臆病な僕らは   作:小鴉丸

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4話 ガールズバンドと不思議な少女

「はい! やって来ましたライブハウス CiRCLE! テンション上がるなぁ!」

 

「上がってるのは理人だけだよ……」

 

 天気は快晴。『お散歩するにはいい天気です』とテレビで言われているくらいにはいい天気の今日。僕は理人に連れられて人生初のライブハウスなるものに来ていた。

 これに関しては案の定だったが、ライブハウスの外に居るのにも関わらず人の多さで既に酔いかけている。

 

「……ライブって何時からだっけ?」

 

 外にある椅子に腰をかけつつ理人に聞く。

 

「14時からだな!」

 

 ガヤガヤと騒がしい周囲に負けないくらいの声を一人で出す。現在、僕と理人のテンションの差は天と地、それくらいの差はあるだろう。

 

「あと一時間弱……ごめん理人、僕もう少しここに居るよ……」

 

 座るのすらキツくなった僕は椅子の近くにあるベンチに移動し横になる。そんな僕を見慣れてる理人はいつもの様に「飲み物買ってくるわー」と僕に荷物を預けて場を離れた。

 

 こういうところ理人は本当に気が利くと思う。

 

「(それにしても……)」

 

 ベンチに横になったまま広場の方を見る。ガヤガヤと騒がしいそこは、まるで休日の大型ショッピングモールを連想させられた。

 眺めてて思ったのは男子も当然居るが、それ以上に女子の数が多いという事だ。理人が言っていた“ガールズバンド時代”というのもあながち間違ってはいないらしい。

 

 それと当然だが、そんな場所に居るのに列に並ばず端にあるベンチに横になってる僕に一度視線を向けるのはごく普通の行動だろう。

 その人物が自分らを見ているのなら、尚更視線で何事か、と思う。

 

 その視線から逃げるからのように僕は上を向き、目を手で隠し太陽の光を遮る。

 そのまま目をつぶると、先程よりも音が聞こえてきてどれだけこの場に人が居るのかを再認識させられてしまう。

 

「(……ん?)」

 

 コツ、コツ……とゆっくりこちらに足音が近付いて来るのが分かる。理人かと最初思ったが、どうやら少し違う感じがした。

 

「…………」

 

 その足音は僕の寝ているベンチを前に止まる。つまり、その足音の主は今僕の真横に居ることとなる。

 

「(うわぁ。もう誰だろ……変にいい匂いするし……)」

 

 そう、別に横に来るだけ来て「変な人だなぁ」と思って直ぐにその場を去るなら別にいい。しかし今回のはその場に居座っているのだ。それも男ではなくおそらく女性……。

 たまに香水とか付ける男子も見ないこともないが、そういう匂いではなく女性特有の匂いと言うべきだろうか、そういったものを感じる。

 

 ともかく、理人ではない事は確かだった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばらくの間、お互いに無言を貫く。

 その後我慢出来なかったのかその人は口を開き、この沈黙を打ち破った。

 

「あ、あの〜」

 

「…………」

 

「こんな所で寝てどうしたんですか……?」

 

「……人酔いしたから、落ち着くために横になってた」

 

 ありのままの状況を話しつつも身体を起こす。ベンチに座り直すと目の前には一人の女の子が立っていた。

 

「酔った、って……あ、何か飲みます〜? お茶ありますよ」

 

 そう言って目の前の女の子はバックからお茶を差し出してきた。随分お人好しだなぁ、と思いつつ気持ちだけ受け取る事にする。

 

「いや大丈夫。友達が今買いに行ってくれてるから、気遣いだけでも嬉しいよ」

 

 僕と同年代くらいかな、なんて思う。

 

 そんなやり取りの後、自然な様子で桃色の髪の少女は「そうですか〜」と言いつつ僕の横に腰を下ろした。

 

「じゃあそのお友達さんが戻ってくるまで私もここに居ますね〜」

 

 なんでだ。

 と、思わず声に出しそうになるのを堪える。

 

 僕としてはもう向こうに行ってほしい。だって知らないし、初対面だし。

 

「ふんふんふ〜ん♪」

 

 呑気に鼻歌を挟む少女は何だがご機嫌に見える。

 

「……並ばなくていいの?」

 

 ライブハウスに続く列を見ながら隣の少女に声をかける。すると少女はそれがさも当然かのような返事をしてきた。

 

