[完結済み] この素晴らしい田舎生活に祝福を!   作:Rabbit Queen

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12話 最終話です。


最後はあらすじみたいのは書きません。


どうか、ゆっくり楽しんでください。


この素晴らしい世界に、祝福を!

 

 一つの夏が、終わりを迎えようとしていた。

 

 あの日、ひかげとこのみんに話をしてから、4日が経った。エリス様が言った最後の日まで、残り2日。この四日間は一日中遊びまくった。朝起きれば夏海達が家まで迎えに来てて、それからは時間が許すまでただひたすら、川で遊んだり家で遊んだり、遠出をしたり肝試しをしたり。本当に、いろいろやったんだ。

 

 

 でも、それでも俺の気持ちは未だに決まらなくて……。

 

 

 ベッドの上に無造作に置いてた時計を右手で掴む。時刻は、朝9時を迎えようとしていた。眠気を覚ますように、玄関の呼び鈴が鳴った。

 

 また今日も、一日が始まる。

 ずっと続くと思っていた、その一日が、俺に終わりを告げるように――。

 

 

 

 

 「かずにぃ、大丈夫なん?」

 

 「ん?……うん、大丈夫だよ、れんげちゃん」

 

 

 神社の裏で虫取りをしていた俺とれんげちゃん達は、夏休みが終わるというのに未だに続くこの暑さにうんざりしていた。……いや、うんざりしているのは俺だけかもしれない。彼女達はいつもと変わらず元気に駆け回る。俺はそれを1人離れて見ていた。

 

 眩しくて、羨ましくて、そして……激しく嫉妬していた。何で俺が、俺だけが、こんな選択をしないといけないんだろう、と。彼女達は純粋で、子供で、何も知らず、何も気にせず、思うままに遊んでいる。その姿が俺には辛かった。自分の問題なのに、自分が解決しないといけないものなのに、答えがわからないからって彼女達に嫉妬している自分が居て。

 

 この場から立ち去りたかった。

 誰にも気付かれず、誰にも何も言わず。

 そもそも、俺は元々ここの人間じゃないんだ。

 俺が今居なくなったとして、誰にも迷惑はかからない。

 

 そうだ、何で気付かなかった?こんな簡単なことに。

 俺は元々居ない人間なんだ。ここに居る理由も、この世界に残る理由もない。

 俺はあの異世界に戻って、いつも通り過ごして、

 

 

 

 それで、それで……。

 

 

 

 ……結局、俺は逃げることが出来なかった。

 ただただ、彼女達を見守った。

 昼になり、彼女達はお昼ご飯を食べに越谷家に向かうと言った。俺は、行かなかった。

 俺にその資格はないんだ。

 

 自分の怒りを相手にぶつけようとしている俺なんかに、一緒に遊ぶ資格なんて、ないんだ。

 

 

 一つの夏が終わりを迎えようとしている。

 俺の気持ちは、何も、何も――変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 「だめだったん……」

 

 「和真さん、全然楽しそうじゃなかったですね……」

 

 「かず姉が言ってたけど、もうあと2日しかないんだよね?どうしたらいいんだろう……」

 

 お昼ご飯を食べようと家に帰る途中、れんげ、蛍、小鞠の三人にさっきまでの元気な姿はなかった。彼のために、和真の為にいろいろ考えた彼女達は思いつくままに遊びに誘った。しかし、どれも和真に響くものはなく……一日が終わる度にれんげ達は集まり次の遊びを考えた。遊んで、考えで、そして、一日が過ぎていく。彼女達の想いは伝わらず、ただ時間だけが無情に過ぎていった。

 

 何をすればいいんだろう?何をすれば、喜んでくれるのだろう?それは、子供達には難しい問題だった。大人でさえ悩むその問題を、それでも子供達は自分達で考えようと言った。一穂達も勿論協力はしてくれている。それでも、自分にとってとても大切な事だと思った彼女達は、お互いに伝えたい事を、お互いが支え合って伝えようと考えた。

 

 ……しかし、結果は見ての通り。伝えたい事があるはずなのに、伝えないといけないはずなのに、何を言えばいいのか、何が正解なのか、彼女達もわからなかった。ただただ、時間が過ぎていく。明日が、最後のチャンスだ。最後なのに……何も見つからない。それでも時間は無情にも過ぎていった。れんげも、小鞠も蛍も、一生懸命考えるが、わからなかった。

 

 

 気持ちはどんどん落ちていき、見えない答えに立ち止まりそうになった。

 

