[完結済み] この素晴らしい田舎生活に祝福を! 作:Rabbit Queen
そんなお話。
「そんなとこで寝てたら危ないのん! 早く起きるのん!」
幼女にグイグイ引っ張られている俺は、今の自分の恥ずかしさと今すぐここから消えてしまいたいという気持ちでいっぱいだった。何故こうなったのか。
もし神様がいるのなら時間を戻してほしい。というか戻してくれ!
「起きるのーん!起きるのん!」
「ん”ぅぅぅぅぅ!」
誰にも届かないこの想いを胸に抱きながら、声にならない叫びをあげるのだった。
「暑い……」
久々に外に出ていた俺は、長く見ていなかった外の風景と空気を感じなんとも言えない気持ち悪さを感じていた。そこにこの暑さだ。何故よりにもよって今日はこんなに暑いのか。
(天気予報を見なかった俺も悪いが、それにしたって暑い。早く家に帰りたい……)
長く続く田舎道をヨタヨタと歩きながら、なるべく暑さを感じないように気持ちを切り替えようとしていた。
(まぁ、目的の物は手に入ったし、いいか)
そもそも何故引きニー……コホン、引きこもりの俺が外に出たのか。
それはこのブツを手に入れるためであった。
数ヶ月前にネットで見たとある人の作品「機動要塞デストロイヤー」のフィギュアが今日発売だったからだ。
それまでその人の事は全く知らなかったのだが、たまたまそれを見かけた俺はひと目で気に入ってしまい、その人の作品の中で特に気に入っている機動要塞デストロイヤーのフィギュアが発売されるということで、悩みに悩んだ結果買いに行くことにした。
ネットで買えばよかったのだが、店で直接買うとおまけで牛乳パックで作られたロボットのフィギュアが付いてくるという。なんだよ牛乳パックのロボットって……と、最初は思ったが事前にネットで上げられた画像を見たらどうしても欲しくなってしまった。だってこれ変形合体出来るんだぜ?
(男のロマンだよなぁ)
そんなわけで、欲に負けてしまって俺は外に出ることになったのだった。
目的の物は買えたけど、やっぱり外は疲れる。
早く家に帰って録画してたこのすばでも見ながらじっくりフィギュアを弄るか。
「ちりんちりーん」
可愛らしい声と共に、前から自転車に乗った女の子がふらふらと走ってくる。
ピンク色の自転車に乗った女の子を俺はふと見る。
ツインテールにしてる髪が左右にゆらりゆらりと揺られていた。
銀色の髪色を持つ少女がとても綺麗で、ついつい俺は彼女の姿に目を奪われる。
(綺麗な髪だなぁ)
まるでアニメの世界に出てきそうな女の子を見て、しかしあまり見すぎると不審者と思われそうなので名残惜しいが女の子から視線を逸らすのだった。
ロリコンと思われて通報されるかもしれないし。最近は見るだけで通報されるらしいし。
名残惜しくも、俺みたいになるんじゃないぞと、心の底から思いながら、彼女とすれ違う。
その時だった。
最初に女の子を見た時、彼女はふらふらと走っていた。
それは単に子供ならではの蛇行運転だと思っていた。
しかし違った。どうやら彼女はまだ自転車に乗りなれていなかったみたいだった。
バランスのとれていない自転車はやがて大きく横にふらつき、そして俺とすれ違う手前で地面に倒れようとしていたのだ。
「危ない!!」
咄嗟に出た行動。
俺は持っていた物を投げ捨て女の子を支えようとダイブした。
我ながらいい反射神経だった。いや本当に。
その良すぎる反射神経に対して、ふらついていた女の子のバランス感覚といったら。
だって普通に立ち直したんだもん。
「そすんさー!」
「え?」
思わず声が出た。
そりゃ出るよね。だって倒れると思ったからね。
「ちょ、まっ」
倒れると思っていた自転車と女の子は倒れず、本来ダイブすることも地面に倒れることもない俺が地面に倒れている。
「……」
「……」
沈黙が流れる。やばいすっごい恥ずかしい!!
