[完結済み] この素晴らしい田舎生活に祝福を!   作:Rabbit Queen

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5話です。

小鞠回に続きみんな大好き夏海ちゃんの登場です。

わんぱくな少女が時折見せる恥ずかしそうな顔に思わずドキッとしたりしなかったり。


このわんぱくな少女に恥じらいを!

 夏もいよいよ本番を迎えようとしていた――そんなある日の事。

 俺は、一人の少女に連れ回されていた。

 

 「おーい!はやくはやくー!」

 

 女神このみんでもなく、大天使れんげちゃんでもなく、妖精の小鞠ちゃんでもなく……。

 

 この、わんぱくな少女……越谷夏海に。

 

 

 

 

 ことの始まりは、俺が外を出歩いていた時だった。

 今日は珍しく、俺自身が、のんびりと一人で過ごそうかなと考えていた。

 ただ家に居るのはちょっとつまらないので、前に歩いた場所をもう一度散歩してみようと思った。

 

 

 今度はもっとじっくりと風景を楽しもう。そんな想いで。

 ただ、そんな俺の考えとは裏腹に、彼女は、現れたのだった――。

 

 

 「あ、振られた人だ」

 

 

 第一声がそれだった。

 

 この少女はあれだ、思ったことをズバズバと言うタイプのやつだ。

あの小鞠ちゃんと正反対すぎるその性格に、俺の中で警告アラームが鳴り続ける。

 この子に関わったらろくなことがないと。

 ……とはいえ、小鞠ちゃんの妹なのだ。無視するのは、正直心苦しい。

 

 「ふ、振られてねぇし……こんにちは、夏海ちゃん」

 

 「ちわー。あれ、振られてなかったんだ」

 

 

 振られてねぇしっ!!

 あれだから、まずはお友達から始めましょうってだけだから!

 だからそのニヤニヤした顔をやめてくれませんかね!?

 

 

 「こほん、夏海ちゃんが何を言っているのかわからないけど、一応言っておくと振られてはいないから勘違いしないように」

 

 「ふーん」

 

 そう返した俺に、夏海ちゃんは興味なさげに反応した。

 

 「あ、それよりもさ。今何してたの?」

 

 「ん?あー、暇だからちょっと散歩でもしようかなって」

 

 「そうなんだ。うちも暇なんだよねー。姉ちゃんはほたるんのところ行ったし、れんちょんは用事で出かけてるらしいし」

 

 「あれ、そうなのか」

 

 今日はれんげちゃんと遊ぶ約束はしていなかったが、そうか、出かけていたのか。

 なら、散歩に出かけたのは大正解だったな。

 

 「あ、そうだ。ねぇねぇ、暇ならうちに付き合ってよ」

 

 前言撤回。

 これは失敗だったかもしれん。

 

 「えぇ……俺今日はのんびりしようと思ったんだけど」

 

 「まぁまぁいいじゃん。うち面白い場所たくさん知ってるから教えてあげるよ」

 

 「ほぅ。それはちょっと気になるな」

 

 「なら決まりだね。こっちだよ」

 

 「あ、ちょっ」

 

 

 夏海ちゃんは強引に俺の腕を引っ張ると、彼女が知る面白い場所に連れ回した。

 夏休みにはラジオ体操しに来る神社だとか、よもぎがよく取れる山だとか、主が居る湖だとか。

 俺が知らない楽しい場所を、彼女は教えてくれた。

 そうして、遊び回った俺達は休憩を兼ねて夏海ちゃんの家に向かった。

 お母様の雪子さんは外出しており、噂のお兄さんもどうやら居ないらしい。

 

 俺は、夏海ちゃんがお茶を持ってくるまでの間、よくよく考えたら初めて入った越谷家の居間をキョロキョロと見渡すのだった。

 

 

 

 

 「麦茶持ってきたよー」

 

 夏海ちゃんが冷えた麦茶が入ったコップをテーブルに置く。

 