 

 

 

 「なになに?皆して死んだような顔をしてさ。まだ終わってないじゃん!」

 

 

 

 

 だからこそ――何時だってこのわんぱくな少女(夏海)は一番大事な時に、皆を引っ張っていくんだ。

 

 

 「な、夏海?」

 

 「姉ちゃんもさぁ、せっかくお姉さんとして良いところ見せれるチャンスだったのに、自分もシュンとしちゃうんだもん。これだから姉ちゃんは」

 

 「し、仕方ないでしょ!あれだけ考えたのに、全然だめだったんだから……」

 

 「まぁ確かに、皆でいっぱい考えていろいろ遊んで駄目だったけどさ。でも、終わりじゃないじゃん」

 

 「夏海先輩の言うことはわかりますけど、でも……もう明日で終わるんですよ?どうにか、出来るのでしょうか……」

 

 「そこなんだけどさ。ねぇ、れんちょん」

 

 「……なんなのん?」

 

 「かず兄と遊ぶ時さ、いつもどういう感じだったっけ?」

 

 「のん?うち達が遊びに誘って、それにかずにぃが付き合ってくれたのん」

 

 「だよね?ほたるん、遊びに誘ってさ、一緒にかず兄と遊んだ時、かず兄どんな表情してた?」

 

 「え?えっと……すごい、楽しそうでした」

 

 「うんうん。で、姉ちゃん」

 

 「な、なによ」

 

 「かず兄と遊ぶ時ってさ、かず兄に喜んでもらいたい……って考えて遊びを考えた事、あった?」

 

 「……ない、かな」

 

 何時だってそうだった。彼女達が遊ぼうと考えた時、そこにはいつも和真が居た。遊びに誘えば彼は何時だって一緒に居てくれた。自分達が楽しいと思った事を、彼は全部受け入れてくれた。それが、夏海が出した答えだった。

 

 「つまりさ、かず兄に喜んでもらうため……って考えが多分駄目なんじゃないかな。うち達はいつも通り、ただ自分達の遊びとかにかず兄を誘う。それが、かず兄にとって一番楽しいことなんじゃないかなって」

 

 「……なるほど。夏海先輩の言いたい事はわかりました」

 

 「でもさ、私達がいつもやってる事って言っても、もうやり尽くしてない?ここ最近の遊びだって、普段やってる事も含めて駄目だったわけだし……」

 

 「それなんだよねぇ。うちもそこまでは思いつかなかった」

 

 「……まぁでも、夏海にしてはよく考えたじゃん」

 

 「まぁねー!うち、やれば出来る子ですから!」

 

 「はいはい。……でも、どうしよっか?他に私達が普段やってることなんて……」

 

 腕を組んで考える小鞠。蛍も顎に手を当て同じように考える。自分の案は出した、それでも結局振り出しか……頬をポリポリと掻きながらそう思った夏海は、ふとれんげを見た。そして夏海は気付く。

 

 

 「……れんちょん、何を手伝えばいい?」

 

 

 夏海はあえて何を思いついたのか聞かなかった。

 ただ、れんげが自分達に協力してほしい事があるということだけを理解した。

 誰よりも強く、誰よりも脆いれんげだからこそ、言える何かがあると。

 その為に必要な事があるのなら、夏海は絶対に協力すると心で誓った。

 

 「……みんなに聞いてほしいことがあるん。うちに、協力してほしいん!」

 

 れんげは話し始める。

 その瞳の先には、彼女達がいつも通っていた、あの場所を強く見つめて――。

 

 

 

 

 

 

 

 その日、俺はれんげちゃんに呼ばれて、初めて、彼女たちが通う学校に訪れた。

 

 

 

 遠くから何度も見ていたその場所に訪れることになるとは、一切思っていなかった。俺のとっての学校は、あの幼馴染の事を思い出してしまうから。極力近づこうとは思わなかった。理由もなかったし、部外者が勝手に入ったら怒られるだろうし。別に学校が嫌いではない。ただ、なんとなく嫌な気持ちだけはあったんだ。

 

 俺を誘ってくれたれんげちゃんは既に学校の中に居るらしい。俺はゆっくりと学校の手前にある坂を登った。あぁ、懐かしいな、こういう坂。学校の近くってよくこういう坂があったよなぁ。下るのはいいけど、登るときが本当にきついんだ。それも長い坂だと尚更。れんげちゃん達の学校の坂は長くないし、急斜面でもないから疲れはしなかった。懐かしさを感じつつ、俺は坂を登りきった。目の前には、小さくも、彼女達にとってはとても大きな学校が建っていた。俺はゆっくりと、入り口に歩いていった。

