毎回その日が来るとどことなく憂鬱になる月曜日。小学校の時はそうでもないが、中学高校となると理解出来る。そして帰宅部なら尚更そう思えるだろう。自宅という聖域から足を踏み出すことへの気だるさを。
そんな気だるさを背負いながらも僕は高校の正門を通り、下駄箱へと向かう。そして靴を履き替え自分の教室へ足を進めた。
教室に着いた後、中へ入るとクラスメイトが挨拶をしてくる。
「おはよー柊ー。相変わらず暗いなー」
「おはよう。相変わらず暗いよ」
と、いつもの様に適当に返事をしながら自分の席に行く。
「おっはよー! 柊!」
「…………」
「うわやめろよ、そのあからさまに嫌そうな表情」
「分かってるならそういうのしないでよ」
ある人物が僕の席の前に立ち塞がっていたので手で払うような仕草をする。特に歯向かうわけでなく素直に退いてくれたので、席に座り話しかけた。
「で、何? いつもに増して愉快だけど」
「ふっふーん。そうか? そう見えるか? まぁな、良い事があったからな、これは誰かと共有したいなー、って思って──」
めんどくさいやつだ。
そう思うや否や、胸ポケットに入れていたイヤホンを取り出し耳に付けようとすると、すぐさま話を切り僕を止めに入る。
「あぁっ! 待って! ごめん! 俺が悪かったから!」
「……で? 良い事って何なの
「ふっふっふ……聞いて驚くなよ!」
大袈裟に前ぶりを入れてから話を始めるこの人物は森川理人。小学校からの付き合いで、僕がこんな性格になった後でもずっと絡んでくれる物好き。
そんな物好きこと理人は、自分の鞄から一枚のチラシを取り出して僕の机に叩き付けた。
「これに行ってきたんだ!」
“これ”というのはチラシに書いてあるイベントの事だろう。
チラシには色んな女の子が楽器を持って写っていて、その真ん中には──。
「ガールズバンド、パーティ……?」
大きくそう書かれていた。
僕の呟きに反応したクラスメイト数人が席に寄ってきて理人の持ってきたチラシを見る。
「へぇ〜! 柊ってガールズバンド興味あったのか! 意外だなぁ!」
「いやいや、僕じゃなくて」
目の前に立つ理人に指を向けながら否定を入れる。
「俺が行ってきた! 最高だったんだぜ!」
「マジか〜。部活さえなければ俺も行きたかったんだけどなぁ……」
「ふっふっふ……あれに行けなかったのは後悔するぜ。もうなんて言えばいいんだろうな、とにかく良かった!」
理人を中心に盛り上がり始める周囲。
話についていけない僕はというと、本を取り出して静かに読書を開始する。
……話すのはいいけどここ僕の席なんだけどなぁ、というのは当然黙っておく。
「俺、ハロハピのライブめっちゃ好きなんだよなぁ。どんな事が起きるか分からない楽しさっていうか、こころちゃんの行動がハチャメチャすぎて好きなんだよ」
「俺は断然アフターグロウ! キーボードの羽沢つぐみちゃん可愛すぎね!? 俺あの子が働いてる珈琲店行ったことあるけど、ライブ中と全く雰囲気違うんだよ。あぁいう子ほんと惹かれるぜ」
「何言ってんだロゼリアが1番だろ。白金さんのおっぱ──」
「なぁーに言ってんだ、パスパレだろぉ? 彩ちゃん可愛すぎてヤバい」
……一体何話してんだ。というのが最初に思った感想。
話の矛先が理人に向いてくれて良かったと心の底から思う。
しばらくして、それぞれの話を聞いた理人が満を持して、といった様子で口を開く。
「他のバンドも良いがポピパもいいんだぜ? キラキラドキドキ……戸山さんが言う言葉の意味がハッキリと伝わってくる。あのライブは胸が高鳴る……っ!」
言い終えると共に拳を強く握り締める。
気付けば理人を中心としたその“ガールズバンド”についての話は、僕のクラスのほぼ全員が参加する程大きな話となっていた。
「(というかガールズバンドって何)」
そんな中、そもそもの話のメインを全く知らない僕はひっそりと身を潜めていたのだった。
騒がしい朝が終わり現在は昼。僕と理人は出入り自由な屋上の片隅でご飯を食べつつ朝の続きを話して──いや、一方的に話されていた。
「──それでさそのポピパが」
「はいストップ」
「お? どうした?」
何で止められたか分からないといった様子の理人は首を傾げる。
「ガールズバンドって何?」
「──は?」
僕の言葉に驚愕したのか、理人は先程食堂で買ったパンを地面に落としてしまい、そのまま固まってしまった。
「……おーい理人ー? パン落ちたよー?」
「…………」
「(おぉ、見事に固まってる)」
目の前で手をブンブンと振るもののピクリとも動きはしなかった。このまま待っててもしょうがないので自分のご飯を食べようと箸を握ったその時だった。
「お前本気で言ってんのか!?」
「うわっ!?」
急に動かれたから逆に驚いてしまう。
「お前この大ガールズバンド時代にガールズバンドを知らないって言うのか!?」
「……いやだって──」
「だってじゃない! ……よし決めた。次の土曜日、予定空けてろよ。ライブ観に行くぞ」
「はぁ?」
勢いのまま不思議と話が進んでしまう。それもバンドを観に行く、という変な方向に。
休日は平和に家で過ごしたいのに……。
「いやいや。分かんないけどイメージからして、バンドって人が多いんでしょ? 嫌だよ、人酔いしそうだし。何よりそれは理人も知ってるでしょ?」
「ん〜〜! でも観てほしい! お前にガールズバンドを……ガールズバンドの良さを知ってほしい!」
昔からの付き合いだから何となく分かる。この状態の理人はちょっとやそっとじゃ身を引いてくれない。
というか、何回言い返しても僕の方が後々折れるというのが分かりきってるから、僕が身を引くしかないのだが……。
「…………じゃあ、観るだけ」
「マジか! やった──」
「ただし!」
喜ぶ寸前で条件を付け加える。
「一組だけしか観ないから。そこはちゃんと了承して」
「あぁ、一組だけでも観てもらえると良さが伝わるからな。それで十分だ」
そう言うと理人はスマホで何かを確認し始める。何やらブツブツと独り言を言っているが、多分大丈夫だろう。
それはそうとバンド……かぁ。“ガールズバンド”と言うくらいだから女の子達がバンドをするのだろうが、何だろう、あまりイメージが湧かない。
僕とは無縁の世界。そんな世界に魅力を感じるとはとても思えないのだが、クラスのほぼ全員が賑わう程のものなら少なからず興味はある。
きっと、人を惹きつける“何か”がそこにあるのだろう。
「絶対に柊をガールズバンド沼に落としてみせる……!」
「分かった分かった。ほら、それもいいけど早く食べないとお昼終わるよ」