MorfonicaのみんなでPoppin'Partyのライブを観た次の日、私達はななみちゃんの家にあるアトリエで練習をする事になった。
月ノ森音楽祭で自分達の思う良い結果が残せた私達は輝く景色を見るために、その景色に辿り着くように日々頑張っている。
それは今日も同じで……。
「──ふぅ。ここで一度休憩しましょ!」
「そうね」
「あ、私飲み物取ってくるね〜」
「なぁなぁシロ! 今の良い感じじゃね!?」
「うんっ! 私も良いって思ってたよ!」
月ノ森音楽祭が終わったからといっても、私達の熱は冷めるどころかむしろより熱くなっていた。
それに私達も完全とは言えないが、少しずつ打ち明けていって最初の頃よりとても仲が良くなったと思う。
「それにしても私達、本当に上手になってきてるよね!」
「そりゃ当然っしょ! あたしらめっちゃ頑張ってるんだからさ!」
つくしちゃんと透子ちゃんは自分達の上達を喜ぶ。それを少し離れたところからるいさんが見て呟く。
「……確かに上達してるわね」
「おっ? ルイに認められるなんて、こりゃあたし達才能あるんじゃね!?」
「自分の上達に満足するのは構わないわ。でも、少し上達しただけで満足しすぎるのはやめた方がいいと思う」
「あ、相変わらずだね……るいさん」
「はっはっは! 今日も絶好調だなルイ!」
「…………」
その言葉に少し肩を落とすつくしちゃん。それとは反対に笑い飛ばす透子ちゃんにため息をつくるいさん。
私が見慣れた最近の光景。
そこにななみちゃんが飲み物を持って来て加わる。
「飲み物持ってきたよー。……つーちゃんどうしたの?」
「あぁいつものやつ。ルイの言葉がふーすけに刺さったんだよ」
「あぁ……」
透子ちゃんの言葉で自分が離れている間にあった出来事を察するななみちゃんは、微妙な反応を示す。
それを切り返すかのようにななみちゃんは話題を変えた。
「え、えっとさ! みんなに相談があるんだけど、いいかな?」
「確かななみちゃん昨日もそう言ってたよね。だから今日集まったんだよね?」
「あー……うん。少しというか、大半は個人的な意見なんだけどね〜」
「あなたにしては珍しいわね。相談事でも珍しいというのに重ねて個人的な、だなんて」
“個人的な意見”という言葉にるいさんが反応する。
「も〜、酷いなぁるいるいは。私だって誰かに相談くらいするよ〜」
「半分冗談よ」
「(残り半分は本気なんだ……)」
二人特有の不思議な空間が広がりつつある中、るいさんが話を元に戻した。
「ともかく。今更個人的な事を相談するくらいで畏まらなくてもいいんじゃないかしら。別にそこまで親しくない訳ではないでしょう」
「ルイ……!」
「るいさん……!」
るいさんの言葉に感極まり声を上げる透子ちゃんとつくしちゃん。普段そういう事を言わなさそうな人だからこそ、受けるものがあるのだろう。
かく言う私も少し嬉しくなってたり……。
「広町さん、続けてくれるかしら」
「え!? あ、うん。えーっとね……」
ななみちゃんはななみちゃんで急に話を戻されて少し驚いたが、直ぐに話の続きを始めた。
「昨日みんなでポピパのライブを観て、またライブしよ〜! って決まったでしょ? それでそのライブに呼びたい人が居るんだけど……いいかなー、って」
ななみちゃんの相談というのは簡単に言えばライブに知り合いを呼びたい、という事だった。
「? 別によくね? てか、あたしらに聞かなくてもそれくらい呼んでいいって!」
私としても透子ちゃんと同意見だったので、こくこくと頷いていた。
前のライブ……最初のライブの時だって透子ちゃんは既に人を呼んでいた。学校で知り合いなどに声をかけるよりも、SNSという良い意味でも悪い意味でも使用出来る万能ツールを使ったおかげで、その集まりは驚きだった。
ななみちゃんは透子ちゃんの言葉に対して少し考え込む。
「んー、その子男の子だからね〜。一応聞いておこうと思ってたけど、みんながいいなら良か──」
「「男の子!?」」
凄まじい程の反射だった。