 

 

 

 

 

 「やぁ、よく来たね」

 

 「こんにちは、一穂さん」

 

 

 

 入り口のドアを開けると、そこには一穂さんが立っていた。

 彼女は入り口で俺が来るのを待っていたらしい。俺は挨拶をすると、一穂の後についていく。

 彼女の後をついていくのも、懐かしい。初めて会った頃は、何をするにも一穂さんの後ろについていっていた。俺が知らない事を教えてくれて、俺に新しい出会いを教えてくれて。この人にもずいぶんと、多くの物を貰ったんだ。冗談を言ったり、呆れたこともあったけど、それでもいつしか、俺には貴方の背中がとても頼もしくて、心強かった。それもきっと、俺の答え次第では見えなくなってしまう。もう二度と、この人に頼ることはできなくなってしまうんだと。

 

 

 考えれば考えるほど心が重くなっていく。

 今すぐにでも貴方の背中に抱きついて泣きたい。

 叫びたい。抱きしめてほしい。支えてほしい。

 

 

 もう一度、残ってほしいと言ってほしい。そうすればきっと、俺の気持ちは――。

 

 

 

 

 「着いたよ、カズマ君」

 

 「あ……はい」

 

 

 一つの教室にたどり着き、一穂さんがドアを開ける。

 彼女に続くように、俺も中に入る。

 

 「お、やっと来たね、かず兄」

 

 「和真さん、おはようございます」

 

 「かずまさん聞いてよ、夏海ったら今日も寝坊するところだったんだよ?」

 

 そこには、見たこともない制服姿の夏海と小鞠ちゃん、卓、私服だけどランドセルを机の横にかけてる蛍ちゃん。そして、れんげちゃんが机の前の椅子に座っていた。

 

 「これって……」

 

 「かずにぃ」

 

 れんげちゃんが椅子から降りると、俺の元に歩いてくる。

 目の前で立ち止まると、れんげちゃんは両手をバンザイさせて言った。

 

 「かずにぃも、一緒に授業受けるん!」

 

 「え……じゅ、授業……?」

 

 「あー、れんげ、ちゃんと説明しないと」

 

 「一穂さん?これって、どういう事ですか?それに、授業って……」

 

 「こほん。カズマ君」

 

 「はい?」

 

 

 

 「特別に、今日は君を我が校の生徒として扱います。そして、れんげ達と一緒に授業を受けてもらいます」

 

 

 

 「……はい?」

 

 「かずにぃ、こっちなのーん」

 

 

 俺は一穂さんの言葉を理解できないまま、れんげちゃんに腕を引っ張られ用意されていた席に座らされる。それからすぐにチャイムが鳴り、授業が始まった。訳も分からず、俺はただ座って授業を受けた。最初は何でこんなことしてるんだろうと困惑した。そんな俺を置き去りにするかのように、授業は進んでいく。問題の回答者として夏海が当てられ、適当に誤魔化そうとする彼女に皆が笑い一穂さんが呆れる。

 

 

 

 それが何度も繰り返され、それを見ていた俺は、羨ましくて、混ざりたいと思った。

 その感情は自然と出ていたようで――。

 

 「おい夏海、そこの答えはそうじゃないぞ」

 

 「え、マジ?危うく間違えるとこだったわー。……ありがとかず兄」

 

 

 俺は一穂さんに気付かれないように、隣の席の夏海に小声で言った。しかし流石に無理があった、何故なら、俺と夏海の席は一番前だから。俺が夏海に耳打ちする姿は、それはもう一穂さんには丸見えなわけで……二人揃って説教を受けた。普段のお姉さんとしての説教ではなく、教師としての説教は懐かしいものがあって、夏海と一緒に授業で怒られてることがとても可笑しくて、俺は久々に心の底から笑った。その様子を、れんげちゃん達も楽しそうに見ていた。

 

 

 

 それから、午前はれんげちゃん達と授業を受けた。懐かしくて、学ぶことの楽しさを思い出した。昼は皆で机を囲んでご飯を食べた。今日はカレーで、ご飯を食べてる時、夏海がカレーとれんげちゃんの話をしてくれた。学校を一日で支配したれんげちゃんの武勇伝は、それはそれは恐ろしくて、凄く面白かった。その話でれんげちゃんが機嫌を悪くしたので、俺は機嫌を治すために彼女の頭を撫でてあげた。撫でられてる時のれんげちゃんの顔は、とても嬉しそうだった。

