臆病な僕らは   作:小鴉丸

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7話 再会

「倉田、さん……?」

 

「ひ、柊くん……?」

 

 見間違うはずもない。言い間違えるはずもない。だって僕らは、お互いの近くで三年間を共にしていたのだから。

 

 否定もせず、名前を呼びあったのがその証拠。

 

「あれ? 二人とも知り合い?」

 

「う、うん。中学校が一緒だったんだ」

 

 広町さんが聞いてくる。

 

「あ、少し話してくるー? その間に私達は準備でもしておくからー」

 

「え、でも……」

 

「いいってましろちゃん! せっかくの友達との再会なんだから、もっと喜ばないと!」

 

 またもや話が勝手に進められ終わろうとしている。というか終わらせられたみたいだ。

 広町さん達は席を立ちCiRCLEの奥の方へと向かっていた。

 

 元気な人達が居なくなり、そこに残るのは僕と倉田さんだけになった。

 

「……そ、外で話そっか? ここ、人居るから」

 

「そう、だね……」

 

 CiRCLEから出て、前来た時に使っていたベンチに二人で腰を下ろした。

 

「…………」

 

「…………」

 

 話すために場所を移したのにも関わらず、僕らは無言を貫いていた。

 

 ──あの時、重ねた影は正解だった。「頑張って」そう言えばいい。なのにどうして僕はそれを言えないんだ?

 

 広町さんの話に出て来ていた少女は倉田さんで、僕はその少女に倉田さんを重ねて応援をしていた。

 願っていた事が現実になったのだ。いや、正確には、現実だったのだ。

 

「そ、そういえばさ!」

 

 意外にも倉田さんが話を切り出した。

 

「学校はどう? 男子校だよね?」

 

「うん。でも理人が居るから……まぁ、賑やかかな」

 

「そうなんだ……」

 

 そこで会話が途切れてしまう。せっかく倉田さんが切り出してくれたのに、自分がそれを無駄にしてしまったような気がして、申し訳なく感じる。

 

「……今更だけど、さ」

 

 今度は僕が口を開く。

 

「こんな所で倉田さんと会うだなんて、考えてもなかったよ」

 

「わ、私も……。柊くん、バンドに興味あったんだね」

 

「いやいや、それを言うなら倉田さんだって……」

 

 お互いの事を少しは理解しているからこういう言葉が出る。そして、おそらく僕らは今全く同じ事を考えているのだろう。

 

 何となく倉田さんを見ると目が合った。倉田さんも丁度僕の方を見ていたのだ。

 そして、ほぼ同時に口を開く。

 

 

「「倉田さん(柊くん)にこういう所は似合わないよ」」

 

 

 言った瞬間、お互いに表情が緩んだ。

 

 それは僕の本心であり、倉田さんの本心。

 三年間一緒に居たからこそ言えるストレートな感想。

 

 だって、あの倉田さんがバンドなんて、昔のクラスメイトに言って誰が信じるものか。

 

「あ、酷い。柊くんと違って私女の子、ガールズバンドって似合ってると思うけどなぁ」

 

「そういう事じゃなくて、倉田さんがバンドをしてる事が似合わないって言ってるの。……楽器持ってないけど、何してるの?」

 

「私ボーカルなんだ」

 

 ふふん、と何故か胸を張りながら言われた。

 

「ボーカル……ボーカル……?」

 

 僕の中の知識でその言葉を照らし合わせるのならば、それは歌を歌う人に区別される。

 

 きっと冗談だろう。さっきも言ったが、あの倉田さんがバンドをしてるだけでも驚きなのに、重ねてボーカルだなんて。

 

「で? 本当は?」

 

 軽く笑いながら再度聞く。しかし、倉田さんは少し怒りながら同じ事を答えた。

 

「も、もうっ! ほんとにボーカルなんだってば!」

 

「……まじ?」

 

 深く頷く。どうやら嘘は言っていないらしい。

 

 ……別に本気で疑ってたわけじゃないけど。

 

「そっかぁ」

 

 僕は空を見上げる。

 空には太陽があり、当然眩しかった。

 

 ふと、隣に座る少女は僕の知らない思い出話を始める。

 

「……私ね、月ノ森に入った時不安しかなかったんだ」

 

 それは、中学を卒業し月ノ森という大きな世界に足を踏み入れた時の話だった。

 

「当然、だよね。だって誰も私を知らない。誰も私は知らない。憧れや目標だけで入った私はそれしかなかった。形のない、それしかなかった」

 

 そう、そうだ。僕は覚えている。この少女が何のために月ノ森に入学したのかを。

 卒業式でのあの言葉……本人からはちゃんと聞いていないが、どういう意味を含んでいるのかはうっすらと感じ取れていた。

 

「だけどね、私出会ったんだ。私を導いてくれる新しい光に」

 

 倉田さんは太陽に向かって手を伸ばす。

 

「世界が輝いて、青空に星が見えた──」

 

 倉田さんが伸ばした手は、小さいながらもとても力強く、今の僕にはとても大きく見えた。

 

「私達の近くにこんな世界があったんだ、って。この新しい世界……きっと、ここなら──」

 

「“変われるかもしれない”?」

 

「うん」

 

 驚いた。昔から意思は強いと思っていたが、きっかけさえあればここまでになるのか。

 

 横に座る倉田さんは僕の知ってる倉田さんよりも、少しだけ違うように見えて、それが少し嬉しかった。

 

 約二ヶ月くらいしか離れてないのに彼女は大きく変化している。そしてそれを本人は自覚していないのだろう。

 

「あ、ごめんね。みんな待ってるだろうし、練習行ってもいいかな?」

 

「そうだった。ごめんね、何だかお邪魔して」

 

 忘れていた。本来、バンドをしている倉田さん達は練習をしにここに来たんだ。時間も決まってるだろうし、それを割いてわざわざこの時間を作ってもらっているのだという事を。

 

 だけど倉田さんは嫌な顔ひとつもしない。それどころか──。

 

「ううん、全然だよ。……むしろ柊くんに会えて嬉しかったから」

 

「そう言ってもらえると僕も気が楽かな」

 

 二人とも席を立ち、向かい合う。

 

 何だかこうして向かい合うと、あの時の記憶が蘇る。だけど、今回はあの時とは違う。

 

「練習、頑張ってね倉田さん」

 

「うんっ。ありがと柊くん」

 

 言葉を交わしCiRCLEへ戻る倉田さんの背中を見続ける。

 

「(ほんと、大きくなったなぁ)」

 

 そのあの頃よりも少し大きな背中を、僕は見えなくなるまで見ていた。

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