 「お、ありがとう。んじゃいただきます」

 

 お礼を言って、置かれたコップを手に取り中の麦茶を喉に流し込む。

 

 「んぐんぐ……ぷはっー!生き返る!」

 

 こんな暑い日には冷えた飲み物が一番だな。

 そう思いつつ、ふと夏海ちゃんを見た。

 

 「ゴクゴクゴク……うんめーっ!!」

 

 まるでビールを飲んでるおっさんのように彼女は喉を鳴らし喜びを表した。

 その姿に、まるっきり女性らしさはない。

 

 というか、だ。

 

 彼女といろんな場所を歩き回ったが、その道中の彼女の行動といえば……。

 主を捕まえようと湖に飛び込もうとするわ、虫を捕まえては俺に見せようと全力で近づけてくるわ、挙句の果てには落ちてたエロ本を興味津々に覗こうとするわで……。

 

 もう少しこう、恥じらいを持ってほしい。うん。

 

 (これじゃまるで男友達と遊んでるみたいだな)

 

 なんて、口には出さないけど、夏海ちゃんへの印象はそんな感じだった。

 

 

 

 

 

 「ところでさ」

 

 「うん?」

 

 夏海ちゃんが飲み終えたコップの底を眺めながら言った。

 

 「お兄さんの名前ってなんだっけ?」

 

 「はぃ?」

 

 驚いた。いや、そりゃ驚くわ。

 名前も知らない人を遊びに誘ったんかい。

 というか、前にここに来た時和真って呼ばれてたの聞いてたはずなんだけどなぁ……。

 

 「佐藤和真だよ。この前来た時に和真って呼ばれてたの聞いてなかったのか?」

 

 「いやー、あの時はこのみちゃんに振られたのが衝撃的でつい」

 

 「振られてねぇし」

 

 「またまたー」

 

 ちくしょうやっぱりこの子苦手だっ!!

 

 「はぁ……調子が狂うなぁ」

 

 「まぁまぁ、元気出してよかず兄」

 

 「かず兄?」

 

 「そそ。一応年上だしね。さんはなんか硬苦しいからやめた」

 

 「あのなぁ……まぁいいけど」

 

 「あ、うちのことは呼び捨てかなっつんでいいよ」

 

 「そうか?んじゃ、夏海で」

 

 「おっけおっけー」

 

 自然と呼び捨てにしたけど、女の子の名前を下の名前で、しかも呼び捨てするのって久しぶりな感じがする。なんか、懐かしいな。この感じ。こういうのも、いいかもしれないな。

 

 

 

 

 

 ――なんて思っていた数分前の俺を殴りたい。

 

 

 何故なら俺はこの後、説教をされることになるのだから。

 

 

 

 

 「ところでかず兄」

 

 「うん?」

 

 「お腹空いてない?」

 

 「んー、まぁ、小腹は空いてるかな」

 

 「実はここに饅頭がありまして」

 

 これが、事の発端だった。

 

 

 

 

 お腹は空いていた。少しだけ。

 そんなガッツリではなかったけど、小腹は空いてる程度。

 だから、饅頭と聞いた時、これくらいならと思った。

 ただの饅頭ならそれで良かった。

 これが雪子さんと小鞠ちゃんが楽しみにしてた饅頭だったとは知らずに。

 

 

 

 「ほいおまちどう」

 

 「おう。2つって事は一人一個か」

 

 「そそ。でも丁度いいでしょ?」

 

 「そうだな。んじゃ、いただくか」

 

 小さな饅頭を手に取り、包を外す。

 俺が包を外してる間に夏海はもう食べ始めていた。

 

 「うんめー!」

 

 「しかし、丁度良く2つあったもんだなぁ」

 

 包を外し目の前に美味しそうな饅頭が現れる。

 それを食べようと口に運ぼうとし――待てよ?