 

 

 午後は特別授業ということで皆でボール遊びをした。チーム戦をしたり、ただひたすらボールを回したり。それが終わると皆でかけっこしたり、鬼ごっこをしたり。時間が過ぎていくのを忘れるくらい、俺達は夢中で遊んだ。とても楽しくて、とても心地が良かった。息を切らしても、走ることをやめなかった。ただ夢中で、遊んだんだ。

 

 

 

 午後の特別授業も終わり、俺達は帰りの支度をするために教室に戻る。戻ろうとして、れんげちゃんが俺を呼び止めた。一穂さん達は何も言わず、れんげちゃんに何かを託すように見つめると、教室に戻っていった。俺はれんげちゃんと一緒に、校庭にある鉄棒が置いてある場所まで歩いた。

 

 

 

 

 青空が消えていき、夕日が登る。綺麗で、眩しかった。

 自分はここにいるぞ。と必死に登っていく夕日が、羨ましく思えた。

 冷たい風が頬を撫でていく。包み込むように、夢を終わらせるように、俺の後ろに通り抜けていく。身体はまだ火照っている。気持ちは、まだ、揺れていた。

 

 

 

 「楽しかったなぁ……」

 

 

 

 俺は小さく呟いた。

 隣にはれんげちゃんが居て、もしかしたら聞こえていたかもしれない。聞こえていなかったかもしれない。そんなことはどうでもよかった。今はただ、この気持ちを口に出して言いたかった。

 

 

 「かずにぃ」

 

 「……ん?」

 

 れんげちゃんが俺を見る。俺は彼女の視線を感じながら、夕日を見ていた。

 

 「これが、うち達の日常なん。これがうち達の、生活なん」

 

 「……」

 

 「なっつんが怒られて、こまちゃんがお姉さんをしてて、ほたるんが勉強を教えてくれて、にぃにぃがたまに廊下の床にはまってるん」

 

 「それがうち達の日常なん。それが今のうちの生活なん」

 

 「……」

 

 「うちにはうちの日常があって、そこには皆が居たん。なっつんが居て、こまちゃんがいて、にぃにぃが居て、ほたるんが居て」

 

 「駄菓子屋もかず姉もこのみんもひか姉も、いろんな人が居るん。いろんな人が、うちを支えてくれてるん」

 

 「……そうだね」

 

 「でも、それは皆同じなのん。なっつんもこまちゃんもほたるんも、皆誰かに支えられてるん。かず姉も、駄菓子屋も」

 

 「……」

 

 「かずにぃも、そうなん」

 

 「……俺も?」

 

 「そうなん。かずにぃも、いろんな人を支えて、いろんな人に支えられてるん。それは、うち達だけじゃないん。かずにぃが居た世界の人達も、きっとそうなん」

 

 「あ……」

 

 「きっと今も、皆かずにぃを支えてて、かずにぃに支えられるのを待ってるん」

 

 「……れんげちゃん」

 

 俺はれんげちゃんの目を見る。その瞳は俺を強く、優しく、しっかりと見ていた。

 そして、れんげちゃんは言った。

 

 

 「かずにぃは皆のヒーローなのん」

 

 「かずにぃに支えられて助けられた人は絶対に居るのん。かずにぃを支えたいと思ってる人は絶対居るん」

 

 「うちは、もっと、もっと……かずにぃと一緒に居たいん。でも、うちよりもかずにぃを必要だと思ってる人たちが居るのん」

 

 

 

 

 「だから、うちは、かずにぃは戻ったほうがいいと思うん」

 

 

 

 

 「……」

 

 沈黙が流れた。

 夕日は高く上がっていて、カラスが鳴いてどこかに飛んでいく。

 

 

 俺は目をゆっくりと閉じた。

 

 

 闇が訪れ、その先には仲間達(アクア達)が手を振っているのが見えた。

 

 

 ゆっくりと目を開ける。

 

 

 隣には、れんげちゃんが。後ろの学校には彼女達(夏海達)が居る。

 

 

 もう一度目を閉じる。

 大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 

 目を開ける。夕日が、沈もうとしていた。

 

 

 

 

 

 「……帰るか。あっちの世界に」

 

 

 

 

 「……うん」

 

 俺はれんげちゃんにそう言った。彼女は小さく頷いた。

 