「お、おかげで助かったのん。ありがとうございました」
「あ、いえ……」
「とりあえず起きるのん。うちが引っ張ってあげるのんなー」
「いやぁ……もうこのままでいいかなって……このまま地面と一体化したい……」
恥ずかしさで死にたい。
いっそこのまま地面になろう。
元々そこにあったかのように、俺は地面になることに決めた。
「だ、だめなのん!起きるのん!」
そうして俺は幼女に引っ張られながら、泣く泣く立ち上がるのだった。
「怪我が無くてよかったのんなー」
派手にダイブした俺だが、なんと無傷だった。
昔から運がいい方ではあったが、まさか傷一つないとは。
しかしこの女の子、こんなに恥ずかしい事をした俺に対して引くこともなく普通に心配してくれた。もしかして彼女は天使なのでは?
久々に感じた人の優しさにさっきまでの恥ずかしさはなく……というのは嘘になるが、少なくともさっきと比べたら全然平気だ。
「ありがとう。お嬢ちゃんも怪我が無くてよかったよ」
「お嬢ちゃんじゃないのん。うち宮内れんげと言います」
ぺこりと頭を下げ女の子は名前を言った。優しさだけでなく礼儀も持っているとは、やはり天使だったのでは?
「れんげちゃんね。俺は佐藤和真。カズマって呼んでくれ」
「むむ……?どこかで聞いたことある名前なのんなぁ」
おや?俺って有名人だったか?おかしいな、全然外出てないはずなのに。
「思い出したのん!ひきこもり……?のお兄ちゃんが居るってねぇねぇが言ってたのん!にぃにぃがそうなんな!?」
拝啓お母様。
天使だと思っていた女の子は悪魔でした。
しかもただの悪魔ではありません。
魔王でした。
心にクリティカルヒットの攻撃を受けた俺は心を無にするしかなかった。
ちくしょう世界は残酷だ!!!
「うちひきこもりって知らないのん。どういう意味なのん?」
「いやーなんだろうね!アハハハハハ!」
これ以上心にオーバーキルを食らうわけにはいかない。
その後俺はれんげちゃんを上手く誤魔化し、ちょっと家に居ることが多い人って事で理解してもらった。
「つまりカズにぃは妖怪夜人間なんなぁ」
「なんだそれは。いや、妖怪じゃないよれんげちゃん」
昼間は外で活動せず、夜になると動き出す。
というふうに説明をしたのだが、何を思ったのか妖怪扱いされてしまった。
もしや彼女はちょっと変わった子供なのでは?いやでも、子供ってこんなもんか。
「しっかし、れんげちゃんが倒れなくて良かったよ」
「ラジオ体操のおかげなんなー。うちのダンシングが役立ったのん」
「だ、なんだって?」
独特な感性を持つ幼女、れんげちゃんと話しながら一緒に歩く。
俺の帰り道にれんげちゃんの家が近いからだった。ついでに途中まで送ることにした。
「それじゃ、ばいばいれんげちゃん」
「カズにぃもばいばいなのーん!」
ブンブンと両手を振るれんげちゃんを後にして家に帰る。
久々に外に出るだけで、いろいろな事が起きた。
物凄い恥ずかしい出来事もあったけど、たまには、外に出るのも悪くないなと思う。
たまーーーに、少しでも、外に出てみるか。また、れんげちゃんに会えるかもしれないし。
家に帰った俺は、ペシャンコになっている、牛乳パックで出来ていたフィギュアの残骸を手に取ると、叫んだ。
「俺の変形合体があああああああああああああああああ!!」
機動要塞デストロイヤーは無事だった。
お疲れさまでした。
書いてる時に調べましたけど、カズマさんが不登校になった理由を知ってなんかこっちも悲しくなった。気持ちがすごいわかる。
このファンやりたいけどpc勢なのでpcでやりたいなぁ。