 

 

 「なぁ夏海」

 

 「んー?」モグモグ

 

 「この饅頭、他にもあったのか?」

 

 「んやー、この2つだけ」ゴックン

 

 「そうか。夏海、お前これ昨日食ったか?」

 

 「うん。食べたよ。自分の分」モグモグ

 

 「そうかそうか。自分の分か」

 

 うん?自分の分?

 

 「夏海、この饅頭は元々何個あったんだ?」

 

 「えー?そりゃ5個だよ。昨日うちと兄ちゃんと父ちゃんが食べたから残ったのはこの2つだけ」モグモグ

 

 「あ、なるほど。そうかそうか」

 

 

 

 

 「食ったらダメなやつじゃねぇかっ!!!」

 

 「うぇ!?」

 

 

 思わず俺はバンッ!とテーブルを叩く。

 夏海はそれに驚きビクンと一瞬跳ねると、食べていた饅頭を飲み込んだ。

 

 「ちょ、かず兄びっくりするじゃん!!」

 

 「俺のほうがびっくりしてるわ!あぶねぇ、危うく食べるところだった」

 

 持っていた饅頭をテーブルに置いた。

 夏海の話を聞く限り、この2つは雪子さんと小鞠ちゃんの分のはずだ。

 それを食べるのはまずい。下手したら俺も怒られる。

 

 「え、かず兄食べないの?」

 

 「そりゃそうだろ。食べていいものならまだしも、これどう考えても雪子さんと小鞠ちゃんのだろ?怒られるわ」

 

 「名前書いてないからセーフですー!食べちゃえば全部同じだい!」

 

 「んなわけあるか!!」

 

 「ちょ、かず兄が食べないとうちだけ怒られるんだけど!?」

 

 「怒られろ。というか、お前それが狙いだったな?」

 

 「な、なんのことかなー?なつみちゃんわかりませーん」

 

 「ほらみろ!俺は食わないぞ!」

 

 「ええぃ!なら無理矢理かず兄に食べさせてやる!そして共犯だー!!」

 

 「ちょっ、やめ」

 

 

 夏海はそう言うと、俺に襲いかかり、俺がテーブルに置いておいた饅頭を手に取り食わせようとする。

 

 「ほらほら!かず兄も食べて!そして一緒に怒られよう!!」

 

 「ふっざけるな!!お前だけ怒られろい!」

 

 「いいじゃん!ほら食べて食べて!」

 

 「ええぃ、俺を甘く見るなよ夏海!」

 

 「おわっ!?」

 

 俺の上に乗っかっていた夏海を、逆に押し倒す。

 そして夏海を押さえつけ、口の中に饅頭を入れようとした。

 

 「どうだ夏海!抵抗できるもんならしてみろ!」

 

 「ちょ、かず兄!タンマ、タンマ!!」

 

 「今更遅いわ!!2つとも食わせてやる!ほれ!ほーれ!」

 

 ゆっくりと、確実に、饅頭を口に近づける。

 ゲスな笑みを浮かべつつ少女を押し倒してるその光景は、まるで襲っているようなもので……

 

 

 

 「……何してるの、二人共」

 

 

 ――そしてその光景を、運悪く帰ってきた雪子さんに見られるのだった。

 

 

 

 

 その後のことは、言わなくてもわかるだろう。

 そりゃもう、こっぴどく怒られた。

 夏海は饅頭を食べたことを。

 俺は押し倒していた事を。

 

 まぁ俺に関しては誤解だったこともあり、すぐにわかってもらえたのだが……それでも、女の子を押し倒すのは良くないという事で説教された。

 まぁ、そうですよね。そこは反省してます。はい。

 だって、よくよく考えたら、まずい光景だもん。

 俺も冷静になって、あれは流石に無いなと思った。

 

 深く反省し謝罪した俺に、雪子さんは「許してあげるから夕食の手伝いをしなさい」と言った。

 俺は雪子さんの言われるがままに手伝った。

 そして夕食の準備が大体終えると、雪子さんは夕食を食べていきなさいと言った。

 悪い気がしたけど、雪子さんの強引さに負けて俺は夕食を頂くことにした。

 