 

 

 学校から一穂さん達が出てくる。

 夏海達は楽しそうに話していた。

 

 れんげちゃんが一穂さんに駆け寄って、彼女が持っていたランドセルを受け取ると背中に背負った。一穂さんは俺を見ると、こう言った。

 

 

 「どう?答えは出たかな?」

 

 

 俺は小さく頷いて、しっかりと、自分の気持ちを伝えた。

 

 「……はい!俺、帰ることにしました」

 

 「……本当にいいの?」

 

 「ええ。だって、俺がいないとあいつら、困るだろうから。だから、支えてやらないと。俺があいつらを支えてきます。一穂さん達に支えられたように、今度は俺が」

 

 「……そっか。うん、わかった」

 

 一穂さんは俺の答えを聞くと、俺の元まで近付いてきた。

 そして、優しく抱きしめてくれた。あの時のように、また頭を撫でてくれた。

 

 「カズマ君ならきっと大丈夫。大丈夫だよ」

 

 優しく、そう言ってくれた。

 俺はまた泣いた。

 でも、情けなさは感じなかった。

 夏海達も、そんな俺を、一切笑わなかった。

 

 皆で手を繋いで帰る。

 今日は、特別に皆で一緒に宮内家で寝ることにした。

 夕日が落ちて、空は黒く染まる。

 でも俺の心は晴れていた。あの夕日のように、眩しく輝いていた。

 

 

 

 

 夏の終り。

 俺を暖かく見送るように、その日はとても晴れていた。

 雲ひとつ無い空が広がる。太陽が、俺を照らした。

 眩しくも、暖かなそれを、俺は受け入れた。

 

 

 

 

 再び俺は学校の手前の坂を登る。

 ゆっくりと、一歩一歩、ここでの思い出を振り返るように。

 登りきった先には皆が集まっていた。

 

 雪子さん、楓さん、このみん、ひかげ、一穂さん、卓、小鞠ちゃん、夏海、蛍ちゃん、そして、れんげちゃんが、俺なんかの為に集まってくれていた。嬉しくて、また涙が出そうになって、でもグッとこらえた。もう泣くのは十分だ。最後は、笑って別れよう。

 

 

 彼女達と残された短い時間を過ごした。皆が笑っていた。誰も別れを感じさせないように、不安にさせないように、笑っていた。俺も同じように笑った。この時間が長く続けばいいのに――きっと、皆がそう思っていたと思う。でも言わなかった。皆、気持ちは同じなんだ。だから、言わなかった。

 

 

 

 小さな光が現れた。

 それは徐々に大きくなり、やがて1人の人物が現れる。

 俺のよく知る女神、エリス様だ。

 

 「――時間です。カズマさん、答えは決まりましたか?」

 

 「はい。俺……帰ります。そっちの世界に、アクア達のところに!」

 

 「――本当に、いいんですね?」

 

 「はい。俺の気持ちは、変わりません」

 

 「――わかりました。貴方の決断に、感謝します」

 

 光が更に大きくなる。暖かなその光は、俺を包み込もうとしていた。

 俺はその光の中に入ろうとし――振り返った。

 

 「んじゃ、俺……行くから!」

 

 俺の言葉に、夏海が右手を上げて言った。

 

 「かず兄簡単に負けるなよ―!」

 

 「おう、任せとけ!」

 

 そう答えて、俺も右手を上げる。そして、お互いに笑った。

 

 「かずまさん、めぐみんさんにお互いがんばりましょうって伝えてね!」

 

 「あっはっは!伝えとくよ!」

 

 小鞠ちゃんは、自分と同じように体型に悩んでるめぐみんに対し応援を送るように伝えてきた。俺は苦笑しながら、確かに伝えると言った。

 

 「おいカズマ、珍しいもんあったら持ってこいよな。れんげにあげるから」

 

 「いや、俺帰るんですけど!?」

 

 楓さんは俺に土産を持ってくるように言った。

 俺はツッコミながら、わかりましたと答えた。

 

 「未だに理解できてないけど……ちゃんとご飯食べて、体調に気をつけるんだよ?」

 

 「はい、ありがとうございます、雪子さん。お世話になりました!」

 

 雪子さんはまだ信じられないという感じだったが、それでも俺を気遣ってくれた。俺は今までお世話になった感謝も込めて、返事した。

 

 「……」

 

 「おう!またアニメの話をしようぜ!卓!」

 

