臆病な僕らは   作:小鴉丸

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19話 交錯する想い(前編)

「今日の練習──」

 

「あのバンド凄いよね! それに──」

 

「ロゼリアの前のライブ観た? 凄かったんだよ──」

 

 すれ違う女子の会話が耳に入る。その会話は全部同じ内容で、その女子達は決まって何かしら大きな物を背負っている。

 

「…………」

 

 笑顔で、明るい。高みを望んで歩いている少女達が眩しくて距離を取ってしまう。少しでも声が聞こえない場所まで、少しでもその雰囲気が届かない場所まで、と。

 

 僕には関係ない。そう割り切ってる筈なのに引っかかってしまうのは倉田さんの影があるから。僕の知る倉田さんを変えてしまったその存在が、僕は恐ろしくなってしまっていた。

 

「──あ」

 

 どうしてそのような会話をする人が多いか、少し不思議になっていた。街に出歩いてもここまで四方八方から聞こえることはまず無い。それでは何故? と考えたところで僕はある事に気付いた。

 本当に無意識だった。ただ何となく、散歩をしていたつもりだったのにライブハウスへ繋がる道を歩いていた。

 そりゃその手の話が聞こえてくるはずだ。

 

 一度立ち止まり、来た道を引き返すために僕は振り返る。身体を反転させるとそこには誰も居ないと思っていたが、女性が一人立っていた。

 

「おわっ、と」

 

「すいません、こちらの不注意でした。──あら?」

 

「?」

 

 黒髪の僕よりも身長が少し高い、それでいて何処かで見覚えのある……。

 

「貴方、確か倉田さんの──」

 

「……あ」

 

 思い出した、この人はMorfonicaの一人だ。確か名前は八潮瑠唯さん。どことなく近寄り難くて、苦手なタイプという印象がある。

 

「──この先に用があるのでしょう。どこへ行くつもりなのかしら」

 

「別に……用なんてないですよ。道を間違えただけです」

 

 八潮さんを通り過ぎようと一歩踏み出す。が、それに合わせて八潮さんは僕に向かってある言葉を投げかけた。

 

「貴方も目を背けるのかしら。目の前の世界(現実)から」

 

「……っ」

 

 僕にはその言葉が痛いくらいに刺さる。見透かされた用な視線に、全て分かってるかのような声に、僕は足を止めてしまう。

 

「背けてなんか……というか、何が分かるんですか。何も知らないのに知ったような口を聞かないでください」

 

 苛立ちを覚えてしまい睨んでしまう。だけど、それが間違いだったのかもしれない。

 僕の目線の先、少し上の位置には小さな僕を見下ろす八潮さんが当然居た。身長もだがそれ以上に、何か嫌なものを感じてしまう。

 

 言動、立ち振る舞いからそれは感じ取れる。自分を曲げない、絶対的な形を具現している。それは自信となり、そして己自身と変わる。

 

「……そうね。私、貴方に聞きたいことあるの。知らないから聞きたいこと。よろしければ少し時間いいかしら」

 

 と、それまで警戒をしていた僕は突然の言葉に気が微かに逸らされてしまった。

 

「別に、いいですけど……」

 

 断ろう。そう思っていたのに実際に口から出た言葉は真逆のものだった。

 

「それじゃあ席が空いてるからあそこに」

 

「え、あ……」

 

 僕の方を見る事なく言い放ちスタスタと歩く八潮さん。……ほんと、この人は苦手なタイプで間違いがないようだ。

 

 

 

 

 

「──さて。聞きたいのは他でもない、倉田さんについてよ」

 

 まぁそうだろうな、わざわざ僕を捕まえてまで聞きたい事、それ以外ないだろう。

 

「あの子は貴方との約束とやらで強く振る舞えてたの。でもその約束は他ならぬ貴方によって破られた。可笑しいわよね、支えを失った倉田さんは崩れたわ」

 

 “約束” というのは恐らくあの事だろう。それを僕は破った。……逃げるような言い方だ、自分を正当化しようと逃げるような。

 

 ため息をつきながら八潮さんは続ける。

 

「本当いつかの倉田さんに逆戻り。そりゃそうね、元が脆いのにその上に不安定な壁を張ってるんだもの、それでよく今まで耐えたものだわ」

 

「壁……?」

 

 視線を落とし流しかけるように聞いていた僕はある言葉に反応する。顔を反射的に上げ視線が交差すると、八潮さんは少し……ほんの少しだが表情が変わった気がした。

 

「えぇ壁よ。ハリボテと言っても大差ないわね。貴方が気付いていたか、それは知らないけど」

 

 壁、ハリボテ……。

 不思議な言葉を使い倉田さんを表す八潮さん。まるで形だけが作り物のような──。

 

「……あの変化が、僕に見せるだけの作り物だとでも……? そんな事ない、人はそう簡単に変われるはずが──」

 

 自分の弱い部分が動揺で漏れてしまう。

 変化を求め、変化を否定するバカみたいな僕の願い。その本当の意味。

 

「あら、分かってるじゃない」

 

「──え」

 

 僕の言葉を肯定すると、最初からそれが目的だったかのように立ち上がり「それじゃあ失礼するわ。この後練習があるの」と言い残し八潮さんは僕を置き去って行く。

 

 僕が暫くそこから動かなかったのは言うまでもない。動かなかったというより動けなかった、が正しいのかもしれないが……。

 

 それから少し経った時、僕は携帯を取り出し理人に電話をかけた。

 

「──あ、ごめん理人。ちょっとお願いしたい事があるんだけど……」

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