「え? 何だかキツそうだなぁ〜、と思ったから心配で。そんな人を放っておくなんて普通出来ませんよ〜」

 

「おぉ……そっかぁ……」

 

 何だろう、体質的に人を助けたいとかあるのかな。まぁ普通からズレてないと人助けなんてまともに出来ないか。

 

「普通にいい人じゃん。えっと──」

 

 言葉が続かなった僕を見て名前が分からないと察したのか、少女は丁寧に僕の方を向いてから名乗り始める。

 

「私、広町七深っていうんだ〜。因みに高校一年生だよ」

 

「ん、僕も高一。名前は柊結人。気にかけてくれてありがとう広町さん」

 

 一応僕も名前を伝える。

 

「いえいえ〜。普通ですから〜」

 

 やはり広町さんは先程同様にそれが当然のような仕草をする。

 

 それに“普通”って言葉好きなのかな。やたらと言ってる気がするけど……。

 

「そういえば結人くんはガールズバンド好きなのー?」

 

「え? あーいや、好きっていうか……」

 

 と、そこでこの場の話になる。なので僕は軽くここに来た経緯を話す。

 

 学校で話題になった事、僕がそのガールズバンドを知らない事、そして──。

 

「──ってな感じで僕の友達が、その何だろう……ガールズバンド沼に落としたいらしいから」

 

 一通り話すと広町さんは驚いたような表情をする。まるであの時の理人だ。

 

「結人くんガールズバンド知らないの〜!? 世のブームだよ〜?」

 

「そんなに人気──ってのはここを見れば分かるけど……」

 

 興味無い事はとことん興味無い。だから触れない。というのを貫いてきた僕だ。

 

「僕は知らないからなぁ……」

 

「うーんそっかぁ。まぁ、みんながみんな知ってるわけでもないもんね」

 

「おーーい! 柊ー!」

 

 話が一区切り付いたところで丁度理人が飲み物を手に持ち戻って来た。僕の名前を呼んでいたことで僕が言ってた友達と分かったのか、広町さんはベンチから立ち上がり再び列の方へ歩き出した。

 

「じゃあね結人くん。ライブ、楽しいからきっと好きになるよ」

 

 小さく手を振りながらそう言う広町さんを僕は見送る。そして広町さんと入れ替わるように戻って来た理人はというと……。

 

「お前何で俺が知らない間に可愛い子と仲良さげになってるんだよ」

 

 少しキレていた。

 

「いや仲良さげって程じゃ──」

 

 反論をしようとするも理人は問答無用と言わんばかりに僕の腕を掴み、そのまま広町さんの後を追うかのように列へ並んだ。

 

 急に後ろに並んだ僕らを見て広町さんは何故か楽しそうにしている。

 

「どうも柊の友達の森川理人です。お嬢さん、お名前は?」

 

 それはきっと、加えて理人の悪い癖が出てるからでもあるだろう。

 

 そうして、僕らは三人で話しながらも中に入るのを待っていたのだった。

 

 

 

 

 

「今度こそじゃあね結人くん、理人くん。お互いに楽しも〜!」

 

「おう! じゃあな!」

 

「ん」

 

 ライブハウスの中に入ったところで僕らは広町さんと別れた。どうやら中に友達が居るらしいから合流するとの事だ。

 

 その別れた後、僕らはライブが始まるのを待っていた。当たり前だが周りには人が多くて、先程少し休んでなかったらもう既に外に出たいと思ってただろう。

 ……本当はもう少しゆっくりしておきたかったけども。

 

 因みに今回観るのはPoppin'Partyというバンドのライブ。理人イチオシのバンドだ。

 戸山香澄、市ヶ谷有咲、山吹沙綾、牛込りみ、花園たえの五人で結成されたそのバンドは、理人曰く“観る人を元気付けるライブ”が多いらしい。

 

『こんにちはー! Poppin'Partyです! 前のライブから間はあまり空いてませんが、またライブがしたくてしちゃいました!』

 

 今ステージ上で話している人物が戸山香澄。見るだけで分かる程の元気っ子。

 何だが毎日を楽しんでるように思える。

 

『またあの時のようにみんなにキラキラドキドキを伝えたいです! 今日も楽しんでいってくださいね!』

 

「お、始まるぜ……!」

 

 その理人の言葉が聞こえると共にPoppin'Partyのメンバーの雰囲気が少し変わった気がする。

 