 卓は俺に親指を立てる、俺も同じように親指を立てた。

 言葉は交わさなくとも、卓の気持ちは理解出来た。

 

 「カズマくん、無茶しちゃだめだからね?あと、女の子に変なこと言っちゃだめだからね?」

 

 「まぁほどほどにがんばれー」

 

 このみんとひかげは、皆より少し離れて後ろに立っていた。

 

 「あいつらが勝手に無茶するから俺も無茶するしかないんだよなぁ……まぁ、無茶しない程度に無茶するよ!」

 

 「ひかげ、お前はちゃんと頑張れよ?適当にやってたらまた説教するからな」

 

 俺は二人にそう答えた。

 結局、このみんに振られたままだな……なんて思いながら。

 

 

 「カズマ君」

 

 「……一穂さん」

 

 

 一穂さんが、俺の前まで歩いてきて、立ち止まる。

 いろんな事を教えてくれて、いろんな事に振り回されて。

 本当に、貴方にはいろいろ教えてもらった。

 

 「私は、ちゃんとお姉さん出来てたかな?君にとって、カズマ君にとって、私は頼れる大人としていられたかな?」

 

 だからそんな悲しい顔をしないでください。貴方は、俺にとって――。

 

 「俺にとって、一穂さんは立派なお姉さんで、誰よりも頼れる大人でした。本当に、ありがとうございました!!」

 

 「あはは……照れるね。うん、こちらこそありがとう。子供達に大切な事を教えてくれて。私を、頼れるお姉さんとして支えてくれて」

 

 ずっと伝えたかった気持ちを俺は一穂さんに伝えた。

 一穂さんは笑って、元の場所に戻っていった。

 

 「蛍ちゃんも、ありがとね。いろいろあったけど、こうやって別れる前に仲良くなれて本当に良かった」

 

 「……私は……」

 

 俺の言葉に、蛍ちゃんは何か言いたそうにしていた。

 

 「蛍、言いたいことがあったら言わないと。後悔したらだめだよ」

 

 小鞠ちゃんが蛍にそう言って、優しく背中を押した。

 蛍ちゃんは黙り込んでいた。

 そして、一歩、また一歩と俺に近付いて、立ち止まる。

 

 

 

 

 「私……わたし……行ってほしく……ないです……!」

 

 

 

 

 

 

 

 「……蛍ちゃん」

 

 蛍ちゃんの言葉に、俺は戸惑いを隠せなかった。

 夏海達が何か言おうとして、小鞠ちゃんがそれを止めた。一穂さんも、黙って見守っていた。

 

 「私……ほんとうは、嫌です……!やっと仲良くなれたのに……やっと謝れたのに……」

 

 「……」

 

 「私……この夏休みが凄く楽しかったです。こっちに来てから何度か夏休みを経験して、今年の夏もれんげちゃん達といろんな事をするんだって思って……そこに和真さんが現れて」

 

 「最初は誤解して、凄く迷惑をかけちゃって……それでも、和真さんは優しく受け入れてくれて……今までの夏休みも凄く楽しかったけど、今年の夏休みは本当に、本当に楽しくて……」

 

 「全部、和真さんが居たから楽しかったんだって思って……そう考えたら、帰ってほしくなくて……」

 

 「……」

 

 「今も皆さんに迷惑をかけているのはわかっています!でも、でも!わたし、わたし……和真さんが本当のお兄ちゃんだったら良いなって思っちゃって……」

 

 「……お願いです、行かないでください……!」

 

 蛍ちゃんは叫んだ。言いたいことを全部言って、そして息が切れる。荒々しく呼吸する姿が、とても辛そうだった。俺は蛍ちゃんに駆け寄って、彼女の背中を優しく擦る。やさしく、ゆっくりと。それに合わせるように、蛍ちゃんも息を整えた。

 

 「大丈夫?」

 

 「……はい。ありがとう、ございます」

 

 「良かった。ねぇ蛍ちゃん、お願いしてもいいかな?」

 

 「お願い、ですか?」

 

 「うん、お兄ちゃんって、言ってくれないかな」

 

 「……」

 

 彼女も、俺と同じように、ずっとずっと言いたかった事を伝えたかったのだろう。

 

 「……お兄ちゃん」

 

 「あはは……結構恥ずかしいな、これ。ありがとう、蛍ちゃん」

 

 

 だから、俺も彼女の気持ちに答えることにした。

 自分の気持ちを。もう揺らぐことはない、確かな想いを。

 

 

 