 そんで、まだ夕食まで少し時間が合ったので、俺と夏海は庭で一緒に夕日を眺めていた。

 

 

 「災難だった」

 

 「ごめんっていったじゃーん」

 

 「もっと心を込めて謝りなさい」

 

 「えー……」

 

 夏海は一瞬考え、そして言う。

 

 「ごめーんね♪」

 

 「てぃ」

 

 バシッと夏海の頭を叩いた。

 

 「いてっ。もう、叩くことないじゃん」

 

 「そんな謝り方されたらそうなるだろ」

 

 「えー、めんどくさいなぁ」

 

 「普通に謝れよ……まぁいいか」

 

 それから少しだけ、沈黙が流れた。

 別に怒ってはいなかった。

 ただ、なんとなく話すことがなくて。

 それで、先にしびれを切らしたのが夏海だった。

 

 

 「えと、かず兄、怒った……?」

 

 「ん?まぁ、いろいろあったけど、そこまでは」

 

 「ほんと?」

 

 「おぅ」

 

 「そっか。良かった」

 

 夏海は笑顔で返した。

 その笑顔が、とても可愛くて、思わずドキッとした。

 

 あぁそっか。

 夏海も、やっぱり女の子なんだ。

 

 今日一日、彼女に付き合った俺は、改めて越谷夏海への印象を確かめるのだった――。 

 

 

 

 それからは、宮内家に通うだけだった俺の日常もまた、少しずつ変化して――

 

 

 「かず兄!こっちにめっちゃでかい魚いるよ!」

 

 「お、マジか夏海。よっしゃ、二人で捕まえようぜ!」

 

 

 気がつけば、俺の側には夏海が居て、彼女とも過ごす時間も増えていった。

 一緒に虫や山菜を取りに行ったり、秘密基地に招待されたり、夏海がバカな事をしてその度に雪子さんに怒られたりして。人懐っこく、わんぱくで、どこか憎めないこの少女は、青春を謳歌出来なかった俺にはむず痒くて。あぁ、こういう同級生が居たらきっと、楽しかったんだろうなって。

 

 

 そう、こういう男友達が居たら、めっちゃ楽しかったんだろうな――。

 

 

 

 

 「っていう事があってねー。夏海とかずまさん、お母さんに怒られたんだって」

 

 「そんなことがあったんですね」

 

 時間は少し戻り、和真が夏海の家でご馳走になった、その日の夜。

 越谷小鞠と一条蛍が電話で話をしていた。

 内容は、カズマと夏海の話だった。

 

 「それで、その後わたしが帰ってきたらかずまさんが夕食の準備しててね。一緒にご飯食べたんだ」

 

 「一緒に、ですか?」

 

 「うん」

 

 「そう、ですか」

 

 「いやー、やっぱりかずまさんって面白い人だよ!あとすっごい優しいの!話してて楽しいんだよねー」

 

 「……」

 

 「あれ?蛍?」

 

 「あ、ご、ごめんなさい!ちょっと考え事してて……」

 

 「大丈夫?」

 

 「大丈夫です!ごめんなさいこまり先輩」

 

 「ううん!蛍が大丈夫ならおっけー!あ、そろそろドラマ始まる時間だからこれで切るね」

 

 「あ、はい。おやすみなさい先輩」

 

 「おやすみー」

 

 

 電話を終えると、一条蛍は頭を抱えた。

 

 (佐藤和真さん、こまり先輩が最近話題に出してる人、男の人……)

 (どうにか、どうにかしないと、先輩が、こまり先輩が男の人に……!)

 

 

 こうしてまた一人、誤解を生む人物が生まれるのだった――。

 

 

 




お疲れさまでした。

フラグを立ててそうで、立てていないカズマさんでした。

今週はもう1話出しますぞ。
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