銃で引き金を引いたから弾が打ち出された、と同じくらいの反射速度だった。
つくしちゃんと透子ちゃん、二人揃ってななみちゃんに詰め寄り質問攻めする。
「え? ななみって彼氏いたの!? 何だよ教えろよー! いつ頃から付き合ってんの!?」
「こっ、こここ告白はななみちゃんから……? それとも相手の方から……? それとそれと──」
「え? ちょ、ま……二人とも落ち着いて……! し、しろちゃーん! 助けて〜!」
「あはは……」
助けに入っても二人の勢いに流されそうな私は申し訳ないが、少し離れて質問攻めが終わるまでの間、その様子を苦笑いで見ていたのだった。
そのやり取りから十分後、ななみちゃんは二人から解放され、ようやく自由の身となっていた。
「だ、だから言ったじゃん……私とゆーくんはそういうのじゃないって〜」
「でもななみちゃんその子……えっとゆーくんさんと親しげだし……。やっぱりななみちゃん凄いよ……」
「えーっと……『速報! ななみに彼氏! ライブデートで見せつけるのか!?』よっし、こんな感じでどう?」
「「こんな感じでどう?」じゃないよとーこちゃん! つーちゃんも私すごくも何ともないからね? 普通だよ普通〜」
ななみちゃんも大変だなぁ。
自由の身と言ったのは訂正。まだ拘束は続いているようだった。
「ふ、普通じゃないよ! 会ったその日にそんなに仲良くなるなんて!」
「……透子ちゃんもその日に仲良くなってカラオケ行ってるから……」
口を挟むつもりはなかったが、ボソリと私は呟いていた。その呟きが助け舟となったのか分からないが、ななみちゃんはそれに乗りかかるように話を繋げる。
「そ、そうだよ〜! 普通……普通だよ〜!」
「ん? まぁそれは普通っしょ?」
「う、うーーん……」
透子ちゃんもななみちゃんの意見に同意しつくしちゃんが頭を抱える。
ごめんねつくしちゃん。本当は私もそっちなんだけど。
「そろそろ話を進めてくれないかしら。待ってる身にもなってほしいわ」
「ああっ! ごめんるいるい〜!」
そこでるいさんが我慢の限界という様に会話を止めに入る。そこで二人は自分達がどれだけ話を中断させていたのかに気付いたのか、申し訳なさそうにるいさんに謝った。
「別にいいわ。……それより広町さん、続けて」
「えー、こほん。それでこの相談をしたのはそのゆーくんがしろちゃんと同じような事を言ってたからなんだ〜。昨日ゆーくんは初めてライブを観たんだけど、その時にこう言ってたんだ」
ななみちゃんはそのゆーくんという人の言葉を話してくれる。
会った事もない、見ず知らずの人。だけどその言葉は、私の中にピタリとハマるように落ちてきて……。
「星……輝き……知らない世界……眩しい……」
世界が輝いて、青空に星が見えた。
私がいつか言った言葉が繰り返される。
私のバンドを始めるきっかけかとなったあのライブ。その時の気持ちが、想いが再び蘇る。
「それにゆーくんはしろちゃんを応援してるんだよ」
「え……私……?」
「うん〜。というか、だから私達のライブに呼ぼうと思ったんだ〜」
──星を追い求めて、いつかその星に手が届く場所まで頑張ってほしい。
それがその人の応援の言葉。
不思議と落ち着く、その人の言葉を聞くと。何だか柊くんが応援してくれてるような気がして……。
胸が暖かくなる。その人に、私の……私達のライブを観せたいって思う。
「──うん。私、頑張る。その人の期待に応えたいっ!」
言葉は自然と出ていた。でも後悔は感じなかった。
「よし! それなら今度のあたしらの目標はそのゆーくんに最高のライブを観せる、だな!」
私のやる気を目標として纏めてくれた透子ちゃん。目標を決めた後にるいさんの反応が気になるのか、視線を送る。
「私はそれでいいと思うわ。その先の結果を見てみたいというのもあるし、何より、実際にライブの数をこなす事も、上達への一歩に近付くと思うから」
るいさんの了承? も得たことで透子ちゃんはガッツポーズをする。
こうして私達Morfonicaの小さな目標が決まったのだった。