 

 「……行ってきます、蛍ちゃん」

 

 「あ……」

 

 

 

 俺の言葉に、蛍ちゃんは涙を流す。

 頭を撫で、彼女が泣き止むのを静かに待った。

 そして――

 

 

 

 「……いってらっしゃいです、お兄ちゃん」

 

 

 

 

 彼女は、俺の気持ちに答えてくれた。

 

 

 

 

 

 「ほたるん、大丈夫なん?」

 

 「……うん。ごめんね、れんげちゃん」

 

 「大丈夫なん。うち、行ってくるん」

 

 「うん。頑張ってね」

 

 れんげ達の元に戻った蛍が、後を託すようにれんげに言った。 

 れんげは和真の元に駆け寄る。その手には新品のノートを持って。

 

 

 

 

 

 「かずにぃ、これ持っていってほしいのん」

 

 「うん?これは?」

 

 「新品のノートなのん。かず姉に頼んで貰ったん。それを、絵日記帳にしてほしいん」

 

 「絵日記?」

 

 「そうなん。それで、いつかうちと見せ合いっこしてほしいん」

 

 「……」

 

 「うちはかず兄と遊んだ思い出も、これからの事もいっぱいこの絵日記に描くん。かずにぃはそっちの世界での事を絵日記に描いてほしいん。いっぱい描いて、それで、いつか二人で見せ合うのん!」

 

 「れんげちゃん……」

 

 「あ、ずるい!うちも見たい!」

 

 「れんげー?私達にも見せてよ?」

 

 「私も、和真さんの世界での事、もっと知りたいです!」

 

 小鞠ちゃん、夏海、蛍ちゃんが笑って言った。

 

 「みんな……」

 

 「かずにぃ、うちと、約束してくれますか?」

 

 「……おう!このノートいっぱいに俺の冒険の日々を描いて、それでいつか絶対に、皆に見せに来るよ!」

 

 「約束なん!」

 

 「ああ、約束だ!」

 

 れんげちゃんと強く指切りをする。

 その一秒一秒が、俺とれんげちゃんの絆を強く結ぶように、過ぎていった。

 

 

 

 

 「……じゃあな!また、いつか、ここで――!」

 

 

 

 

 光の中に消えていく。

 後ろにはれんげちゃん達が。

 前には、アクア達が。

 

 

 一歩、また一歩と進む。

 またいつか――そのいつかが、本当にやってくるのかはわからない。

 もしかしたら、これが最後かもしれない。

 ありもしない夢に期待しているのかもしれない。

 

 それでも、それでも今はただ。

 彼女達の想いを胸に、歩いていく。

 

 光はやがて小さくなる。

 見慣れた場所で、見慣れた奴らの顔が俺の瞳に映る。

 

 

 

 

 俺は――帰ってきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 「帰っちゃったね……」

 

 光が消え、和真の姿はもう、なかった。

 沈黙が流れ、小鞠がそう呟いた。

 

 「ですね。なんか、あっけない感じでした」

 

 「うん。もっとこう、すごい感じだと思ってた」

 

 「すごいってどんなの?姉ちゃん」

 

 蛍と小鞠の会話に、夏海が入ってくる。

 

 「うーん……爆発?」

 

 「え、爆発はやばいでしょ……」

 

 「え!?じゃ、じゃあ……大爆発?」

 

 「こまり先輩……」

 

 

 

 

 「行っちゃったね、カズマくん」

 

 「行ったなぁ。いやー、これでうるさいのが居なくなったな」

 

 「もう、ひかげちゃんは素直じゃないんだから」

 

 「うっさい」

 

 「……ひかげちゃん」

 

 「ん?」

 

 「私……もったいないこと、しちゃったのかな」

 

 「さぁ?いつか聞けばいいじゃん。戻ってくるんだからさ」

 

 「……うん。ありがと、ひかげちゃん」

 

 

 

 

 「はぁー……本当に和真くん消えちゃったわね」

 

 「まさかこんな事に遭遇するとは……ほんと、何が起きるかわからないっすね。ね?一穂先輩」

 

 「そうだねぇ。でもまぁ、いい思い出になったよ。……いつか、また会えるといいね」

 

 「……そうっすね」

 

 「その時まで一穂ちゃん達、生きてるといいわね」

 

 「あはは……笑えないです、雪子さん……」

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 「れんげー?そろそろ、帰るよ?」

 

 「……」

 

 一穂はれんげに声をかける。

 れんげは1人、消えた光の向こう側を見ていた。

 

