、一番大事なことはアドバイス出来る。
「倉田を支える側のお前がそんな顔するな。あぁいう時、隣に誰かが居るだけで救われる奴だっているんだ」
「救われる……」
「それにお前は笑ってないとな、そっちの方がお前らしい。それと笑顔が似合ってるしな」
「ぅえ!? えっ、ぁ、うん……! そ、そうだね元気出さないと、ましろちゃんがもっと暗くなっちゃうし!」
……何気に失礼な事言ってないか? 間違ってはないからあまり言えないが。
「そうそう。お前はそうやって小さいなりに頑張ってる方が似合うぜ」
「だーかーらー! 小さいって言わないでよ!」
椅子から立ち上がり俺の目の前に立つ。ムスッとした顔はほんと子供っぽく感じて思わず笑ってしまう。
「おー? じゃあこれ届くかー?」
椅子に置いてあったお茶を手に取り、二葉の頭の上にぶら下げる。
「とっ──! どくっ! もんっ!」
小さな体を必死にぴょんぴょんと跳ねさせる姿は眺めてて癒される。
「(ウサギかよこいつ)」
「はぁ、はぁ……っ。と、取れたよ! ふふん、こ、これで私の事見直した!?」
数分後、あまりにも諦めないから慈悲──手加減として少し高さを下げてやったのだ。そうしたら案外とあっさり取られてしまった。
息は大分切れてるが……。
「頑張ったなー、偉いぞー。えっと……偉いぞーつくしー、よしよしー」
今度は先程とは違い優しく頭を撫でる。
「ぁ、あう……」
何故か下を向き急に大人しくなってしまう。
「〜〜っ! 帰る!!」
大人しくなったと思うや矢先、二葉は振り返り早歩きで去っていく。……何か前もこんなんだったな。
だけど俺はある事に気付く。
「っておい待て二葉! これ──」
「いらない! でもありがとう、ご馳走様でした!」
「え、いや……そういうんじゃなくて! くそっ、聞こえてねぇ……」
更に小さくなりゆく背中を見ながら俺は手元に視線を下ろす。そこには二葉が飲んでいたお茶が握られていて──。
「いや……どうすんだよ、これ……」
どうする事もできず、その場で立ち尽くしていた。