 そして戸山香澄の合図とともに、僕の人生初のライブが始まった。

 

『それでは聴いてください。──“二重の虹(ダブル レインボウ)”』

 

 

 

 

 

「──想像以上に……これは……」

 

 Poppin'Partyのライブが終わり僕は外に出ていた。最初外に居た時とは打って変わって、とても静かだ。

 

 ベンチに腰を下ろし空を眺める。

 

「眩しい……。空も、バンドも……」

 

 無意識に出た言葉だった。

 それがバンドを観た僕の素直な感想だ。

 

 音に呑み込まれたと思ったら眩しい世界が広がった。Poppin'Partyの五人がとても輝いて見えたのだ。

 “音”と言っても聴こえてくるだけではない。音に呑み込まれ、音が反射して……身体全体で“音”を感じた。

 

 心に響いた。震えた。熱さが伝わって、どれだけ本気に取り組んでいるのかが伝わって……。

 

 だから眩しかった。僕とは全く違う世界が広がっていた。

 

 そのバンドの感情が、想いが、直接伝わってくる感じがする。どことなくだが、理人が何故惹かれたのかが分かったような気がする。

 

『ライブ、楽しいからきっと好きになるよ』

 

 ライブ前に広町さんが言っていた言葉を思い出す。

 

 楽しい、楽しくないで言えば楽しい。そりゃあ当然だ。だが好きか? と言われると、そうは言えない。

 

「(眩しかった。あまりにもみんな輝いてて。だからその輝きは──星は、他の人の道標となるんだ、って)」

 

 星の輝きは当然一つとは限らない。

 それが今現在のガールズバンド時代と呼ばれるものになったのだろう。

 

「あは、やっぱり結人くん居た〜」

 

「……広町、さん?」

 

 名前を呼ばれ、そちらを向くと広町さんが何故か立っていた。

 

「結人くんどうかなー、って気になったから様子見に来ちゃった。多分外にいるだろうなーって、正解だったよー」

 

 広町さんは僕の近くに来ると「ライブどうだった?」と聞いてくる。

 

「眩しかった、かな」

 

「眩しかった?」

 

「うん」

 

 何言ってんだこいつ、とか思われてるんだろうな。だけど僕がそう思ったから、思った事をありのまま伝える。

 

「音の波に流されて、溺れて。それでも星の輝きは見失わなくて……ずっと輝いてた。目の前に今までとは違う世界があったんだ。僕の知らない世界が」

 

「その世界が眩しかった、って事?」

 

 僕は頷く。そして──。

 

「──ふふっ、あははっ! 結人くん……いや、ゆーくんって私の友達みたいな事言うんだね〜!」

 

 広町さんは笑い始めた。

 でも決してバカにされてるわけではない笑いなのは分かる。

 

「私の友達はね「世界が輝いて、青空に星が見えた」って言ったんだ。ゆーくんと同じように、バンドを観てそう思ったんだって」

 

「へぇ……」

 

 きっとその人と僕の感性はどことなく似てるのかもしれない。

 

「その子はね、今私と一緒にバンドしてるんだ。“自分を変えるきっかけになるかも”って。ステージの上から輝く景色を見るために、って頑張ってるんだ〜」

 

 似てるかもしれないから分かる。

 広町さんの友達は凄い勇気を持ってその行動をしたんだろう。“自分を変える”だなんてそう簡単に出来ることじゃない。

 

「僕はその子のことを知らないけど、頑張ってほしいって思う。星を追い求めて、いつかその星に手が届く場所まで頑張ってほしい」

 

 いつかの記憶と重なってしまう。願いを、重ねてしまう。

 

「……うん。応援してもらえるとその子も喜ぶと思う」

 

「それは良かった」

 

 倉田さんじゃない。だけど倉田さんに何処か似てるその少女に、僕の願いが届く事を祈る。

 

「あっ。ゆーくんじゃあね。私また戻るから」

 

「うん、じゃあね広町さん。──バンド頑張って」

 

「あははー、応援ありがとー。いつかゆーくんに観せれるように頑張るね〜」

 

 そう言い残して広町さんはCiRCLEへ戻っていく。

 そして再び一人となった僕は広町さんの言ってた事を思い出す。

 

「それは少し……気になるかな……」

 

 僕は名前も知らない少女に応援を送る。名前も知らないバンドを応援する。

 

「ガールズバンド、か」

 

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