 

 空が、曇り始める。

 太陽が雲に隠れ、雨が降りそうだった。

 

 

 

 

 そして――れんげが、泣いた。

 

 

 

 

 ずっと溜めていたものを、気持ちを、全て吐き出すように。

 誰にも弱さを見せなかった少女が。

 誰にも涙を見せなかった少女が。

 小さく、徐々に大きく。

 声が枯れる程、泣き出した。

 

 

 

 それを笑うように、夏海が言った。

 

 

 「なんだよれんちょん、結局泣いてんじゃん」

 

 

 夏海は笑う。

 大きな声で笑う。

 でも皆わかっていた。

 彼女が心の底から笑ってるわけじゃないと。

 

 

 雨が降りそうだった。

 でも結局降らなかった。

 

 代わりに、二人の少女が泣いた。

 大きく大きく、涙を流した。

 

 

 

 「れんげ、おいで」

 

 

 

 一穂はれんげを抱きしめる。れんげは、一穂の胸で強く泣いた。

 

 「れんちょんだっせー」

 

 「はいはい、わかったから」

 

 夏海も泣きながら、小鞠に抱きしめられる。

 雪子も、卓も、お姉さんの小鞠を黙って見守っていた。

 

 

 

 「れんげー、偉かったね。頑張ったね。もういいんだよ。もう、いいんだよ」

 

 

 

 その日も、皆で一緒に泊まった。

 このみもひかげも、楓も一穂も、一緒に泊まって、一緒に寝た。

 

 

 夏が終わりを迎える。

 出会いと別れを与えた夏が、静かに終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 「ぬーりぬりー」

 

 「お、れんげ、何描いてるのー?」

 

 「かずにぃに見せる絵を描いてるーん」

 

 「ほほう、どれどれ……」

 

 「どうですん?」

 

 「……うん、とっても良いと思うよ」

 

 「むふー。やっぱうち、画家も向いてるんなー」

 

 「あ、やっぱり目指してるんだ?よしよし、それじゃ画家目指して、今日から学校頑張ろうね、れんげ」

 

 「あーい!」

 

 れんげは学校に行くための準備をするため居間に走っていく。

 一穂は、手に持った絵日記帳の、新しく描かれていたページを見る。

 

 「……こりゃ、カズマ君が見たら嫉妬するかなぁ」

 

 そこには、和真が帰った後のお泊り会の様子が描かれていた――。

 

 

 

 

 

 

 いつもと変わらない冒険の日々。そんな俺に与えられた、ひと夏の出来事。

 いろんな人と出会い、経験し、笑い、泣いて、別れを得たあの世界。

 良い所もあって、悪い所もあって、そんな、そんな俺が望んたような世界。

 

 でも、それは、この世界でも同じことで。

 これからも、出会いがあって、別れがあって。

 そして、誰かの為に、自分の為に、俺は生きていくんだ。

 

 

 

 

 彼女達(れんげ達)と交わした約束を胸に抱き、彼女達(アクア達)と共に果たしに行く。

 

 

 それが俺の物語。それが、俺達の物語。

 

 

 

 「カズマさーん?はやく行くわよ―!」

 

 アクア達の声が聞こえる。また、騒がしく、忙しい日々が始まる。

 絵日記帳に昨日の事を描き、開いていたページを閉じる。

 自然と口に出ていたあの言葉と共に、俺は今日も冒険に出かけた――。

 

 

 

 

 「しょおがねえなああああ!」

 

 

 

 

 おしまい――。




お疲れさまでした。

これで「この素晴らしい田舎生活に祝福を!」を終わりとさせていただきます。
最後まで見ていただいた方々、本当にありがとうございました。

余談ですけど、自分はこういう何かを想像して文字に書こうとしたりすると涙が結構出ます。12話は1話を書き始めた時と同時に書いてましたが、その時も、その後修正してた時もれんげが泣いてしまうところで自分も毎回うるっとしてました。

個人的に自分がそういう感情になれる作品は良いものだと思ってます。
自分の作品でも他の方の作品でも。
今回は自分の作品でしたが、書いて本当に良かったなと思いました。
満足してます。



ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また次回、お会いできたら嬉しいです。

ではでは。



――もしも。

――もしも、俺がこの世界に残ったなら……

――どういう日々を、過ごしていただろうか。




この素晴らしい田舎生活に祝福を! if~彼女達と過ごした日々。

誰か書いて……。
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